真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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石田を強くし過ぎた気もしますが、遂に決着!!
果たして、結末は?

楽しんでくれたら嬉しいです


悠介と東西交流戦 その6

突然現れた義経と名乗った少女を大和は、若干戸惑いながらもその姿を見定める。川神学園の制服に身を包んでいるが、大和自身見覚えのない子である。紺色の髪をポニーテールにまとめた誠実そうな美少女だ。

彼女が誰だか全くわからない。しかし、自分達と同じ制服を着て此処にいると言う事は、少なくとも敵ではない。軍師としては情けないが、彼女に任せる事が最善だと大和は考えていた。

大和がそんな事を考えている間も、二人の武士は静かにお互いをけん制しあっている。

 

「まさかあの攻撃を防ぐとは、義経は感激した」

 

「ふん、こんな素人を前に出してくるのだ。何処からか、奇襲を仕掛けて来ると考えるのが道理であろう」

 

義経の素直な感想に石田は、この程度は予測できて当然だと言わんばかりの口調で答える。だがどちらも、相手の挙動を見逃さまいとしている。

僅かな膠着の後、仕掛けたのは義経だった。

 

「はあ!」

 

鋭く地面を蹴り、石田に肉薄する。その速度は並の武芸者ならば、目で追う事すら叶わない。しかし石田は、冷静に義経の攻撃を刀で受け止めつつ、軌道を下に逸らして、上をがら空きにする。

 

「迂闊だ。馬鹿者!」

 

石田は完全に軌道を逸らしたあと、隙だらけの上から刀を振り下ろす。その攻撃に対して義経は、前に乗った重心を無理やり横に動かす事で、体を無理やりに方向転換させ攻撃を躱す。

 

「うっ!」

 

「ほう、躱すか。だが、それでは甘いわ!」

 

苦悶を漏らしながらも、紙一重に近い形で躱した義経の姿を見た石田からは、賞賛と驚きの声が出るが、それでも体は次の攻撃を仕掛ける。

足を大きく広げる事で、体を無理やりに次の攻撃に移行させる。横薙一閃攻撃を刀で受け止める義経。しかし、体勢も悪く踏ん張りも聞かない状態では持ちこたえる事が出来ず、大きく吹き飛ばされる。

 

「くぅ!」

 

「休んでいる暇など、与えんぞ」

 

吹き飛ばされた義経の体制が整う前に石田は、義経の元に駆け出し下から刀を振り上げる。しかし義経もその攻撃を予期していたのか、体を右に倒れす事で攻撃を躱し、その倒れる勢いを利用して、更に加速する。

 

「!!?」

 

その速度を近距離で発動された石田は、義経の攻撃の軌道から体をどかせようとするが、あまりに遅く完全に避けられず攻撃を受けてしまう。

苦痛の声を気合で押しとどめ、石田は自分の後ろにいるであろう義経の攻撃を防ぐため、体を捻り後ろを向く。

 

「はあ!」

 

「ちぃ!」

 

石田が振り向くと同時に、体勢を立て直した義経の太刀が迫るが、ギリギリで防御する。

鍔迫り合いをしながら、二人は相手の事を強者であると考えていた。

 

 

――――この人…強い!!

 

 

――――こいつ。速さだけならおれよりも上か……いや、全体的な能力も下手をしたら

 

そんな中で石田は、これまでのやり取りから、自分の相手が同格かそれ以上だと直感する。出し惜しみしていて勝てる相手ではないと。そしてこの戦は、決して負けれない。ならば、使うしかない、あの技(・・・)を。

 

――――だが、発動までに時間がかかる。そんな時間許す相手でもない。どうする。

 

瞬間的な迷い。それは、力関係に大きく影響する。まして、同格のかそれ以上の相手ならばなおさらだ。どんどんと石田の刀が、義経に押されていく。

 

――――くそ!どうすれば

 

悩む石田の耳にある声が届く。それは自分が誰よりも信頼する右腕の声。

 

「御大将!!」

 

「って、わあああああ!!」

 

島が敵である一子を義経の方に吹き飛ばしながら、石田の前に立つ。言葉はない。しかしその背が雄弁に石田に語る。言葉などいらない。それだけの絆が二人にはあった。

義経と一子は、激突しその場に倒れる。その光景を見た石田は、素早く後方に下がる。

 

「此処から先は、十勇士の一人島右近が、お二人の相手をいたす。お覚悟を」

 

そう名乗った島は、未だ倒れる二人に向かって槍を振るう。二人はその攻撃を躱し、左右から攻撃を仕掛ける。

島は、防御に専念する事で攻撃をやり過ごす。しかし完全には捌き切れず、小さくないダメージを受ける。だが、決して二人を後ろには行かせない。その気迫が、二人の攻撃を躊躇わせていた。

 

「凄い気迫」

 

「ああ、気迫だけで、押し込まれそうだ」

 

島の気迫を感じた二人は、一人では突破できないと悟ると、小さく目を合わせ同時に行動を起こす。

 

「やあ!」

 

「ぐぅ!」

 

義経の太刀を槍で受け止めた島。だが、それこそが義経たちの目的だ。

 

「いまだ!」

 

義経の声に反応して、後方から一子が駆けでる。対処しようにも義経の存在がそれを許さない。

 

「はああああ、川神流 水穿(みずうが)ち」

 

すれ違いざまに放たれた薙刀の一撃に島は、苦悶の声を上げながら前のめりに倒れる。見事な一撃。もはや自分は戦えない。

 

――――此処までか…後僅かな時間であるのに、情けない

 

後悔と懺悔の思いが浮かんだ島の脳裏に、怒鳴り散らすように悠介の声が届く。

 

『まだ、意識はあるだろうが!!意識失うまで戦う事から逃げてんじゃねえぞ!!』

 

空耳かもしれない、だがその声は島の身体を動かすには十分すぎる。瞬間、もう入らないはずの腕に力がみなぎる。

 

――――それがしは…それがしは、まだ負けてはいない。御大将との誓いだけは、何人も汚させない!!

 

掠れゆく視界に、二人が石田の方に駆け出すのが見えた。あのタイミングでは、あの技は間に合わない。

ならば自分がすべきことは一つしかない。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

振り抜きざまに、自身の必殺の一撃を放つ。先のことはいい。必要なのはこの一瞬のみ。

 

――――真空雪風巻

 

二人の間に突如として現れた竜巻は、二人を左右に吹き飛ばす。それを確認した島は、静かに石田に想いを託し倒れる。

 

――――御大将……後は、任せます

 

島が倒れるとほぼ同時に、石田の技が発動する。

 

「奥義 光龍覚醒(こうりゅうかくせい)

 

その声と共に、雷光が戦場を包みこみ。その中心から黒髪が、金髪に逆立った石田が現れる。その威圧感は、今までの比ではなく、見かけ倒しでない事は明白だ。

石田は、静かに倒れた島に視線を向け、小さく呟く。

 

「ご苦労だった。後は、任せろ」

 

その言葉は、紛れもなく大将として言葉だった。そして石田は、二人の敵に視線を移す。

 

「さてまず初めに、島をやってくれた薙刀使い!貴様からだ!!」

 

その言葉に一子は、薙刀を構えるが…

 

「ぬるいわ」

 

石田のその呟きと共に放たれた斬撃により、壁まで吹き飛び気絶する。堪える事すら許さない絶対的な豪の剣の前では、半端な防御など意味をなさない。

 

「ワン子!!」

 

その様を見ていた大和の声が辺りに響く。一子の強さを知っているからこそ、一撃で倒されたのが信じられない。

一子が沈んだことを確認した石田は、義経に告げる。

 

「おれの名は、十勇士筆頭にして大将 石田三郎。貴様の敵だ」

 

名乗ると同時に石田は、地面を蹴り義経に迫る。その速度は、黄色い閃光が走るほどだ。

そのまま刀を振り切る。義経は、受けるのは危険と言う本能に従い、迫る攻撃を回避する。

 

「逃がさん!!」

 

逃げた義経を追うように石田は、刀を振るいながら迫る。紙一重に近い形で攻撃を避け続ける義経だが、ドン!と壁と激突してしまう。

 

「しまった!」

 

「これで逃げられまい!」

 

一瞬の動揺で石田から視線を外し、壁の方を見てしまった義経。自分に迫る刃を受け止めるしか手がない。

刀を横にして、石田が振り下ろした刀を防いだ瞬間

 

「ぐぅ!」

 

石田の刀を纏っていた電撃が、義経の刀を伝い襲いくる。その事を確認した石田は、一度刀を離して、再び義経に斬りかかる。

 

「喰らえ!!」

 

ほぼ同時の六斬撃。義経は横に飛び回避するが、電撃のせいで痺れた体では、上手く避けれず何発か掠ってしまう。

しかも、掠った場所から再び電撃が襲う。その電撃は確実に義経の動きを阻害していく。

 

「逃がすか!」

 

自身の斬撃で砕いた壁の欠片が舞う中、石田は的確に義経を見つけ横凪に刀を振るう。その破壊力は、刀の前に在った欠片をも切り裂くほどだ。

 

「くぅ!」

 

その攻撃を躱す義経だが、体に走る電撃が彼女を苦しめる。

 

「このまま押し切らせてもらうぞ!!」

 

石田は、休むことなく連続で斬撃を放つ。どれも一撃で戦闘不能に持っていく一撃だ。

その攻撃を義経は、なんとか躱していく。その姿を見た石田は、驚愕の表情を浮かべる。

 

――――こいつ!徐々に動きのキレが戻ってやがる。早く仕留めないとヤバイ!

 

痺れて動かない筈の身体で、自分の斬撃を躱すと言う事は、体の感覚が戻ってきていると言う事だ。時間をかければ不利になっていくのは、明らかだ。

だからこそ、石田は焦ってしまった。

 

「わっ!」

 

後方に躱していた義経が、先ほど飛びっ散った破片に足をとられ体制を崩す。石田はそのチャンスを逃す訳もなく。

 

「喰らえ!イナズマブレイド!」

 

雷光が一段と刀に纏われ、凄まじい雷音が鳴り響く。見るからに必殺の意義が込められた雷刃(やいば)

その刃をそのまま義経に向かって、振り下ろそうとした時…

 

「させるか!」

 

大和の投石が石田に迫る。

 

「邪魔くさい!」

 

勿論、石田は体を捻る事で躱すが、一瞬だが義経から大和へ意識を移してしまった。

その一瞬が勝負を分ける。

 

「はああああ!」

 

「しまっ!」

 

義経の声を聞いて自分のミスを知った石田。これは決闘ではなく、(いくさ)である。一対一か一対多であるかの違い。

その違いが勝負の決めた。

義経は気を使い体の痺れを失くし、そのまま身体を強化して、居合の構えを取りながら迫る。彼女の本能が、此処で決めるべきと告げていた。

それに従い、残った気を全てを使い信じられない加速を始める。

石田も急ぎ攻撃を加えようとするが、ワンテンポの差で義経が速い。

 

「はっ!」

 

「がっ!」

 

速度と拍子共に最高のタイミングで放たれた気を纏った居合は、石田の急所を切り裂く。

攻撃にほとんどに気を使っていた石田には、防御に回す気もなく直撃してしまう。

静かに倒れる石田。その姿を確認した義経は、静かに呟いた。

 

「義経の勝ちだ」

 

その言葉が戦の終了を告げた。

 

◆◇◆◇

 

「こ、此処は?」

 

「御大将!!」

 

次に石田が目を覚ました時映りこんだのは、自分を心配する十勇士の姿。そしてゆっくりと、なぜ自分がこうなったかを思い出してゆく。

 

「そうか………敗けたのか」

 

ゆっくりと発せられた言葉に十勇士達は、顔を曇らせる。実際は紙一重であった。

大和が行動を起こす数分前、大友と毛利と竜造寺そして、ヨシツグを除く四人の十勇士が敵本陣に攻め込んでいたのだ。

あと少し、石田が焦らずに攻撃をしていれば、天神館の勝利であったであろう。

そう言えるほどに、僅かな差であった。しかし、そんな言葉は何の慰めにもならない。

 

「く―――――」

 

重い沈黙が場を支配する中で、石田が沈黙を破る様が小さく呟く。

やがてそれは、絶叫となり辺りにこだます。

 

「くそぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

石田の絶叫は何を意味するか、この戦での敗北か、それともまた別の意味か。しかし、十勇士達にはその意味がよく理解出来た。

だからこそ、何も言えなかった。

しばらくの間、石田の絶叫が鳴りやむ事はなかった。




何か書いていて、石田がこの小説の裏の主人公でいい気がしてきました

少し、呆気なった気もしますが、いかがでしたでしょうか?
良かったら、感想をお願いします。

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