未来人の選択   作:ホワイト・フラッグ

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説明を忘れてましたが時空列としては、織田家お家騒動が起きているあたりです。



9.道三の前で

部下を持った晃助は、兵に訓練を…………お願いしていた。

 

「今日も頼む」

「おうよ大将、いい加減ましな相手をしてくれよ」

「そうだぜ、そんなんじゃ戦場ですぐ死んじまう」

「へばった大将を担いで逃げるなんてできねえからな!」

「「「 ははははは 」」」

 

戦争の無い未来で生きていたのだ、戦い方を知らねば生きていけない。

だから、侍大将にもかかわらず、足軽達に頭を下げて訓練の相手をしてもらっているのだ。

勿論、ファンタジーに出てくる勇者じゃないので、そう簡単に強くなれない、だがいつかそのくらい強くならねば自分の身を守るどころか、実光に報いることができない。

今日も晃助は、泥だらけになっていた。

 

 

 

 

竹山城に帰還して七日目のことだ、実光は本家に前回の戦について報告するついでに挨拶すると言って、晃助に同行を命じた。

護衛として、晃助と頼隆の部隊から三人ずつ連れていくことになった、勿論その中には長頼もいる。

竹山城から南へしばらくして、千早本家の茂呂城に到着した。

茂呂城は竹山城と比べるとたいして変わらない造りをしていたが、城下町が少しだけ貧相だった。

これは、本家が軍備優先で政策を進めているからで、常備軍が千五百と多めだが、内政に力を入れていないので収入はあまり増えず、城下は寂しいことになっている。

搦め手門に近づくと(茂呂城は南からの侵攻に備えているため)、若い武士が出迎えた。

 

「久いのぉ、善国」

「お久しぶりです、叔父上もご健勝のようでなによりです」

「うむ、お主も元気そうじゃのう」

 

出迎えた若者は、どうやら千早善国(ちはや よしくに)のようだ、本家の跡継ぎで二十二歳らしいが歳不相応に幼い顔つきだ高校生(十六から十八)でも通りそうだ。

善国は頼隆がいることを確認すると、

 

「へぇ、お姫さんも来たかい? ようこそ茂呂城へ」

「聞き飽きた挨拶ですね、私には蜂屋頼隆とい名があると何度申し上げれば覚えてもらえるのでしょうか?」

「ああ、千早頼隆かよく来たな」

「……」

 

どうやら善国は頼隆のことを快く思ってないようだ。

証拠に養子にしてもらっても、千早の性を許されていないことを嫌味のつもりで言っているつもりなのだろうが、頼隆は無視し始めた。

彼女にとっては父親の固い頭のせいで家督を継げなかったが、尊敬する武士(実光)の養子になれたことで、その才を振るえる立場を得ただけでも十分なのだから。

無視する頼隆に勝ったとでも思ったのだろう、善国は満足そうな顔をすると、

 

「どうぞ城内に」

 

と案内してくれた。

敷地が少し大きく、蔵が大きい事以外に竹山城と変わりはないので主要館はすぐわかった。

館の入り口まで行くと話声が聞こえた、誰か先客が来ているようだ。

 

 

「……話しても、わかってもらえぬか?」

「申し訳ないが、某は反対です。 殿は耄碌(もうろく)されたか? 今一度考えなおしてくだされ」

 

実光は話し中にもかかわらず、扉を開けて入室した。

するとそこには―――――

 

 

 

 

「おお! 道三殿! こんなところで会えるとは奇遇ですな!」

「おお! 実光殿! 久しいな」

 

美濃の国主、斎藤道三(さいとう どうさん)がいた。

斎藤道三は禿げ上がった頭でいかにも爺さんだが、蝮の異名に違わぬ威厳があった。

実光と道三はとても親しい仲のようで、お互いの肩をたたきながら再会を喜んでいた。

隣りの頼隆が教えてくれたが、実光は道三の国盗りを手伝った一人で義兄弟の仲だという、実光は父に家督を許されなかったが、本家と別で二千石を与えたのは苦労を共にした義兄弟が不憫に思ったからだという。

 

そういえば、実光と頼隆は二人とも親に才を認められながら、家督を許されなかったのだなと気づいた。

 

(実光殿は自分の境遇を重ねて頼隆を養子にしたのかもな)

 

晃助は、実光の頼隆への思い入れの理由を考えていると、道三と実光そして

 

「兄者、道三殿と会えて嬉しいのはわかりますが、某をお忘れ無きよう」

「おお、すまんすまん本来お主に会いに来たのにのぉ」

 

千早善基(ちはや よしもと)の三人が話を進めていた。

善基は五十三歳の老人だがイカツイ雰囲気をしていた、頬の傷がその威圧感を一層強調させている。

善基は邪険にされたことを苛立ちながら実光を咎める。

 

「実光殿は何用で本家に参ったのかの?」

「先の岩谷との戦について報告をしようかと思ってのぉ」

「殿は既に知らせを受けているかと思いますが、現場で戦った者の声を聞いてみてはいかがか?」

「うむ、岩谷が攻めてきて北東の家臣たちが撃退したくらいしか聞いておらんからのう、障りがなければ共に報告を聞こう」

 

実光は道三と善基・善国親子に今回の戦の経緯と戦果を報告し始めた。

その間、護衛の晃助と頼隆は下座で控えていた(頼隆は一応一門だが)。

 

岩谷勢は飛騨で最近になって勢い盛んな姉小路(あねがこうじ)家に追い立てられていたそうだ、そこで何を血迷ったか美濃に勢力を広げようと攻めて来たらしい。

この無謀な戦を実光は下田業兼(しもだ なりかね)の父親が姉小路との戦で戦死したからではないかと推測する。

頼みとなる家臣を失い、正常な判断ができなくなったのだろう。

美濃北東の勢力でも対処可能であったが、味方の士気を上げるために実光が出馬した。

戦は岩谷勢の撤退により収束、この時に撤退支援の奇襲部隊を率いていた下田業兼を部隊ごと捕縛した。

今は、岩谷家に変遷交渉をするために使者を出しておりその返事待ちだ。

 

「兄者、なぜ下田の若僧を殺さなんだ?」

「今はまだ未熟じゃが、あの若者はよき武士(もののふ)になると思うてのぉ」

「バカな!? 叔父上は敵をみすみす見逃すと申されるか!?」

「善基、善国よ、そなた達と下田の因縁はこの道三も知っておるが、相手はその子供じゃぞ? それに今の岩谷は朽ちた木じゃ、恩を売っておけば飛騨に繋がる道になるやもしれん」

「むう、殿がそう仰せになるなら……」

 

(善国は以前、下田の猛将に討たれそうになり、それを助けようとした善基殿は頬に傷を負いました)

(へえ、恥を感じるのは分かるが、相手が違うだろ?)

(善国は凡将だけど変に気位が高くて、善基殿は猛将で名を揚げているから)

 

頼隆と小声で会話をしながら、本家の親子が道三の発言に引き下がるのをみていた。

報告は続く

 

「撤退支援の奇襲部隊は被害が出る前に抑えることができたが、殿(しんがり)の部隊に手酷くやられたみたいでのぉ」

「おうそれは、知っておるぞ何でも黒犬(くろいぬ)がでたとか、報告に来た者は伝え聞きで詳しく知らんようじゃったが酷く怯えておったわい」

「うむ、恐らく岩谷の新しい家臣じゃが、恐ろしく強いそうじゃ命辛辛(いのちからがら)逃げた者が黒い姿をした化け物と評しておった、動きがまるで獣じゃとな」

「なんの! 戦場で見える機会があればこの善基が打ち取ってくれる!」

「いいえこの私が! 黒犬なんぞこの善国の敵ではない!」

 

本家の親子が勇ましいことを言っているが、うまくいくだろうか? 

善基はともかく善国は頼りなかった。

実光の報告が終わると次は道三の話しだった。

 

「ワシは、信奈ちゃんに美濃を譲ると言ったのじゃ」

「あの尾張のうつけ姫ですぞ!?」

「そうです大殿! あんな女子に美濃を譲る意味が分かりません!」

 

どうやら先日、斎藤道三は織田信奈(おだ のぶな)と正徳寺で同盟交渉のため会見した際に自分の夢を継げるのは信奈だけだと考え、その場で美濃譲り状を書いたという。

今はそのことに関して主だった者に、事情説明と意見を聞いて回っているとのこと。

 

(なんとなく予想していたが、織田家の信長も女のようだな、それにしても道三殿(このジジイ)の言ってることはおかしいぞ? そんな事誰が納得するんだよ……)

「道三殿、織田信奈とはどのような女子であったかな?」

「うむ、絶世の美少女じゃったわ」

「なんと! 胸や尻はいかがか?」

「おう! そっちもよさそうじゃったが、触ろうとしたら断られたわ」

「ほうほう、ワシもそのうつけ姫に会いとうなったわ」

「「 ははは 」」

 

(このヒヒジジイ共(道三 実光)が! まさか斎藤道三ともあろう者が女攻めにあってトチ狂ったか!?)

 

実光がした質問の切り口は最初こそ真剣な声色だったが、道三の答えによりいつもの調子が始まった。

だが、急に真剣な口調で道三は語った。

 

「正徳寺に行く前に信奈ちゃんは、鉄砲隊に火をつけさせて移動しておった、練度が高く数も多かった」

「しかし大殿、鉄砲など南蛮渡りの鉄くずですぞ! 一度撃てば弾込めに時間がかかり、その間に槍で突かれておしまいですぞ!」

「だが、高価な鉄砲を大量に集める経済力は侮れんのぉ」

「さよう、何より信奈ちゃんの夢は海を越えた先を見ておったのだ、それが一番の理由じゃ」

 

「「 海の先? そんなもの見てなんになる? 」」

 

本家の親子は海を越えた先の世界のことを考えられないようだ。

別にこの時代の人間なら当たり前の反応だ、未来人たる自分は子供のときから、地球の形・日ノ本以外の国があることを教えられてきたが、この時代の人は極端に言うと自分たちの生まれ育った土地が全てで海を見ずに生涯を終える人もいる。

それ故、普通の人と違う考えを持つもの(世界を見るもの)は、少人数でそういう人物は、偉業を達成できるが周りにその考えを受け入れてもらえないものだ。

だから実光は道三の一番の理由を聞いて、

 

 

 

「ほう、ならばよろしいのでは?」

「兄者!?」

「叔父上!?」

「やはり実光殿はそう言うてくれるか、他には小姓の十兵衛(じゅべい)と織田にいた未来人のみじゃ」

「「 未来人ですと? 」」

 

(!?)

 

「未来から来たと言って、ワシの考えを言い当ておった。確かサルと呼ばれておったな」

 

(織田家に未来人だと!? だが織田のサルといえば木下藤吉郎(きのした とうきちろう)後の豊臣秀吉(とよとみ ひでよし)だが、史実の人物が未来人を名乗る? いや逆だなその未来人が秀吉を名乗っているのか? ならば本物の秀吉はどうしている?)

 

晃助が考えを巡らせていると実光が振り向き。

 

「これなる、山田晃助も未来人じゃぞ」

 

(!?)

 

「ほう、それは面白いのう」

「そうじゃ、本当は善基に伝えるつもりじゃったが、道三殿にもワシの考えを言おう」

 

晃助は先ほどから驚かされてばかりだが、次の一言は今日一番の驚きを晃助にもたらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「山田晃助をワシの養子としたい」

 

 

 

 

 

 




すぐに回収されるけど伏線を書きました。
次回、オリ大名を出す予定。

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