真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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前回の話が思ったよりも好評みたいで、とても嬉しいです。
修正が終わってませんが、またまた書いてしまいました。

楽しんでくれたら嬉しいです。


悠介と西の名乗り

神速にて振るわれた武の極地たる一撃と共に、鉄心が音もなく現れる。土埃が舞う中、辺りを見渡した鉄心は息を吐く。

 

「やれやれ。随分派手にやったのう」

 

少し離れた場所から二人が戦いを見守っていた鉄心。二人の久しぶりの再会にギリギリまで手を出さずにいたが、これ以上は危険と判断し介入を決めた。

鉄心は倒れた二人を見ながら、後処理の事を考える。周りは、小さいながらも二人の戦闘の余波で破壊箇所が目に付く。だからだろうか、鉄心は気が付かなかった。

戦闘狂の孫娘が八年間も我慢し、漸くライバルと戦えていると言う事実と悠介が孫娘である百代に掛ける想いの大きさを失念してしまった。

今の二人は飢餓状態になっている(ケダモノ)の等しい。漸く極上のエサに在りつけた状態と同じだ。そんな二人が、たった一度の介入で諦めるか、答えは…

ダッ!

否である。

悠介と百代の二人は、起き上がると同時に地面を蹴って互いの頭を激突する。二人ともが、鉄心の介入に気が付いていない。そんな事を気にしていない。

ただ、目の前の敵と戦いたい欲求だけが、二人を動かしている。

 

「おいっ!まさか、今のでへばったんじゃねえだろうな!?

勢いが弱ええぞっ!!!」

 

「それを言うなら、お前の方だ!

さっきから息切れし始めてるぞ!」

 

「誰にモノ言ってやがる!!」

 

百代がそう言った瞬間、悠介は外から大きく回し蹴りを放つ。悠介の攻撃を察しった百代は、空中に跳び攻撃を回避。

しかし、その時にはすでに悠介が拳を構えているのが視界に入る。

 

「おらぁ!」

 

「なめるなっ!」

 

悠介の攻撃に百代も合わせるように拳を打ち込む。二人の拳の激突と同時に…

 

「やめんか――――!!」

 

再び神仏の巨大な足が二人を押しつぶした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

二度目となる上空からの奇襲とも言える攻撃。それも川神鉄心クラスの奥義となれば、百代との戦いで削れていた悠介では、意識を保つのは難しい。故に僅かな間悠介は気絶した。

そしてそれは、対戦相手であった百代にも該当する。

 

「うぅ」

 

二度目の攻撃で地面に叩き付けられ、悠介同様に、ほんの僅かな時間だが飛んでいた百代が意識を取り戻す。

 

「目が覚めたか?」

 

「ジジイ!!いきなり何するんだ!!」

 

「何って、止めたんじゃよ。

あのままお主らを戦わせていたら大参事になっていた可能性があったからの」

 

「それは…そうだが」

 

百代は意識を取り戻すと同時に、自身と悠介の戦いに横槍を入れてきた鉄心に向かって文句を告げる。しかし鉄心からの言葉を聞き、百代も頭が冷えてきたのか言いよどみ、バツが悪そうに視線を逸らす。

そんな百代の姿を見た鉄心は、視線を落としながら百代に告げる。

 

「それよりもいい加減、どいてやったらどうじゃ?

今にも死にそうじゃぞ」

 

「え?」

 

鉄心の言葉と視線につられて百代の視線も自分の下に向けられる。

鉄心の攻撃を受けて地面に落下させられた百代。ならば、その下にいた悠介はどうなったのか、答えは…・。

 

「ぅうんん~!!」

 

「ッ!!!????」

 

上から落下してきた百代のクッションになる形で地面に叩き付けられていた。そこまでは良い。問題は、悠介の顔が百代の豊満な胸を顔面に押し付けられて、物凄く息苦しそうにしていると言う点だ。心なしか悠介の顔も蒼くなってきている。

一瞬の空白ノアと、自分と悠介の状態を確認した百代が、顔を真っ赤に染めながらその場から瞬時に飛び退く。

上に居た百代がいなくなった事で久しく空気を吸った悠介は、百代を睨み付けながら吠えた。

 

「てめえのせいで死にかけたじゃねえか!!

その脂肪の塊、すげえ邪魔だから燃やせ!!」

 

「なっ!こんな美少女の胸に顔面を押し付けておきながら、その言葉はないだろうっ!!

普通なら、泣いて感謝するところだぞ!!」

 

悠介の言葉にカチンときた百代が、先程まで恥ずかしさから赤くしていた顔を、今度は怒りで赤く染め上げ反論するように悠介に食って掛かる。

しかし百代の言葉聞いた悠介は、更に言葉を荒げながら吠えた。

 

「それのせいで死にかけた身からすれば、冗談じゃねえわ!俺を殺す気か!」

 

「死ぬ程の贅沢物だぞ!!」

 

「安すぎるだろっ!お前は男の人生を何だと思ってんだ!!」

 

悠介と百代の二人は、さっきまでのピリピリとした雰囲気から一転して、子どもの口喧嘩を展開し始める。

その姿はさっきまで死闘を演じていた二人と同一人物達だとは到底信じられない。そんな二人に呆れながらも鉄心は悠介に話しかける。

 

「まあ、お主が死ぬ程羨ましい状況に陥った事は置いといて」

 

「おい。今、教育者のセリフとは思えねえ言葉が聞こえたんだが?」

 

「そこを気にするではない。ともかく、悠介は今から儂と一緒に来てもらうぞ」

 

「…わあったよ」

 

鉄心のセリフに若干呆れながらも悠介は立ち上がり鉄心の後について歩き始める。

そんな中で、ふと足を止め悠介は未だに地面に座り込んでいる百代に向かって、言葉を発する。

 

「モモ、また後でな。」

 

その言葉を聞いた百代は、これからも悠介に会えることを再確認して、風間ファミリーを含め、今まで見せたことがない無邪気な顔を見せながら、悠介の言葉に応える。

 

「ああ、また後でだ!!」

 

百代の返答に満足した悠介は今度こそ鉄心の後を追うように歩き始める。そんな悠介の姿を百代は、その背が見えなくなるまで見続けた。

因みに、余りの出来事の変化に生徒たちは、暫く放心していた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

鉄心の後を追い案内されたのは川神学園学長室。悠介が学長屋に入ると既に先客として、鞭を携えた気の強うそうな女性とくたびれた雰囲気の男性が立っている。

両者とも悠介を見定めるような視線に悠介は僅かに面倒くささを覚えるが、今は無視して、学長室の机の前に立つ。

悠介の目の前には、何時の前に科椅子に座り込んだ鉄心が書類に目を通している。鉄あらかた目を通した鉄心が、若干の驚きを含んだ声で悠介に話しかける。

 

「お主…意外に頭良かったんじゃな」

 

「意外は余計だ」

 

鉄心の手元には、悠介が解いた振り分けテストの答案があった。その点数は、二年の中でも五本の指に入るだろう。

明らかに自分は不良ですという身なりをしている為、鉄心自身も驚いている。てっきり悠介も自分の孫娘達同様に、勉学は落ちこぼれだと思っていた分、驚きは大きい。

対して悠介は、そんな言葉や視線に慣れているのか、何処か投げ槍に鉄心の言葉に突っ込みを入れる。

 

「母さんとの約束だからな。

武術をやる条件に、テストである程度の点数取るって約束したからな。

後は、小うるさい家庭教師のお蔭か…」

 

そう言いながら悠介は、先程の仕合を盗み見て居たであろう腹黒い同居人を思い浮かべる。毎日毎日自分に勉強しろと言っていたのだ。ある意味勉強する事が習慣になっていたのは燕のお陰と言えるだろう。

 

「なるほどのう」

 

悠介の言葉を受けながらも鉄心は悠介を何処のクラスに所属させるか考えていた。この点数ならば、特待生クラスであるSクラスでもやっていけるだろう。

しかし、もう一つの資料に目線を落とす。そこには、今まで悠介がやってきた出来事が事細かく書かれていた。

停学処分:計22回  

反省文:合計107枚

どちらも普通ではない数字だ。恐らく悠介をSクラスに入れたとしても、直ぐに降格になるだろう。ならば、いっその事Fクラスに入れるべきでないだろうか。

そんな鉄心の考えを読んだのか、悠介が鉄心に進言する。

 

「なあ、俺のクラスだが。出来れば、百代の妹がいるFクラスが良いんだが」

 

「一子の?なぜじゃ」

 

「まあ、一つに興味心だな。

毎度メールで妹の自慢話をされたら興味も出て来るしな。

ある程度の性格も理解してる奴がクラスに一人でも居たら気楽だ」

 

「一理あるの。まあ…いいじゃろ。

お主は此よりFクラスじゃ」

 

現在伸び悩んでいる一子の良い刺激になればよいと鉄心も悠介の提案に同意する。

そして、壁側に立っていた一人の女性に話しかける。

 

「そう言う訳じゃ、小島先生。任せて構わんかの?」

 

「勿論です」

 

鉄心の言葉に力強く頷いたのは、鞭を武器とする小島梅子

問題児だらけのFクラスをまとめる先生だ。鞭により教育指導を行っている為、生徒の間からは「鬼小島」と恐れられている。しかし、一部の生徒からは何故か人気が高い。

 

「これから、お前の担任を務める小島だ。

お前の噂は、聞いているからビシビシ指導してくぞ!!」

 

「まあ、お手柔らかにお願いしますわ」

 

小島先生の言葉に悠介はどんな噂を聞いたのかと疑問に思いながらも、目の前のこの教師はきっとどんな噂を聞こうとも態度は変えないんだろうなと声音から察する。

好ましい教師だと思いながら悠介は、小島先生の後を追って学長室から退室する。

それに伴って、壁に控えていたもう一人の男子教師も学長室を後にする。

誰も居なくなり一人なった鉄心は小さく呟いた。

 

「強くなっとったの」

 

思い出すは、百代と殴り合っていた悠介の姿。

ギリギリまで介入する事を我慢していたのには、見ておきたかったと言う理由もある。自分の元を離れた弟子の成長をこの目で見ておきたかったのだ。

結果は予想以上だった。悠介は、ある意味完成に至っていた。だからこそ、自分の手で育てられなかった事が悔やまれる。

 

「まあ、何にせよ。これからが楽しみじゃわい」

 

そう言って思い出すは、自分と同じく二人の戦いを見ていた存在。

気配は感じたが、正体までは感知できなかった。悠介の登場が、波瀾から開けていない川神に新たな渦を巻き起こすと鉄心は直感した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

小島先生に連れられる形で悠介は2年F組前の立っている。

 

「では、私が合図したら教室に入って来い」

 

「了解」

 

そう言って教室の中に入った先生の姿を見送りながら悠介は、百代との戦いを思いだしていた。若干驚く(・・)事もあったが、自分は百代と戦えた。

その一つの事実が悠介の気持ちを高揚させる。

 

「それでは、相楽。入って来い」

 

考え事をしている間に自分の名を呼ばれた事を察した悠介は、教室の扉を開け中に入った。

同刻 三年F組

 

「ふふ~ん」

 

百代は自分の机に座りながら上機嫌に鼻歌を歌っていた。

最近自分の身の周りに現れた強者たちの登場にテンションが上がっていた中での悠介の登場は、百代のテンションをさらに高揚させるには十分すぎた。つい数時間前の戦いで、自分の攻撃に真っ向から挑んで来た悠介の姿。

思い起こす度に百代の中に、再び戦いたいと言う感情が湧き上がって来る。その感情を抑えながら、百代は時が過ぎるのを待つ。

今不要に悠介と戦えば、悠介との戦闘を禁止させられる恐れがある。そうさせない為にも今は我慢の時だ。

そんな百代の耳に…

 

「それデーは、今日は転校生を紹介しまーす。松永さん入ってきてください」

 

「はぁーい」

 

可愛らしい少女の声が届く。少女は教卓の前に立つと元気よく話し始める。

ほぼ同時に、西からの刺客である二人は…

 

「今日から川神で世話になる。

天神館から来た相楽悠介だ。武器は男らしく拳。

これから、よろしく!!」

 

「西の天神館から来ました。

納豆小町こと松永燕です。これからよろしくね」

 

今、東にて己の名を告げた。




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