真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
第二弾の番外編のバレンタインデーです
前回の様にすべて出演ではなく、一人のヒロイン?候補にスポットを当てて書いてみました
いまだに自分の感情に振り回される燕を楽しんでくれたらいいかなと思います
後半は、少し雑になってるかもしれません
違和感かとかあったら、また連絡をお願いします
その日は、少女燕にとって特別な日だった。普段の通学路が果てしなほどに遠くその足がい。さらにその場所に向かうにつれ、自分の心臓が信じられないほどに鼓動を早く刻み、顔が朱色に染まっている事を否応なしに自覚してしまう。
理由は分かり切っている。今、自分のカバンの中にある、両手で収まるほどの大きさの小包が原因だ。
―――――うぅ、ちょっと包装変じゃないかな?…味も大丈夫だよね?ちゃんと確認したから大丈夫だよね…
何度目かわからない自問自答。決めれば即決を信条としている自分にはあるまじき失態。昨日の夜から今朝にかけ、四苦八苦していたので時間もぎりぎりだ。その娘の姿に、出発の準備をしていた母親であるミサゴは苦笑をこぼしてた。
普段なら気が付くそれにすら気が付けないほどに、燕は緊張しているのだ。
そうやってうむうむと悩みながら歩いている燕。そんな彼女の耳に、それもかなり近くから
「なに変な声出してんだ?」
「きゃ!!」
今一番聞きたい声であり、一番聞きたくない声が届く。
「どうした?」
あまりにも変な声を出したためか、声の主である悠介は不思議そうな顔をして自分を見つめている。
「な、なんでもないよ、悠介君」
「そうか。それじゃあ、さっさと行こうぜ。お前待ってたら、ギリギリだ」
ふと告げられた言葉に、燕の心は満たされる。
――――待っててくれたんだ…黙っててくれてたら、もう少しよかったんだけど…悠介君らしいね
そんな不器用で全く意識せずに放たれた言葉。自分の為に。そう思うだけで、心の内から何とも言えない満足感があふれ出る。
少し先を歩く悠介の後を燕は、斜め右後ろの位置からついていった。
松永燕、中学一年生。相楽悠介、小学六年生。
燕が自分のその感情に気が付き、初めて迎えるバレンタインデーの日である。
しばらく同じ道を行き、二人は別れ燕は自身の中学の教室にたどり着く。ふと扉を開ければ、バッ!と突き刺さる目線が燕に集まる。特に男子生徒からは露骨だ。
――――あはは、みんな男の子だね~~
突き刺さる目線を母親仕込みのそれで回避しながら、燕は自分の席に座りカバンから荷物を取り出している中で、燕はあるものに気が付き、驚嘆の顔をする。
「おっはよ~~つば…ってどうした!!そんな世界の終りのような顔をして!!」
燕が席に座ったのを見計らって友人が挨拶に来たが、その余りにも重い空気を纏っている姿に驚愕の声を上げる。
「う、うん。大丈夫何でもないよ…」
「そそう?ならいいんだけど」
――――悠介君にチョコ渡すの忘れてた!!あ~~私のバカ~~~!!
行き道中は、何気ない悠介の言葉に幸せを感じてしまい。完全に渡すことを忘れていた。
「それにしても冬休みに期間に実力テストしかも5限とかだるいよね~~」
「確かにね」
「しかもよりにもよって、バレンタインデーの日にするなっつの!!」
乙女の純情返せ。と叫ぶ友人。その言葉にクラスの男子が反応する。その言葉につられ、何人かの友人が燕の周りに集まる。
「でも男子たちにとっては、ラッキーなんじゃない?学校に来れば、
「確かにね~~」
きゃきゃと女子トークに花を咲かせる燕たち。そんな中、ふと最初に声をかけてきた友人が燕に問う。
「そういえば、燕は誰かに渡す予定とかあるの?」
瞬間、今までにないほどに教室の中が殺気立つ。その言葉に燕は、一度チラッとカバンに視線を向けた後、いつものように笑顔を作りながら
「ふふ。内緒だよ~~」
いつもの声音で告げた。しかし一瞬浮かんだ彼の顔のせいで、わずかに頬が朱色に染まった。
その言葉に男子たちのボルテージが上がり、女子たちは教えなよ~と燕に追及した。
その後、無事にテストも終わり、燕は帰宅の準備をしている。その顔色はわずかに疲労で染まっている。別段テストでの疲労ではない。ただ、ある1点がその理由だ。
――――ふぅ~今まで意識してなかったけど、こんなにも露骨だったんだね。
今までは大した意味も持たない日だから全く意識していなかったが、その日をその感情を自覚して迎えると、その意識していなかったものまで把握してしまう。
正確に言えば、男子たちのアピールだ。露骨なものはないが、燕に聞こえる声で、自分の凄い所や自分がいかに優しいかなどを告げているのだ。
この話を聞いて、もしも余り物のチョコでも貰えればと期待しているのだろう。そしてそこから仲を発展させれ得ればと考えていそうであり思惑がスケスケである。
――――そもそも、そんな回りくどい真似しないで真正面から何か手を打てばいいのに…
深いため息とともに燕はそんなことを考える。別段策を弄することは悪いとは言わないが、単調すぎる。大体言葉だけで行動を見ずに何も判断できないだろうと燕は思う。
そんなことを考えていると、クラスが少し騒がしくなる。なんだと思い視線を向ければ、自分の近くに一人の男子生徒がいる。顔立ちは整っている方だろう、その顔を見て燕は確か、学年で一番イケメンと称されるバスケ部所属の男の子だと辺りをつける。
「えっと、松永さん。今から少しだけ、いいかな?」
その言葉にクラスの女子たちは高い悲鳴を上げる。本音を言えば、早く帰りたいがこの状況では無理だろうと、燕は構わないよと告げる。
「よかった。じゃあ、ついてきてくれる?」
男子生徒についていく形で燕はカバンをもって教室を後にする。次に友達に会うのがめんどくさくなりそうと燕は小さく指で頬を掻いた。
連れられた場所は、体育館の裏側。そこで二人は向かい合う形になっている。
「えっと、それで私に何か用かな?」
こんな場所で男子から女子に告げる要件など限られているが、話を早く進めたい燕は定例文ともいえる一言を告げる。
問われた男の子は、緊張をほぐす様に一度息を吐き。まっすぐに燕を見据えながら告げる。
「松永さん。初めて見た時から、可愛いと思ってて………好きです!!僕と付き合ってください!!」
そう言って彼は燕に手を差し出す。差し出された手を見ながら、燕はやっぱりかと思いながら、決まっていた答えを口に出す。
「気持ちはうれしいけど、ごめんなさい。あなたとは付き合えない」
「えっ!!?」
燕の言葉に男子生徒はとても驚いた声を上げる。まるでそうならないと思い込んでいたようだ。きっと美男美女のカップルとしての体面があり、断られることはないと考えていたのだろう。その考えを燕自身は否定しない、彼氏や彼女を自分を上げるアクセサリーと考えるのはある意味で中学生らしいし、人気者になってみたいという男の子っぽいものもある。それにきっと彼の言葉に嘘はないだろう。たぶんだが、自分のことも大切にしてくれるような気もする。
でも…自分はもう知ってしまったから…
「り理由を聞いてもダメかな?」
「ごめんね。それは言えないの」
「どうして、僕だったらきっと
その言葉に燕の雰囲気が変わる。自分を幸せに?あなたが自分の何を知っているのだ?どうして、互いに深くも知れないのに、もう知ったつもりでいるのか?体面だけでを見て、その内面を見ない言葉。わかっている。彼に悪気はない。それでも今の自分の家庭状況を考えれば、それは無視できな言葉だった。
「君じゃ、私を幸せにはできないよ。だから、ごめんね」
だから素早くその場を離れるため、燕は矢継ぎ早に告げ、その場を離れようと背を向ける。
「ま、待って!!」
去ろうとする燕の肩を男の子がつかもうとした刹那、男の子の視界は空に向いていた。何が起きたか彼には全く分からなかった。それでも自分を見下ろす燕は、まっすぐ澄んだ声で告げる。
「そうやって、
告げる言葉の中で燕の脳裏には一人の少年の姿がある。そしてその言葉は何よりも少年の心を打った。
きっと、少年はその時初めて恋に落ちるという意味を知ったのだろう。それほどまでに、燕の言葉と顔は少年にとって美しく可愛らしかった。
その後少年は、必死にバスケに打ち込み、本当の意味で燕に振り向かれるようになりたいと心に誓った。
そして燕は、改めてその想いに真摯に答えを返し、その恋は終わりを告げたが、その時の少年の顔は晴れやかだった。
体育館の裏から出て帰路に着く中、燕は真っすぐに家に帰らず、ある場所に向かって歩いていた。
そこは学校の近くにある裏山。そこの一角に向かって燕は歩いている。
―――――いるかな?
そこへ向かう中で、そんな不安がよぎる。悠介はほとんど学校が終われば、そこへ向かい修業しているのを知っている。
だが…
――――何かの用事があっていなかったら、どうしよう
浮かび上がるIFを思い浮かべ、どうしようもない不安が募る。そんな感情にどこか、冷静な部分が自分はこんな感じだったかと、首をかしげている。
その感情を理解してから、自分の見る景色も感じる感度も全く変わった。
そして何より変わったのは…
――――真っすぐ進む難しさを凄さを学んだんだよね
歩いていくうちに、少し見晴らしの良い場所が現れる。夕日が照らす中で、少年はひたすらに拳をふるっていた。
その姿を見て、燕は少し離れた場所に座ってみる。
「………カッコイイな」
全身を泥まみれ汗まみれになりながら、それでも真っすぐ食らいつくように前を見続けるその瞳、全てが燕の心を射抜く。
こぼれた言葉は、ほぼ無意識にこぼれていた。
気が付けば、どれだけ時間がたったか燕自身気が付いていなかった。空は夕日と夜の空の間を彩っている。
切り上げるのだろうか、悠介は軽く汗を拭き、惡と刻まれた羽織だけを羽織って帰ろうとしている。その姿を見て、燕は慌てて追いかけるように後を追う。
「ま待ってよ、悠介君!!」
「あ?なんだ、燕来てたのかよ」
声をかけられ、漸く悠介は燕の存在を認識する。
「なんでここにきてんだよ?」
「へ?いや………えっと、」
「まあ何でもいいけどよ。俺は帰るけど、お前はどうすんだ?」
「わ私も帰るよ!!」
「うんじゃあ、一緒に帰るか」
「うん!!」
そんな簡単な言葉だけにすら、嬉しさがこみ上げるのだから、自分は相当だなとどこかでそう思う。そんな中ふと、燕は悠介の服装に視線が向く。
上半身裸に羽織を羽織っているだけの状態。自然、視線が悠介の肉体に向く。
「ッ!!?」
「?」
無意識に視線がそこへ向かっている事に気がつき、燕は顔を赤くする。その反応に悠介は、疑問に感じるが、無視する。
その後二人は、言葉もなく二人は帰路に着く。その中で燕は、必死にタイミングを計るが、どうしても勇気を出して踏み込めない。
――――いらないって言われたらどうしよう
どうしようもない程に、負のスパイラルに陥る。気が付けば、二人の距離が大きく開かれる。だからだろうか、それとも意識せずかは分からないが、悠介は自然と口に出した。
「なんか俺に用があんだろ?さっさと言え」
「へ?」
立ち止まり告げる言葉に燕は一瞬呆けるが、次には目線をそらそうとするが
「こっち見ろ」
「ひゃッ!!」
左右の頬を悠介の両手が固定し、目線をそらせない。
「……………………」
「……………………」
しばし無言の空気。それを破ったのは意外にも悠介。
「やって悔しがれ。やらないで後悔するよりやって後悔しろ」
それは
「これ……」
「チョコか?」
言おうよ。たった四言葉。それが言えない。あとが続かない。何も言えない。今の自分が振り絞って言えるのは、ここが限界なのかと悲しくなる。だが…
「そっか、ありがとな」
「あっ」
自分の手の中からなくなる重さと頭にかかる心地の良いと思える暖かさとほんの少しの重さ。軽く二回髪を撫で、悠介は頭から手を放す。
「そういえば、ミサゴさんに伝えといてくれ。俺の卒業式の一か月後から、行くらしい。だから中学入る前から世話になる」
「……そっか」
悠介の言葉に燕は悲しそうな顔をする。その感情を感じた悠介は、頭を掻き、深くため息を吐く。
「前を向けよ。まだ、希望はあるんだろ?…………手は貸してやるからよ」
「…うん、そうだよね。前向かなきゃね」
――――だってその強さを教わったんだから
悠介の言葉に一瞬驚いた燕だが、次には前を向くように強い瞳をする。
――――強くなろう。また、みんなで笑うためにも。
そんな思いを燕は一人胸の内で、ほかでもない悠介と自分に誓う。
そこから燕は、一歩づつ確実に歩を進め、悠介の近くへと歩んでいく事となる。
如何でしたでしょうか?
ほかの作者様の様に、甘いものにはできませんでしたが・・・・・・大丈夫だったかな?
そして報告です!!
今後、バレンタインデーなどのイベントの日などに悠介とこのキャラとの話が読んでみたいというものがありましたら、活動報告の方に書き込んでください
どれを採用するかはわかりませんが、できるだけ書いていこうと思います
よかったら、感想をお願いします