真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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お待たせしました。
学校が始まって、忙しくて更新できませんでしたが、漸く更新できました。
やっぱり、学校があると上手く更新が出来ません。

久しぶりなので、下手になっているかもしれませんが楽しんでくれたら嬉しいです!

因みに今回のメインは、悠介と燕の会話です。



悠介と燕 その3

ドサッと地面に倒れ込む一子を見下しながら悠介は告げる。

 

「これが、俺の(誇り)だ」

 

そう呟きながら拳を放つ悠介の姿を見た百代は、戦いたいと言う感情を抑えるのに必死だった。

第三者の目線になって、改めて自分のライバルを見てその気持ちが一層強くなった。

戦いたい。一分でも一秒でも良い、悠介(あいつ)と拳を交わらせてくれ。

無意識に闘気を発し始めた百代の耳に…

 

「凄まじいで候」

 

「ほんとだね。でも…何だが凛としてるね」

 

自分のクラスメイトであり弓道部部長である矢場弓子と清楚の声が届く。

どちらも悠介の戦いを見た感想を素直に述べている。幸か不幸か二人の言葉が百代の荒ぶっていた感情を鎮める。

 

「ふむ、見事な完全勝利と言ったところか」

 

「京極君」

 

「見に来ていたで候(うわあ、京極君だ。何時の間にいたんだろ。ビックリしたぁ)」

 

百代達の後方から現れたのは、扇子を片手に物静かな和服の美少年京極彦一。物静かだが何処から引き込まれる様な京極の言葉に誰もが黙り込む。

 

「荒々しく乱暴な少年だ」

 

京極の視線が悠介に向けられている。誰もが京極の言葉を否定できない。

面構えもそうだが、何より悠介が戦っている姿が正にそうだったのだから。

 

「しかし…」

 

パタン!と扇子を畳み静かに目を閉じる。彼が思い越したのは、最後に悠介が発したセリフ。

誰よりも言葉を知っているからこそ、自然とその言葉がこぼれ落ちる。

 

「彼の言葉からは、並々ならぬ覚悟を感じさせた。

『誇り』―――簡単に口に出せぬ言葉だが、彼にはその覚悟があるのか川神?」

 

「あいつは…悠介は何時だって真剣(マシ)だ。

だが、今のは全力(マジ)じゃない」

 

「?。どう言う事で候」

 

誰もが京極の言葉の答えに疑問を持つ。百代の言葉の意味を理解できない中、京極は一人。

 

「そうか。なれば、彼の行く末を観察させて貰おうか」

 

百代の言葉を理解したのか、満足げにその場から去る。

ピン!と張り詰めていた空気が消えた事と決闘が終わった事により、誰もが帰宅を開始した。

 

――――何だろう?この感じ

 

誰もが帰宅する中、清楚は胸の高鳴りを抑えきれずにいる。彼の姿が言葉が、自分の感情を炊き上げる。

 

――――前に小説で読んだみたいな恋って訳じゃないんだけど

 

それは断言できた。今自分が感じているのは、もっと根本的に違うナニカ。

むしろ、本能に込みあがってきている。

 

――――義経ちゃん達に相談してみよ

 

清楚は湧き上がる感情を押さえつけなが帰路につく。しかし、彼女の記憶と心には悠介の背が確かに刻みこまれた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

決闘も終わり多くの生徒達が部活動や帰宅する中、百代は悠介を探している。

 

「悠介の奴…何処に行ったんだ?折角、折角この私が一緒に帰ってやろうと思ったのに」

 

決闘が終わり一子を保健室に送り届けた悠介と一緒に帰ろうと思い、彼がいたであろう保健室に向かった百代だが、そこには悠介の姿はなくベットに眠る妹だけだった。

その場いたジジイの話だと、一子を寝かしつけた事を確認したのち、自分に言伝を伝えて直ぐに帰ったと言う。

すぐさま悠介を探す百代だが、一向に見つからない。

 

「何だよ…。折角また会えたんだぞ。まだ話足りない無いのに!!」

 

普段の科彼女らしくない弱弱しく呟いた百代の視界に見間違うはずの無い、『惡』の一文字を刻んだ背が映りこむ。

その姿を確認した百代が駆け出そうとした瞬間、一つの影が悠介と歩いているのが映りこむ。

 

「えっ!燕?」

 

見間違うはずがない。あの後ろ姿は、今日会ったばかりの新しい友の姿。二人の後ろ姿を見た百代の足が止まった。いや、止めさせられた。

今思えば燕は、悠介の事を君付けで呼んでいた。あの時は、興奮していて気が付かなかったが、それは二人が顔見知りである言う事だ。

何より、ふと見えた燕の嬉しそうな表情が、百代の心に言いようの無い恐怖を植え付けた。

暫らくの間、百代はその場から動けなった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

慌ただしく百代がいなくなった後、一子も目を覚まし無事に友人達と帰宅した。その後。夕焼けがグラウンドを染め上げる中、鉄心は保健室から動けずに居た。

 

「全く好き勝手に行きよってからに」

 

鉄心は、口では百代に対する悪態をついているが、その脳裏には少し前に悠介と交わした会話でしめられていた。

 

『随分と過保護に育ててんな』

 

『なんじゃ?いきなり』

 

『いや、教育の仕方の変化に驚いただけだ』

 

『何もかわっとらんよ。川神院(うち)は』

 

『そうか?俺には結構変わって見えたが』

 

『お主がそう感じただけじゃよ』

 

『まあ、川神がルーさんの弟子だって言うなら、俺はそいつの兄弟子だ。道標くらいは立ててやるが、そこからどうするかはそいつ次第だぜ?』

 

『悠介、お主。一子の…』

 

『あ!川神に言伝を頼んでいいか?』

 

『……いいじゃろ』

 

『助かるぜ。勝者からの言葉なんて、屈辱以外の何もでもないからな。俺の口からは言えねえし』

 

『一子はそんな事気にせんと思うがの』

 

『俺の考え方だっつの。―――――だ。頼んだぜ、ジジイ』

 

『あい、わかった』

 

そうやって出ていった可愛げのない自分の弟子。

昔からそうだった。あの弟子は、何処か子ども離れしており、時より自分たちを大人さえも黙らせる一言や核心を突く事を言うことがあった。

そして今回もまるで自分たちの悩みを悟った上でのあの言葉だ。

 

「わしには、未だに答えが出せん。

なれば悠介よ、お主が示してくれるか?新たな道を?」

 

自分は年を取り過ぎた。今から、固定概念を捨てて新しい可能性を見る事が出来ない。それが出来るのは、若き次の世代だ。

 

「見守しかないの。あやつが、ワシらの前に現れるその時まで」

 

そう呟いた鉄心は、何処か期待した様に何処か自分の迷いを隠すように呟いた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一子との決闘を終えた悠介は途中で合流した燕と共に帰路についている。

 

「今日はどうだった?」

 

「何がだよ?」

 

悠介と燕。共に家まで無言で歩いている最中、ふと燕が悠介に話しかける。主語の無い問いに悠介は燕の方を向きながら疑問を口にする。

 

「何って、川神学園の事だよ。悠介君は直ぐに敵を作るからね。

上手くやっていけそう?」

 

「お前は本当に俺の母親かよ。心配しなくても、俺は一人でもやっていける」

 

「ああ!!どうしてそんな事を言うのかな」

 

何処か心配するつばめ野と言うに悠介は余計なお世話だと切り捨ている。

そんな突き放すような悠介の言葉に燕が食って掛かる。悠介はうざそうに燕の小言を右に左に流す。

 

「でもまあ…」

 

「悠介君?」

 

「退屈はしなさそうだな」

 

「そっか。それなら大丈夫だね」

 

ふと、呟いた悠介の言葉と表情を見た、燕は自分の心配が無用だと悟る。悠介は何時だって敵を作る。しかし先程の表情を見せるときは決まって、少ないが確かな仲間を見つける時にする表情だ。

 

「それにしても凄かったよね、モモちゃん」

 

「まあ、そらそうだろ。伊達や酔狂で名乗れる武神()じゃねえだろ」

 

安心した燕の次なる話題は、自分達のターゲットである百代の話にシフトする。

 

「特に攻撃力が凄いよね。単純(・・)なパワーなら完全に悠介君よりも上だよ」

 

「だろうな。それは朝の時点でわかった事だ」

 

「え!悠介君。もうモモちゃんと戦ったの!!」

 

悠介の言葉に驚きの声を上げた燕だが…

 

「その下手な芝居を止めろ。はじめっから、ジジイと一緒で見てたくせによ」

 

「あら?ばれてた」

 

「当然だ」

 

悠介はその言葉を切り捨てる。見抜かれた事に燕はわざとらしく驚いた表情を見せるが、続く悠介の言葉に今度こそ観念したような顔を見せる。

 

「ばれてたなら仕方ないか。でも悠介君のお蔭で、予定よりも多くの情報が手に入ったよん」

 

「そらぁ良かったな」

 

「あれ?あれあれ。もしかして拗ねてる?」

 

「別に拗ねてねえよ」

 

分かっていた事とはいえ、自分が利用されたように感じてしまうのは、どうしても面白くない。そんな悠介の変化を感じ取った燕は、楽しそうに悠介で遊んでいる。

 

「でも助かったのは本当だよ。朝の手合せも悠介君との戦いを見てたから、結構優位に戦えたしね」

 

「それでも強かったろ?」

 

「そうなんだよね~。もう後半は、ほとんど全力だよ」

 

「ぬかせ。燕舞(えんぶ)を使わなかった癖に言うセリフかよ」

 

「あはは、そこを衝かれたら言い訳できないよ」

 

話の中で徐々に立場が逆転し始めた事を察した燕は、即座に話題を切り替える。

 

「それにしてもモモちゃんって反則だよね。

あんなにも強くて可愛いなんて、自信失くすなぁ」

 

何も考えず、ただ話を変えるために発した言葉。だからだろうか、百代と同じように燕も次のセリフを理解出来なかったのは。

 

「何言ってんだ?モモも確かに美少女だが、それはお前も別に負けてねえだろ?」

 

「え?」

 

「あん? 

おーい、燕」

 

燕は何気なく自然に放たれた悠介のセリフを聞いて固まってしまう。悠介が不審に思い、手を振ってみるが全く反応がない。

 

「マジでどうしたんだよ」

 

足を止め悠介は動かなくなった燕の顔を覗き込む。燕よりも背の高い悠介が、若干腰を屈め燕と目線を合わせたると、今まで何の反応の無かった燕の表情が、猛スピードで朱色に染まっていく。

 

「え」

 

「え?」

 

「ええええぇぇぇぇぇぇええええええ!!」

 

突然、燕の悲鳴が辺りに響く。その音量を近くで聞いた悠介は、耳を抑えながらその場にしゃがみ込む。

 

「きゅ、急にどうしたんだよ。お前らしくねえな」

 

ある程度、燕の悲鳴が落ち着いた頃を見計らい悠介が問いかける。落ち着きを取り戻した燕だが、若干顔が赤く染まっている。

 

「え~とごめんね。ちょっと驚いちゃって」

 

「驚くって何にだよ?」

 

「その…悠介君が!急に可愛いとか言うからだよ!!勿論冗談だよね」

 

先ほどのセリフを思い出したのか、再び顔を真っ赤に染めながらも燕は、悠介の鼻に人差し指をつける。身長差のせいで燕を見下げる悠介は一度頭を掻いた後、燕の頭に手をのせる。

 

「あ」

 

「あのなぁ。俺がそう言った冗談が苦手な事知ってるだろ。

さっきの言葉は、冗談でも何でもねえ俺の本心だ。そこに嘘はねえよ。

お前は、モモに並ぶほど綺麗で可愛いと思うぞ」

 

「だから、困るんだよん」

 

「何か言ったか?」

 

「別に何も言ってないよん」

 

ああ、本当にダメだ。昔から、こう言った男の子たちの言葉を受け流すのは得意だった筈なのに。自分でもそれなりに可愛いと思っていたし、実際告白も何度もされた。

母親から、そう言った時の対処法を聞き実行して来た。

ある意味百戦百勝だった。しかし、悠介だけは別だった。

可愛いや綺麗と言った言葉を聞くだけで、恋愛漫画のヒロインの様に脈打つ鼓動を抑えられないし、朱色に染まる顔を止められない。

むしろ、思考を捨てて何度もそのセリフをリピートしてしまう。そして、その鼓動が心地いいと感じてしまう。

例えそれが、お世辞だとわかっている筈なのに、鍛えてきた技術は彼の何気ない一言でいつも崩され、敗北してしまう。

 

「本当にいつもいつも不意打ち過ぎるよ」

 

小さく誰にも聞こえない声音で呟いた燕の声は夕闇に吸い込まれて消えていく。燕が元に戻った事を確認した悠介は止めていた足を再び動かし始める。

 

「さてと、俺も今日は動きっぱなしだから腹が減ったな。早く帰ろうぜ」

 

悠介は頭の上に置いていた手を離し歩く。暖かさがなくなった事に残念な気持ちが湧き上がるが、燕はそれを押しとどめ悠介の後を追う。

 

「そうだね。因みに今日は、悠介君の好物の焼き魚だよ」

 

「マジか!!なら、納豆はかけるなよ?」

 

「ええー。納豆かけて食べた方が美味しいのに」

 

「うるせ。それは譲らねえからな。納豆はあくまでも添え物だ」

 

「違うよ。絶対にメインだよ!!ほら、食べて確かめてみてよ」

 

「うおっ!納豆をかき混ぜながら、こっちに来るな!!」

 

「あ――――!逃げるな――――!!」

 

夕日を背に駆ける二人からは、戦いによって結ばれた百代と悠介とはまた違う、誰にも犯せない絆を感じさせた。




いかがでしたでしょうか?
上手く燕を可愛く書けたかな?(心配です)

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