真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
決して己の道を違わないその生き様は、気高い狼を連想させた。
クリスの突きとあの男の突き
不思議と決闘のさなか、あの男の姿が浮かび上がった。
自分が憧れた男が唯一負けを越した男の技。
瞳を閉じれば思い起こすその姿とクリスの姿が、俺の瞳の中で一致した。
二つの姿を重ねたからこそ、より分かった。
二人は全く違うと言う事が・・・・
なれば、俺は何であの男とクリスを重ねた?
戦っていくの中で、何度も相楽悠介の拳の圧を受けた。その中で感じたモノは、驚くべき程純粋な想いだった。
何の混じり気もなく、自分を倒す事しか考えずにいるその姿。一度も
だから、尚更判らない。それ程の意思を持っているのになぜ『惡』を背負っている?
それに、自分が感じたモノは決して惡と言えるモノではなかった。
その矛盾の答えを自分では見つけられない。
しかし、このままでは自分がお前を理解できずに終わってしまう。
だから教えてくれ、相楽悠介ッ!!
◆◇◆◇◆◇◆
「う……此処は?」
ぼんやりと意識が覚醒していくクリスの声に悠介が答える。
「保健室だよ。
目覚めたみてぇだな」
「ああ」
椅子に座りながら窓を見ている悠介の声に戸惑いながらもクリスは答える。
「みんなは?」
クリスは何時も行動を共にする仲間の姿が見えない事に疑問を持つ。本来なら、負けた仲間の傍にいるはずの面々がいない。
「俺が風間に頼んだんだよ。話がしてえから、二人にしてくれってな」
クリスの疑問に悠介が答える。全てはこの発端に決着をつける為に。その場に第三者はいらないと悠介は判断した。
クリスの方に身体を向き直し、悠介はク改めて改めて見据える。
「そうか」
「思ったほど驚かねえんだな」
「自分もお前とは話をしたいと思っていた。自分からすれば、渡りに船だ」
「そうかい」
クリスの言葉に悠介は笑みを浮かべながら答える。その表情は、さっきの決闘で見せた表情とは比べ程にならない程穏やかだ。
「どうした?俺の顔に何か付いてっか?」
「いや、そうではない」
沈黙が場を支配する。元来口下手を自覚する悠介にとっては、こんな状況でどう話を切り出す事が出来ないのである。
「悠介は…」
気まずい沈黙を破ったのはクリスだった。小さく呟く様な声から、徐々にハッキリとした意思を感じる声に変わる。
「なぜ、悪一文字と言うモノを背負うと決めたんだ?」
決闘をする前ならば、決して抱くことの無かった疑問。悠介と戦う事で正面から向き合う事で生まれた疑問。
クリスの疑問に悠介は、頭上で作った拳を見据えながら答える。
「憧れだ」
小さいながらも、短くハッキリと告げる。その声音には、躊躇いや迷いなど欠片も感じられない。
「憧れ?では、その言葉の意味は何だ?自分が思う様な惡ではないのであろう」
「あ~そうだな。口ではうまく説明出来るか微妙だけどな」
クリスのある種、確信にも似た言葉に悠介は戸惑いながらも説明を始める。
「例えば、ある地域のある場所で盗みを犯した少年がお前の横を横切ったら、お前はどうする?」
「無論、捉えるに決まっている。人の物を盗むのは許しがたき悪だ」
それは変わることの無いクリスが信じる正義のカタチ。人を困らせる行為や傷つける行為は、悪である。
しかし、その価値観が悠介のセリフでその考えに罅が奔る。
「じゃあよう、その少年が『見逃してください。飢えて死にかけてる弟に食べ物を渡したいんです』って言って来たら、お前はどうする?」
「え?」
「だから、自分の為でなく。誰かの為にお前の言う惡を行った少年をどうするかって聞いてんだ」
「それは…」
悠介の言葉にクリスは、何も答える事が出来ない。誰かの為に行う行動の美しさをクリスは知っているから。
「自分が……自分が救って見せる!!」
絞り出されたクリスの答え。しかし、それは間違いである。
「方法はどうすんだ?救うって言っても、選択次第ではお前の正義を砕く事になるぜ。後、同情から来る行動は論外な。そんなモン誇りでも正義でもねえ」
「!!。それは……そうだッ!!。父様に頼んで…」
「俺は、お前の正義に誇りに聞いてるんだぜ?
お前の
「それは…」
悠介の言葉に何も言えなくなるクリス。クリス自身がどちらを選べばいいかわからないのだ。
社会が生んだ正義か少年が生んだ人間としての美徳の正義。
どちらもクリスが信じる正義であり『義』なのだから。
「悠介は……お前はどうするんだ?」
クリスの疑問に対して悠介は
「ガキの味方をする」
間髪入れずに断言する。
「方法はどうするのだ?」
「まあ、ガキが逃げるのを手伝うって所か?」
「なッ!それではお前は…」
「ああ、社会の正義よりもガキの生んだ正義を尊重する」
「たとえその行動のせいで、惡と言われてもか?」
「
そんなモノよりも大切なモノがあるんだよ、俺にはな」
悠介の言葉を聞いたクリスは黙ってしまう。自分と悠介との差をハッキリと示された様だから。何処か、自分が情けなく思えてならない。
「たぶん、世界にはこの例以外にもたくさんあるんだろうぜ。
人としては間違ってるかもしれえが、きっと抱いた想いは間違いじゃねえってのはよ」
悠介自身自分でも上手く言えているとは思っていない。だが、それでもクリスには伝わると確信していた。
「なら、お前が背負う『惡』の文字の意味は何だと言うのだ!!」
クリスの言葉に悠介は、羽織っていた羽織をクリスの方に投げながら高らかに宣言する。
「何事にも染まらず、何事にも揺るがない、己の
その言葉の声音と悠介の表情は、とても誇らしいとクリスは感じた。
だからだろうか、今まで自分が掲げていた『義』と言う正義がひどくみすぼらしく思えたのは。そん中悠介は、無意識に羽織を強く握るクリスの額に指を近づけると…
「痛っ!」
ダン!とデコピンを放つ。いきなりの衝撃に悶えるクリスに悠介は指を突き刺しながら告げる。
「お前、今自分の誇りがみすぼらしいとか思ったろ?」
お前の考えなど読めてんだよ!と言わんばかりの言葉が悠介の口から発せられる。
的を射た言葉にクリスが悠介から視線を逸らそうとしようとした瞬間。
「いいか。お前の掲げる『義』の正義は、まだ
赤くなったクリスの額にタン!と指を押し付けながら、悠介は己が感じた事を伝える。
「なッ!それはどう言う事だ!!」
「たぶんだけどよ、お前の掲げてるモンは誰かと一緒のモンだろ?」
クリスの疑問に悠介がゆっくりと答えていく。
「憧れから始まって、何時しか自分も同じモノを掲げたいと思い、掲げた。違うか?」
「違わない」
「だとしたら、尚更だ。本当の意味でお前が掲げたのならば、きっと迷いは起きねえ筈だ。迷いが起きた時点で、お前はまだその意味を理解できていねえ」
悠介の一言一言に何の反論できずにいたクリスが、小さく呟いた。
「ならばどうすればいいだ」
クリスの言葉に悠介は、クリスの瞳を真っ直ぐに見ながら断言する。
「掲げ続けて見つけるしかねえだろ。間違って間違ってそれでも掲げ続けた先に、きっとお前が信じれるモノになってるだろ。たとえ、憧れたそれとは違っていても根っこは同じはずだ。お前のオヤジみてえにな」
「父様と?」
「ああ、そうだ」
突然の名前に驚くクリスだが、悠介は構わすに話し続ける。
「モモのメールに乗ってんだがお前のオヤジは、お前の為に第三次世界大戦を引き起こす覚悟があるとか言ってたよな」
「そうだが、それはあくまでもたとえ話だ。それほどまでに自分を愛してくれると言うな」
「いや、たぶん。本気だったと思うぜ」
モモのメールを見た時は、何の冗談だと思った。でも、メールを読んでいくうちに悟った。
ああ、こいつは本物だと。本当にたった一人の少女の為に引き起こす覚悟がある。
娘の為に、部下の人生を死地に投げ入れるだけの決意がある。
だからこそ、彼は大将であれるのだ。
「誇りを通すためには、背負う覚悟がいるんだよ。そしてお前のオヤジは、その覚悟がある」
「何の覚悟だ?」
「間違いも過ちも全てだよ」
「??。何を言っているか、よくわからない。もう少し分かりやすく説明してくれ」
悠介の言葉を理解できないと答えたクリスに悠介は笑みを浮かべる。
「お前にも分る時が来るさ。お前が『義』を掲げ続けるなら尚更な」
悠介は、優しい声音でそう答えた。答えは自分で見つけてこそ、意味がある。
その声音には、確かにそう言う意味が込められていた。
「悠介はもう知っているのだな。やはり、その文字を
クリスのその発言を聞いた悠介は、一瞬呆けたかと思ったら大きく笑い出す。
「なっ!どうして笑うんだ!!」
クリスは急に笑い出した悠介に、自分がバカにされている様に感じ顔を真っ赤にしながら問いかける。
「いやいや、わりぃ。でもお前も勘違いしてんぞ」
「勘違い?」
「ああ。俺もまだ、『悪一文字』をちゃんと背負ってねえよ。俺みたいな未熟者に背負える様な生半可な文字じゃねえのさ」
「あれほどでもか?」
クリス自身悠介の言葉が信じられない。あれだけの事を理解していたのだ、背負えて当然と考えていた。クリスの驚愕を理解しながらも、悠介は話続ける。
「俺の場合は、いろんな奴らの力とかを借りて漸く背負えてるってとこだ。決して自分だけでは背負ってはいねえよ。そう言う意味ではクリス、お前と同じかもな」
だけど と言葉を紡いだ悠介は己の目標をクリスに告げる。
「何時かは、自分で背負う。それが俺の目標だ」
そうして、クリスを見据えた悠介は
「だから競争だ。クリス」
勝負を持ちかけた。
「競争だと?」
「おうよ!!。俺が背負うが先か、お前が自分の正義を見つけるが先かの勝負だ。
どうだ、燃えて来ねえか?」
そう言いながら悠介は、拳をクリスの目の前に突き出す。
数秒止まってたクリスだが、フッ!と笑みを浮かべた後み…
「いいだろう。言っておくが、今度こそ自分が勝つからな」
コツン!と自らの拳を悠介の拳にぶつけた。
「いいね。そうこなくちゃあよ」
クリスの言葉に悠介は笑みを浮かべながら答える。
互いに食い違いぶつかりながら、その中で紡がれていく友情。
この現象に名をつけるのらば、人はこう言うだろう『青春』と。
いかがでしたでしょうか?
上手くまとめれたでしょうか?
後、 『悪一文字』を現せたでしょうか?
とても奥が深い言葉な分、凄く自身が無いです
その為違和感とかあったらお伝えください。
感想もお待ちしてます
活動報告に予想以上にコメントが・・・・これって期待されてるんですかね?