真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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お待たせしました!!
題名でわかる通り、彼女と勝負となります
恐らく、あれが始まる前の最後の大一番、楽しんでいただけたら嬉しいです!!




惡と礼 その1ー確率ゼロパーセントー

夜。悠介は静かに空を眺めて居た。見つめる先に映りこむ、夏の夜空の星々たち、それを見つめる悠介は、不意に右手を上に掲げる。その姿は、決して届かない場所に手を伸ばし続けるように見える。

そんな悠介の部屋に、燕が入って来る。

 

 

「…ノックぐらいしろや」

 

 

「別に気にするまでもないと思うけどね…それともやっぱり悠介君も年頃の男の子って事かな?」

 

 

「ぬかせ」

 

 

ニヤニヤとした目でからかう様に告げる燕の言葉に、悠介は付き合ってられるかと言う風に相手にしない。

出ていけ。と悠介が告げようとしたが、それよりも早く燕が告げる。

 

 

「予定通り、夏休みに入ってすぐに始動するって、スポンサーの皆様が決定を下したみたいだよ」

 

 

「!!」

 

 

燕の言葉に悠介が反応する。燕はそれにあえて気がつかないフリをしながら、此処からさらに忙しくなるよ。と口にする。

 

 

「私の用はそれだけ。それじゃあ、おやすみ悠介君」

 

 

それだけを告げて燕は、悠介の部屋から退室した。悠介は燕の言葉を何度も反すうする。祭り(・・)の開催まで、約二週間。時間的に余裕は全くないと言える。そう思いながら悠介は再び夜空を見る。

空を彩る美しい星々…しかしそんな夜空の中にも、光っていながらも目に見る事が出来ない星が存在する。まるで自分の様だと悠介は笑う。どれだけ光を発しようが、誰にも感じ取られない、ある意味滑稽な星。そしてそれを嘲笑うように、夜空を彩る星々。それが悠介には、百代達に見える。相手の光すら覆い尽くし、輝く天才たち。自分の光では絶対に勝てない相手…ならばどうすればいい?

 

 

「待ってやがれ」

 

 

悠介はそう言いながら、夜空で一番輝く星を握りつぶすように拳を握った。答えは単純明快かつ難解熾烈、引き摺り下ろせばいい。光り輝くその場所から。そうすれば自分の牙は

 

 

「必ず届かせる」

 

 

天才たちにも届きえる。その決意の言葉と共に、悠介は夜空から視線を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、川神学園一年C組。いつもと変わらない風景が流れる、その中に悠介は現れた。

その場にいた誰もが視線を悠介に集める。しかし、悠介は気にせずに黛の所まで真っ直ぐ歩いてくる。

 

 

「ああの‥」

 

 

何か御用ですか?と黛が尋ねるよりも早く、悠介は彼女に対して頭を下げた。その行為がより黛の混乱を増長させる。そんな中で悠介は一言。

 

 

「訳は聞かないで、ただ俺と全力で戦ってくれ」

 

 

「!!?」

 

 

頼む。と、ただ真摯に告げる悠介。突然の事に驚く黛だが、悠介の言葉を聞いて思考する。何で?‥いや、考えるまでもない。彼の目的は、一つしかない。その為の踏み台にする気なんだろう。それを口に出さず、ひたすらに頭を下げるのは、自分を気遣っているのだろう。矛盾してると思う。

この手のタイプだと、気遣いを見せる方がありえない。なのに、彼は相手を気遣う。

僅かな沈黙。黛が下した答えは‥

 

 

「謹んでお受けいたします」

 

 

「わりぃ」

 

 

悠介の挑戦を受けるだ。黛の言葉に悠介は静かに謝罪で答える。

二人の決闘が此処に決まった。

 

その直後に鉄心が現れ、二人の決闘は放課後に決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来たる放課後。悠介は、グラウンドに向かっていた。既に多くの生徒はグランドで開始を今かとお待ち詫びており、人の気配は感じない。

 

 

「言った次の日に、仕掛けるなんて悠介君らしいね」

 

 

悠介の目の前に現れたのは、燕。柱に背を預けながらそこに立っている。悠介に語りかけるその口調は、何処か優しく憐れみに近いモノが宿っている。まるで生き急ぐかのように強者との戦いを望む悠介を止めれない自分に対する無力さに語りかける様だ。

 

決して悠介に対する憐れみでは無い、むしろ何も力になれない自分を憐れんでいる。その胸の内に在るのは、怒りか?それは燕にしかわからない。

 

悠介はあえてそれに気づかないフリをしながら声を発する。

 

 

「時間がねえのは、初めからわかっちゃいたからな。それが確定したなら、一度でも俺が挑む世界(・・)を肌で感じる必要があるだろ。戦った()の事も考えると、今のタイミングしかねえのは、お前もわかってるだろ?」

 

 

「…そうだね」

 

 

悠介の言葉に燕は頷く。そうだ、今しかないのだ。彼が悠介が百代を倒すために最も必要なそれを成すタイミングは‥だが、きっと悠介は

 

 

「なあ、燕。俺が勝てる可能性って、お前から見ていくらぐらいある?」

 

 

「客観的に見ても、0%だね」

 

 

ボロボロになって敗けるだろう。どれだけ足掻こうが絶対的に変える事が出来ない値‥只々突きつけるゼロと言う数値。そしてそれは悠介もわかっている。それでも挑むのだ、己の夢の為に大勢の前で敗北と言う泥を被る。一体どれほどの覚悟なんだろう‥燕の頭の中でそれが何度も反すうされる。

 

 

「そっか。お前のそう言う直球に伝えてくれるとこは、マジでありがてえわ」

 

 

そう言って再び歩き出す悠介。止めれない。傷つくとかなんか敗ける所なんか見たくない、あの表情をする君を見たくない。それでも、私には君を止めれない‥だから私は嫌い。何もできない、どれだけ智を練ろうが何もできない自分が、自分の我儘が‥大っ嫌いだ。

だからこそ

 

 

「私も今後の為にしっかり見させてもらうからね」

 

 

それを君に悟られる訳にはいかない。

 

 

 

「おう。いつも通り、利用できるモンは利用しろや」

 

 

そう告げて悠介は、燕の視界から消える。

 

 

「…頑張って」

 

 

小さく告げられた燕からの声援。現実的に見て悠介の勝ちはほぼありえない。それでも彼ならば‥悠介ならばと考えている自分がいる。そんな考えが自分がするとは、存外に自分も乙女すぎるなと笑う。

 

しばしじっとしていた燕は、ゆっくりと屋上に向かって歩き始めた。

この戦いを見届ける為、己の糧にする為に。

 

 

 

 

グラウンドに向かいながら悠介は、燕の言葉を思い返す。間違ってないだろう。燕の計算高さは自分がよく知っていし、客観的に問われれば自分もそう答えるだろう。

0とは、0.1%の成功率とか、そんな綺麗な夢物語すら一蹴する、完全な絶望と暗闇の数値だ。そこには一部の希望もない。挑むと言う方がおかしいと思う。

 

 

「はっ」

 

 

自分で言いながら何を言ってんだと笑う悠介。それでも挑まずにはいられない理由(わけ)があるから、自分は闘場(そこ)に立つのだ。

理由やら訳は、観客が勝手に決めればいい。笑われるのも気にはしない。だからこそ、問題は一つ。

 

 

(黛の奴がちゃんと真剣(マジ)で戦ってくれるかなんだよ‥)

 

 

そう思った瞬間、静かで研ぎ澄まされた闘気が悠介を包み込む。気がつけば、既にグラウンドに辿りついている。ならば、この闘気の主は一人しかいない。

 

 

「杞憂だったか…いや、俺のその考えそのものがバカだったって事か」

 

 

震える。目の前に立つ少女を視界に納めたその時から、身体の震えが止まらない。

今まで決して味わうことの無かった世界の全力の()が、悠介の本能を刺激する。

ニゲロ、ニゲロ‥アレハ、ジブントハ、ジゲンガチガウ‥正真正銘の化け物(天才)だ。

 

相楽悠介の戦歴において、壁を越えたマスタークラスの実力者との稽古(・・)は経験があれど、全力でも戦闘《・・》は今まで経験していない。

だからこそ震え怯える。

 

 

(上等じゃねえか)

 

 

深く息を吐く。体の震えを無理やりに押しとどめ、悠介はその場に立った。それを合図に黛もまた、静かに構えを取る。

 

 

(だからこそ、モモと戦う前に絶対に経験しなきゃいけねえんだよ)

 

 

再び深く息を吐く。覚悟を決めろ‥此処を越えなければ、あいつに挑むなど夢物語にすら出来はしない。

 

 

「双方、準備はいいか」

 

 

「構いません」

 

 

「ふぅー…こっちも問題ねえよ」

 

 

鉄心の問いに二人が答える。そして答えると同時に黛は刀を悠介は拳を構える。それを確認した鉄心が悠介の方に僅かに視線を寄越したのちに、大きく手を振り上げる。

張り詰めた空気がより一層、緊張を増していく。

 

1秒

2秒

3秒経過

そして

 

「それでは‥始めッ!!」

 

激戦の火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄心が言葉を発した刹那、二人は地面を駆ける。と同時に、悠介が驚愕する。

 

 

「(…マジかよ)」

 

 

迅い。お互いに未だに一歩しか踏み出していない。それなのに黛は明らかに自分よりも進んでいる。それは筋力ではなく、純粋な迅さの違い。

 

 

「(向こうの方が間合いに入るのが早い‥なら)」

 

 

停止。そしてその場で拳を引く。狙うのは1点、刀を持つ腕のみ。

 

 

「シィッ!!」

 

 

やや前かがみに近い形で放たれた拳。しかし、その拳が届く事とはなかった。

 

 

「はあっ」

 

 

「なっ!?」

 

 

黛は、刀を構えた体勢のまま跳躍。悠介の拳は空を切る。瞬間、悠介は己の失態に気がつく。

 

 

「(視界が思考が狭まってやがる‥構えるタイミングも打つタイミングも速すぎた)」

 

 

だから簡単に対応され、相手の有利とかす。前かがみ気味のせいで、後ろが普段よりも一層隙だらけだ。一撃目は恐らく耐えきれるが、そこから繋がる連撃は俺が意識を失うまで止まらないだろう。…敗ける…

 

 

「(バカがッ!!思考を止めるな、止めたらそれこそ敗けだ)」

 

 

ハッキリと感じる圧。どうすればいい?どうすれば生き残れる?

 

 

「ハッ!!」

 

 

気迫と共に放たれる一閃。避ける事は出来ないし、そもそもする気はない。ならば、手段は一つ。

 

 

「ぐぅ」

 

 

零れるのは、悠介の苦悶の声。直撃した手ごたえありそう判断した黛が、再び刀を戻して攻撃を放とうとしたその時

 

 

「らあぁッ!!」

 

 

前方に突き出していた拳を引き戻し、後方にいる黛目掛けて放つ。見えはしないが、身体に当たった刀が大体の場所を伝えてくれる。自分の身体で隠した完全な不意打ちのつもりだった。

それなのに

 

 

「(避けやがった)」

 

 

感じたのは、蹴られた感触。直後に刀の重さが消えた。自分の背を足場にその場から離れたのだ。

 

 

「チィ。わかっちゃいたが、改めて痛感するな」

 

 

今まで悠介が戦って来た相手の中には、もちろん格上もいた。しかし総じてそう言った面々には、僅かだが油断があった。当然、戦っていく中でそれは失われていた。それが勝機になったとまではいかないが、確実に自分の勝ちにつながるモノだった。

 

故に痛感する。格下相手ですら油断も慢心もなく、構える敵の怖さ。

ほぼ一回のやり取りで、身体が本能が再確認させられる。

 

 

「参ります」

 

 

勝率ゼロパーセントと言う確率の現実を。




いかがでしたでしょうか?
悠介が挑む、初めてマスタークラスとの一戦
果たして勝てるか?

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