真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
悠介は学長室を出た後、自分の荷物を取りに帰る為教室を訪れている。悠介が教室の扉を開けると、いくつもの視線が悠介に突き刺さる。その視線の大半は恐怖である。
悠介は天神館の札付きであり、誰だって好き好んで、関わろうとはしないのが現実だ。そんな視線を受けながらも悠介は、自分の荷物を取り再び教室から出ていこうとした時、
「今回も、派手にやった様だな悠介よ」
何処からか悠介に向かって、言葉が投げかけられる。その言葉に対して悠介は、何時もと変わらない口調で正体不明の声に向かって話しかける。
「何だよ鉢屋。てめえの大将に俺を暗殺して来いとでも、言われたのかよ」
「否、暗殺ではない。己の意思で、貴様に会いに来ている。我らの将を侮辱するは止めていただこうか」
悠介の言葉に反応するように、扉の目の前に一人の少年が現れる。顔を黒い布で覆った彼の名は、鉢屋壱助。
悠介と同学年であり、天神館を代表する集団西方十勇士の一人である。
仕事は主に諜報と暗殺と言った、裏の仕事を引き受けている。因みに、生涯童貞を貫く猛者でもある。
「そうだな。あいつがそんな卑怯なマネで俺を倒す様な器ではねえわな。失言だったすまん」
「わかればいい」
「それで何の様だ?」
悠介が急に鉢屋が己の元に来た理由を問うと同時に、教室の扉が開く。
「おお、此処に居ったか悠介よ!」
現れたのは、いい感じに日に焼けた大柄な少年長宗我部宗男。鉢屋と同じく西方十勇士の一人であり、地元四国をピーアールする事に情熱を持つ男である。
そしてオイルレスリングを戦型としている。また面倒見がよく、案外モテル。
そして長宗我部に、続くように...
「悠介よ、美しいこの私が自ら、貴様に会いに来てやったぞ」
ロングヘアーの少年毛利元親が現れる。彼もまた西方十勇士の一人であり、弓を使った遠距離攻撃を得意とする。因みに、重度のナルシストでもある。
「長曾我部に毛利も来るとはなあ。マジで何の用だ?」
続々と二年の幹部クラスが、自分の元に来ている事に覚えのない悠介は困惑する。
「三人だけやないでーー。うちも来とるでーー」
「その通り、この大友もいるぞ!!」
困惑する悠介に、追い打ちを掛けるように現れたのは、
関西弁の少女宇喜多秀美と大友焔の二人。
二人とも西方十勇士の一員であり、宇喜多はハンマーを使い、大友は大砲を使う。十勇士の数少ない女子生徒だ。
「で、十勇士様方の半数が俺に何の用だよ?」
「まあまあ、少し落ち着け悠介」
イラつき始めている悠介の肩を叩いたのは、龍造時隆正。彼もまた西方十勇士の一人であり広告担当。
そのルックスの良さから、女子にモテル。ニュース番組の司会を担当している。実力は不明だが、そこそこの物を悠介は感じている。
「この流れだと、全員集合しそうだな。おい!」
「ゴホゴホ、流石は悠介だ。ご明察通りだよ」
「うん、流石だな」
悠介の言葉を確信させるように、扉から新たに二人が入って来る。
一人目は、大村ヨシツグ。西方十勇士のサイバーを担当している。病弱そうであるが、実際は十勇士最強の実力者である。
二人目は、尼子晴。西方十勇士最速を誇る実力者であり、十勇士の中で唯一自分の兵を持っている。
「って事は、石田待ちか?」
「ガハハ!その通りだ。しばし待て、悠介よ」
悠介の疑問に、長宗我部が答える。その言葉を聞いた悠介は、ため息を一つ吐き自分の席に座る。
◆◇◆◇
それから数分した後、扉が大きく開かれる。そこから現れたのは、凛々しい顔つきをした少年とその少年に付き従う若干...いやかなり老けた少年だ。
「ふむ、待たせたなな貴様ら!!出世街道を歩むこのおれが来てやったぞ」
そう堂々と告げたのは、石田三郎。二年のトップに立ち、西方十勇士を従える天神館の二年大将である。
実力は高いが、いかせん相手を見下しすぎ隙を衝かれると言った、精神的欠点がある人物。
しかし悠介自身、石田からは大将の器を感じてる。
「俺は呼ばれてはねえがな」
石田の言葉に、若干のイラつきを込めた言葉が発せられる。
「悠介殿、此度は、急に押しかけ誠に申し訳ない」
そんな、悠介の怒りを鎮めたのは、石田と共に来た彼の右腕である、島右近の言葉。石田とは、古い付き合いであり、人の話を聞かない石田が、唯一話を聞く人物でもある。また、面倒見の良さと老けた顔から、十勇士のメンバーからは「おとん」と呼ばれている。
島の謝罪を聞いて、怒りを抑える悠介。
「それで、何の様だよ石田」
「ふん。このおれが、貴様に会いにくる理由など、一つしかないであろう!!」
一度、言葉を切った石田は、悠介をまっすぐ見据える。
その視線に悠介も瞳を鋭くさせる。
「今度行われる、東の川神学園との交流戦。それが終わった後おれは...いや、おれたちは、再びお前に勝負を申し込む」
「へえ」
石田の言葉を聞いた悠介の表情が、鋭い獣のそれに代わり、石田とその後ろに立つ十勇士を見る。
「それは、全員の宣言と取って構わねえな?」
「勿論でございます」
「当然だ」
「ああ、違いない」
「俺もね」
「今度こそ、悠介に西の気骨を見せつける時ぞ」
「うちも同じやでーーーー」
「フ、美しい私の姿に今度こそ、敗れるがよい」
「ガハハ!ああ、リベンジマッチだ」
「それがしも同じく」
悠介の挑発じみた言葉に十勇士達は、武を嗜む者達が出す威圧感で悠介に応える。
大村もこの時には、病弱なマネを止め、自分の本性をさらけ出す。
その威圧感を感じながら、悠介は再び石田に視線を移す。
「一年の頃は、不覚を取ったが、今は違う!!今度こそ、おれはお前に勝つ!!」
実は、石田を含む西方十勇士と悠介は、一年の頃に一度激突している。その時は、悠介が辛勝したのだ。
それ以来石田は、悠介の事をライバルと認識しており、十勇士達も悠介の実力を認め、学校で数少ない悠介の友となっている。
石田の言葉を受け取った悠介は、静かにしかし力強く...
「わかった。その勝負受けて立つ!!」
「ふん、それならばいい。行くぞお前ら」
悠介の言葉を聞いた石田が、十勇士達を連れて、教室から出ていこうとした時...
「負けんじゃねえぞ」
石田の後ろ姿を見ながら、悠介は石田に告げる。石田達は、悠介の言葉には答えない。しかし、その背が語っていた「当然だ」と。
悠介の言葉はある意味同じく、頂を目指す
石田達が去って暫らくして、雄介は笑みを浮かべ学校を出ていった。
◆◇◆◇
石田達が悠介に宣戦布告をした夜。燕の家で悠介らは食事をしている。
「ふ~ん。石田君達、また悠介君に挑むんだ」
「ああ、どうなるか楽しみだぜ」
燕が家に帰った時、家にいた悠介が、嬉しそうにしていた事に疑問を持った燕が、悠介に質問したのだ。
気分の良かった悠介は、晩飯を食べてる途中に、燕に石田達との出来事を話す。燕自身、悠介と石田達の戦いを知っているからこそ、一武人として興味を持つ。
「そう言えば、燕ちゃんは、交流戦出るの?」
悠介と燕の二人が会話をしていく中で、共にご飯を食べていた、久信が燕に問う。
燕は、悠介との会話を邪魔した、久信を軽く睨み付けながら答える。
「残念ながら、納豆小町としての仕事があるから、交流戦は出れないよ、おとん。館長には、もう許可は貰ってるから、心配ないよ」
「そうか。それを聞いて、安心したよ、燕ちゃん」
燕の目線に、若干怯えながらも、安心の声を出す。理由としてはミサゴが、久信の元に帰って来る条件として、家名を世間に広げると言うものがある。
現在は、久信が自家栽培した納豆を燕を売り子として売る事で、少しずつだが、家名は広がっている。
今回も、ただの交流戦ならば、久信はそこまで心配しなかっただろう。
生半可な実力者に、娘が負けない事を知っている久信だが、今回の相手には、武神の名を持つ川神百代がいる。
敗北は、家名の名を下げる事になる。それゆえの心配だった。
「そう言えば、悠介君はどうするの?停学中なんでしょ?」
「まあ、近くの山にでも籠って、二重の特訓ですかね。一か月のチャンスを生かさねえと」
「あはは、普通停学処分受けて、それをチャンスとは言わないよ、悠介君」
久信の疑問に悠介は、大好物である焼き魚を口にしながら答える。
悠介の答えを聞いた久信は、呆れ半分驚き半分と言った感じで、半端なリアクションを取る。
「ほんとだよ、悠介君。悠介君は、一度ちゃんと反省するべきだと思うよ」
「俺は、自分がしてきた事を悔いるつもりはねえぞ」
「ああ!また、そんな事言ってる!!」
そうやって、再び悠介と燕は言い争いを始める。その状況を見た久信は、ビールのふたを開けながら、嬉しそうに告げる。
「いやあ~燕ちゃんもいい感じで、悠介君のお嫁さんになっていてるね」
そう告げた久信だが、直ぐに異変に気が付く..
「あれ?どうしたの、燕ちゃん、悠介君?」
悠介と燕の二人は、久信のからかいの言葉にも反応せずに、ただ玄関がある場所を鋭い目つきで見つめている。
そんなおり、家のインターホンが三人に来客を告げる。
悠介は、警戒心を解かないままゆっくりと玄関の方へ向かっていく。
燕も、悠介の後に続いて行く。
「ちょ、ちょと~二人ともどうしたの?」
未だに現状を飲み込めない久信も二人の後に続く様に玄関に向かう。
悠介はゆっくりと玄関の扉を開ける。
そこにいたのは、金髪と黒髪のメイドと、眼鏡をかけたもの優しげな老人執事と、明らかに強者の雰囲気を纏わせた金髪の老人執事が、一人の少女を中心に並んでいた。
「は?」
目の前に現れた予想外の人物たちに、悠介たち三人の時間が止まる。そんな沈黙を破ったのは、額に×の傷を持った幼い少女だった。
「フハハ!我、顕現である!!」
その幼い顔つきからは想像できない程、ハッキリと聞く者を引き付ける声音で、少女は自分の存在を示した。
この少女との出会いが、悠介を再び川神の地へと誘う。
これは物語の始まりを告げる出会い。
最早、悠介の物語は幕開けは止める事など出来ない。