真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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と言う訳で、今回は悠介と釈迦堂の再開です
その為、辰子とかはあんまり活躍しません
良い雰囲気を期待していたなら、すみません

今回は結構長めです
後半とかは、結構雑なような気がしますが、楽しんでくれたら嬉しいです!!
良かったら、感想をお願いします

今回、後書きに悠介のプロフィールを載せています


悠介と板垣一家

悠介の問いに対して、辰子は今までとさして変わらない眠たそうな声で答える。

 

 

「あれ~、どうして悠介君が師匠の名前を知ってるの?」

 

 

師匠(・・)か・・」

 

 

辰子の疑問の言葉よりも悠介は、ある一言が気になっている様だ。

『師匠』と言う言葉。それが指し示す意味は恐らく一つ。

 

 

「そうか。結局、行きつく果ては変わらずって事か」

 

 

「?。どう言う事??」

 

 

「いや、大したことじゃねえよ」

 

 

何処か嬉しそうに呟く悠介の言葉の意味を尋ねる辰子だが、悠介は彼女の問いには答えずに

 

 

「とりあえず、師匠って人に会わしてくれねえか?」

 

 

ただ、真摯に頼み込む。

 

 

「悠介君の頼みだからいいよ~」

 

 

悠介の頼みを受けた辰子は、驚きほどあっさりと受け入れた。

余りにもあっさりと、自分の提案が受け入れられたので、悠介は呆気にとられる。

 

 

「それじゃあ、(うち)に行こうか~」

 

 

「お、おう。それじゃあ、よろしく頼むわ」

 

 

「任せてよ~」と両腕を大きく上に上げた辰子の後ろを、悠介は付いて行く。

その表情は、隠そうにも隠し切れない笑みで染めれている。

 

 

(待ってやがれよ、釈迦堂!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『釈迦堂刑部』と言う名は、相楽悠介の武を語る上で最も関わりが深い名である。それは別段、悠介にとって最も感銘を受けたと言う話ではない。むしろ、相楽悠介が師と認める四人の男達の中では、最も尊敬していないと言える人物である。

ではなぜか?理由は簡単だ、悠介が最も長い時間武術を教わったのが、釈迦堂刑部である。川神鉄心は川神院の総代としての仕事が、ルー・イーは他の門下生の修行が、鍋島正にいたっては、まだ会ってもいない。消去法で残ったのが、釈迦堂だったのだ。

まあ、鉄心自身は力の加減やら性格を治すために悠介を担当させたのだが・・・・

 

その為悠介は、もろに釈迦堂の影響を受けてしまった。幼かった顔つきは、釈迦堂に殴られる度に何処か彼に似た様に鋭く恐くなっていき、彼の様に攻めを重視した戦型になったのだ。つまり釈迦堂刑部は、相楽悠介にとっての戦型の原点であった。

 

だからこそ、彼が川神院を破門されたと百代からのメールで知った時も、さして驚愕しなかった。何処かでわかっていたのだ。釈迦堂刑部は、川神院似合わないと・・・

だが、同時に確信もあった。

 

それは、悠介が川神学園に入学した日だった。

 

『そう言えばよ、釈迦堂のおっさんが破門されたってのは、マジか?』

 

『ああ本当じゃよ。あやつの思考は余りにも危険すぎた。ワシもどうにかして、治そうとしたのじゃかな・・遂に無視できん所まで来てしまったのじゃ』

 

そう言う鉄心の表情は後悔に彩られている。鉄心自身悔しいのだ、釈迦堂を救えなった事が。

しかし、悠介はその言葉を聞いても悲しむ素振りなど見せず

 

『まあ、心配しなくてもよ、あのおっさんなら川神(ここ)に戻ってくんだろ。そん時にでもあいさつしに行きますかね』

 

余計な手間をかけさせんなと言わんばかりの声音で呟いた。

 

『どう言う意味じゃ?』

 

『ああ?破門されて、川神の地を出ていったとか言ってるけどよ、結局また此処に戻って来るだろ、どうせよ』

 

『なぜ、そう言いきれる?』

 

鉄心の純粋な質問に対して、悠介は『そんなモン決まってるだろが』と言葉を吐き捨て

 

『あのおっさんは根っからの戦闘狂だ。なら、必ず此処に戻って来るだろ?いや、下手したらもう戻って来てるかもな』

 

『だから、なぜそう言い切れるんじゃ!!』

 

鉄心の言葉に、悠介は『まだわかんねえのかよ?』と呆れた表情を見せた後

 

『ここ以外に、あのおっさんが満足できる相手(てき)がいるのかよ?ここは武の聖地だぜ?どうせ、満足できなくなって戻って来るだろ』

 

違うか?と言わんばかりの表情で鉄心を見た悠介。その言葉と表情を見た鉄心は、一瞬呆けたが、笑い出し

 

『そうじゃのう』

 

悠介の言葉に同意した。

それが理由。釈迦堂刑部が川神に居ると言う確信だった。

 

 

 

「もう少しで着くよ~」

 

 

思考の海に潜っていた悠介の耳に辰子の声が届く。慌てて周りを見てみれば、「親不孝通り」と呼ばれる場所にまで来ている。どうやら、無意識に着いて行っていたみたいだ。

 

 

「うん?なあ、辰子。あそこって、何に使ってんだ?」

 

 

「うん?あ~あれはね、此処の最強をみたいなものを決めてた場所だよ~。青空なんとかだよ。私達きょうだいが、そこで一番だったんだよ」

 

 

「なるほどねぇ。今度俺も参加してえな」

 

 

辰子の言葉を聞いた悠介は好戦的な笑みを浮かべ始める。しかし、悠介の言葉を聞いた辰子は、笑みを浮かべながら

 

 

「最近は、九鬼のなんとかプランのせいで、開催できなくなっちゃたんだけどね」

 

 

ごめんね~と最後に言葉を添えて辰子は、申し訳なさそうに告げた。その言葉を聞いた悠介は、気にすんなと告げて笑みを返す。そう言う悠介だが、その表情は何処か残念そうだ。

その悠介の表情を見た辰子は、話題を変えるように自分の視界に映った人物に呼びかけた。

 

 

「あっ!天ちゃんだ~」

 

 

「うん?あ、辰ねえじゃん」

 

 

辰子の呼びかけたに答えたのは、赤い髪をツインテールしている勝気そうな目が特徴的な少女だ。

辰子の元まで駆けてきた少女は、近くいた悠介の存在に気がつく。

 

 

「うん、誰だおめえ?」

 

 

「悠介君だよ」

 

 

「いや、誰だよ?」

 

 

「何でも師匠に会いたいんだって」

 

 

「師匠に?」

 

 

辰子の言葉を受けた天と呼ばれた少女は、見定めする様な目線を悠介に送るが

 

 

「紹介に預かった相楽悠介だ。えっと、天でいいだな?」

 

 

彼はさして気にする事もなく手を差し出す。

 

 

「キャハハ。おめえ面白いな。ああ、うちは板垣天だ」

 

 

自分の目線にもひるまなかった悠介の反応が面白かったのか、一度笑った後悠介の差し出した手を握った。

 

 

「天ちゃんも、今帰り?」

 

 

「おう。今日はゲーセン行っても暇だったからな、さっさと帰る事にしたんだ」

 

 

「それじゃあ、一緒に帰ろうか。悠介君もいいよね?」

 

 

「別に問題ねえよ」

 

 

そう言って三人は、再び歩き始める。と言っても、天と辰子の三歩ほど後ろを歩いている。

暫らく薄暗い道を歩いていると、再び悠介たちに声がかけられた。

 

 

「何だい?タツに天じゃないか・・・それと誰だい?」

 

 

彼らに届いたのは、ひどく気の強いそれこそ女王の様な声だ。その声が聞こえたと同時に、辰子と天は嬉しそうな表情で、声のする方に笑顔を向ける。

 

 

「あ~アミねえだ」

 

 

「おっ!アミねえじゃん。アミねえも今帰りか?」

 

 

「まあ、仕事の前に家で一休みしようと思ってね。それと、誰なんだい?そこにいる目つきの悪い坊やは?」

 

 

辰子と天に向けた優しい目から一転して、凍てつかんほどの目で悠介を睨み付ける。

その目を見た悠介は

 

 

(似てるよな~)

 

 

今目の前に居る女性と天が先ほど見せた目線が似ていたなと、ある意味場違いな感想を持っていた。

彼女の質問に答えたのは、辰子だった。

 

 

「この子はね~悠介君って言うの。師匠の知り合いなんだって」

 

 

「師匠の?」

 

 

辰子の言葉を聞いた女性の目が、今度こそ悠介を見据える。その目は何かを探る様な目線だ。

しかし、その目線を真正面から受けてもなお、悠介は動じずに女性に手を差し出す。

天よりも強気な目とショートカットされた薄い紫色の髪で、片目を隠している

 

 

 

「俺は、相楽悠介だ。あんたらが言っている、師匠の・・・・・まあ、知り合い?に当たるのか?」

 

 

「私が聞いてんのに、何であんたが尋ねてんさのさ」

 

 

「・・・わりぃ。自分でも口にしずらいと言うか、何と言うかでよ」

 

 

歯切れの悪い言葉を発する悠介は、目線を逸らし頬をかいている。心なしか頬も若干赤い。

その悠介の姿を見た女性の目から、警戒の色が薄れる。

 

 

「まあ、いいさね。私の名前は、板垣亜巳だよ」

 

 

「おうよろしくな。因みによ、三人ってやっぱ」

 

 

「想像のとうりさ。私達は姉妹だよ」

 

 

「やっぱりか」

 

 

亜巳の鋭い目線を受けても悠介は全く動じない。彼女程度の殺気にビビるほど弱い奴らとは戦っていない。

 

 

「別に俺は、あんたらの生活を脅かす気はねえよ。ただ、あんたらが師匠と呼ぶおっさんの面を拝みてぇだけなんだわ」

 

 

未だに警戒を解かない亜巳に対して悠介は、苦笑いしながら手を差し出す。数秒悠介の顔と手を見つめていた亜巳は、大きくため息を吐き

 

 

「はあ。師匠なら今は家にいるはずだから、さっさと用を済まして帰んな」

 

 

「助かるわ」

 

 

警戒を解いた。

 

 

「えー一緒にご飯食べようよ!!」

 

 

「タツ・・あんたね」

 

 

辰子の言葉に亜巳は呆れた表情を見せる。ただでさせ、この辺りは九鬼家がマークしているのだ。そこへ現れた自分たちの師に会いたいと言う人物。警戒しない方がおかしい。

だから亜巳は、早々に帰って貰いたいのだ。

 

 

(まあもしもの時は、あたいらと師匠で倒せばいいだけの話さね。そしていい感じのブタに調教してやろうかねえ)

 

 

自分の前を歩く悠介を見ながら、最悪を想定する亜巳。しかし、その数十分後彼女の予想をはるかに超える出来事が巻き起こる。

 

 

 

「あ!あそこが私達の家だよ~」

 

 

辰子が指さす先には、一軒の家屋が見える。それと同時に、あの場所からは明らかに別のナニカが漂っている。そしてそれを生み出しているのは

 

 

「それじゃあ、どうぞ~」

 

 

辰子が扉を開け、悠介を中へと案内する。扉が開いた音を聞いたのか、家の奥から

 

 

「おう、おめえら。帰ってきたか~」

 

 

悠介にとっても馴染のある声が発せられる。その声を聞いた悠介の表情が獰猛な表情に変化する。悠介の変化を見ていた天と亜巳が、本能的に彼から一歩距離をとる。

 

 

(なんだ、こいつッ!!やべぇ時の師匠みたいな表情しやがって)

 

 

(チィ!!やっぱり、案内するんじゃなかったね。厄介な奴を連れてきちまった!!)

 

 

二人が臨戦態勢に入る直前、悠介の表情は先ほどと同じ物に戻り、ゆっくりと家の中に入っていく。

余りの変化に二人が呆気にとられている内に

 

 

「師匠~。今日は、師匠にお客さんだよ~」

 

 

「俺に客だ~?」

 

 

辰子の言葉を受けて、声の主が悠介に近づいてくる。

そして遂に

 

 

「ヘイヘイ。俺の客ってのは・・・・」

 

 

「よう。破門されたらしいな、おっさん」

 

 

相楽悠介と釈迦堂刑部の二人が再会を果たす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠介の言葉を最後に空気が止まった様に動かなくなった釈迦堂と悠介。他の三人も状況を理解する事が出来ずに困惑して止まっている。この固まった空気を壊したのは

 

 

「今帰ったぜ~。うん、誰だおめえ?」

 

 

「リュウ!!」

 

 

第三者として現れた、腕に竜のタトゥーを刻んでいる少年だ。少年は、自分の家にいる悠介に対して疑問の声を上げる。

 

 

「お前誰だ?」

 

 

リュウと呼ばれた少年の問いに悠介は答えず、ただ釈迦堂だけを見ている。

自分の問いに答えない悠介に苛立ったのか、少年は拳を握り放とうと力を込めるが

 

 

「やめときな、リュウ。おめえじゃ、逆立ちしても悠介(そいつ)には勝てねえよ」

 

 

「なに!!」

 

 

釈迦堂の言葉がそれを止める。釈迦堂の言葉を聞いた四人の視線が、悠介に注がれる。

しかし、悠介は未だに釈迦堂から視線を逸らさない。

 

 

「師匠。失礼ですが、そこ居る坊やとはどう言った関係で?」

 

 

そんな中亜巳は、悠介と釈迦堂の二人の関係を問う。彼女の言葉に釈迦堂は衝撃の事実を告げる。

 

 

「俺とそこにいるそいつは、お前らの兄弟子(・・・)に当たる野郎だ」

 

 

釈迦堂の言葉に亜巳たちが純粋に驚く。そしてとうの悠介はと言うと、釈迦堂の言葉を聞いて、面白そうに笑みを見せている。

 

 

「やっぱり、此処にいるのはアンタの弟子だったな」

 

 

「おうよ。おめえよりはましだが、可愛げのねえ弟子どもだよ」

 

 

「失礼なおっさんだぜ」

 

 

「事実だろうが」

 

 

短いやり取りだが、そこには確かに絆を感じさせている二人。

そして釈迦堂の表情が変わり

 

 

「おめえが戻ってきたって事はよ・・・」

 

 

「ああ、モモに全てに挑みに来た」

 

 

「まだ諦めてなかったのかよ、おめえ。まあ、その頑固さだけは認めてやるよ」

 

 

呆れた様に頭を掻く釈迦堂だがその声音は何処か嬉しそうだ。そしてその表情を見た亜巳たちは

 

 

(ふうん。師匠でもあんな表情をするんだね)

 

 

(師匠~何だが嬉しそうだね~)

 

 

(あんな表情初めて見たぜ)

 

 

(師匠のあんな顔初めて見た)

 

 

ただ自分達の知らない釈迦堂の表情に驚く。彼女たちが驚いている間も二人は話を続けている。

 

 

「つか、あんた今仕事何してんだ?やっぱ、ボディーガードとかか?」

 

 

「いやいや、今は無職だぜ」

 

 

「・・・やっぱりか」

 

 

「驚かねえんだな」

 

 

「何となくわかってたからな。そもそもあんたが真面目に仕事をしているとか信じられねえよ、このニート」

 

 

「ああ?そう言うおめえこそ、まだできもしねえホラ吹いてんだろ?」

 

 

「ああ?誰がホラを吹いてるってぇ?」

 

 

「おめえだよ、バカ。俺でも難しい百代に勝つとか、それがホラじゃなきゃ何なんだよ?」

 

 

「はっ。やっぱ、挑む前から諦めるとか、武人として失格なんじゃねえの?」

 

 

 

(あれ?これヤバくね)

 

 

 

懐かしむ様な雰囲気から一変して、険悪な雰囲気に変わる二人。それを見ていた天が、汗を流し始める。

ハハハと笑う二人。

そして

 

 

「ざっけんなッ、このニートがッ!!」

 

 

「誰がニートだあぁッ?クソガキィ!!」

 

 

ドゴォン!と互いの拳が、顔面をとらえる。

 

 

「!!?」

 

 

そんな中、釈迦堂の拳を喰らった悠介は何かに驚いた様な表情を見せる。

そしてそれが大きな隙となった。

 

 

「オラァぁ!!」

 

 

「ぐぅッ!!」

 

 

釈迦堂の膝蹴りが悠介の腹に直撃。そのまま悠介を外へと吹き飛ばす。

 

 

「くそ!!ニートの癖にやりやがるな、やっぱ」

 

 

「だからぁ、俺はニートじゃねえって言ってんだろ?あいつらの代わりに、家をしっかりと守ってやってんだよ」

 

 

「そう言う、自宅警備員の事を世間では、ニートって言うんだよ、このマダオが」

 

 

吹き飛ばされた悠介は地面から起き上がり、釈迦堂は静かに玄関から顔を出す。二人とも表情は笑みで色られている。その二人の姿を見た四人は即座に理解した。この二人は欲しかったのだ。目の前の相手に殴りかかれる理由が、ただ欲しかったのだ。

理由さえあれば、戦う大義名分は立つ。これでもう邪魔する奴はいない。

 

二人は同時に拳を握りながら、地面を駆けてぶつかろうとした瞬間

 

 

「そこまでだ、赤子ども」

 

 

「「!!?」」

 

 

突如として現れたヒューム。二人の動きは強制的に停止させられる。

 

 

「何のつもりだ?」

 

 

戦いの邪魔をされた悠介がヒュームを睨み付けるが、当の本人はどこ吹く風で全く気にしていない。

 

 

「ふ、なに。九鬼家では武士道プランの遂行に従い、町に居る危険人物などを排除または監視している。そして、そこにいる釈迦堂もその一人になったと言う訳だ」

 

 

「そのために邪魔をしたのかよ」

 

 

「ああ、そうだが。何か問題がるのか?」

 

 

「そんな理由で、邪魔してんじゃねえよ」

 

 

睨み合う事数秒。

 

 

「安心しろ赤子。俺の用が終わればすぐに立ち去る。その後に赤子どもが何をしようと俺には関係がない」

 

 

「ちぃ」

 

 

ヒュームの言葉に渋々身を引く悠介。その姿を確認したヒュームは、静かに釈迦堂に問いかける。

 

 

「さて、釈迦堂。お前程の男を野放しには出来ん。大人しく我らが用意した就職先に就職し、カタギに戻れ」

 

 

ヒュームの言い分は全くもっての正論だが、悠介は釈迦堂がどんな答えを返すのか、簡単に想像できた。

 

 

「はっ!やだね。何でそちっとらの都合で、俺の生き方を決められねえといけねえんだよ!!」

 

 

(やっぱりな)

 

 

「仕方がない、実力行使だ。俺が勝ったら、素直に言う事を聞いてもらうぞ」

 

 

「いいぜ。その代り、俺が勝ったら俺とこいつらには干渉するんじゃねえぞ」

 

 

(へえ、やっぱ不器用なりに師匠をやってんだな)

 

 

釈迦堂の言葉を合図に二人の闘気が膨れ上がる。悠介は二人の戦いを黙って生還する事を選ぶ。先ほど感じたモノの真偽を確かめる為に。

沈黙は一瞬、先に仕掛けたのは釈迦堂だ。

 

 

「オラァ!!」

 

 

獣のように荒々しい拳がヒュームに直撃する が

 

 

「鍛錬を怠った天才ほど、見ていて哀れな者はいないな」

 

 

ヒュームは何事もなかったように立ってる。その事実が釈迦堂を驚愕させる。

 

 

「終われ」

 

 

「ガァ!!」

 

 

 

ビュン!と鞭のように放たれた蹴りが釈迦堂に直撃する。たった一撃のもと、釈迦堂は地に沈んだ。

 

 

「もしも、お前が鍛錬を続けていれば結果は変わっただろうにな」

 

 

「う、うるせえ」

 

 

必死に起き上がろうとするが、受けたダメージが大きすぎて立ち上がる事も動く事も出来ない。

 

 

「さて、貴様ら赤子どもは弟子だったな。ならば、貴様らも危険な存在だ」

 

 

倒れた釈迦堂から視線を外し、傍観していた辰子たちに視線を向けたヒューム。

その目線を受けた四人が身構える。

 

 

「お前達もそこに倒れている師と同じ選択肢を与える。どちらか選べ」

 

 

ヒュームの言葉に四人は答えない。答えなど決まっているからだ。

 

 

「そうか」

 

 

一言発したヒュームが攻撃を放とうとしたが、ヒュームと辰子たちの間に悠介が立ちはだかる。

 

 

「何のつもりだ?」

 

 

「見てわかんねか?あんたが、それ以上あいつらに手を出すなら、俺も戦うって事だよ」

 

 

悠介の言葉に辰子たちは驚愕するが、ヒュームはさして驚かず

 

 

「理由はなんだ?」

 

 

訳を問う。その問いに対して悠介は、地面に倒れている釈迦堂に一度視線を向けた後

 

 

「あんたが俺の戦いを台無しにした。それが理由だ」

 

 

それにと悠介は言葉を続ける。

 

 

「おっさんがやられた時点で、あいつらには何もする気はねえだろ。それが理解出来ねえような奴らには見えねえしよ」

 

 

悠介が思い出すは、自分の家族を守るために最後まで警戒を解こうとしなかった亜巳の姿。今だって、四人の中で誰よりも前に出ている。

 

 

「あんたらの目的は、治安の安全だろ?それ以上は一つの家族の平穏を壊す行為になる。流石に見過ごせねえよ」

 

 

悠介の言葉に考え込むような姿勢を見せたヒューム。その姿を見た悠介に悪寒が奔った。

本能に従いその場にしゃがんだ瞬間、ブォン!と鋭い回し蹴りが通り過ぎる。

 

 

「てめぇ、何のつもりだぁ?」

 

 

「見切りは出来るらしいな」

 

 

悠介が怒りの言葉を発するが、ヒュームは自分の蹴りが避けられた事を確認すると

 

 

「いいだろう。貴様の言い分を通してやろう」

 

 

闘気をしまい、未だに大の字で倒れている釈迦堂に視線を向ける。

 

 

 

「そこにいる赤子四人の面倒もちゃんと見るのだな。就職先のリストは、追って送る」

 

 

 

「あ~ハイハイ。約束は守るよ」

 

 

ぶっきらぼうに答えた釈迦堂の返事を聞いたヒュームは、その場から立ち去る。

ヒュームが立ち去った事を確認した辰子たちは、肩から大きく息を吐く。その顔からは大量の汗が流れている。

その中、悠介は大の字で寝転がる釈迦堂に近づく。

 

 

「えらく、弱くなったな」

 

 

「・・うるせえ」

 

 

悠介の言葉に顔を逸らしながら答える釈迦堂。心なしか、その声は震えている。

釈迦堂の言葉を聞いた悠介は、小さく息をこぼす。

 

 

「アンタは目標の一つだ」

 

 

「!!」

 

 

悠介の呟きに釈迦堂は反応を示す。そして悠介は釈迦戸の反応にも気にも留めずに唯一言。

 

 

「だから、待ってやる(・・・・・)

 

 

と釈迦堂に告げた。悠介の言葉に彼は何も言わない。言いたい事を言い切った悠介は、辰子たちに視線を向き直して

 

 

「さて用は済んだし、俺はそろそろ帰らせて貰うわ」

 

 

「え~もう帰っちゃうの!!」

 

 

帰ると告げるが、その言葉に辰子が反対する。辰子の反応に困った様に頭をガシガシと掻きながら悠介は言葉を発する。

 

 

「わりぃな。今はそう言う気分じゃねえし。その代り、また今度お前の料理を食べに来るわ。それで許してくれねえか?」

 

 

悠介の言葉は、辰子ともう一人亜巳に向けられていた。

 

 

「絶対だよ!!絶対だからね!!」

 

 

「あんたには貸しある。好きな時に来るといいさ。時間があったら相手をしてあげるよ」

 

 

「あんがとよ」

 

 

二人の許可を得た悠介は笑みをこぼし来た道を帰ろうとし、ある事に気が付く。

 

 

「そういやぁ、名前を聞いてなかったな。なあ、お前の名前は何て言うんだ?」

 

 

唯一名前を聞いていなったリュウと呼ばれた少年に問いかける。問われた少年は一瞬驚くが直ぐに問いに対して答えた。

 

 

「!!。竜兵。板垣竜兵だ」

 

 

竜兵から名を聞いた悠介は、一度頷き

 

 

「そうか。辰子、天、亜巳、竜兵、うんじゃあまあ、またな」

 

 

手を振りながら静かに帰っていった。

悠介の姿が完全に見えなくなった頃、今まで地面に倒れていた釈迦堂が突然笑い出す。

 

 

「ど、どうしたんよ、師匠!!」

 

 

突然笑い出した釈迦堂に驚く四人。

ある程度笑い終えた釈迦堂は、笑い涙を拭いながら

 

 

「仕方ねえな。また一から鍛え治すか」

 

 

自分の拳を上に突き出す。全ては、あの可愛げのない弟子の為。今度戦う時は、あいつの壁として、超えるべき目標として立ちはだかろう。

その為のチャンスをくれたのだから。それに答えなければならない。

ガラではないが、あいつの前ではそうありたいと、思い出してしまった。

 

今この時、ナマクラと化した一本の牙が、一瞬本来の輝き放った。




「この文字を背負う。それが俺の目標だ!!」

名前:相楽悠介(さがらゆうすけ)

武のテーマ:『惡』 何者にも染まらず、何事にも揺るがない意思

身長:177cm

血液型:B

誕生日:四月三日 牡羊座

一人称:俺

あだ名:悠介 悠介君 相楽

武器:拳 ???

職業:川神学園二年F組 燕の家に居候中

家庭:父親と母親の三人家族

好きな食べ物:焼き魚・松永納豆・すき焼き

好きな飲み物:川神水

趣味:修行・昼寝

特技:喧嘩

大切なモノ:自分の意思・『悪一文字』

苦手なモノ:燕や親の説教

尊敬する人:夢に出てきた男・自分の師四人

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