真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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悠介と東西交流戦 その3

「国崩しぃぃぃぃ!!」

 

大友の掛け声と共に辺りを爆炎が包み込む。既に、何人もの生徒が大友の手によって戦闘不能に陥っている。

 

「どうした東の!貴様らの実力はこんな物か!!」

 

大友の挑発と取れる言葉に辺りいた川神の生徒たちは耐えていた。今、挑発に乗って出ていく事は倒してくれと言ってるのと同義だからだ。

 

―――ふむ、なかなか出てこんな。東の武士は腑抜けか?

 

 

辺りを静寂が支配し始めた事に、大友は若干の失意の念を覚える。楽しみにしていなかったと言えば嘘になる。

今回の戦いの経験が、悠介と戦う時に役立つモノになると思っていた。

しかし、今の状態ではそれは求められない。

 

「どうした!!貴様らはそれでも、本当に武士か!!」

 

今度も無言が返答であると思っていた大友に、

 

「私が相手だと知りなさい」

 

凛とした声が届く。

 

「ほほう」

 

大友は笑みを浮かべながら、声がした方に視線を向ける。そこにいたのは、軍服を着た赤い髪の女性だ。

しかし、大友の本能は彼女は強いと告げていた。

彼女の名は、マルギッテ・エーベルバッハ。

クリスと同じドイツ出身であり、彼女のお世話役として日本に来日した現役の軍人である。

加えて、戦闘狂な面があり、強者との戦いを望む根っからの武人タイプである。

 

「おもしろい!この大友の国崩しに、貴様一人で挑むと言うか南蛮人」

 

「ええ、戦場で何度かあなたの様な、大火力の相手とは戦い慣れている」

 

「貴様が今まで戦って来た者達と、この大友を同じにしてくれるなよ」

 

「ほう、面白い」

 

「来い!!西方十勇士が一人、大友焔が相手になる」

 

大友焔とマルギッテ・エーベルバッハは、お互い静かに自分の得物に手をかけた。

 

◆◇◆◇

 

「ふむ、大友の奴は美しい相手に出会えた様だな」

 

 

大友の様子を後方より、眺めていた毛利は二人の戦いを美しいと評する。

 

「できれば、この美しい戦いを眺めて居たいが...」

 

そう呟いた毛利は、静かに自分の前方に矢を放つ。瞬間、二つの矢は空中で激突し破壊される。

 

「なかなかに美しい狙撃。この私と戦うに値する者だ」

 

そう言って毛利は、自分の遥か前方に視線を向ける。常人の眼では決して見ることが出来ない距離。しかし毛利の目は、確かに敵を捉えている。

 

「仕留めれなかった」

 

そう呟いたのは、毛利のいた場所から離れた場所にいる椎名京。彼女は再び矢をたがえ、遥か先にいる敵である毛利を睨み付ける。

 

「大和の為にも頑張る」

 

距離にして数百メートル離れた場所で、二人の弓兵は開戦を告げた。

 

◆◇◆◇

 

二人の十勇士が戦いに入ったのと時を同じくして、工場某所でも動きに変化が現れる。

 

「此処から先は通さねえ!!」

 

島津岳人は、周りを囲まれない狭い道で天神館の生徒を相手取っている。自分の長所と短所を理解した作戦は功を奏し、既に何人もの敵を倒していた。

今も一人の敵を見事撃破してみせた。

そんな岳人の側に...

 

「ガハハ!東にもなかなか骨がある奴がいるな」

 

「ああ!?」

 

一つの高笑いが届く。そこに視線を向けてみれば、

 

「面白い。西方十勇士一の力自慢、長宗我部宗男が相手取るにふさわしい敵よ」

 

上半身裸の男が悠然と佇んでいる。しかし何よりも驚くべきなのは、その周りには何人かの川神の生徒が倒れている。

 

―――こ、こいつ!!今の一瞬で倒したってのか

 

さっきまで、この男の姿はなかった。つまり、現れて直ぐに、自分に気づかれずに何人かを倒したのだ。

 

「(あいつを此処から先に行かせる訳にはいかねえな)やってやろうじゃんか!!」

 

「それでこそ、倒しがいがあると言うものよ」

 

「行くぜ!!」

 

「来い!!」

 

狭き一本道で二人の力自慢は激突する。

 

◆◇◆◇

 

またある所では...

 

「お!ゲンさんじゃん」

 

「何だ、風間か」

 

「何だってひどくね?」

 

「こんな事で拗ねるな。めんどくさい」

 

風間と喋っている少年の名は、源忠勝。大和たちと同じくF組の生徒である。あだ名は「ゲンさん」

不良に見られがちだが、面倒見がよく根が優しい少年だ。曰くツンデレ。

何度も風間ファミリーに誘われていて、それを断っている。因みに、川神一子とは同じ孤児院出身の為、何かと気に掛けている。

そんな二人も交流戦では、戦士として戦っており、何人もの敵を撃破している。

 

「いやー、それにしてもそっちはどうよ?」

 

「何とかやれてるって感じだな。だが、なかなかに手強い」

 

「だよな~。俺もそう感じたぜ」

 

現在二人は、お互いの情報を交換している。そんな二人の側に、

 

「へい。そこの色男二人。暇なら俺の相手をしてくれないか?」

 

一つの男の声が届く。

 

「ん?誰だお前」

 

「阿保。どう考えても敵だろ!確か、竜造寺だったか?」

 

風間は目の前に現れた男に気楽に話しかける。ゲンは風間の気軽さにツッコミをいれながら、大和から貰っていた情報から名を確認する。

 

「ふ、男にも知られるとは、俺も有名になってきな」

 

「あ~!!思い出した。ニュース番組によく出てる奴だ!!」

 

「その通り!!西方十勇士の一人竜造寺だ」

 

「ちぃ、幹部クラスか」

 

「おお、いいねえ~。燃える展開だね」

 

竜造寺の登場に二人は各々の反応を見せる。両者の反応に竜造寺は、薄く笑みを浮かべるが、

 

「さて、世間話はこれまでにして、そろそろ始めようか」

 

瞬間、アイドルとしての表情は消え失せ、一人の武人としての表情に変わる。

その変化は、二人は全ての意識を竜造寺に向けさせるには充分過ぎた。

 

「風間」

 

「わかってる。こいつは強え」

 

「行くぞ」

 

闘志が満ちると同時、三人は同時に地を蹴り戦いを始めた。

 

◆◇◆◇

 

「よし!流れが、変わってきてる」

 

「ええ。十勇士を足止めしただけでも、流れは変わってきて来ますね」

 

戦況を見据える二人の軍師は、自分達の思惑通りの流れの変化を喜んでいた。

 

「これで十勇士を撃破出来れば」

 

「間違いなく、流れがこちら側に傾きますね」

 

そう言って、その為の作戦を考え始める二人。そんな二人の影より、

 

「然れば、そうならない為に、敵の頭を潰すのは戦の初歩なり」

 

静かな声が届く。

 

「え?」

 

「葵、後ろだ!!」

 

その突然の声と共に、冬馬の後ろに忽然と鉢屋が現れる。

 

「さらば」

 

未だに反応しきれていない冬馬に向かって鉢屋は、クナイを振り下ろす。

その攻撃が当たろうとした瞬間...

 

「させないよーだ」

 

気楽な声が鉢屋の耳に届き、その声と同時に空を裂く鋭い蹴りの音が届く。

身の危険を感じた鉢屋は、すぐさまその場から離れる。直後。ブン!と鋭い蹴りが、鉢屋のいた場所に放たれる。

 

「助かりました。ユキ」

 

「ウェーイ。大丈夫トーマ?」

 

「ええ、ユキのおかげで助かりました」

 

冬馬の危機に現れた少女の名は、榊原小雪。S組所属の葵冬馬の幼馴染であり、蹴り技を得意とす武人でもある。

好物は、マシュマロ。

 

「お前は十勇士だな」

 

「然り、それがしの名は鉢屋壱助。西方十勇士の一人」

 

葵の側に駆け寄った大和の言葉に鉢屋は答える。

 

「しかし、なぜ私達を?大将を討ちに行くべきではないのでしょうか?」

 

「我らにも、我らの事情と言うモノがある」

 

「流石に話してはくれませんか」

 

情報を聞き出すことに失敗した冬馬は、静かに息を吐く。どうやら、目の前の敵は、情報の大切さを理解できている様だと。敵の危険度を判断する。

大和と葵がその判断をしている最中にも事態は動く。

 

「それがしの目的と目標の為、貴殿らには此処でリタイアして貰う」

 

「そんな事させないよー」

 

そう言って、二人に駆け出そうとした鉢屋に、小雪が立ちはだかる。

 

「やはり、倒さねば進めぬか」

 

「トーマ達は、僕が護るのだ」

 

「いいだろう。忍の戦い方を見せてやる」

 

そう言って鉢屋は夜に紛れた。

徐々に激化する東西交流戦。

その中で、十勇士達は静かにその牙を見せ始めた。




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