真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
読みたいものがあったら、気楽に書き込んでください。
久しぶりに書いたので、おかしな点があるかもしれません
その為、違和感などがあったらご報告をお願いします
放課後、川神学園グラウンド。多くの生徒たちが、その決闘が始まるのを今は今かと待ちわびている。その中には、ヒュームをはじめとした多くの大人たちの影も含まれている。
「来た様じゃな」
生徒たちが囲いよ様になって生まれた空間に佇む鉄心は、生徒たちが道を開けた場所より歩き来る二人に武士に視線を向けて呟く。
「待たせたか?」
二人を代表して悠介が鉄心に問う。
「問題はないわい。まあ、ギャラリーの方は待ちわびてはいるがの」
悠介の問いに鉄心は、さして問題ないと告げる。鉄心の言葉に悠介はそれは良かったと告げながら、何処か困惑したように当たりを見渡す。
「すげえ熱気だな。
「今、最も話題の転校生の決闘じゃ。
うちの学生なら、見たくなるも当然じゃな」
「俺が?」
「お主がじゃ。モモと戦い生き残り、そのあとすぐに一子との決闘。
そして、話題が冷めぬうちにこの決闘じゃからな」
「あ~なるほどな」
悠介の言葉に何処か呆れながら告げた鉄心の言葉に悠介は、ここまで目立つ気は無かったんだがなと呟きながら頭を掻く。場の熱気に納得した悠介は、今まで無言を貫くクリスに視線を向ける。
「始めるか」
「ああ」
悠介の言葉にクリスは頷き、静かに東側に立つ。その鋭い目線は悠介に向いたまま、自身の武器であるレイピアを平行に構える。
クリスの構えを確認した悠介もまた西側に立ち、己の武器である拳を握る。
ゆったりと、しかし確実に緊張が場を包み込んでいく。
それに連動するように、さっきまでガヤガヤとしていたギャラリーたちも無言になっていく。
完全に場が静まったその瞬間、鉄心が開戦の合図を告げる。
「それでは、始めッ!!」
「はあッ!!」
合図とほぼ同時、クリスは悠介に向かって駆け出し、全力の突きを放つ。体力に気力共に充実した状態での攻撃。恐らくクリスは、この初撃で決めるつもりで放たれた一撃。
クリスの全力の攻撃を前に、悠介の取った行動は、周りを唖然とさせる。
「ぐぅ」
「なっ!!」
迫る鋭い一刺を前に悠介の選択は、回避でも迎撃でも無く、無防備な状態での受けだった。速度を乗せた一刺を悠介は無防備に受けたのだ。
如何に悠介がタフとは言え、事前に備えるのと備えないのでは、受けるダメージは天と地ほどの差が生まれるにも拘らず、悠介は無防備状態での受けを選択した。
踏ん張る事もせず、悠介は吹っ飛び地面に大の字で横たわる。
「どう言うつもりだ!!お前は私を侮辱しているかッ!!」
クリスの怒りも当然である。この決闘は二人にとって、誇りを掛けたに等しいモノだ。そんな中での今の行為は、侮辱と取られても仕方がない。
しかし当人である悠介は、クリスの怒りを真っ正面から否定する。
「ちげえよ。俺はお前を嘗めてねえよ。
むしろ、認めてるからこそ受けたんだよ。
クリスの渾身の突きは甘くは無い。されど、悠介は何事も無かったかの様に立ち上がる。その目はまっすぐとクリスに向けられいる。
「何だと?」
「別にハンデとか言うつもりもねえぞ。ただ俺なりの
「ケジメだと?」
「ああ、お前の一撃を貰わねえと俺はお前と同じ土俵で決闘が出来ねえと思った。
だから、最初の一発は貰うと決めた。ただそんだけだ」
淡々と告げる悠介の言葉はクリスに大きな衝撃を与える。悠介が言っている言葉は、恐らく昼休みの自身の行動から来ているのであろう。
鉄心によって防がれたあの行動は、悠介の中で確かな
その問いに対して悠介は自信を持って出来ない!と答える。ならば、どうすればいいかと考えた結果がそれなのだ。
悠介の言葉を聞き、誰もが唖然とする中、ヒュームやルーと言った事情を完全に理解しているメンバーはらしいと笑い、「面白いと鼻で笑う。
様々な感情が渦巻く中、悠介の達の決闘が本当の意味で始まる。
「ああ、これで漸く対等だ」
「ッ!!」
不気味なほど静かに悠介は構えを取る。今の一撃を苦に思っていない様に淡々と構えた。まるで、不出来な自分にチャンスをくれてありがとう。そう言っている様に見える。その事がクリスを驚かせた。
「さあ、俺の我儘は此処で終了だ。こっからだ」
悠介はバン!と拳を手の平に打ち付ける。そしてその音が本当の決闘の始まりの合図となった。
◆◇◆◇◆◇◆
手の平に拳を打ち付けたと同時に悠介は地面を蹴る。
「いくぜ」
自らの意思を小さく口に出した悠介は、己の拳を振り切った。その一撃はクリスと同じく一撃で決めに来ている。
しかし、クリスは慌てずに右に回避し、隙だらけの悠介の脇腹に向かって突きを放つ。
「はあッ!」
カウンターで放たれた突きを前に、拳を振り抜いた為に体勢が崩れた悠介には受けるしか手が無いはずだった。
「なめんなぁ!!」
「なにッ!」
自身の加速した速度も拳に乗せた事で、若干前のめりになっていた悠介は、残った方の腕を裏拳としてレイピアに向かって放つ。結果、レイピアと裏拳がぶつかり合い
お互いの身体を上に反らさせる。
「くそ」
「へっ」
即座に体勢を立て直した二人が次に取った行動は正に対極だった。
「まだだぁ!!」
「くう」
追撃を与えんと更に前へと踏み込む悠介。対して、クリスは間合いを取るために後ろへと下がる。
「逃がすかよ!!」
悠介は後ろに下がるクリスを追うように更に深く踏み込む。しかしクリスは、最初の一歩で出来た、僅かな時間を使い大きく前に跳躍する。クリスが跳躍した為、悠介の拳は空振りとなる。
――――逃げた訳じゃねえな。そんな顔じゃねえ
自分の後方に降り立ったクリスの表情を見た悠介は、彼女の取った行動が決して逃げの為でないと確信する。
クリスの表情は決して諦めてなどいない。むしろ、冷静にしかし貪欲に勝利を欲している表情だ。悠介にとって、クリスの様な表情をする相手と戦ったのは、未だに数えるほどしかない。
百代を筆頭に燕・石田達十勇士など、本当に限られた相手だけだ。
故に、悠介の戦意もこの決闘からナニカを得る為に徐々に上がっていく。
――――やはり、生半可の攻撃では無意味だな
自身の考えが正しかったことを確認したクリスは一度小さく深呼吸をして、思考をより鮮明にしていく。元々そうでないかとは思っていたが、先程の攻防で確信に至る。
――――モモ先輩の攻撃に耐えたのだ。自分の攻撃では、大きなダメージは望めない。しかし、勝つのは私だ!!
再びフゥ!と息を吐き終えたクリスは、グッ!と足に力を込める。クリスが力を込めたと同時に、その力が解放されるよりも早く、ダッ!と悠介はクリスに向かって駆け出す。
「シィッ!」
小さい吐息と共に放たれた鋭く右拳がクリスに向かって放たれる。
「此処だッ!!」
迫りくる暴拳を前にクリスは、迫りくる脅威に引ない。腰を落とし悠介の拳を下に躱し、そのまま一歩踏み込み、レイピアを悠介に突き刺す。
「ッ!!」
カウンターに近い形での反撃。その一撃に悠介の顔が苦痛に歪む。しかし、その程度では悠介は止まらない。
「オラアッ!」
突き出した右腕のひじを下に向かって放つ。悠介の攻撃と同時に、クリスは一歩下がり攻撃を回避する。
悠介の攻撃を回避したクリスは、その状態のまま肩と上半身の動きから刺突を放った。
「はッ!!」
「効くかよッ!!」
しかし、悠介はそれすらも意に介さず、クリスを蹴り飛ばす。
ドガッ!と悠介の蹴りを受けたクリスは「くっ」と苦悶の声をこぼしながら、踏ん張り切れずに吹き飛ばされる。
――――ちげえ。俺に蹴られる瞬間に後方に跳んだか
しかし、自身の足から伝わる感触が、今の状況の違和感を教えてくれる。クリスは、決して飛ばされたのではない。自らの意思で後方に飛ぶ事でダメージを軽減して見せたと。
「やるじゃねえか」
自身の数メートル先に降り立ったクリスを見据えながら、悠介は素直な感想を口にする。戦って見てクリスの実力はおおよそ、一子と同じぐらいだと悠介は感じていた。
だが、
それは、戦いに掛ける想いの差。誇りを掛け決して負ける事の出来ない戦い。
決して譲ることの出来ない決闘の最中クリスは、己が才を開き始めている。恐らくは、この決闘のだけの一時的なモノであろうが、それだけでクリスの持っている才能の高さを感じさせられる。
「ふうー」
一通り思考した後、悠介は小さく息を吐く。一度自身の拳に目線を落としたのち、瞳を閉じる。余分な思考をそぎ落とし、シンプルにしていく。
対するクリスも、悠介からの追撃が無いと悟るとゆっくりと息を吐き呼吸を整えている。
クリスも悠介の拳の圧力をほぼ正面から受けていたのだ。その精神的疲労は並ではない。精神的疲労は肉体にも大きく影響を及ぼす。
――――これ以上長引くと不利だな
クリスは冷静に自分の身体のコンディションを確認する。確認するまでもなく、限界に近い。ならばどうするべきかは、考えるまでもない。
――――次で決める
その為に必要な事は一つ。敗北を想像するな。イメージするは、己の勝利のみ。
ただ、勝利を信じて…
――――放つッ!
これは出来るかできないかの問題ではないのだ。誇りを掛けた時点で、勝利以外は在りえないのだから。
クリスは、悠介が自身のレイピアと重なる様に構えた。
空気がクリスを中心に変わりだす。誰もが理解した、次で決着が着くと。
しかし、その空気の中でも悠介は未だに瞳を閉じている。
悠介の行動に疑問を持つクリス。だが、その疑問を差し置いて彼女の集中は高まっていく。
時間にして、およそ十五秒弱。
「はあぁぁぁあああああッ!!」
自身の咆哮と共にクリスが、全身精霊の刺突を繰り出す。ドンッ!と土煙を舞い上がらせながら、悠介に向かっていく。
――――取った!!
未だに行動しない悠介を見たクリスは確信する。自身が持てる最高と言える一突きを見もせずに止められるはずが無いと言う自信。
されど、クリスの突きが悠介に当たる直前、悠介が確かに呟いた。
「わりぃな」
自身に迫るレイピアの刃を左右から拳をぶつけ、白羽どりの様に受けた止めせる。
ギィン!と甲高い音が鳴りながらも悠介の
「なッ!?」
目の前で起きた想定外の事態に、クリスは驚愕に顔を染める。
「俺は、お前よりもスゲェ
驚きで動きが取れないクリスに向けて、悠介は確信を持って告げた。
瞬間、ドゴォ!とクリスの身体に途轍もない衝撃が伝わり、その威力にクリスは意識を持っていかれ静かに意識を手放した。
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