真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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今回悠介がなぜ、ステイシーらに弱く見られたかの理由が判明します
まあ、独自解釈ですし矛盾だらけだと思いますが・・・そのため違和感なりがあったら教えて下さい


悠介VSマルギッテ
その結末は?


悠介と猟犬 その2

最初あの男の事を知ったのは噂だった。あの武神と打ち合って意識を保っていた男。その事実を知った時私は、あの男に興味を持った。そして幸運な事にその噂の真偽は直ぐにわかった。

相手はお嬢様の学友である川神一子、決して弱い相手ではない。だからこそ、その鱗片が見れると確信した。

結果からすれば、噂負けはしていなかった。しかし、同時に違和感も感じた。自分が感じた強さと実際に見た強さに感じた違和感。

だが同時にあの拳に魅せられもした。無骨で洗礼とは対極な拳をなぜか美しいと思ってしまった。

そしてクリスお嬢様より聞かされたあの男の戦う理由。それを聞いた時、自然と納得した。故に、戦いたいと思った。

その拳とぶつかってみたいと思えた。一人の武人として、ただ真正面から挑みたいと思った。

そうしたらきっと、あの拳に魅せらてた理由が分かる気がしたから

ああ、だから先ほどまでの自分を恥じよう。

自分が全力を出さないで、その答えが分かる筈もないのだから。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

明らかにさっきまでのマルギッテでは無い。纏う雰囲気そのものが、人から獣へ変わっている。

それが、眼帯を外したマルギッテを見た悠介の率直な感想。

 

――――さてどうするか?

 

一瞬の思考。しかし浮かび上がる回答は、何時もと変わらない。自分に許された回答など、基本的に一つしかないのだから。『攻め』と言う選択肢しか自分にはないのだ。悠介が攻撃の為に足に力を入れようとした時…

 

「一つだけ聞かせて下さい」

 

「は?」

 

マルギッテの言葉が悠介の行動を止めさせた。

 

「貴方から感じる強さと実際の強さがかみ合っていない様に感じる。

私達が感じる雰囲気は紛れもなく弱者のそれです。ですが、戦って感じるそれは決して弱者とは呼べない。

最後に戦う前にそれだけは答えて貰います」

 

恐らくこの地で悠介を見た者達が抱いたであろう疑問。その答えが知りたくてマルギッテは悠介に問う。

マルギッテの問いを聞いた悠介は別に隠すことでも無いと、一度構えを解き口を開く。

 

「たぶんそれは、気が関係してる筈だ」

 

「?。どう言う意味です」

 

「こっからは俺の考えなんだけどよ。

気ってのは使える使えないに関わらず、強くなるたびにある程度、増えていくもんだと思うんだよな。

そしてそれが相手の強さを感じ取る大半を担っている筈なんだわ。

それは気を使えない奴でも感じる事が出来る。此処まではいいか」

 

「ええ。特に疑問に思うところはありません。続けなさい」

 

一度確認を取った後、再び悠介が話始めていく。

 

「まあ、そこから踏まえたりジジイ達から話を聞いて、俺なりにまとめた結果、俺は生まれつき気の総量を増やす事が出来ないって事になったんだわ」

 

「!!。それはつまり貴方は…」

 

「ああ、武人が壁を越えるためにも一線を越えるためにも必要な気が扱えないって事だ。

まあ、かなりの実力があれば、俺の強さをある程度感じ取れるみたいけどな。

それでも完璧ではないけどな」

 

悠介の言葉を聞いたマルギッテが、決闘を見に来ていた武人たち誰もが息を呑む。

そして誰もが思った感情は、憐れみに近かった。

されど。

 

「憐れむんじゃねえぞッ」

 

「!!?」

 

静かにしかしその声音に秘められた感情が、周りにいた全てを沈黙させ黙らせる。その中でも平常を保っていたのは、川神鉄心、ルー・イーそして松永燕と川神百代の悠介を知る面々のみだ。

 

「こっちはそんなモン、端からわかった上で挑んでんだよ。

だからいらねえ。憐れみなんて絶対にいらねえんだよッ!!」

 

憐れみを受けるのは慣れている。でも自分を認めてくれた相手に同情を受けるのだけは我慢ならない。

 

「さて話事はもうねえだろ。さっさと…始めんぞ!!」

 

拳を構えなおした悠介を見たマルギッテもまた、さっきまで感じていた憐れみの感情を振り払う。

いや、振り払わざる得なかった。目の前のいる悠介の瞳がそんな事を考えさせてはくれない。

 

「言葉はいらねえ。こっからは、拳で示すぜ」

 

言い終わると同時に悠介は地面を蹴り、マルギッテに肉薄していく。悠介から発せられた言葉を聞いたマルギッテもまた、今までの感情を捨てて迎え撃つ。

再び悠介の拳とマルギッテのトンファーは交差する。轟音をたてながら、ぶつかる二人。一瞬の硬直の後、吹き飛ばされたのはマルギッテだった。

 

「くぅ」

 

吹き飛ばされたマルギッテは、その場で軸足を中心に回転して、吹き飛ばされた勢いを突撃の為のエネルギーに変化して、悠介の元に駆ける。

 

「トンファーキック」

 

「シィ!!」

 

自身の加速した速度を乗せた蹴りと悠介の拳が互いの身体を打ち抜くが。

 

――――チィ。トンファーの方に意識が一瞬奪ばわれてキレと狙いが…

 

悠介の拳は、マルギッテの叫んだ技名からトンファーを使う技だと推測してしまい

トンファーを持った腕を攻撃しようとするが。それよりも早くに襲い掛かったマルギッテの蹴りの衝撃のせいで体勢を崩した悠介の拳の威力は落ち、攻撃もトンファーで防がれてしまう。

それでも、悠介に停滞はない。突き出した右足を軸にそのまま左の拳を突き出す。

 

「オラァッ!」

 

「読めている」

 

放たれた拳を前にマルギッテもまた、蹴り出した足を軸にしてトンファーを打ち出しす。ドゴッ!互いの一撃がぶつかり合い鈍い音を辺りに響かせあう。

 

「チィ」

 

悠介は防がれた事に舌打ちをこぼしながらも、後方に跳びながらマルギッテの顎目掛けて下から鋭く蹴りを放つ。

しかし、マルギッテは最小限の動きでそれを躱し、空中にいる悠介に目掛けて正拳を打ち込む。

 

「Hasen Jagd]

 

ドス!と鋭く迷いの無い一撃が悠介に直撃する。肺付近に打ち込まれた一撃によって一瞬、悠介の呼吸が止まる。

 

「ッ!!なめんな!!」

 

僅かに息をつめた悠介だが、即座に着地したと同時に右拳をマルギッテに向けて放つ。マルギッテから受けたダメージなど全く感じさせない。

 

「なっ!」

 

場所が場所だった為、自信があったからこそマルギッテは驚きで身体を硬直させてしまう。その為悠介の攻撃を避ける事が叶わず、ドン!と身体に鋭く深い衝撃が襲い掛くる。息をする事すら難しい中でマルギッテの本能は、攻撃を選ぶ。攻撃によって後方に流れた身体で、鋭い蹴りを放つ。

 

「やるぅ!!」

 

鋭く放たれたマルギッテの蹴りが確かに悠介の芯に当たるが。それでも悠介は止まらない。既に拳を構えなおし、追撃の体勢に入っている。

 

()めえだッ!!」

 

確信と共に放たれた拳がマルギッテに直撃する。勝利を思い笑みをこぼした悠介だが、即座に驚愕に変わる。この手ごたえは、全く違う。

悠介が感じたのは、堅く堅牢な木の手ごたえ。そこから導き出せるのは、一つの解答のみ。

 

「まだ――――敗けてはいない」

 

クロスしたトンファーが悠介の拳を受け止めている。そして、悠介の腕を中心に再びトンファーをクロスさせ、両側から同時に悠介の腕を打ち抜く。

それと同時にマルギッテは体勢を整えて、下に落ちていた視線を前に戻す。

 

「なッ!

バカな!!」

 

マルギッテの視界に映りこんだ光景は、彼女から驚きでない別の感情から生まれた言葉を無意識に発せさせる。

腕を上へと弾き飛ばしたにも関わらず、悠介はもうすでに構え終えている。自身の攻撃を受けてなお、痛がりもせず声も漏らさずに、再び打つ準備を終わらせているのだ。

それは悠介からすれば当たり前の行動。ずっとそれだけに時間を掛けてきたのだ。

ほぼ無意識だと言ってもいいだろう。相手に自分の拳が届きうるその時まで、ただひたすらに構えて打ち込む。

届かない訳がない、たとえそうだとして必ず届かせる。それだけが『自分の武』なのだから。

既にマルギッテには、防御も回避の選択肢も取れずにいた。何も出来ず、ただ悠介の行動を見ているしかなかった。

悠介の脇腹まで引かれた拳が。

 

「オラァッ!!」

 

悠介の咆哮と共に砲弾として放たれる。

 

「ガァッ!!」

 

うめき声を上げながらマルギッテの身体に、経験したことのない程の衝撃が貫く。

薄れゆく意識の中で、マルギッテは確かに感じた。

長く鍛え磨かれ続けた余りにも無骨な拳から伝わる、確かな誇りを。

ドサと地面に横たわったマルギッテの姿を見た鉄心は、静かに手を上げる。

 

「そこまで!!勝者 相楽悠介」

 

決闘の終わりを告げた。




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