真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

1 / 91
本日はホワイトデー!!
ということで、前に聞いてみたリクエストの中で要望のあったホワイトデーを題に番外を書きました!!
現状でのヒロイン?候補たち総出演です!!そのため少し淡泊な面もあるかもしれません
要望に応えられたかわかりませんが、それでも頑張って書きました!!
皆さんに楽しんでもらえたら嬉しいです!!


番外編
番外・悠介とホワイトデー


三月十四日。誰が決めたか知らないが、バレンタインデーでチョコを貰った男子が、貰った女子にお返しをする日らしい。しかも三倍返しで…

 

「めんどくせぇ」

 

元々そういった行事を知らなかった悠介だが、どこぞの武神少女に強請られ、いやいやだが返す事となった。そしたらどこで話を聞いたのか、燕が現れ、自分もとせがんだ。最初は断った悠介だが、燕により感謝の念をちゃんと形にして伝えるべきと言われ、しぶしぶ納得。そして今日、その日が来たのだが、悠介のテンションンは低い。

だって……

 

「一応聞くが、何が目的だ?」

 

目の前に血の気の走った男子の大軍を見れば、誰だってやる気が削がれる。しかし今回は全く訳が見えないので理由を問う。

 

「決まっているだろ!!女子の好感度アップ(ホワイトデー)というイベントで、これ以上貴様に美味しい目を見させないためだ!!」

 

「はぁ~~」

 

何というか、ある意味で期待を裏切らない言葉に悠介は深い溜息を吐く。

 

「うんないい日でもねぇぞ。三倍で返せってうるせぇし、返す人数が多いと金が消えるしな」

 

むしろ辛いと続けようとしたが…

 

「うるせぇぇぇぇえええ!!俺達はな、お前みたいあ贅沢な悩みを持つこと自体許せねぇぇぇんだよ!!」

 

「俺様だって貰った時の為に、バイト代を稼いでたんだぞ!!それを全く使わないみになりやがれぇぇぇえええ!!」

 

火に油を注いだだけのようだ。もはや、言葉は不要と襲い掛かってくる男子たちを前に悠介もこぶしを握る。

 

結果は……………語るまでもないだろう。

 

朝一の激闘を終わらせた悠介は、何事もなかったかのように校舎を歩いている。

 

「なんか最近、俺とあいつらと戦うのが川神学園(ここ)の風物詩になってねぇか?」

 

「あ~~確かに、そうなってる面もあるかもな。実際何人か、賭けやってたし」

 

「だよな」

 

ゲンの言葉に悠介は「だりぃ」とため息を吐く。その姿にゲンは、静かに肩に手を置く。

 

「おい、教室目の前なんだからシャンとしろ!!」

 

「あ、わりぃけど、先にSに寄ってから来るわ。渡したい物あるしな」

 

「………気を付けろよな」

 

「不吉なこと言うんじゃねぇよ」

 

ゲンの言葉に言い知れぬ悪寒を感じながら、悠介は目的地へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大して今日を気にしていた訳ではない。確かにお嬢様に今日がいったい何の日かを知り、僅かに期待した面もある。しかし、自分が惚れ傍にいたいと思った男はそう言ったイベントをそもそも知っているかさえ謎だ。だが、知ってしまえば期待してしまう。だからだろうか、どこか落ち着かず女王蜂に「どうしたんだ今日?なんか身が入ってねぇぞ」と言われた。しかし貰えなくとも、自分はいつだって真っすぐ自分が目指すその姿勢と不屈の姿に…………

 

言うならば宝くじを買って、少し高めの賞が当たればいいかなってレベルで期待していた。その考えを与一が知ったときには、「絶対嘘だろ、姉御!!」と言われ義経には「今日はどこかそわそわしてるな。何かいいことあるのか?」と言われた。そこまで露骨だったのだろうか?(もちろん、与一は〆たが)

確かに貰えたら、凄く嬉しい。けど、きっと彼は何もしない。だって、そんな時間があるなら彼は進むために努力する。その対極ともいえる姿に、たまに見せる不器用な優しさに自分は…………

 

『私は惹かれたのだから』

 

 

寒気を振り払い悠介は、Sクラスの教室の扉を開ける。瞬間に集まる視線を感じながら、悠介は目当ての人物たちを探す。

 

「あれ?どうしたんだ、悠介君」

 

「おお、義経か。ちょっと、弁慶とマルギッテに用があってな。今いるか?」

 

悠介の存在に気が付いた義経が理由を問う。問われた悠介は適度に辺りを見渡しながら義経に告げる。

 

「弁慶とマルギッテさんだな。待っててくれ、すぐに呼んでくる!!」

 

「サンキュー。礼だ、これやるよ」

 

呼んでくれる義経に感謝の気持ちを返す様に悠介は懐からココア味の棒付きキャンディを手渡す。渡された義経は、嬉しそうに感謝の言葉を述べ、二人を連れてくる。

連れられてきた二人は、少しソワソワしている。

 

「い一体何の用ですか?」

 

「どうかしたの……」

 

「ああ、前にお前らからチョコ貰っただろ?だから、一応返さないとと思ってな」

 

何気なく返された言葉に二人の心拍が一瞬大きく跳ね上がる。バクバクと心音がうるさく全く周りの音が拾えない。心を中心に体温が上がっていくのがわかる。その全てが恥ずかしくとてつもないほどに心地いい。

気が付けば二人の前に、小包が差し出されていた。

 

「サンキューな、美味かったぜ。だから、これはその……………返しだ。受け取ってくれると助かる」

 

手を伸ばそうとする。意の一番に何よりも早くそれを手にし胸に抱えたいと思う。

 

「それじゃあ、俺は帰るから」

 

手渡したことを確認して悠介はその場を後にする。暫くの間、弁慶とマルギッテの二人はその場で静止していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、二人に渡した悠介はその後何事もなく放課後まで普段通りの時間を過ごした。そして放課後、悠介は図書室に向けて歩いている。既に連絡は送っているはずだから、その場所に彼女はいるはずだ。

そう思いながら悠介は扉を開けた。

 

そのメールを貰った時、ドクンと二回胸が高ぶった。最初はまさか(・・・)と思った。でもすぐにそれじゃないとわかると、今度はどんな要件かと更にドキドキと高揚する。そしてその答えに行き着いたとき、そうあって欲しい願望半分とそれ以上を望む緊張が半分が胸を占める。

今だって緊張をほぐすために、好きな本を読んでるはずなのに全く内容が入ってこない。むしろチラチラと扉ばかり気にしちゃってる。そして何度目かわからな開かれる音と同時に高鳴る心音と共に見れば、君がそこにいた。

 

「悠介君!!」

 

普段の彼女から少し想像できない程度の高い声で呼ばれ、悠介は少し驚きながら清楚の方へ歩いていく。

 

「待たせましたか?」

 

「ううん。大丈夫、本読んでたから全然待ってないよ」

 

清楚の言葉に軽く返し、悠介は本題へと入る。

 

「これ、前にチョコをくれたお礼です。よかったら、受け取ってください」

 

そう言って手渡すのは二つの小包。差し出された瞬間、歓喜の高鳴りとほんの少しの落胆が胸に湧く。

それでも自分のいや自分たちの為にと手渡されたそれが嬉しくて

 

「ありがとう」

 

本当に嬉しくて自然と感謝の言葉が口に出る。その感謝の言葉に悠介は、照れくさそうに頬を掻く。

 

「それじゃあ俺、まだ用があるんで失礼します」

 

「………うん、またね」

 

「うっす」

 

その言葉に嫉妬心が湧き出るが、自分には止める権利はないと必死に押しとどめ、清楚は笑みを浮かべ悠介を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校を出た悠介は、親不孝通りに来ていた。薄暗い場所を悠介は、迷うことなくその場所に向かう。

 

「邪魔するぜ」

 

「あん?なんだ、どうした?」

 

悠介の声に答えて顔を出してきた釈迦堂。その姿に悠介は軽く舌打ちをする。

 

「おい、コラ。師匠に向かって舌打ちとはどういうつもりだ!!」

 

「こういうつもりだよ!!って、そうじゃねぇ。辰子はいるか?」

 

一触即発の空気になりかけるが、即座に目的を思い出し理性でブレーキを掛ける。そして釈迦堂も悠介の言葉を聞き、ニヤニヤと面白そうな顔をする。その顔を一発殴ろうかと考える悠介だったが、何とか押しとどめる。

 

「おい、辰子!!オメェに客だぞ~~!!」

 

「う~~ん、どうしたの師匠~~~…って悠介君だ~~~!!」

 

 

釈迦堂の言葉に呼ばれ、玄関に顔を出した辰子は眠そうな目をこすっていたが、悠介の姿を視認すると先ほどまでの動きが嘘のように活発になる。

 

「わぁ~~悠介君!!今日は一緒にご飯食べよ~~」

 

「お!いいな、悠介が絡むと飯が豪勢になるからな、食って行けよ」

 

悠介を置いて話が進んでいくために、悠介は慌てて話を流れを変えるために本題に入る。

 

「わりぃいが、飯はまた今度な。今日は用があんだわ」

 

「ええ~~~」

 

「それより、これ」

 

「えっ?これって…」

 

「前のチョコの返しだ。みんなで食ってくれ」

 

差し出されたのは四つの小包。一人一人別々に用意していることに釈迦堂は口笛を吹く。差し出された物をしばらく唖然と見ていた辰子だが、意識と理解が追いつくとうねり声を上げながら悠介に抱き着く。

 

「ありがと~~~悠介君!!」

 

「うおっ!?」

 

突然のタックルに驚くが、持ちこたえる悠介。接触して感じる温かさに辰子は頬を擦り付ける。引きはがそうとするが思いの外力が強く、体勢も悪く引きはがせない。また、その姿を面白そうに見ている釈迦堂の姿が、なんかむかつく。

 

「なあ、辰子。悪いけど、そろそろ離してくれ」

 

「え~あとー五分だけ~~」

 

全く信用のない言葉を発しつつ、悠介に頬摺りする辰子。悪意があるわけでもないので、悠介も対処に困っている。

 

「大変だな~~悠介。助けてやろうか?」

 

「なんか含みがあるな、おい!」

 

「いや~なに、ちょっと梅屋で飯が食いてぇなと思ってな」

 

高校生(ガキ)に集るな!!」

 

あれこれよと口喧嘩を始める二人。しかしどこか楽しそうだ。暫く口喧嘩していたが、結局悠介が折れるで終息する。

 

「それじゃあな。今度はまた飯食わせてもらいに来るわ」

 

「む~、絶対だからね!!」

 

「おう」

 

何とか釈迦戸の協力のもとどうにか辰子を引きはがし、次の場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの中、悠介は少し遠くに足を運んでいる。そこに彼女らがいると聞いたからだ。辺りを見渡しながら悠介はお目当ての人物を探している中で、遂に彼女らを見つけ、悠介は駆け足で寄っていく。

 

 

気にしていたわけではない。自分はただこの想いを抱けるだけでも幸運なのだから……でも理性と本能がぶつかる中で、どうしても自分の理性は敗北する。だから、会いたいと思ってしまうし、他の女性と話しているのを見ているとどうしてもざわつく。その時間を大切にしてしまう、もっと関わりたいと思う。だから……………気にしない気にしないと毎日心のうちで決めているのに、どこかで期待している、自分がいる。それが………つらい。

 

心が沸き立つ。基本的に自他認めるハイテンションな自分だが、今日という日を知り少し期待してしまっている。いつもなら下がってしまうテンション時でも、心の奥底ではどこかワクワクしてる自分がどこかにいる。そんな不思議な状態が、どこか愛おしいく思え、自分が本当に変わったんだなって思ってしまう。だから、夢が見たいと思ってしまう。ホント、ファック。

 

夕暮れに照らされている二人のメイドに悠介は声をかける。瞬間、声を掛けられた李とステイシーの二人の肩がビクリと跳ねる。

 

「うん?どうしたんだ」

 

「い、いえ何でもありません。そうですよね、ステイシー!!」

 

「お、おう。なんでもねぇよ!!」

 

元気よく会話する二人に、違和感を感じる悠介だが、本人たちが大丈夫だというのだから問題なしと判断する。

 

「今、仕事か?」

 

「ええ仕事ですが、時間的余裕はありますよ」

 

「お、おう。それでなんか用か?」

 

「前にチョコ貰っただろ?だから返さねぇと思ってな」

 

そう言って悠介は小包を差し出す。

 

「う、受け取れません!!別に返しを期待して渡したわけではないので!!」

 

思考が停止しているステイシーに代わって、李が猛然と否定する。予想外の否定に、少々困った反応をする悠介。

しかし、悠介は真っすぐと李を見つめ

 

「まあ、お前がそういうなら仕方ぇけどよ………頼む、受けっとてくれねぇか?単純に俺がお前らに渡したいと思ったからよ」

 

ただ真摯に思いを告げる。その真っすぐな瞳に、李は何も言えない。

 

「マジか!!貰っとこうぜ、李!!」

 

「ステイシー!!ですが…」

 

ここにきてステイシーの意識と理解が追いつき、悠介を援護する。

 

「それにここで受け取らねぇと、相楽が恥かくぜ?そういう意味でもらえばいいんじゃねぇか。なあ、相楽」

 

「まあ、持って帰ってもどうも出来ねぇからな。そっちの方が助かるな」

 

「ほらな!!」

 

悠介とステイシーの言葉受けて李は、しばし葛藤した後

 

「わかりました。……そういう形で受け取らせてもらいます。ありがとうございます」

 

「素直じゃねぇな~~。こっちも貰っとくぜ。ロックだぜ!!サンキュー」

 

李は受け取る。ステイシーも茶々を入れながら受け取る。

 

「俺が好きでやったことだし、礼はいらねぇよ」

 

受け取りを終わらせると悠介は「じゃあな」と告げてその場を去る。その姿を二人は、じっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見慣れた道を悠介は歩いている。今から行く場所は、通いなれたもう一つの自分の通い宿のような場所。だからこそ、何というかその場所で渡すのは恥ずかしい気がする。

そうこう考えているうちに川神院の入り口にたどり着く。

 

「……」

 

しばし思考し、携帯を取り出してメールを打ち込む悠介。送信を確認し、その場で待つ。

 

 

時間の経過がここまで遅いと思ったのは今日が初めてだろう。朝になり、日課の鍛錬を終わらせ、学校に行くまでの時間がここまでとは思わなかった。そして待ちに待ったその場所に着いたと思ったら、メールで放課後に渡しに行くと伝えられた。憤怒したが、燕に説得され、どうにか我慢できた。だから、この時間になるまでが今までにないくらい長かった。ただ、心のどこかでは、そのドキドキを楽しんでいる自分がいる。待つという行為自体、自分は苦手だったはずなのに、どうしてか何処かこれだけは嫌いになれない。理由は大体想像がつくだけに凄くもどかしさに似たものを感じる。

その連絡が来たとき、感じたのは嬉しさとそのワクワクがなくなる残念な。でも、それ以上の嬉しさが生まれ、即座に向かった。

 

 

待っていた時間はおそよ三十秒ほどだろう。視認するよりも早く、風と衝撃が悠介を襲う。

 

「うおっ!?モモテメェ、普通に登場出来ねぇのか!!」

 

「ふ~~~ん、聞こえない~~~」

 

衝撃に耐えながら、悠介は襲撃者たる百代に悪態をつくが、当の本人は全く意に関していない。本人はじゃれている気分だが、悠介自身は虎に甘えられている感じがして、疲労感がヤバい。

時間にして約二分、百代は悠介にしがみ付き続けた。

 

「はっはっ………なんで会うだけでこんなに疲れないといかねぇんだよ」

 

どうにか引きはがした悠介は息を切らせながら百代を睨む。その睨みに百代は、バツが悪そうに僅かに視線を逸らす。

 

「そ、そんな事より、早く渡せよ!!」

 

「露骨に話逸らしに来たな…まあ、いいけどよ。ほらよ」

 

慌ただしく話を逸らしにかかる百代に呆れながらも悠介は、小包を差し出す。それが差し出された瞬間、百代の頬が朱色に染まり、その表情が歓喜に染まる。しかしそれも一瞬の事で、即座にいつも通りに戻す。

 

「ふ、ふん!!こんな美少女をここまで待たせるなんて、なんてひどい奴だ」

 

「………」

 

「わっ!?う嘘だ嘘!!だから、直そうとするなよ!!」

 

無言で小包を直そうとする悠介の姿に百代は慌てて先ほどの言葉を撤回する。その姿が少しツボに入ったのか、悠介は苦笑をこぼす。

 

「ッ!?」

 

その笑みを見て百代の顔は、更に朱色に染まる。いつも獰猛で少し凛々しい顔ではなく、幼い年相応の笑顔。その普段とのギャップが百代の心を打った。

 

「~~~~~~~~ッ!!」

 

「あっ!おいッ!!どうしたんだよ急に…」

 

これ以上いるのは不味い。そう思った百代は、即座に悠介から小包を奪い、川神院へと消える。その早業に唖然となる悠介。

 

「………なんか最近、モモの奴おかしくねぇか?」

 

たまに見せる普段からは想像できない行動に疑問を持つが、まあ仕方ねぇかと割り切り、あとで連絡を取ればいいだろうと思い、悠介は帰路に着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰路に着き、悠介は居候させてもらっている松永家にたどり着く。

 

「さて、あとは二つだな」

 

残りの人数を確認するように呟き、悠介は玄関の扉を開ける。帰宅を伝えると悠介は一度部屋に戻り、机に置いていた二つの小包を手に取り、居間へと向かう。

 

 

好きな人へと思いを込めて手渡したチョコ。それが特別な日(ホワイトデー)とか関係なく、その渡した人から感謝の気持ちが形となって帰ってくる幸福感は、本当に恋する少女にしかわからない幸せだろう。例えそれが、美咲さんに言われ仕方なくからの行動でも。自分は知っているから、その為に彼が必死に悩んでいたのを知っているから。そしてそれをおくびにも出さない姿が、少しかっこよくて………

だから、今年も同じだと思っていた。………でも全く違った。特別な日(ホワイトデー)の日にお返しが来る。そう分かったとき、いつもよりも心がはねた。ただ、いつもの幸せが前倒しになっただけのに、その日の意味を理解していると、いつも以上の高鳴りが内側から自分を染め上げる……………そして悔しいかな嬉しいかな自分は、逃れるすべがない。

 

 

不幸な自分が彼に渡せれた。その事実だけで一生分の幸運を使い切ったような気になった。そしてそれでもいいと思っていた………だから、その日の事燕から聞いたとき、本当に?本当に?と何度も自問自答した。こんな自分が、そんな幸せを幸運を感じでいいのだろうか?その事を燕に問いかければ、物凄く怒られた。でも仕方ないじゃないか、自分はずっと不幸だったのだ……それに光をくれ前に進む勇気すらくれたのだ。それは自分にとって、身に余る幸運のはずであり、宝だ。なのに、それ以上を貰っていいのか?後で、彼らを巻き込んだとんでもない不幸が降りかかるのではないか?と思ってしまうほどだ。でも、そんな自分を前を向かせるのは、やっぱり彼の言葉で……本当に自分が彼に救われ、その想いを抱いていると自覚する。

 

 

悠介が居間に顔を出せば、燕と天衣の二人の視線が集まる。もともと時間をかける気がなかった悠介は、さっさと終わらせようと手に持っている二つの小包をそれぞれに投げ渡す。

 

「わっ!」

 

「っ!」

 

二人は不意のそれを驚きながらもとても優しくキャッチする。

 

「前のチョコの礼だ…言っとくが、文句は受け付けねぇからな、燕」

 

昔からもう少し女の子が好む物を買ってくるべきだと、小言を言われ続け更にそれを母親に告げられた。だからこそ、悠介は先に釘を刺す。先に言われた燕は、面白くなさそうに唇を尖らせる。しかし、久信が見ればその顔は必死に弧を描かんとする自分の表情を隠さんとしているように見えるだろう。

一方の天衣は、投げ渡された小包を満面の笑みで胸付近で抱え込んでいる。その瞳には、薄っすらと涙が浮かんでいる。

 

「うんじゃあ、ちょっくら修業に行ってくるから、飯が出来そうになったら連絡くれや」

 

そう言って悠介は、再び出かけるために背を向ける。瞬間、「悠介君」と呼ぶ燕と天衣の声が聞こえる。天衣はともかく燕になんか言われるのかとめんどくさそうに振り向く悠介。

 

「んだよ…」

 

「ありがとう、凄く嬉しいよ」

 

「悠介、本当にありがとう。自分にはもったいない幸運(プレゼント)だ」

 

僅かに朱色に染まった頬で見せる、あまたのファンを更に魅了し、新規のファンすら増やせるであろう笑み。歓喜の涙ゆえに、うるっとなった瞳と朱色に染まった顔で、本当に幸せそうな笑顔。

二人はただ感謝を述べる。真っすぐな善意にどう対応していいかわからず、悠介はバツが悪そうに、視線を逸らし何も言わずに家を出た。

 

 

 

 

 

聖なる日から一か月後の今日。恋する数人の少女たちに届けられたプレゼント。

 

ある朱色の髪を持つ者は、その日以降、主の家に赴くときに、あるぬいぐるみを携える。

ある偉人の申し子は、その日以降、櫛をもちよく髪を整える姿を見る。

一つの体に二つの自我を持つ者は、その日以降、お気に入りのしおりを携え今まで以上に楽しそうに本を読み。もう一人の彼女は、その日以降、ある髪留めを毎日つけてきた。

家事を切り盛りする眠れる少女は、その日以降、携帯に己の好きなメロンのストラップを付ける。

アメリカンなメイドは、その日以降、お気に入りの音楽が一つ増えたと毎日フラッシュバック時など事あるごとにその音楽を聴いている。

寡黙なメイドは、その日以降、手首に薄緑のミサンガをつけ始めた。

幼いながらも武神と呼ばれる少女は、その日以降、自分のカバンに好物のモモをあしらったストラップ人形をつける。

幼馴染の少女は、その日以降、可愛いペンを持ち歩きメモなどに使っている。

自身を不幸と呪うも者は、その日以降、お守り型のストラップを常に持ち歩く。

 

彼女たちにとって、プレゼントは何でもよかったのかもしれない。ただ自分の想いに、彼がちゃんと向き合ってくれた。その事実こそが、彼女たちにとって本当に嬉しいことなのかもしれない。

 

 




如何でしたでしょうか?
プレゼントは、彼女たちに合っていましたかね?自信ないです・・・
また来年、書けそうなら今度は一人にスポットを当てようかな?

よかったら、感想をお願いします!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。