真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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今回は少し、しつこいかもしれません
何で自分は、こんなにもセリフを考えるのが苦手なんでしょうか?
他の皆様なら、もっとうまく書けるだろうな。

たぶん、意味が分からないと思いますが、漢の会話として納得してくれたら嬉しいです


悠介と二つの誓い

「そうか。負けちまったか」

 

鍋島から事の詳細を聞いた悠介は、小さく呟く。悠介の声音は聞いた鍋島は、悠介が何処か悔いてる様にも感じた。

まるで戦友(とも)と共に戦えなかった事を悔いてる様だと。

 

「でもよ、その義経ってのは結局誰だ?」

 

「まあ、ずっと山に籠ってらぁそうなるわな」

 

 

悠介のふとした疑問を聞いた鍋島は、本当に悠介がずっと山に籠って修行していた事を再確認する。

そうでもなければ、現在テレビを騒がしてる武士道プランを知らない訳がない。

 

「九鬼家が打ち上げた『武士道プラン』って奴だ。過去の英雄に学び切磋琢磨するってのが、目的だな」

 

「過去の?」

 

「クローン技術で現代に蘇らせたんだよ」

 

「なるほど」

 

鍋島の説明を聞いた悠介は、納得したように頷く。何の躊躇いもなく事実を受け入れた悠介の姿を見た鍋島は、悠介の強みを再確認する形となる。

普通の人ならば、クローン人間と聞けばある程度の反応があるだろう。拒絶だったり興味だったりと様々だが、悠介は一度何の躊躇いもなく受け止める。

どんな考え方でも、一概に否定せず長所などを考え理解していこうとするのだ。

何故悠介がそうするのかは、鍋島にはわからないが、それは間違いなく悠介の強さだと考えている。

 

「石田を倒すか…強いんだな」

 

「そらあ、過去に英雄と呼ばれた奴らだ。血を受け継ぐ奴ら並には強いだろ」

 

「会えるのが楽しみだ」

 

笑みを浮かべる悠介の顔を見た鍋島は、悠介と武士道プランの面々が出会う未来(さき)を想像し、笑みを浮かべる。果たしてそれが、悠介に何を齎すのか一人の武人としても、師としても気になるモノだ。

 

「さて、不良生徒の面も見れたし帰るとするか」

 

鍋島が腰を上げると同時に悠介も腰を上げる。そして自分がまだ伝えていない事に気が付く。

 

「なあ、実は…」

 

悠介が全てを言う前に鍋島の帽子が、悠介の頭にかぶせられる。

 

「ああ知ってるよ。お嬢ちゃんに全部聞いた。戻るんだろ?川神に」

 

「…ああ」

 

鍋島はあえて悠介の表情を見えなくしてから、悠介と話始める。鍋島の言葉に、間を置きながらも悠介は答える。

 

「全く、師想いじゃねえ弟子を持ったもんだぜ。まさか、師の元を去るってのを伝え忘れて、他人に告げられるなんてよ」

 

「うるせえよ」

 

鍋島が笑いながら発した言葉に悠介は、不貞腐れた声で答えた。

 

「それよか、頭から手をどかせよ」

 

「別に良いだろうが」

 

「ちぃ」

 

不貞腐れ手を払いのけようとした悠介に、不意を衝いた様に今までの声音とは全く違う声が届く。

 

「行って来い」

 

「っ――――!!」

 

その言葉は鍋島には似合わない程に、優しく躊躇う者を後押しする声音である。言葉を聞いた悠介の気配がブレた。しかし、帽子のせいか表情は、窺えない。

 

「お前は西(ここ)で強くなった。力もそうだが、何よりもお前の精神(たましい)が強くなった」

 

「強くなってねよ。俺は弱え」

 

鍋島の言葉を否定した悠介の声は、驚くほどに小さく弱弱しい声だ。思い出すは鍋島が来る前、才能と言う逃げ道に簡単に逃げてしまった自分の姿。

自分が諦めるのに、都合のいい逃げ道に逃げる自分の精神が強くなった訳がない。

そんな悠介の葛藤に気が付いているのか鍋島は、不器用に真っ直ぐ進む弟子を導こうとする。それが、師の仕事だと知っているから。

 

「師である俺が言ってんだぞ。師の言葉を信じねえ弟子はいねえんじゃなかったか?」

 

「……」

 

鍋島の言葉に悠介は答えない。いや、答えられない。鍋島自身これから悠介に待ち受ける重圧を知っていた。

しかし理解してやる事は出来ない。自分には才があったが、悠介にはない。

持つ者が持たない者の気持ちを理解する事は出来ないだろう。

それでも…

 

「お前は強い。俺は胸を張ってそう言える。だから、師の言葉を信じて進んでみろや」

 

武神に挑むと言う愚直を行う弟子の迷いに手を差し伸べずして、師とは名乗れない。

悠介は誰よりも知っている、才能の壁を。そして自分と武神の間の壁を、知っているからこその迷い。

どれだけ決意を固めようと圧し掛かって来る重圧。どれだけ大人ぶっても、未だ高校生の悠介一人に背負えるモノではないのは明白だ。

 

「何度倒れても立ち上がる。それがお前の誇りだろ」

 

「ああ」

 

未だに弱弱しい声で答える悠介に鍋島は、ある事を告げる。それを告げるのは今しかないと感じるから。

 

「お前が武神を倒したのち、お前と初めて交わした約束(・・)を俺は果たすつもりだ」

 

鍋島のセリフに下を向いていた悠介が上を向こうとするが、鍋島の手がそれを邪魔する。今はただ聞け。師から無言の合図。

 

「お前なら…いや、お前だからこそ武神を倒せると信じてるぜ、俺はな」

 

鍋島が発する言葉の全てが悠介の迷いを打ち砕いて行く。迷いを断ち切らせる言葉など発する必要はない。

その強さを悠介は既に持っている。自分はそれを引き出してやればいいだけなのだ。

 

「お前が武神を倒したら、俺はお前の前に()として、立ちはだかる。もう、お前にはそれだけの強さがあるんだぜ?だから、行って来い――――」

 

ふと見れば、悠介は強く拳を握り何かに耐えている様だ。そして鍋島の最後の言葉が発せられた。

 

バカ弟子(・・・・)

 

悠介は鍋島が言い終わると同時に、静かに鍋島の横を通り過ぎる。鍋島もそれが分かっていたのか、自分の横を通り過ぎる瞬間まで、帽子を悠介にかぶせ続ける。

悠介の足取りに迷いは感じられなかった。

 

◆◇◆◇

 

自分は大馬鹿野郎だ。歩む中で悠介は、行き場のない感情に支配されている。師匠にあそこまで言ってもらわないと、迷いを断てない自分は本当にバカだ。

 

「でも、もう迷わねえ」

 

迷わないだけのモノを師匠から貰ったのだ、これで再び迷うものなら、自分はもう二度と拳を握れる資格はないだろう。本当なら柄ではないが、礼の一つも述べるのが正しいのだろう。

だが、今ではない。本当に感謝し礼を尽くす気があるなら、武神に百代に勝ってからだ。

それまでは自分には、礼を述べる資格はない。

 

「ふぅ」

 

小さく息を吐きながら思い出すのは、さっきの言葉の全て。憧れた男が自分との約束を護ると言った。その言葉だけで、迷いのほとんどは知らない間に消えていく。

 

「やるぜ。そして、あんたら(・・・・)に絶対に追いついてやる!!」

 

拳を大きく天に掲げ告げた悠介の表情は、正しく武人の顔であり、何時もの悠介である。

そうやって山を下りていく悠介の視界に十人の人影が映る。それが誰なのかは、考えるまでもない。石田達だ。

彼らは悠介の通り道に、横に並んでいる。悠介はあえて何も言わず、石田の横を通り過ぎた。

 

「いいか!!これから話すのは独り言だ!!断じて、お前に向けた言葉ではない!!」

 

悠介が石田達を横切って直ぐに、石田が大きく声を張り上げる。石田の言葉が発せられたと同時に悠介の歩みが止まる。

 

「おれたちは敗けた!!故に、悠介には挑まん。だが、此処で誓え十勇士!!」

 

石田達は交流戦の後悠介と戦うと言った。そこに勝ったらとは何も言っていなかった。

違う、勝つつもりでいたのだ。だからこそ、その言葉を言わなかったし、悠介自身も理解していた。

別段悠介ならば、気にせずに戦いに応じるだろう。しかし敗北した者が、そのままライバルに挑む。

それは侮辱だ。自分自身への侮辱、何より自分達がライバルと認めた者への侮辱。そんな侮辱を犯してまで勝負するぐらいなら、彼らは全く別の手段を選んだ。

それが今の状況なのだ。

 

「おれたちは、もう二度と悠介に挑むその時まで、敗けんと誓え!!」

 

石田は言い終わると同時に刀を天に掲げた。それに続くように、島は槍を、大村は拳を、長宗我部はオイルの入った瓶を、毛利は弓を、大友は大筒を、宇喜多はハンマーを、竜造寺はバラを、鉢屋はクナイを、尼子は二つの鉤爪を、天に掲げた。

誓い。ライバルの前で、挑むその時まで不敗を誓う。その重さは武人である悠介も理解出来る。

しかし、次の言葉は予期できなかった。

 

「だから貴様もおれたちに敗けるまで、誰にも敗けるな!!たとえそれが、武神であってもだ!!」

 

石田の言葉は、誓いでも何でもない。ただの声援だ。石田だけではない、他のメンバーも言葉には出さないが、石田と同じ言葉を告げている。

石田達は鍋島から全て聞かされていた。

だからこそ、自分達が認めたライバルに送る、最大限の言葉。

石田達の言葉を聞いて一瞬呆けた悠介だが、すぐさま自分の拳を天に掲げる。それこそが彼らの声援に対する答えだと知っているから。

同時に悠介の中に沸き立った感情は、喜びだ。師だけではない。こんなにも近くにいたのだ。自分の不安や迷いを失くしてくれる戦友(とも)が。自分と同じく頂点に駆け上がろうとするバカが、こんなにも近くいたのだ。

本当にさっきまで、怯え迷っていた自分が恥ずかしい。そんなモノでよくぞライバルと名乗れたのだ。

自分が迷っている間に、石田達はこんなにも覚悟を決めたと言うのに。

だから自分も誓おう。

今後ろにいる戦友達にライバル達に誓おう。もう二度と自分が進む道を迷わぬと、そしてお前らのライバルで居続けると、誓おう。

誰でもない、自分が認めたお前たちに。

時間にして僅か数分。

しかし、彼らにしてみれば永久に近い時間が終わり、悠介は再び歩き出した。

その足取りは、今までよりもしっかりと迷いのないモノと化していた

 

◆◇◆◇

 

悠介と石田達のやり取りを見ていた鍋島は、嬉し様な笑みを浮かべていた。

 

――――ああ、それでいい。今は我武者羅に前に進んでいけ。若人よ

 

自分達の次の代の芽が確実に育っているのを、この目で見れるのは一人の教育者として、これほど嬉しい事はない。

 

――――わかったろ、悠介?お前は一人じゃねえ。そいつらと共に進んでいけ

 

静かに一人で進む悠介だが鍋島の目には、その後ろに続くように石田達の姿が見えた。

それは、決して幻想ではないだろう。石田達の想いも背負って、悠介は自分の夢を叶えに行くのだ。

彼の始まりの地に。

 

――――全く、可愛げのねえ弟子だったぜ

 

思い越すは、悠介との出会いから今日に至るまでの全て。その全てが大切なモノだと鍋島は、胸を張れる。

故に直感している。悠介の夢はあの地で、一歩前進すると確信している。

思い越した鍋島は空を見上げながら、これからあの地を中心に巻き起こるであろう出来事を予期し、笑みを浮かべる。武士道プランが施行されたのはもしかしたら、偶然ではないのかもしれない。

ある種の必然を帯びて、あの地で行われるのかもしれない。

運命などと言う言葉をあまり信じない鍋島だが、今回ばかりはそう思わずにはいられなかった。

まるで世界があの非才の少年を試しているの様だ。

人は神に勝てるか?あの二人がぶつかる時その答えが分かる。

その時の光景を想像した鍋島は

 

「楽しみだ」

 

一人の武人としてと師としても意味を持たせそう呟いた。

 

悠介は西の地にて新たな誓いと想いを馳せ旅立つ。

そして彼は再び武人たちの聖地『川神』に足を踏み入れる。




いよいよ次回から、舞台は川神に戻ります
楽しみにしてくれたら嬉しいです

さて、どうやって再開させようか

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