真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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GWですら学校と言う地獄の合間を縫ってどうにか更新です
結構後半が雑になっているかもしれませんが、ご了承ください
例のごとく、違和感とかあったら教えて下さい


悠介と戦士たち

視界の敵の動きと頭の中に在る男達の動きが、自然と一致しだした。

 

―――まだだ…まだ動かない。

 

目の前の(クリス)の攻撃のタイミングは、少し溜めてからの……

 

「はあッ!!」

 

悠介に迫るのは、一撃必殺の意思を込めたレイピアでの一閃。本来の悠介の行動ならば、真正面から受け止めるだろうだが、彼が取った行動は、紙一重の回避(・・)行動。頬を掠めるギリギリに身体を動かす。

 

「ッ!!?」

 

今までの悠介を知るクリスだからこその驚き。

 

―――よし、イメージ通りに身体が動く…イメトレの効果が出てきてる

 

悠介が己の動きに納得し気を緩めた間に、クリスが距離を取る。距離を取りながらクリスは、先ほどの悠介に対する疑問を思考する。一瞬、自分を舐めているのか?と言う答えに行きつくが、即座に否定する。そんな訳がない、そんな奴では断じてない。

 

「一体、どうつもりだ?何時ものお前らしくないぞ」

 

「ああ、わりぃな。久しぶりに動かすからよ、ちょっと確認してただけだ。気に障ったていうなら、一発貰ってもいい」

 

「では、一つだけ代わりに聞かせてくれ。この勝負を舐めての行動ではないのだな」

 

クリスの口から出た言葉に、悠介は笑み浮かべながら答える。

 

「うんなもん、この文字に掛けてする訳ねえだろうが!!いつだって全力が、俺の信条だッ!!」

 

「そうか…ならばいいッ!!」

 

悠介の言葉に笑みを浮かべなながら吠えながら、地を蹴るクリス。クリスの一撃を迎え撃つかのように、拳を握る悠介。二人に一撃がぶつかり合うのは、必然だった。

ぶつかり合う両者…押し負けたのは、クリス。

 

「ぐぅ‥」

 

堪え切れずに、クリスの脚が宙に浮くが、直後に身体を回転させ上半身の力で、レイピアを打つ。

放たれた一撃を悠介は、あえて前に出る事で躱す。そしてそのままに、無防備なクリスの身体に己の拳を打ち込む。

 

「ガァッ!!」

 

「それまでッ!!勝者 相楽」

 

獣の様にこぼれた苦悶の声、それが決着の合図となった。小島先生の声に、クリスが痛みを堪えながら、悔しそうな顔を見せる。

 

「負けてしまったか…」

 

「いや、クリス。お前の動きもだいぶ良くなっているぞ」

 

「ああ、最初に戦った時とは大違いだぜ」

 

クリスの健闘を称える小島先生の言葉に悠介も同意する様に頷く。そう言われて嬉しいのか、クリスの表情が喜びに染まる。

 

「サンキューな。手合せに付き合ってくれてよ」

 

「構わない。自分も相楽と戦えるのは、己を見つめなおせるからな」

 

悠介の感謝の言葉にクリスは、構わないと答える。その言葉に悠介はそうかと簡単に返す。

 

「なあ、相楽」

 

「うん、何だ?」

 

「自分なりに義について考えてみたのだが、やはり間違いがあるならば正すべきと言う自分の意思は曲げられない」

 

「それで…」

 

「相楽のお蔭で全ての悪の行為が悪でないとわかったが、そのために自分が何をすればいいのかが、まだわからないんんだ」

 

クリスから語られたのは、自分の信念とも言える『義』の話。きっと、何度も考え抜いたのだろう、それでも答えが出なかったからこそ、あの時に勝負をした同士に近い悠介に聞いたのだろう。

クリスの問いに、悠介は彼女の額に指を突きつけながら答える。

 

「ちげえちげえ。どうすべき(・・・・・)かじゃなくて、自分がどうしたい(・・・・・)かだ。考えるんじゃなくて、とっさに近い感情が答えだ」

 

「とっさに…」

 

「そうだ。誇りだから譲れないんじゃねえ、譲れないからこその誇りだ。そうやって、考えてみたらいいんじゃねえか。少なくとも、俺はそうしたぞ」

 

「譲れないから。そうか‥そうか‥相楽、感謝する!!」

 

「おう」

 

悠介の言葉に感じたモノがあるのか、クリスの表情は明るくなる。そのまま、感謝の言葉を述べ、クラスに向けて走る姿見た悠介は、敗けてられなねえな。と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスとの手合せで、確実に黛との決闘を自分の糧に出来た事を確認した悠介は、いよいよ本格的にあれの修行に取り掛かろうと決意する。

 

(マジで時間も惜しいしな、今日からでも始めるか。幸いな事に、今日金曜日だし)

 

予定を組み立てながら、帰宅する悠介。だが、見知った声が悠介に届く。

 

「今の声は…」

 

悠介は声のする様に、視線を向けた。

 

「オッス」

 

「お久しぶりです」

 

そこにいたのは、ステイシーと李のメイドコンビ。

 

「何かおめえらって、何時も一緒に居るよな」

 

「まあ、コンビだしな」

 

「案外、気が合うので」

 

二人の言葉に何処か納得する悠介。正反対だからこそ、互いの欠点を補える。正に理想に近いコンビかもしれない。

 

「其方は、どちらへ?確か、家は逆方向だったと記憶していますが」

 

「ああ、今から修行しようと思ってな。川神山に行こうと思ってたとこだ」

 

「時間が無いからですか?」

 

「まあ、そんなとこだ」

 

事情を知る李だからこその言葉に、悠介は隠す必要はないと事実を述べる。

 

「おお、頑張るじゃねえの。ホント、ロックな奴だぜ、お前」

 

「まあ、凡人なんでな。時間はいくらあっても足んねえからな。一秒も無駄にしたくねえんだ」

―――あいつらに勝つためなら尚更だ

 

聞こえたわけでは無い。それでも二人には、そんな言葉が聞こえた様に思えた。だからこそ、思い出すのは、あの時の決闘。わかっていたつもりだった、だがあの姿を見た時から、自分達の考えが甘かったと思い知らされた。

 

最初に立ちあがった姿を見た時は、根性がある。ただそれだけだったが、次の言葉に込められた想いを感じ取り、全ての見方が変わった。二人は、戦士であり傭兵で暗殺者だ。そこには生き残ると言う事実のみが正義である。故に、自分達には得る事の出来ないモノだった。しかし、今の日常を生きているからこそ、それが理解できる。

 

憧れた、そして欲してしまった。持っていないが故に得れないと思ってしまったが故に。

後は、弁慶と同じだ。不思議と目で追い探してしまう。話せば、何かが埋まる気がした。

 

「じゃあそう言う訳だから行くわ、俺」

 

「ええ、時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした」

 

「おう、頑張って来いよ!!」

 

二人の激励に悠介は、おうと手を振りながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川神山の中でも多くの岩が点在する場所。そこに悠介はいた。

 

「ふぅ…漸く七割ってとこだな」

 

目の前にある一部が砂塵と化した岩を見据えながら、悠介は深く息を吐く。周りには、一部が砕かれた岩と一部が砂塵となった岩があちこちにある。一体どれだけ打ち込んで来たかは、滝の様な大量な汗とそれを見れば一目瞭然である。

 

「両手打ちはだいぶ形になってきたな。問題は…」

 

片手打ちの方である。

 

「まあ、やらないと意味がないか‥」

 

手ごろな岩の前に悠介は立つ。沈黙中、悠介は片手を握る一歩手前で止めた拳を構える。

一秒

二秒

三秒

四秒

と時間が過ぎる中、頭の中でイメージを重ねた悠介が、遂に拳を解き放った。

 

「‥‥‥‥まだブレてるのか」

 

結果は失敗。岩には大きく罅が入り一部が砕けただけ。打ち込もうとした刹那に、イメージとブレるのを感じた‥‥そのブレは確実に小さくなっているが、タイミングが命のあの技では致命的だ。

 

「何かが足りねえ…」

 

自分の拳を見つめながら呟かれた言葉は、余りにも淡白に現状確認している。

 

「‥‥はあ~~~~」

 

帰るか。そう呟きながら悠介は、その場を後にする。本音を言えば、まだやっておきたいのだが、今の一撃で完全に集中が切れてしまった。これ以上続けても得るモノはないだろうと判断。本能を理性で抑えつけ、帰路に着く。

ふと、携帯を見た悠介の表情が、めんどくさそうに変わる。

 

「やり過ぎだろ…」

 

携帯には大量のメールと着信歴が記されている。しかもすべて燕一人なのだから、驚きだ。メールの内容は全て、『無理する前に帰って来るように』と書かれている。

 

―――過保護過ぎんだよ

 

そう呟いた悠介は、メールに『今から帰ると』と燕に送信。携帯を戻し、今度こそ帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の夜空を観察しながら悠介は、ゆっくりと家に向かう。修行の疲れか、瞼が重くあくびが自然とこぼれる。しかし、矛盾するように身体は腹をすかせ、食事を所望している。

 

「とりあえず、帰ったら飯食いてえな」

 

腹を撫でながら呟く悠介。そうなると問題は、燕の説教だろう。いかにして、それを回避しようと考えていると、俄然に見知った姿が映りこむ。

 

「よう、マルギッテ」

 

「相楽悠介ですか…」

 

軽く挨拶を交わしたのは、この夜においても燃える様に己が存在を主張する赤い髪を持つ猟犬。

 

「そのさ、フルネームで呼ぶの止めてくんね?名前呼びでいいからよ」

 

なんか違和感あるんだよな。そう言う悠介の言葉に、マルギッテはしばし思考する。

 

「わかりました。では、悠介と呼ばせて貰います」

 

「おう、そっちの方がありがたい」

 

漸く違和感が払しょくできたぜ。と呟く悠介に、マルギッテが気になった事を問う。

 

「そう言えば、こんな時間まで一体何を?夜遊びをするとも思えない」

 

「修行だよ修行。そう言うお前は?」

 

「お嬢様に呼ばれて、今まで相談にのっていました」

 

悠介の答えに対しては、満足したのかマルギッテも投げられた質問に答える。

 

「相談って?」

 

「お嬢様の『義』についてだ。お前との決闘の後、お嬢様はそう言う相談を良くなされる」

 

「なるほどね」

 

マルギッテの言葉に納得したのか悠介の言葉がそこでついえる。だからこそ、マルギッテの動作に驚かされる。

 

「感謝する」

 

「はあ?」

 

マルギッテが行なったのは、90度身体を折り曲げてからの感謝の言葉。意味が変わらないと言う悠介にマルギッテは語っていく。

 

「あの決闘の後から、お嬢様は本当に変わった。自分の世界を広げる為に色々な事を知ろうとし始めた。そして得たモノから自分のモノにしていく。姉として、お嬢様の成長以上に嬉しい事はない。だから、その発端であるお前に感謝を」

 

そう、それが彼女にとっての全て。初めて出会った時から変わらない理由。感謝される事に馴れていない悠介だが、ふと気になった事を口にする。

 

「お前にとってクリスが全てなのか?」

 

「ええ、中将からの命令と言う事もありますが、それ以上に私自身が命令を越えてそう思うのです」

 

そう語るマルギッテの姿を見た悠介はふと、そんな言葉を漏らした。

 

「そんだけ誰かの為になろうと思えるなら、きっとお前にもお前を幸せにしたいって言う奴が現れるかもしれねえな」

 

「なっ!!」

 

何の脈絡もなく放たれた言葉に、マルギッテの顔が赤く染まる。

 

「あ…わりぃ。無意識だった」

 

自分が何を言ったのか察した悠介は、謝罪の言葉を口に出す。

 

「と、当然です!!からかうのもいい加減にしなさい」

 

「いや、そこは本意なんだが…」

 

「な何を‥」

 

だってそうだろ?と悠介の言葉が続く。

 

「そんな真っ直ぐで綺麗な想いを持ってる奴を好きにならねえ奴はいねえと思うけどよ?だから楽しみだ。あんたが自分の幸せを手に入れたいと思う時がよ」

 

悠介の言葉にマルギッテは何も言わない。いや、何も言えない。実はクリスや上司である中将から、どうなのだと。聞かれているのだ。確かに自分もそう言う年頃なのだが、今一そう言ったモノに関心が向かない。それを告げた時、クリスはしばし思考し、悠介を押したのだ。はじめは無碍もなく断ったのだが、その翌日に起きた決闘だった。

 

戦士であり軍人でもある自分だからこそ、闘争を知っている。だからこそ、そんなモノがあったのかと驚かされたし正直に言えば、見惚れた。絶望しても尚、進もうとする姿に。欲しいと思ってしまったのだ。

 

「まあ、これは俺の考えだし…押し付けるつもりはねえけどな」

 

何の反応も見せないマルギッテに対して、悠介は少しすまなさそうに告げる。悠介の言葉にマルギッテは小さく「夜も遅いので早く帰宅しなさい」と告げる。

その言葉に悠介も同意し、「また明日な」その言葉と共に手を振りながら再び帰路に着く。

 

残り少ない時間の中で、悠介は進む。茨とも修羅とも言えるその道を。その背をマルギッテは、何も言わずに見ていた。

 

―――祭りの開催まで 後十日

 

 




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