真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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前回、主人公が出てないのに東西交流戦が長いと言う意見をいただいたので、結構まとめました
その為一万字オーバーしてますので、結構長いです
後半とかは、結構雑になってるかもしれません

今回は、いろいろとやりすぎた面があるかもしれませんが、一応これで行こうと思います

初めて戦闘描写を書いたので、まだまた至らない点があると思いますので、こうした方が良い等と言った指摘があったら、送って下さい


漸く悠介の存在を少し出せました




悠介と東西交流戦 その5

各地で行われている十勇士達との戦闘。彼らの戦闘は激戦を極めている。故に彼らは、何処かで終わって欲しくないとも思っていた。

しかし終わりは、確実に訪れる。

 

「国崩しぃぃぃぃぃ!!」

 

大友の怒号とと共に、辺りを爆炎と熱風が包み込む。本来ならば、これで終わりのはずだ。しかし大友は、絶え間なく辺りの様子をうかがい…

 

「!。そこだぁぁぁぁぁ」

 

再び国崩しを、自身右方向に放つ。爆炎が燃え盛る中で、爆炎を突き破り現れたのは、赤い猟犬マルギッテ。自身の武器であるトンファーを盾にして、爆炎を突破してみせる。

しかし大友自身も予想の範囲であったのか、慌てず次弾を放つ。

 

「それで突破したつもりならぬるいわ!!!」

 

迫りくる砲撃を前に再びマルギッテは、トンファーを使い突破する。そんな中でマルギッテが感じたのは…

 

――――片目で勝てないか

 

一種の敵に対する賞賛だった。

当初マルギッテは、発射口にトンファーを投げ入れ暴発させるつもりだった。しかし大友は、それを警戒してか、必ず発射口をマルギッテの死角に据えて発射している。眼帯をつけ片目であるマルギッテにとっては、致命的に厳しい条件だ。

 

――――面白い。この勝負必ず私が勝つ

 

しかしこんな状況であるほどに、マルギッテと言う武人は笑う。この状況を突破して見せてこその自分なのだから。

 

「いいでしょう。貴方は全力で狩るに値する敵だ」

 

獰猛な笑みを浮かべながらマルギッテは、眼帯を外す。瞬間、彼女自体が纏う雰囲気が、さらに獰猛になっていく。

その変化は劇的。しかし大友は揺るがない。

 

「ほざけ!!敵を前にして全力で戦わぬとは、武人にあるまじき失態だぞ、南蛮人!!」

 

「ええ、だからこそ詫びましょう。そして、感謝しよう」

 

その言葉と同時に砲撃が飛び、そして赤が飛ぶ。

 

「バカめ。血迷ったか?空中でこの大友の砲撃は躱せまい」

 

マルギッテの行動を見た大友は、勝利の笑みを浮かべる。だが同時にマルギッテもまた、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「いえ、これで正しい。これであなたの砲弾は良く見える」

 

「ッ!!!」

 

大友はマルギッテの言葉に自身の失態に気が付く。今までは死角に据えていた発射口が、マルギッテの正面に据えられている。

空中から見下ろすマルギッテに、上空を見上げる大友では、上空にいるマルギッテの死角を付けない。

 

「しまっ」

 

「遅い!!」

 

失態に気が付き慌てて砲弾を下げようとする大友だが、その隙を逃すほどマルギッテは弱くない。

大友が動揺している隙に、トンファーを発射口に向けて投げつける。

投げつけられたトンファーは、一種の弾丸となり発射口に直撃する。トンファーが直撃した大筒は、大友を巻き込み大爆発を起こす。

これにて勝負は決着のはずだ。しかし、落下し終えたマルギッテは、止まらず大友の元に走る。

マルギッテが走り出すと同時に…

 

「く、国崩しぃぃぃぃ!!」

 

マルギッテがいた場所に、大友の砲撃が直撃する。背後から爆風と熱を感じながらマルギッテは、賞賛の笑みを浮かべる。

 

「やはり、あれだけでは倒れませんか」

 

「当然だ。西の武士の気骨を甘く見る出ないわ!!」

 

大友の言葉を聞いたマルギッテは、笑みを浮かべながら大友に肉薄する。その速度は、今までの比ではない。

傷ついた大友では、どうにもできず…

 

「捕らえた」

 

「ぐう!」

 

トンファーで首元を固定され、持ち上げられてしまう。これでは、どんなに頑張っても砲撃できない。

 

「これで終わりと知りなさい」

 

マルギッテの言葉に嘘はない。言い逃れできない真実だ。そんな中で大友は、自身が認めた敵悠介のセリフを思い出していた。

 

『ただで相手に勝利をくれてやる気はねえよ』

 

「ふっ。そうだな」

 

「?。何がおかしいのです」

 

笑みを浮かべた大友の反応に疑問を持つマルギッテ。しかし彼女は、その意味を直ぐ知る事になる。

最悪の形として、その身で知る。

 

「南蛮人よ、一つ聞きたい。東には、お前ほどの実力者はまだいるか?」

 

「私ほどの実力者は、そうはいないと知りなさい」

 

マルギッテの言葉を聞いた大友は…

 

「そうか、ならばこの大友の負けにも意味を持てるな」

 

深い笑みを浮かべた。

 

「!!!」

 

その笑みを見たマルギッテは、本能的に距離を取ろうとする。しかし、軍人としての理性が、それを押しとどめる。此処でこの砲撃手を逃せば、被害が広がる。だからこそ此処で倒さなくては。だが、何かが危険だ。

理性と本能が葛藤するマルギッテをしり目に大友は、動けない筈の腕を根性で動かし大筒を握る。

 

「喰らえ」

 

その言葉から大友がしようとした事を理解したマルギッテは、回避行動を起こす。

しかし、あまりにも遅すぎた。

 

無鹿咆哮(むじかほうこう)

 

大友の言葉と共に、大友を中心に大爆発が起こる。

爆炎が晴れたのち、そこには満身創痍のマルギッテと笑みを浮かべ気絶した大友の二名がいた。

 

◆◇◆◇

 

マルギッテと大友の戦いの終わりに、真っ先に気が付いたのは弓兵である二人だった。

 

「マルギッテ!!」

 

京は、マルギッテの姿に驚愕し。

 

「大友よ、実に美しい戦いだった」

 

毛利は、仲間である大友の健闘を称える。

驚愕と賞賛。真逆の感情を二人の弓兵は戦闘中に抱いてしまう。そして皮肉な事に、その事が膠着(こうちゃく)していた二人の戦いを変化させる。

 

「ふん、乱れたな」

 

京の変化を感じ取った毛利は、続けざまに矢を撃つ。

 

「しまった!!」

 

驚愕していたが故に、毛利の攻撃に気が付くのが遅れた京もすかさず矢を撃つ。しかし、京が放った矢は、毛利の矢の前に撃ち落される。

弓とは、精神面が大きく影響する物である。緊張すればそれは矢にも現れ、飛距離と威力は落ちる。

逆に程よい緊張感は、飛距離や威力を上げる。動揺し焦って撃った京の矢は、万全に近い状態で放たれた毛利の矢の前では、あまりにも脆すぎた。

 

「きゃ!」

 

京の放った矢を容易く打ち破り、毛利の魔弾は京に直撃する。その威力に、京は耐えることが出来ずに倒れる。

その事を確認した毛利は…

 

「存外にあっけなかったか。貴様が負けた理由は、その仲間のピンチに動揺する美しくない精神力だな」

 

京に背を向けながら静かに呟く。しかし今の毛利は、正に大友を捕まえたマルギッテと同じである。

だからこそ、足元を掬われる。

 

「まだいける!大和の為にせめて、相討ちに持ってく」

 

ダメージを受けながらも京は、静かに弓を構える。体力的に撃てるのは、これが最後であろう。だからこそ決して外さないと決めている。

 

「椎名流弓術 爆矢(ばくや)

 

放たれた矢は、毛利がいる場所の下にぶつかり爆発を起こす。

 

「なに!?」

 

完全なる奇襲。毛利は、なすすべなく落下していく。

 

――――まさか、あの状態から反撃してくるとは、なんと美しい!!

 

落下していく中で毛利は、敵に賞賛を送っている。

 

――――この美しい攻撃の前に倒れるのも悪くない

 

毛利が静かに目を閉じ迫る衝撃に耐えようとした瞬間…

 

『潔く、敗けを認めるとこが美しいってなら、俺は醜くて構わねえ』

 

「!!!」

 

悠介のセリフが毛利の脳内に響く。当初自分は、悠介のその言葉を醜いものだと

嘲笑った。しかし、その直後に魅せられた。

醜いと思った中で、煌めいていた美しい魂を。その姿に自分は感動した。

ならば自分も醜く挑まねばなるまい。

悠介が見せた美しさを追い求めるが故に、自分は彼と戦うのだから。

このままリタイヤはありえない。

 

「ふっ!この私も醜く美しく足掻くとするか」

 

そう言って毛利は静かに矢を撃った。毛利が同時に討てる矢の数は、最大で三本まで。勿論、一本は決まっている。

 

「ま、待っててね、大和。直ぐに回復して、援護に周るから」

 

建物の崩落を確認した京は、荒く息を吐きながらその場に座り込む。

その姿はマルギッテと同じく、満身創痍と言える状態だ。だからこそ京は、襲いくる魔弾に気が付けなかった。

 

「えっ?」

 

毛利の矢を受けた京は、静かにその場に倒れこむ。最早、起き上がる力も残っていない。

 

「全く、美しいこの私らしくない……勝ち方だ」

 

京が倒れた事を確認した毛利は、残り二矢の方角を見据えた後、静かに目を閉じる。ドン!と音を立てながら毛利は、地面に落下して気絶する。しかし、その表情は何処か清々しさを含んでいた。

 

◆◇◆◇

 

毛利と京の戦闘が終了した頃。

 

「おう!」

 

「ぬう!」

 

狭い一本道で二人の大男である、長宗我部と島津がぶつかり合っている。しかし圧倒的に有利なのは、長宗我部である。

 

「そらあ!」

 

長宗我部の膝蹴りが島津に直撃する。腹に力を込めていても無視できない衝撃が島津に襲い来る。

 

「うご!」

 

その痛みに島津は力を抜いてしまう。長曾我部はその時を見逃さずに…

 

「おう!」

 

「やべぇ!」

 

島津を壁に叩き付ける。その勢いと長宗我部のパワーも合わさり、その威力は並の物ではない。

そのダメージに島津は、耐えきることが出来ずに静かに膝をついてしまう。

 

「ガハハ!それなりにやれる様だが、所詮は我流。武を学んだ俺の敵ではない」

 

二人を分けたのは、武を知っているどうかの差。腕力的に二人に差して、差はないだろう。だからこそ、差を分けた。

島津は、ただ我武者羅に力を使うに対し、長宗我部は要所要所に力を爆発させる。たったそれで事が、二人の差となって現れる。

 

「さて俺も、そろそろ本陣に攻めに行くか」

 

島津の姿を確認した長曾我部は、そう言って背を向けて歩き出そうとするが…

 

「ま、待てよ。俺様はまだやれるぜ」

 

「ほう」

 

足を震わせながらもしっかりと、地面に立つ島津の声が届く。その言葉に長宗我部は、面白いと言わんばかりに、島津の方に向き直る。

 

「今ので気を失わんとは、なかなかに丈夫な奴よ」

 

「へ、俺様…タフさには自信あるぜ」

 

島津の言葉を聞いた長宗我部の表情が変わる。確かにあいつを見る前ならば、素直に賞賛していただろう。

しかし長宗我部は、知ってしまった。

本物のタフさを。だからこそ、島津の言葉に納得がいかない。自分がライバルと認めた男と同じモノを自信とする者。

だが、明らかに自分が経験した本物に遠く及ばない。

 

―――――気に食わんな

 

長曾我部は、それがある種の嫉妬でイラつきだと理解している。しかし、我慢できそうにない。

あいつは言った。『倒れても立ち上がるだけの小さな誇りだ』と。

だが、敵である島津にそれだけのモノが感じ取れない。まるで、悠介の品を下げられているように思う。

 

「いいだろう。お前のタフさが本物か、俺が確かめてやる」

 

これはただの八つ当たりだ。武人としても人としても正しくはない。しかし、長宗我部は認める事が出来ない。

だからこそ、全力で息の根を止める。

長宗我部は、重心を低くしタックルの体勢を取る。

 

「行くぞ!!」

 

そう言って駆け出した長宗我部の速度は、その巨体からは想像も出来ない程に速い。完全に足にきている島津には、受け止めるしか方法はない。

 

「くそ!!」

 

島津は残り少ない力を込めて堪える体勢に入るが…

 

「無駄だ!」

 

「ごふぅ!」

 

長宗我部のタックルは、島津の防御など欠片も気にせず、吹き飛ばす。数メートル島津は吹き飛び気を失う。

その姿を確認した長宗我部は、静かに背を向けて敵本陣の方へ足を進めた。

 

◆◇◆◇

 

長宗我部と島津の戦いに決着がつく、数刻前。

 

「どうした色男?逃げてばかりじゃ、俺には勝てないぜ?」

 

工場地帯のある場所で竜造寺は、敵である二人を前に余裕の表情で挑発を口にする。

 

「うるせえな!」

 

「そうだ、そうだー!直ぐに蹴り飛ばしやっから待ってやがれ!!」

 

竜造寺の挑発とも取れる言葉に風間とゲンは、何時もと変わらない口調で言い返す。しかし、その身体はボロボロであり、息も荒い。

 

「それは勘弁願いたいな。俺はファンを、待たしたりはしないのさ。来ないならこっちから行くぞ!!」

 

瞬間、竜造寺の姿がブレる。

 

「風間!!」

 

「わあってるよ!!」

 

二人は即座に後方に離れようとするが、それよりも早く竜造寺が二人の制服に手をかける。瞬間、二人の表情は驚愕に染まる。

 

「おっと。アイドルが自ら来てやってるだぜ?サインぐらいはねだってもいいだろ」

 

避けようとした二人の制服を掴んでいた竜造寺が、後ろに二人を押す。後ろに重心が乗った状態で、勢いよく後ろに押されたら、どんな奴でも吹き飛んでしまう。

 

「があ!」

 

「いって!」

 

自分達の力も利用され二人は大きく吹き飛ばされ、壁に激突する。そのダメージは見た目に反して軽くはない。

 

「どうだい?館長直伝の柔術は?」

 

地に倒れる二人を見下ろしながら竜造寺は問う。しかし、二人は答えず咳き込みながらも立ち上がる。

その姿に竜造寺は、ふぅ~と口笛を吹く。

 

「まだまだこれからぁ!」

 

「ああ、風間の言う通りだ」

 

何度も投げ飛ばされたなお、二人の戦意は失わない。その事に竜造寺は、軽い驚きを感じながら、何処か悠介と似たモノを感じている。

 

「そうか。なら最初に、風間って奴を倒すか」

 

そう言って竜造寺は、口にくわえていたバラを手に取り、そのまま風間に向かって投げつける。

トン!とバラが、風間の靴下と靴を地面に縫い合わせる。

 

「なっ!と、とれねえ!!」

 

その事に驚き何とか外そうとする風間だが、バラがきつく地面と靴を貫いている為、外すことが出来ない。

 

「バカ!無闇に力を込めるな!!」

 

それを見ていたゲンが、風間に忠告の声を発するが、余りにも遅すぎる。

 

「そっちの色男の言う通りだぜ」

 

「やべえ!!」

 

竜造寺が風間の顎に手の平をのせて、そのまま上にかち上げる。その勢いによって、風間の全体重が、上に乗った事を確認した竜造寺が、指で風間の顔を覆い、そのまま地面に叩き付ける。

ドン!と音を立てながら、風間の身体から力が抜けていく。その姿はどうみても完全なる戦闘不能だ。

 

「まず、一人」

 

風間が戦闘不能になった事を確認した竜造寺は、地面に刺さったバラを手に持ちながら、ゲンの方に振り返る。

 

「ちぃ」

 

一連の動作の中で、自分が介入できる隙が無かった事が、余計に自分と竜造寺との差を明確にしている。

 

「後は、そっちの色男を倒して、さっさと敵本陣に攻め込むとするか」

 

ゲンが、自分の力に怯えている事を知った竜造寺はお気楽に告げる。もう、この戦いは終わったも同然。それが、竜造寺の考えだったが…

しかし、その言葉がゲンの意識を変化させる。

 

――――こいつを一子の前に立たせて、良い訳ないよな

 

思い出すは、始まる前に自分に元気よく決意を表明した幼馴染の姿。

 

――――一子の負担を軽くしてやる為にも、こいつは俺が倒す!!

 

自分は言った。出来るだけフォローしてやると。そう言った自分が、勝手に諦めるなんてダサすぎる。

 

「へぇ」

 

そんなゲンの変化を感じ取った竜造寺が、獰猛な笑みを浮かべる。今敵であるゲンが、

している目つきは、悠介にそっくりなのだ。

 

『全てが終わってないなら、結果は誰にも分らねえ。だからこそ、挑むぜ』

 

そう言って自分達に勝負を挑んで来た悠介の目によく似ている。故に、竜造寺はさっきよりも真剣になる。自分が目標とする男と同じ目。デモンストレーションには、相応しすぎる。

 

「何、敵を前にして、考え事してやがる!」

 

悠介の事を考えていた竜造寺に、ゲンの気迫の籠った声と拳が迫る。しかし竜造寺は、慌てずにかわし、そのまま制服を掴む。

 

「別に油断したわけじゃない。その攻撃は悪手だ。色男」

 

そう言って制服を引き寄せようとした竜造寺だが…

 

「その手は見飽きてんだよ!!!」

 

「なっ!」

 

いつの間にか制服を千切り、自由になったゲンの顔が正面に迫る。

 

――――バカな!千切れない様にしていたはずだぞ!!それに…

 

ほんの僅かな動揺と脳裏に浮かぶ過去が浮かび上がった故の硬直。その隙をゲンは見逃さずに…

 

「おらあ!!」

 

気迫一閃のヘッドバットが竜造寺の顔面に直撃する。その威力に竜造寺は、堪える間もなく吹き飛ばされる。

 

「ッ――――――」

 

無言で竜造寺を見つめるゲン。今の一撃で竜造寺は倒れるどころか、膝すらつかない。それ故に一切油断することなく竜造寺を睨みつける。

 

「おいおい。アイドルの顔面に、撃っていい一撃じゃないだろ」

 

顔を上げた竜造寺の額から血を流しているが、楽しそうに笑っている。その表情とセリフは、あまりにも一致していない。

 

「そんな事言ってる、面構えじゃあねぞ」

 

「それもそうだな。悪い悪い…随分と懐かしい事(・・・・・)が起きたんでな」

 

直後、二人は無言になり、お互いの様子をうかがう。

ある意味二人の本当の戦いが始まったのは、長宗我部と島津の戦いが終わった時と同時だった。

二人の戦いは、これより始まる。

 

◆◇◆◇

 

川神本陣の裏側。そこは苛烈な戦場と化している。

 

「いけ!!」

 

尼子の号令と共に、あずみを囲っていた者達が同時に襲い掛かる。

そんな中でもあずみは落ち着きながら、手に持った二刀の小太刀で、襲い掛かってる者を切り裂く。元々あずみは、九鬼に仕える前は傭兵として生きていた。傭兵において、一対多の戦闘は慣れている。

倒れ行く兵の合間を、凄まじいスピードで駆ける存在を確認したあずみは、その影に向かって加速する。

ガキィン!と金属と金属がぶつかり合う音が、戦場に響く。

 

「ちぃ、すばしこいいガキだぜ」

 

「褒め言葉と受け取っておく」

 

ぶつかり合いは、ほんの僅かな時間。直後二人は、再び大きく間合いを取る。

 

――――それにしても何だ?あいつの速さに感じる違和感は?

 

「せんとうちゅうにかんがえこととは、よゆうだな」

 

「しまった!!」

 

背後に現れた尼子の存在に驚きながらも、鉤爪を受け止めるあずみ。しかし、敵は一人ではない。故に敵の一人に注視することは出来ない。

 

「いまだ!!かかれ」

 

尼子の号令を受け、周りにいた兵達もあずみに向かって襲い掛かる。回避する間を奪う訓練された兵たちの動き。

しかし伊達に修羅場を経験していないあずみは悲観をしない。

 

――――回避しかねえな

 

即座にそう判断したあずみは、メイド服に隠していた煙玉を破裂させる。敵が煙に動じた僅かな隙を見つけその場から離脱する。

そしてその煙は、近くで行われていた戦闘にも影響を及ばす。

 

「け、煙じゃと!!」

 

「チャンス!!」

 

煙が視界を覆った瞬間、宇喜多は不死川に接近する為に走り出す。対して、不死川は不安げな表情をみせる。

 

「何処じゃ?何処から来るのじゃ」

 

視界が封じられた中で、焦った様に辺りを見渡す。不死川の柔術は、その性質上どうしても、相手を真正面に据えねばならない。

しかし、今の状況ではそれは難しい。

 

「馬鹿者!味方が不利になる様な手を使ってどうする!!」

 

不死川は、あずみに対する怒りの声を涙目になりながら発する。そして皮肉な事にその声が、同じく視界を封じられた宇喜多に自分の存在を告げてしまう。

 

「そこやな!!」

 

宇喜多の声と共に、煙を吹き飛ばしながらハンマーが、不死川に迫る。タイミング的に不死川に回避する事は出来ない。

 

「にゅわああああ!!」

 

バゴン!とハンマーの攻撃を受けた不死川が、悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。その姿に宇喜多は「やったか」と思ったが。

 

「にゅわあああああ。痛いのじゃ」

 

「ほへー。今ので立てるとは、案外丈夫なんやな」

 

悲鳴を立てながらも立ち上がる不死川の姿を見た宇喜多は、感心した様に呟く。何とも間抜け感が強いが自分の一撃でも倒れなかったのだ。油断は禁物だと判断する。

 

「生憎、此方は受け身も上手くての」

 

「そうかい。ほな、もう一発いっとこか」

 

「其方らに、情けはないのかああああ」

 

「情け?敵に掛けるべき情けってあるんかいな」

 

不死川の悲鳴に宇喜多は、首を傾げながら問う。

 

「宇喜多!!早く倒してこっちに来てくれ。このメイドなかなか手強い」

 

「まずい!!」

 

そんな二人の戦闘を視界に捉えた尼子とあずみは、真逆の反応を見せる。二人の高速戦闘は、第三者の介入で崩れるほどにギリギリなのだ。そんな中にスピードはないとは言え、腕利きである宇喜多の参戦はまずい。

 

「そうやな。尼子の頼みもあるし、ちゃっちゃと終わらせよか」

 

そう言って宇喜多は、ハンマーを構えながら不死川に接近する。そのままハンマーを放とうとした瞬間…

 

「かかったのじゃ」

 

「なに!?」

 

さっきまで弱弱しい印象からは想像もつかない程の速さで、不死川は宇喜多の懐に侵入する。

 

「にょほほ。高貴な此方の演技に、見事騙されたみたいじゃな」

 

高笑いしながら不死川は、宇喜多を投げる準備に入る。実際は、ギリギリだ。しかし不死川のプライドが弱音を吐く事を拒否した。演技と言う名の嘘にしてしまったのである。

本物である嘘。故に宇喜多も見破ることが出来なかった。

 

「宇喜多!!」

 

「おい、隙だらけだぜ」

 

その光景を見ていた尼子が驚愕の余り、一瞬意識をあずみから逸らしてしまう。その隙をあずみは見逃さず、責め立てる。

 

「しまった!!」

 

完全に後手に回ってしまった尼子に、防御以外の手はない。そして宇喜多もまた、絶体絶命の危機に瀕している。

 

「これで終いじゃ!」

 

「終わりだぜ」

 

不死川とあずみの二人が同時に勝利宣言する。宇喜多と尼子の二人は、敗北を覚悟するが…その瞬間だった。

毛利と京の戦闘の終了は、正にこのタイミングだった。そして毛利には、二人のピンチが見えていた。

だからこそ、毛利は…

 

「あで!」

 

「なっ!」

 

二人を助ける為に矢を放つ事を決断していた。完全なる奇襲攻撃。二人は、攻撃を中断せざるしかなくなる。

宇喜多は、空中で自由を取り戻す。そして同時に、不死川を射程に収めている。そんな状況で宇喜多が思い出すは。

 

『戦闘中のアクシデントは、対応できねえ奴がわりぃに決まってんだろ』

 

似た状況に陥った時悠介が、投げかけた一言。卑怯やないかとほざいた、自分を戒めた一言。そうだ、自分達に経緯など問題ではない。

必要なのは結果だけ。どれだけ接戦しようが、敗けは敗けでしかない。

 

――――なら迷う事はないわな

 

宇喜多は大きくハンマーを振りかぶり、そのまま…

 

「喰らいや!!」

 

「にょわあああああああ!!」

 

渾身の一撃が不死川を吹き飛ばす。吹き飛ばされた不死川は、その威力と壁にぶつかった衝撃で気絶する。

 

「ちぃ」

 

矢によるダメージを受けたあずみだが、不死川とは違い即座に体勢を整え、尼子に向かって攻撃を開始しようとする。

しかし尼子の方が速い。

 

「喰らえ!!」

 

あずみの後方に回り込み鉤爪による斬撃与える。

 

「攻撃が軽いぜ!」

 

尼子の攻撃力では、あずみを戦闘不能に持っていけない。悔しがる尼子の脳裏に…

 

『時が続く限りだ』

 

悠介の言葉が思い起こされる。それは、自分と戦闘中に発せられた言葉。気弱な自分を奮い立たせてくれた言葉であり、自分を奮い立たせる鼓舞である。

そうだ。まだ、時間とチャンスは、自分が持っている。

ならば此処で手を止めるわけにはいかない。

 

影縫い(かげぬい)

 

瞬間、あずみの身体の同じ場所に四つの斬撃が襲いかかる。

 

「!。そうか…お前()は最初から…」

 

その攻撃を受けたあずみは、自分の違和感の正体を知る。しかし、受けたダメージが大きすぎるため倒れるしかない。

 

――――クソッ!此処までかよ。英雄様に、あそこまで啖呵きっといて情けねえ。でも、こいつらを英雄様の前には行かせねえ!!

 

倒れる間際あずみは、最後の力を振り絞り歯に仕掛けたボタンを押す。それと同時に、辺りに仕掛けられた爆弾が爆発し、爆炎が辺りを包む。

爆炎が晴れた後には、大きくダメージを負った尼子隊と何とかダメージを最小限にした尼子と宇喜多の二人がいた。

不死川とあずみは、完全に気絶している。

 

「あいたた。あのメイドも無茶すんなあ。尼子、大丈夫か?」

 

「ああ、だいじょうぶだ。でも、じまんのあまごたいが」

 

「こらあ、一旦体制を立て直した方がいいな」

 

「ああ、あたしも同意見だ」

 

「ほな、行動おこそか」

 

そう言って二人は、傷ついた仲間の手当てを開始した。

 

◆◇◆◇

 

同刻 天神館本陣近く、その場所に多くの川神学園の生徒が倒れている。倒れている生徒の中には、クリスと準の姿も見える。

そんな状況を作り上げた大村ヨシツグは、未だに意識のあるクリスと準を見下ろしながら告げる。

 

「姿形だけで相手を見限ったお前たちの負けだ。もしもお前らに、もう少し俺を観察する目があれば、俺の体幹の矛盾に気が付けたモノを」

 

そう言いながらヨシツグは、準とクリスの携帯を破壊する。これにより自身の情報が相手に回ることはない。

 

「くぅ、まさか此処までの強さとは」

 

「ああ、全くだぜ。俺の委員長パワーでも勝てないとはな」

 

「そろそろ、俺も貴様らの本陣に向かう。貴様らは、そこで這いつくばっていろ」

 

そう言いながらヨシツグは、歩き出す。しかし、ガシィ!と足を握る二つの手によって、その動きは止められる。

 

「そう簡単に本陣にはいかせんぞ!!」

 

「まあ、そう言うこった。若にも任されたしな」

 

クリスと準は、ボロボロになりながらもヨシツグを止めようとする。しかし、そんなモノで止まる訳がない。

 

「ならば、眠れ」

 

鋭い拳が二人の意識を簡単に刈り取る。足から手が離れた事を確認したヨシツグは、意識を失った二人に向けて告げる。

 

「気絶した程度で離す手など所詮、貴様らの行動が形だけだったと言う事だ」

 

そう言いながらヨシツグが、思い出すのものは。

 

『意識がなくとも本能で動けばいいだけだろが』

 

無意識の中で自分と戦った悠介の姿。その言葉と行動に比べれば、この程度は軽すぎる。

そしてヨシツグは、静かに敵本陣に向けて歩いて行った。

 

◆◇◆◇

 

「とおっ!」

 

闇を切り裂くように鋭い蹴りが鉢屋を襲う。しかし、その攻撃は空をきる。

 

「無駄だ。それは、それがしの分身。本体ではない」

 

その言葉と同時に、辺りに鉢屋の分身が出現する。その数は十体以上おり、闇に紛れている者もいる。

 

「わー。手品みたいだね」

 

しかし、小雪も気にした様子もなく蹴りを連発する。だが、その全ては、空振りとなり意味をなさない。

 

「今度はこちらからだ」

 

その言葉と共に、クナイが一斉に放たれる。だが、どれも小雪を狙っていない。狙っているのは、冬馬と大和の二人だ。

大和はどうにか回避できるが葵は回避できない速度であるが…

 

「させないよーだ」

 

二人に襲い掛かる全ての攻撃は、小雪の蹴りによる風圧で防がれる。

 

「まだだ」

 

しかしその程度は織り込み済み。鉢屋の言葉と共に二人の上空に爆弾が落とされる。

 

「だから、させないよー」

 

それもまた小雪の蹴りにより海に飛ばされる。

 

「これも失敗か」

 

「ぶーぶー。さっきから僕と戦ってくれないじゃん」

 

鉢屋の行動に異論と不満を述べる小雪。だが事実、鉢屋は一度も小雪と戦闘らしい戦闘をしていない。

むしろ小雪の隙を突き、冬馬と大和ばかり狙っている。

 

「然り。それがしの仕事は、敵の頭脳の破壊。それがなされれば、手段や経緯は関係ない」

 

小雪の言葉に鉢屋は、静かに事実を述べる。その言葉は、冬馬と大和を恐怖させるだけのモノが含まれている。

しかし、小雪には関係が無い。

 

「それなら、無理やりにでも相手してもらうもーん」

 

そう言って地を蹴った小雪は、真っ直ぐに鉢屋に迫る。

 

「無駄だ」

 

しかし、小雪が迫るよりも早く鉢屋は、闇に紛れる事で身をかわす。

 

「そこでしょー」

 

そんな闇に消えた鉢屋を小雪は、迷う事無く見つけて蹴りを放つ。

 

「!!」

 

ピンポイントでの攻撃に鉢屋は、さっきまでいた場所まで戻る事でかわす。

 

「なぜ、それがしの居場所が」

 

「だってー君、皆の死角ばっかにいるんだもん。そらー気が付くよー」

 

鉢屋の疑問に小雪は、へらへらと笑いながら答える。簡単に言うが、気配すらごまかしていたのだ。それを見抜くなど、何という戦闘センスかと鉢屋は内心で驚愕する。小雪が見せる笑みは、どことなく自分を何処かバカにしている様に思えるが、鉢屋は気にしない。

 

「なるほど。それがしも、まだまだ未熟と言った事か」

 

「あれー?悔しくないの?」

 

小雪は、そんな鉢屋の反応に疑問を抱く。そんな小雪の問いに鉢屋は、今までと変わらない口調で答える。

 

「悔しがるもの何も、それがしよりも、其方が上手であったと言う事だ」

 

「変なのー」

 

「それに」

 

「うん?何々ー」

 

「其方がそれがし達、忍びを理解してないのでれば、何ら問題はない」

 

「?。どういう事?」

 

鉢屋の言葉の意味を理解できない小雪は疑問を口にする。しかし、その言葉の真意を直ぐに理解する事になる。

 

◆◇◆◇

 

「おや?どうかしましたか、大和君」

 

小雪と鉢屋が戦闘を続けている頃、冬馬の元に先ほど分断されていた大和が覚束ない足取りで近づいて来る。

その事に疑問を持つ冬馬だったが…

 

◆◇◆◇

 

「ついさっき、三人に薬を使い感覚を鈍くした」

 

「それがどうしたって言うの?」

 

「つまり今、貴様らは、ある程度の違和感を感じないと言う事だ」

 

「??」

 

◆◇◆◇

 

「大和君?」

 

冬馬は、ある程度の位置から動かなくなった大和を心配するが、その問いかけにも大和は一切反応しない。

しかし、そんな冬馬の元に…

 

「葵!!俺はこっちだ」

 

反対側から大和の声が届く。

 

「!!」

 

冬馬は、その声に反応して声がした方へと振り返る。そこには、確かに大和がいる。つまり目の前の大和は…

その事に驚愕する冬馬をしり目に、偽物の大和が膨れ上がりそのまま爆発する。ドォン!と冬馬を中心に小さな爆発を起こす。

 

◆◇◆

 

「つまり偽物が近くにいても気が付けない」

 

爆炎が立ち込める中鉢屋は、静かに告げる。しかし、小雪にとっては、最早そんな事関係ない。呆然としながらも、爆発があった方へと駆ける。

 

「トーマ!!」

 

鉢屋に背を向け冬馬の元に走っていく。その背を鉢屋はあえて見逃す。

 

「大丈夫!」

 

「おい!葵。大丈夫か?」

 

二人の声に葵は、ギリギリと言った感じで反応する。

 

「ええ、どうにか。しかし、見事にやられてしまいました」

 

そう言った後冬馬は、大和に視線を向ける。

 

「大和君。後は任せました」

 

そう言って冬馬は、静かに目を閉じ気絶する。その言葉を聞いた大和は、すぐさまこの場から離れようとする。

しかし鉢屋が、それを許す訳もない。

 

「行かせん」

 

大和に向かってクナイを投げつける。その攻撃を背に感じながらも大和は振り返らない。

なぜなら…

 

「絶対に許さない!!」

 

自分の大切な人を傷つけられた小雪が、全てを撃ち落し鉢屋に迫る。

 

「やあ!」

 

今までの中で、最高の威力を持った蹴りが放たれる。しかし鉢屋は一切動じない。

 

「回避に専念すれば、躱せぬモノではない」

 

鉢屋は、距離と影を用いて危なげなくかわす。しかし、同時に大和を倒すのが不可能だと理解すると…

 

「ただでは、逃がさん」

 

クナイを小雪の死角から投げつける。投げられたクナイはまるで吸い込まれるように…

 

「け、携帯が!!」

 

大和が持っていた携帯電話を破壊する。しかし大和には、走るしか手はない。大和の携帯を破壊した事を確認した鉢屋は、その場から離れようとする。

しかし、小雪がそれを許さなない。

 

「絶対に行かせないよ!!」

 

小雪の出す威圧感は、常人ならば気絶させれるレベルである。しかし、鉢屋は動じずに静かに闇に紛れる。

 

「それがしの仕事は、頭脳である軍師の撃破。それが成された今、此処に留まる理由はない」

 

そう言って鉢屋の気配は完全に消える。すでに小雪では気配を感じることが出来ない。

 

「逃げるなー!!この卑怯者!!!」

 

小雪の怒号が響く中、鉢屋の気配がなくなった事を理解した小雪は、気絶している冬馬の手当てをするために彼の元に急いだ。

 

◆◇◆

 

川神の本陣に移動している鉢屋に、小雪の声が届く。卑怯者…何ら間違いがない名だ。

自分自身好きで嫌われ役をやっているわけでは無い。しかし、それが鉢屋壱助と言う人間なのだ。

そんな鉢屋が思い越すは…

 

『どんな手でも、てめえが後悔してないならば、それはそいつの誇りだろ。認める事はあれど、貶す理由が見当たらねえよ』

 

自分のやり方を知ってもなお、受け止めそして認めた男の言葉。たった一人の理解者がいれば、人とは救われる。

だからこそ鉢屋は、自分のする行為に何の躊躇いはない。

 

「それがしは、十勇士の影。汚れるのは、それがしの使命なり」

 

そう呟き鉢屋は、敵の本陣に足を進めた。

 

◆◇◆◇

 

鉢屋の攻撃から逃げ出せた大和は、その足で敵本陣を目指している。特に理由があったわけでは無い。でも、本陣に仲間がいれば、自分の知略が生かせるかもしれない。

その想いだけで大和は進んでいる。

自分の姉である百代に鍛えられた回避力と危機管理能力は、大和を無事に敵本陣まで連れて行かせる。

建物の物陰から様子をうかがう。

 

――――敵は…大将を入れて二人。他は、出払ってると視て間違いない。これは、チャンスだ!!

 

敵の本陣の情報を得た大和は、今がチャンスだと確信する。しかし、自分だけではどうしようも出来ない。

仲間が来るのを静かに待つしかない。

 

――――誰でもいい。理想とするのは、クリスの部隊が来ることだが…

 

携帯を潰された大和には、自身の仲間たちの現状が理解できない。自分の武士娘らは、深いダメージを負ってそれどころではない事に。

 

――――おかしい。どうして、誰も来ない?

 

暫らく待っても仲間たちが来ない事に疑問を持つ。少ないならわからなくもない。だが、全く来ないのはおかしい。

 

――――まさか全員やられたのか?

 

彼女たちの実力を知っているからこそ、考えなかった疑問が沸き上がる。しかし、誰も来ない以上、その考えも否定できない。

 

――――このまま待っていても埒が明かない。仕掛けるか…

 

そう言って大和は、持っていた笛を吹く。

 

――――これで来てくれるはずだ。よし、行動を開始するか

 

大和は、笛を鳴らして数秒待ち、決意を固める。ゆっくりと物陰から姿を現す。

 

「!。何奴」

 

大和の気配に気が付いた島が、槍先を向けながら問う。

 

「此処で名乗る必要はないだろ。ってか、何で先生が此処にいるんだ」

 

「確かに、此処にいると言う事は敵で間違いなし。それと、それがしは貴殿らと同級生である!!」

 

「うそ!!」

 

「真実だ!!」

 

島と大和がくだらないやり取りをしていると…

 

「島!何をしてる早く倒さぬか」

 

石田の威圧感ある声が届く。石田の言葉に乱れていた島の心は、落ち着きを取り戻す。

 

「御大将。誠に申し訳ございません」

 

その言葉を聞いた島は、さっきまでの雰囲気から想像もつかない程、静かに大和に向かって槍を構える。

 

「お覚悟を」

 

島の槍が大和に届こうとした瞬間…

 

「到ー着!!大和来たわよ!!」

 

川神一子の薙刀が、大和に迫った槍を防ぐ。

 

「助かったぞ、わんこ」

 

「エッヘン。こういう時には活躍するんだから」

 

大和はピンチを救ってくれた一子を褒める。褒められて嬉しそうにする一子。

和やかな空気が二人を包む中で…

 

「それがしの相手は、其方の少女で間違いはないか」

 

「上等よ!!て、何で先生が此処にいるの!?」

 

「それがしは、同級生でござる!!!」

 

島の発言に驚愕する一子。しかし島は、怒りながらも槍を構えた瞬間、今までの姿が嘘の様に、静かに唯敵を見据える。

その姿を見た一子もまた、目の前の敵が明らかに強者である事を感じ取り、武器である薙刀を構える。

二人は静かに己の武器を激突させた。

 

◆◇◆◇

 

「島の奴め、このおれをほって始めるとは。まあ良い、やはり奴もまた武人と言う訳か。それでおれの敵は、お前で違いないか」

 

「ああ、違いないね」

 

石田の言葉を聞いた大和は、スッと構えをとる。その構えを見た石田が驚愕する。その構えはどう見ても…

 

「お、お前は」

 

「ふっ」

 

「ド素人ではないか!!何だ、その隙だらけの構えは!!!」

 

「あ!やっぱり、ばれた?」

 

大和が素人だと知ると石田は、怒りの声を上げる。

 

―――――良いぞ。もっと冷静さを失え

 

その姿を見ながら大和は、作戦どうりだと笑みを浮かべる。怒りは、動きと思考を単純にする。

単純になった思考と攻撃ならば、武神に鍛えられた回避能力で、どうにかなると考えている。

しかし、そう簡単に物事は運ばない。

 

「まあいい。このおれの出世街道に立ちふさがるモノは、全て斬り捨てればいい。それだけの事だ」

 

そう呟きながら石田は、静かに刀を抜く。すると、今までの怒りと言った感情が消え失せ、研ぎ澄まされた闘気が場を支配する。

 

「!?」

 

その変化は、素人である大和でも肌で感じ取れるレベルである。想定していない事態に大和は驚愕をあらわにする。

 

「行くぞ」

 

――――まずい!!

 

石田の呟きが発せられると同時に、百代に鍛えられた本能が警告を鳴らす。大和は、その警告に従い身を反らす。

 

「ほう」

 

「ぐう!」

 

その瞬間、シュラン!と鋭い剣戟が、大和のいた場所に放たれる。石田は、攻撃を躱した大和の動きに驚きの声を上げる。

 

「どうやら、ただの素人と言う訳ではないようだ。考えてみれば、素人が此処に辿りつける訳がない」

 

――――まずい。予想以上に速い

 

石田は静かに、大和に対する評価を改める。大和は、予想以上の強さに驚愕している

 

「まあ今度は、その身のこなしも計算に入れて、攻撃すればいいだけの事」

 

そう言った石田は、深く踏み込みながら刀を大和に向かって振り下ろす。その速度は、さっきよりも数倍速い。

 

「こなくそ!!」

 

大和は、その攻撃を前にスライディングする事でかわす。しかしその避け方は、悪手である。

 

「甘いぞ!」

 

石田は軸足を中心に、大きく回転し回転斬りの要領で、地面に転がった大和に向けて刀を振るう。その攻撃を大和は、避ける事が出来ない。

大和に攻撃が当たろうとした瞬間、タッタッと、壁を走る音が聞こえてくる。その音は、

確実に石田達に近づいて来ている。

そして…

 

「源義経 推参」

 

その音の主が、建物の壁を蹴って、大和に攻撃を仕掛ける為に、背を向けている石田に向かって刀を振り切る。完全に死角からの奇襲。

声に反応してからでは、絶対に間に合わない必殺のタイミング。

これで勝負は決まるはずだった…

 

「なっ!」

 

驚愕の声を上げたのは、義経と名乗った少女だった。完全なタイミングでの攻撃を。決まったと思った攻撃を石田は…

 

「思ったよりも重いな」

 

刀を使い完璧に防御している。そして未だに驚愕する義経を…

 

「何時まで固まっているつもりだ!!」

 

「!!」

 

押し飛ばす。防がれた事に驚愕しながらも義経は、空中で体勢を立て直して、地面に着地する。

 

「どうやら漸く、このおれに相応しい敵が現れた様だな」

 

石田は、そう言いながら義経に向き合う。最早彼に、大和の存在は映っていない。

ただ、敵と戦う事だけに集中する一匹の武士(モノノフ)となった石田は、静かに闘気を研ぎ澄ませ、不敵な笑みを浮かべた。

いよいよ祭りは最後の局面を迎える。




次回で一応東西交流戦は、終わろうと考えてます

毛利の矢の飛距離については、矛盾してますが触れないでくれると助かります

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