真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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題でわかる通り、今回はあの二人メインの話です

楽しんでくれたら嬉しいです

後半もしかしたら、シリアスになってるかもしれません


惡と義 その1

悠介と燕。二人の西の転校生が学校に現れた翌日、悠介は学校に登校するために変態橋を歩いていた。

 

「ねみぃ」

 

しかし悠介の表情は、明らかに機嫌が悪そうだ。何時もの悪人面に拍車がかかっており、近くを歩いていた川神学園の生徒が無意識にビビりながら悠介から距離を取っている。

 

「やっぱ、昨日はやりすぎたな。でも、結構いい感じで掴めそうな気もしたんだよな」

 

実は昨日夕食を終えてから悠介は川神山で修行をしていた。余りに調子が良かった為に、結局帰りが遅いと心配して見に来た燕が来るまで、ひたすら拳を振り抜いていたのだ。

その為寝不足になってしまい眉間に皺が寄った結果、普段よりも悪人面に成ってしまっている。

そしてもう一人の転校生である燕がこの場に居ないのはと言うと…

 

「それにしても久信さん大丈夫か?流石の燕も加減はしてくれるとは思うけど」

 

朝に見せた燕の凄く良い笑顔を思い出し、望み薄だなと思い悠介の口から自然とため息がこぼれてしまう。

昨日久信は、九鬼の技術部と飲み会に行っていた。彼が家に帰ってきた時には、すでにベロベロの状態で呂律もまわっていない状態だった。

それまでなら別に問題はない。しかし問題は、その時燕は風呂上がりで洗面台で身体を拭いていたと言う事と、久信が酔いから目を覚ますために洗面台に向かったと言う事だ。

悠介の言葉は間に合わず、洗面台の扉を開けてしまった久信は燕の正拳突きを顔面に喰らいそのまま失神。勿論その後悠介もこれでもかと言うほど燕のお説教を受けた。

今回は、久信を止めれなかった自分が悪いと思い悠介は謝罪し黙って説教を受ける事を選択した。

最終的には悠介は後日、二人で買い物をすると言う事で燕からの許しを得た。

因みに睡魔により思考が鈍っていた悠介には、買い物を了承させる事が燕の目的であると見抜けなかった。

本来ならばそれで終了の筈だった。

 

「あの人は、本当にタイミングが悪すぎんだよなぁ」

 

問題は、悠介は睡魔故に燕は嬉しさから失神していた久信をそのままにしてしまった事だ。

朝、悠介を起こしたのは携帯のアラームでなく、久信の悲鳴だった。

悲鳴の在った場所に向かってみると、昨日の夜と同じく、洗面台扉から燕の拳が見え、地面には倒れ込む久信の姿。

ドスの据わった声の燕に理由を聞いた所、朝シャワーを浴び終えた燕の元に倒れていた久信が目を覚まし洗面台に入って来てしまい鉢合わせしまったのだと。

それを聞いた時悠介は頭を抱えてしまう。

何時もの燕ならその危険性に気が付けただろう。しかし案外燕も朝に弱く、若干思考が鈍ってしまう。恐らく目を覚ました久信は、自分の顔に激痛を感じ洗面台の鏡で確認しようとしたのだろう。

その時の久信は痛みと寝起き、そして二日酔いのせいで、自分の愛娘の習慣を忘れてしまっていたのだろう。

それ故に起きてしまった悲劇。

ほぼ連続で行われた父としては最悪な行為。年頃の娘の生まれたままの姿を見ると言う大罪を犯した久信は、燕によって強制的に起こされて説教と言う名の拷問を受ける羽目になったのだ。

その時の燕の表情は素晴らしいほどに笑顔だった。

しかし悠介は知っている。笑顔とは本来攻撃の為の物であり、その瞳が氷点下を越えるほどに凍えていた事に。

 

「…骨ぐらいは、拾ってやらねえとな。

後、ミサゴさんになんて報告するか……こんな事報告した暁には、あの二人を繋いでるただでさえ細い糸が千切れるよな」

 

久信の生存を諦めた悠介は、遠方にいる彼の妻の事を考えていた。今回の件をミサゴが知れば、燕を連れて今度こそ久信と完全に縁を切るだろう。

そうさせない為にも今回の事は、黙っていよう。そう心に決めた悠介を呼びかける声が届く。

 

「悠介君。おはようございます」

 

「うん?」

 

元気よい挨拶が耳に悠介は悠介は声のした方に視線を向ける。

 

「確か……F組(うち)の委員長だよな?」

 

「はい。皆のお姉さんである甘粕真与です」

 

振り返れば、悠介よりも一回り以上小さなクラスメイトがいた。

 

「凄く眠そうですけど、昨日はちゃんと眠れましたか?」

 

「あ~。余り寝てねぇな」

 

「ダメですよ!!しっかり睡眠はとらないと」

 

「ああ、これからは気を付けるよ」

 

「本当ですか!!なら、お姉さんと約束なのです」

 

「おうよ」

 

本来なら悠介は、こう言ったタイプが苦手なのだが、自分をお姉さんと呼ぶ少女の健気さがあまりに真っ直ぐだった為、自然と会話する事が出来た。

真っ直ぐ自分の意思を貫く事の難しさを知っているからこそ、悠介は自然と彼女に対する尊敬の念が湧き上がる。

そして、無意識のうちに彼女の頭手を置き、彼女を撫でてしまう。

 

「なっ!何をすんですか!!」

 

「おっ、わりぃわりぃ。いやー、頑張ってからな。何か無性に褒めたくなったんだわ」

 

そう言って悠介は再び頭を撫でる。真与も子ども扱いされながら、その撫でる手の優しさと心地よさに手を払えずにいる。

そんな二人の姿は妹えお褒める兄と照れる妹という兄妹の様だ。

 

「ッ!!?」

 

「どうしたんですか?」

 

真与の頭を撫でていた悠介が、突然後方を振り向く。急な悠介の行動に真与が疑問を持つ。悠介は真与の問いを一度無視して辺りを見渡す。しかし、そこに怪しい人物はいない。

 

「何でもねえよ。それよりも早く学校に行こうぜ」

 

「そうですね。早く行きましょう」

 

辺りに異変や危険が無いと判断した悠介は真与に気のせいだと答える。悠介の言葉を聞いた真与も心配した顔から安心した顔に変わり歩き始める。そう言って自分の前を真与が歩いた事を確認した悠介は…

 

――――突然感じたあの殺気は何だったんだ?スゲェ鋭かったが

 

先程自身に発せられた殺気の出所を探りながら学校に向かって歩き出す。

因みに、彼がその主と出会うのは、あまり遠くない話。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

授業の終わりと昼休みを告げる鐘の音が校舎に鳴り響く。昼休みに入った事を確認した悠介は、勉強道具を直し弁当箱を取り出す。食事を開始しようとした悠介に近づく人影が一つ。

 

「ちょっといいだろうか?」

 

悠介の耳に凛とした声が届く。声のする方に視線を向けると美しい金髪の少女が、自分を見下ろしながら立っている。

 

「クリスティアーネだっけか?俺に何か用か」

 

「ああ、そうだ。それと自分はクリスで構わない」

 

「そうかい。じゃあクリス。改めて聞くぜ、俺に何か用か?」

 

悠介自身、自分が割かしアウトロー側の人間だと自覚がある。その為、何気なく話す中で自分に負の感情が向けられるのには慣れている。

その為、何処か厳しく睨み付けるクリスを前にしても平静で居られるのはその為だ。

 

「単調直入に聞く。なぜそんな文字を背負っている?」

 

「あ”?」

 

普段通りの悠介と対照的にクリスは何処か怒った雰囲気を纏っている。その為、発せられた疑問にも当然のように棘がある。

クリスの問いを聞いたその瞬間、無意識に悠介から殺気が漏れ出す。

 

「文字って言うと、この『悪一文字』の事か?」

 

「ああ、その通りだ」

 

胸の奥底からわき上がる感情をどうにか押さえつけながら悠介は努めて冷静に真意を探る。

 

「背負いてぇから背負ってるじゃ駄目か?」

 

「当然だ!!なぜ、よりにもよってその文字なのだ!!」

 

悠介から告げられた理由を聞いたクリスが吠えながら、机を大きく叩く。バン!と大きな音がなり響き、自然にクラスの全員が二人に注目を集める。

 

「半日相楽の事を見ていた。そしてわかった事がある。

お前は、顔に見合わず真面目な生徒だ」

 

「それはどうも」

 

「だからこそ、自分はお前がそんな文字を背負っている事が理解できない」

 

初めて在った時クリスは、悠介をその文字にどうりの人間だと思った。しかし、モモ先輩と犬との戦いを見てその認識が間違いだと考えるようになった。その拳と瞳は、自分の知る限り、一番と言えるほどに真っ直ぐだった。

授業でも睡魔と戦いながらも一度も眠ることなく、真面目に受けていた。

だからその答えに辿り着くのに時間はかからなかった。

相楽悠介は、自分と同じく『義』を重んじる武人であると。

だからこそ、悠介がそんな(・・・)文字を背負っている事が、クリスには我慢ならない。だから自分が導くしかないだろうと決心する。

その間違いを気づかせてやるべきだと。

相手を執拗以上に殴り痛めつける事は、既に義ではなく悪であると。自分が伝えてやろう。そして、自分が相楽に正しい義の武士にして見せようと。

 

「別にお前に迷惑かけてるわけじゃねえからいいだろ?」

 

「そんな問題ではない。悪を肯定し背負っていると言う事が問題のだ。

それは既に正義ではない!!」

 

「そう言われてもな。

俺は悪一文字(これ)を誇りにしてんだぜ?」

 

「そんな(モノ)を誇りにするのは間違ってる(・・・・・)

 

「…何だと」

 

「相楽が背負うべきなのは正義の二文字だと、自分は思っている。

それなのになぜ惡と言う文字を背負うのだ」

 

クリスが言葉を述べるごとに、悠介から放たれる殺気が大きくなる。

だが、クリス自身は全く気が付いていない。

故にクリスは…

 

「そんなくだらない(・・・・・)文字を背負うべきではない!!」

 

くだらねぇ(・・・・・)だと」

 

悠介の逆鱗に触れしまう。しかし思いの丈を語るクリスにはそれが分からない。

 

「ああ、今からでも遅くはない。そんな文字捨ててしまえ(・・・・・・)

 

クリスがその言葉を発するまでが悠介の臨界点だった。

 

「え?」

 

瞬間、クリスの視界を怒りと破壊の(こぶし)が覆う。その芸術品の様な美しい顔を(ころ)す狂気が、彼女に迫る。突然の事で、クリスは反応も出来ない。

つまりそれは、この拳を受けるしか手が無い事を指す。

クリスが認識した直後、パアァン!と乾いた音が教室に鳴り響いた。




いかがでしたでしょうか?
上手くクリスの考えを描けていたでしょうか?

違和感があったりしたら教えて下さい。


果たしてクリスの運命は?

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