真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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少し前に、ある感想で寄せられた質問なのですが、皆さんは悠介の声を誰にあてはめてますか?
余り声優に詳しくない自分では、どれだけ考えても答えが出なかったので、少し疑問に思いまして
やっぱり、左之助の声ですか?


悠介と弁慶

黛との決闘の後、悠介はひたすらにその時の感覚の反すうに努めた。一度きりでは意味がないのだ、これから先の為に何度もイメージトレーニングに努めた。

そして、それと並行してある程度身体を休める事にしたのだ。焦っても意味がないと言う、鉄心の言葉と強制的な燕の命令によってだ。

その為、悠介はあえて傷を全て治療してもらう事を拒否した。二・三日で治る程度にとどめて貰った。

本人曰く「完治してたら、否応なくに身体を動かす」らしい。その言葉に、燕や鉄心やルーまでも納得したからである。

その為、現在悠介の身体のあちこちには、シップや包帯が巻かれていた。

 

「さて、ゲン。飯食おうぜ」

 

「おう。ちょっと待ってろ」

 

悠介の言葉にゲンが、バックから弁当を取り出しつつ答える。ゲンと向かい合う形で椅子に座った悠介も、机に弁当を置き食べめる。

 

「お前の弁当、いつも納豆料理が入ってんな」

 

「まあ、そこは諦めてる‥」

 

ゲンの言葉に悠介は、少し遠くを見ながら力なく答える。何度も言ったのだ、頼むからたまには納豆料理を入れないでくれと…全くもって聞く耳を持ってはくれなかったが。

 

「でもよ、栄養バランスも考えられてるし、納豆料理も毎回品目が違う。わかっちゃいたがあの先輩、相当な腕前だな」

 

「そのセリフ聞くと思うが…主夫みてえだぞ、ゲン」

 

「うるせえ‥」

 

悠介の指摘に顔を若干赤くしながら、視線を逸らしながらゲンが答える。どうやら、自覚はあるようだ。

そんなくだらないやり取りをしながら二人は、昼休み過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校も終わり放課後、悠介はだらけ部に行くために廊下を歩いていた。しかし、肝心な表情は、めんどくさげだ。

理由は簡単

 

「弁慶の奴…」

 

いつぞやに、弁慶と約束した(と言うか、無理やりさせられた)、おねだりを聞くと言うお願いを試行されたからだ。これから命令されるであろう、厄介事を想像しているのか、その足取りは遅い。

 

「あ!悠介君」

 

「おう、義経。与一も一緒か」

 

ふと声を掛けられは悠介は、声のする方に顔を向ける。そこには、ブンブンと腕を大きく振る義経とめんどくさそうに顔に手を当てながら義経の後ろを歩く与一の姿。

悠介が本格的に義経とつながりを持ったのは、黛との決闘の後だった。

翌日に義経の方から会いに来て、何でもあの時の決闘と悠介の言葉に感銘を受けたらしい。

曰く「義経は感動した!!悠介君にも敗けない様に、義経も頑張らねば」らしい。

 

「悠介君は、今から何処に行くんだ?」

 

「ああ~~弁慶に呼ばれてな。今から向かう所だ」

 

「‥‥弁慶の奴。済まない。義経の方からも、余り悠介君に絡まない様に言ってみる!!」

 

「頼むわ…」

 

―――たぶん、無理なんだろうな。

上手い具合に躱されるのが落ちだろうと悠介は考えている。気のせいか、与一も何処か呆れ気味だ。

 

「そう言えば、義経はこれからどうするんだ?」

 

「義経はこれから、決闘を予約してくれた人達との決闘だな」

 

「…大変だな」

 

「そんな事はない!!義経は、義経の仕事を果たしているだけだし、自分も楽しい」

 

「…そっか」

 

義経の言葉に悠介は頷く。しかしその目は、義経ではなく後ろいた与一に向けられている。悠介は確かに見たのだ、義経が力強く頷くと同時に、心配そうな顔で彼女を見る与一の姿を。

 

―――素直じゃねえな

 

それが悠介の与一に対する評価だった。

 

「それならよ、こんな所で時間食っていいのか?」

 

「は!そうだった。それじゃあまた。ほら、行こう与一」

 

「おう」

 

手を振りながら駆けていく義経。その後ろを与一が頭を掻きながら追う。

 

「もうちょっと、素直になったらどうだ?」

 

自分を通り過ぎる瞬間に放たれた言葉。

その言葉に対して与一は

 

「はっ!誰が‥」

 

一言で否定する。しかし悠介には別の言葉の様に聞こえた。

そう「言われなくても、わかってるんだよ」と、何処か葛藤している様な言葉が聞こえた。

 

二人の姿が見えなくなるまで悠介はその場に留まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

義経たちと別れた悠介は、だらけ部の前に来ていた。一度ため息をこぼした悠介は、気怠そうに扉を開く。

 

「よう、有名人。最近どうよ」

 

「さらっと、意識をそっちに向けた隙に、駒を移動させようとしない」

 

「…はい」

 

悠介の登場に真っ先に反応したのは、宇佐美だった。見た所、大和と将棋をしている。そして先ほどの言葉から、劣勢なのだろう。まあもっとも、彼が優勢だった事など、少なくとも悠介の記憶には一度もないが。

 

「おう、ボチボチだ」

 

二人に軽く挨拶を済ました悠介は、ゆっくりと将棋を観戦している弁慶の近くに歩み折る。

 

「オッス」

 

「もう既に飲んでんのかよ」

 

ほんのりと顔を赤く染めた弁慶に悠介は、ツッコミを入れる。しかし弁慶はさして気にせずに、笑みを浮かべている。その事実が悠介を憂鬱にさせる。

 

「それじゃあ、お願い一つ目ね」

 

「おい待て…何だ一つ目って?複数あんのかよ」

 

「当然」

 

―――帰りたい。それが悠介の率直な感想だった。しかしそれが出来ない。この手のタイプは、ドタキャンなどをしようものならば、後日にもっと面倒な事になるのだから。

だからこそ、今日一日を犠牲にするしかない。

 

「わあったよ。…で?何をさせられるんだよ」

 

「ふふふ、最初はこれね」

 

そう言って差し出されたそれを見た瞬間、悠介の表情が驚きに染まる。

 

「まさか…ここでやれと?」

 

「当然…あっ、それと膝枕でよろしくね」

 

出された弁慶の要望に、悠介は再び深く息を吐く。

 

「ほら…さっさと、頭を置け」

 

ドサと座りこんだ悠介の膝に弁慶が嬉しそうに頭を置く。そして悠介は弁慶から差し出されたそれを手に持って

 

「動くなよ…」

 

「うん、了解」

 

ゆっくりと、耳かきを始める。

 

 

「うん…意外とうまいね」

 

「意外は余計だ」

 

気持ち良さそうな弁慶の声と表情。対する悠介は、弁慶の感想に文句を言いながらも黙々と作業を続ける。

 

「おら、終わったぞ」

 

「う~~~~~~~ん」

 

数分して両耳が終わり、弁慶が悠介の膝から頭をどける。その顔は確かな満足感で彩られている。

 

「で、次は何をしろってんだ?」

 

「…そうだね、とりあえず」

 

悠介の問いに、弁慶は笑みを浮かべんがら彼の方を向く。対する悠介は、そんな弁慶の反応に疑問を持つが‥突然、悠介の胸に弁慶が飛び込んでくる。

 

「うおぉ!!」

 

「えへへ~~、抱きしめなさい」

 

慌てる悠介に弁慶は、嬉しそうに告げる。

 

「いきなり、すぎるだろッ!!」

 

「聞こえなあ~~い」

 

(こいつッ!!)

 

悠介の胸に顔をうずめる弁慶。どうやら、川神水の酔いがかなり回っているらしく、キャラがぶれ始めている。ほんのりと赤く染まった頬に、上目遣いで見つめて来るトロンと潤んだ瞳に、接する部分から伝わる温かさに豊満で柔らかなその感触。

本来ならば、狂喜乱舞するであろう状態にありながら悠介は、めんどくさそうに一息ついた後、軽く弁慶の身体を抱きしめる。

 

「ぅん」

 

だきしめた直後に漏れる、弁慶の吐息。その全てが男を刺激する筈なのに

 

「…これ、何時までしとけばいいんだ?」

 

悠介は全く動じていない。そのあまりの反応の無さに

 

「お前さんって、本当に残念な奴だな」

 

宇佐美が言葉を発する。

 

「残念って何がだよ?」

 

「いや、いい。お前さんみたいなタイプには言っても無駄だろうしな。そう思うだろ大和」

 

「まあ、確かに。キャップと同じで無理でそうね」

 

悠介の疑問も放っておき、宇佐美と大和は二人でため息をつく。

 

「だから、何がだよ」

 

二人の溜息を見た悠介のセリフには、当然答える者などいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『別に‥ただ敗けられない理由を思い出した…ただそれだけの話だ』

 

思い出す、あの時の言葉。それまでは絶対に勝てないと思っていたし、それが当然だと思っていた。

それなのに、彼は一度も諦めなかった。更にあろうことか、自分の予想をはるかに覆した。そして何より、最後の最後で彼が見せたあの表情に何故だか魅せられた。

普段ならば、絶対に思わないであろうが、その表情を見た時に感じてしまった。

 

―――凄い

 

自分では生涯得れるかもわからないそれを感じたゆえの言葉。だからだろうか、彼を知りたいと思ったのは?

 

―――温かい

 

抱き付いているからこそ伝わる温かさに、頬が緩む。不思議だと思う、なぜか彼を見つけると自然と目線が彼を追うし、胸の内側から温かくなる。

本当に何でだろう?

もしもこの温かさの正体が分かったらわかるかな?

 

―――この気持ちに名づける名前を

 

そんな事を考えていると、ふと近くに合った温かさが消える。

 

―――ちょ、勝手に消えないで!!

 

そんな叫びと共に弁慶の意識が浮上した。

 

 

 

 

 

 

 

「漸く起きたか」

 

最初に目に映ったのは、悠介の姿。

 

「立てよ。ほら、そろそろ時間だし帰るぞ」

 

「うん…わかった」

 

身に残る温かさに意識を持っていかれそうになるが、どうにか持ち直して立ち上がる。

 

「相楽、起きたか?」

 

「おう、帰ろうぜ」

 

「あ、義経迎えに行かなきゃ」

 

「おいおい、忘れるなよ」

 

行くぞ。と背負向けた悠介だが、弁慶が羽織の端を握ったために動けない。

 

「何だよ‥」

 

「最後のお願い…肩貸して」

 

「はあ…」

 

おらよ。と肩を貸して弁慶を立ち上がらせる。そうして、三人はゆっくりと下駄箱に向けて歩き出した。

 

下駄箱に辿り着くと、各々が靴箱から靴を取り出す。

 

「あれ?靴箱から手紙が」

 

その中、靴を取り出そうとした弁慶だが、靴の上に見慣れない手紙が置いてあるのに気がつく。

 

「決闘の申し入れか?」

 

「いや、古典的に考えてラブレターと言う線もあるぞ」

 

弁慶の言葉に悠介と大和も興味アリと近づいてくる。

 

「大和が正解。ラブの方だ…しかも三年生。あたし年上には興味なんだけどな~」

 

「意外だな、お前の性格的に年上好きかと思った」

 

「いや、何か気を使うじゃん?それに…」

 

「それに?」

 

「何でもない。まあ、大和と悠介ならだらけな仲間だから、可能性あるかもよ?」

 

「そうかい」

 

「ふむ」

 

そんなやり取りをしている中で、大和がふと質問する。

 

「相楽は、年上の女性をどう思ってるんだ?」

 

「!!」

 

「うん?どうしたんだ、急に」

 

「いや、いつも燕先輩といるから、どうなのかと思って」

 

大和の問いに、悠介は少し考える素振りを見せた後答える。

 

「そうだな…一言で言うと、ちょっと苦手だな?」

 

「おお、これまた意外」

 

「確かに、でも何でだ?」

 

悠介の答えに、二人は食い気味に乗って来る。

 

「まあ、簡単に言うと、自分をガキ扱いしようとするのがちょっとな」

 

「って事は、燕先輩は‥」

 

「ああ、誤解がないように言うと、燕はガキの頃からの知り合いだし、同い年って感じが強いから、別に問題ねえよ。それに…」

 

「それに?」

 

「あ~、これは関係ねえから、気にすんな」

 

「…わかった」

 

悠介の言葉きに、その話題は終了した。二人の表情は、何処か嬉しそうだ。そんな二人の背を見ながら、悠介は先ほど口に出そうとした言葉を心の内で呟く。

 

―――それに、あの女性をかぶせちまうんだよな

 

思い出すは、夢に出てきた男の拳を観る女医の姿。彼と彼女の関係を思い出すと、どうしてもと言う感じがある。

そんな事を考えていた悠介の耳に、聞きなれたクラスメイトの声が届く。

 

「あ、ワン子だ。義経と決闘してるぞ」

 

「ホントだね」

 

大和と弁慶の声につられて、悠介も二人が戦っている場所に視線を向ける。そこには猛スピードで薙刀を振るう一子とその攻撃を冷静に躱す義経の姿。

速度を上げて攻める一子と冷静沈着に間合いを詰める義経、故に一子の焦りも理解できる。あえて、一撃を受け止めさせてからの大技、しかし義経は冷静に後方に下がる事で躱し、逆に一閃。

それで勝敗は決した。

 

「あちゃ~負けちゃったか」

 

「さすがは、義経」

 

二人が決着が着いたと同時に義経たちの方に歩き出す。対する悠介は、ゆっくりと校門に向かって歩き出す。

 

「あれ、どこ行くんだ?」

 

校門に向かっている悠介に大和が声を掛ける。その問いに悠介は、片手をブラブラ振りながら答える。

 

「修行」

 

それだけ告げると、誰かが何かを言うよりも早く悠介は校門に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅途中、悠介は先ほどの一子の戦う姿を思い出す。一子の事は、百代のメールでいやと言うほど知っている、その夢も…そして百代の葛藤も。

 

「急げよ」

 

ふと、こぼれた言葉は、一子を思っての言葉。時期的に考えてもそろそろリミットだ、今年にでも成果を見せねば…川神一子の夢は完全に潰える。

だからこそ、鉄心にメッセージを託したのだ。あの時の決闘で感じた、彼女に最も足らないそれを理解させるために、しかし未だに気がついていないようだ。

 

直接教えればいいと思うかもしれないが、こればかりは第三者が何を言っても無意味なのだ。自分で真にしなければ意味がない、

 

「気がつけ…じゃねえと、間に合わねえぞ」

 

川神学園の方を振り見きながら呟やかれた言葉。

 

『お前はお前だ、それを受け入れ認めろ』

 

それが相楽悠介から川神一子に送られた一言。

 

 

―――――祭りの開催まで、後十三日

 

 

 




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