未来人の選択   作:ホワイト・フラッグ

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説明のせいで字数が多いです。参考として聞きたいのですがどのくらいの字数が読みやすいですか?


8.仕官

「まさか信じてもらえるとはな……」

 

晃助は実光の助けもあったが、千早家の面々に晃助が未来人だと信じさせることができたのだ。

未来へ帰れるわけではないが、自分のことを知ってもらい、受け入れてくれたことに晃助は内心飛び跳ねたいほどによろこんでいた(さすがに本当に飛び跳ねると迷惑だ)。

 

そのあとで実光と二人で話し合っていた。

 

「ありがとうございます。実光殿!」

「何のこれでお主も過ごしやすくなるじゃろ?」

 

実光は戦場でバッタリ会ったような間柄に過ぎないのに、晃助のこれからの暮らし振りを気にかけてくれたのだ。

なんと素晴らしき御仁だろうか、晃助は感激していたがこれが忠誠心だと気づかなかった。

 

「では晃助どの、今晩も未来の話を……」

「申し訳ありませんが、今晩は俺がこの時代についての質問をしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

実光は晃助に未来の話をせがむが、晃助は自分の歴史認識と違う点を補正しようとした。

実光は承諾してくれた。

 

「むぅ……まぁよかろう、何が聞きたいのじゃ?」

「ありがとうございますまず、蜂屋頼隆のことなのですが……」

「なんじゃ、惚れたかっ!? そうじゃろうあやつの尻は……」

「なっ!? ちっ違います、そんな話ではありませんよっ!」

 

実光はまたセクハラ発言をしようとしたが、晃助は慌てて止めた。

正直、魅力的だと思っているが、それより大事なことがある。

 

「俺の知っている蜂屋頼隆は男なんだ、これがどういうことか実光殿はわかりますか?」

「頼隆が男っ!? そうかお主そう言ってあやつの入っとる風呂に行くのか? よいのう……ワシも行っていいか?」

「……はあ、違いますよ真面目に答えてください」

 

晃助は実光の調子に呆れた、こちらはこれからの立ち振る舞いを考えるための質問なのに。

実光は笑いながら答えてくれた。

 

「ほっほっほっ、半分本気じゃが冗談じゃ、頼隆は姫武将じゃ」

「姫武将?」

「うむ、この乱世においてお家騒動や下剋上を起こせば他国にスキを見せる、ゆえ女であれ第一子が家督を継ぐ、そういう考えが今の世に広がっておる」

 

実光曰く、中々収束しない乱世を終わらせるために、とある高僧がそう説いたらしく、

その結果、一部の者は家中の争いを避けるため、一部の者は娘が可愛いからとかでその考えが広まっているらしい。

 

(確かにある意味で男女平等だな、その坊主は先の未来で取り上げられる考えを発想するなんてすげぇ)

「でも、頼隆は養子なんだろ? 実光殿はななという娘がいるのにどうしてあいつを養子に? まさか家督を譲るのですか?」

「いいや、家督はななのつもりじゃが、これにはわけがあってな」

 

そう言って、実光は千早家のそして千早軍の状況を話し始めた。

 

「竹山の千早家は、常備軍が四百じゃ、声をかければ農兵が七百ほど集まるかのう」

 

この時代それぞれのお家によって事情があり、軍備や内政に違いが出る。

家臣たちの待遇を良くしようと一人当たりの石高を上げれば、家臣たちは満足に働くだろうし、有能な者が集まってくるものだ。

しかし、その分内政に使える費用が少なくなり、領民に不満が出てしまい町に商人が来なくなったり、村を逃げ出す農民が出てくるものだ。

そうなれば領主である武士の収入が減り予算削減のため減俸・解雇することで弱体化してしまい、他家に襲われることになる。

では、一人当たりの石高を下げたり雇用する人数を少なくしよう、内政に回せるお金が増え、国が豊かになり収入が増え、新しく家臣を雇えるかもしれない―――――

 

 

それまで周りが何もしなければの話だが、国が豊かになるには長い時間がかかる、それまで防衛する兵もしっかり揃えなければならず、両国経営とは難しいものなのだ。

 

「ワシの家臣は忠義に厚く、勇敢であるが統率性に難ありでのう、ワシのそばを離れると喧嘩をしたりするのじゃ」

(要するに、俺は実光様の命令なら何でも聞くぜ! お前が指揮ってんじゃねー、の集まりか)

「そんな奴らは姫武将を嫌うが、ななをよく慕っておるのじゃ主であるワシの娘じゃからな」

「そこで姫武将の頼隆を養子にしたということですか?」

「姫武将がということではない、有能な指揮官が欲しかったのじゃよ、頼隆の父は娘の才を認めながら家督を頼隆の弟に任せたかったのじゃ、古風な考えをもっており家督を許せなんだが、今の風潮も気にした。そこでワシが養子にもらい受けたのじゃ、ワシは小隊長を任せられる家臣を得て、蜂屋家は頼隆の弟が継げるようになったというわけじゃ」

 

実光はそこでお茶を飲んで、一息ついた。

姫武将の概念や弊害は解ったが、武将の性別が逆転している理由がわからない、晃助は自分がタイムスリップした事のように(こればかりはよく分からんので保留)した。

 

「なんだか頼隆がかわいそうだな」

「確かに親に才を認められながら家を継げず、他家の小隊長をしておるからのぉ、じゃがワシは頼隆のことを第二の娘だと思っておる、たとえ血の繋がりがなくてもな」

「尻をなで回すクセに、ですか?」

「可愛い娘の成長を評価しておるのじゃよ」

「「 ははは 」」

 

 

 

実光と晃助は笑い合っていたが、実光がまた頼隆の尻について語り出し、ちょうどそばを通った本人に聞かれてしまった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

晃助は、目元を青く腫らしながら起床した。

 

「痛ぇな、いったいどうすればこんな蹴りができる?」

「おはようございます、腫れについては自業自得です。 本人のいない場所で如何わしい話をするなんて不潔です」

「いや、だから最初から尻の話をしていた訳でなくてな……」

 

昨晩、晃助が実光に頼み込んで自分の尻の話をされていたと誤解した頼隆は晃助の顔面にドロップキックをお見舞いしたのだ。

晃助にはこの扱いだが、実光はお説教で済んだ。

 

「千早軍や実光殿の娘について話を聞いていてな……」

「ななのことですか? やはりあなたもですか………」

「? 俺がいったい何と一緒だって?」

 

聞けば千早の家臣たちは、ななを主の娘ということもあるが、それ以上に幼い幼女として愛でている者が多いらしい、それだけでなく山中で、幼女の意見にきびきび従い大量の荷物を運ぶ一団を見たらしく、そんな男たちを不気味だと思い、露璃魂(ロリコン)を毛嫌いしているらしい。

 

「まぁ、趣味は人それぞれだがな……、 つか俺が露璃魂(ロリコン)だと!?」

「違うのですか? ななにべったりされてみっともない顔をするクセに?」

「あれは、純粋にかわいいなと思っているだけだ。手を出すならあと四年は待つぞ」

「四年!? ダメです、それでもあの子は十四歳です絶対にだめです!」

「なら何歳の女ならいいんだよ?」

「せめて二十歳くらいの大人の女を……っ」

 

言いかけて頼隆は止めた、自分は十六歳だが二十歳から声をかけられ、あれこれ段取りを踏んでいたら婚期が遅れるのでは? 頼隆は固い性格ゆえ正しいことを言おうとしたが、自分に当てはめて考えると今の発言では自分が行き遅れになる、そう焦ったが、

 

「二十歳? まあいい年頃だな」

「あっ、えと、その……」

「なんだよ?」

「…………なんでもないです」

 

 

 

頼隆は諦めたが―――――

 

 

 

「だが、女の趣味で頼隆の言うことを聞く気はない、間をとって十六歳だ」

「!?」

「そんな事より朝飯食いに行くぞ」

 

頼隆は自分の考えが読まれたかとドキリとしたが、そんな事お構いなしに食事場に向かう背中を追いかけた。

 

 

 

食後、実光に呼ばれたので、主要館に向かい実光と向かい合うと、客将ではなく正式に仕官しないかと言われた。

 

タイムスリップしようとして、できた訳じゃないのにあれこれ考えてもしょうがない、そうなれば自分の立場を固めた方が戦乱の世を生き抜ける、生きていればいつか帰れるかも。

晃助は少し悩んで引き受けることにした。

 

 

「ならばお主に足軽組を一組預ける」

「は? 俺に僅かといえ部隊をですか?」

「うむ、これよりお主は侍大将とするぞ」

「待ってください! それなら俺は足軽組頭では?」

 

軍団の統率のために身分があり、これもお家により違いがあるのだが、基本的に一兵卒の足軽、最小単位の部隊長の足軽組頭、足軽組頭を数人統率する侍大将と続く。

更に部将、家老とあるがこのくらいの身分になると経営役員・地方司令官の役職になる。

 

「侍大将とはいえ直参の部隊が欲しかろう、頼隆も一組持ちながら状況に応じてワシが追加で組を預ける形でやっておる」

「なるほど、千早の常備軍は少ないため部隊を分ける作戦があまりないと?」

「うむ、組頭を紹介する。参れ」

 

晃助の背後[入り口]から女の子が入ってきた。

 

原長頼(はら ながより)です! また会いましたね、晃助殿!」

(原長頼だと? コイツも女か?)

「えっ? どっかであったかな?」

 

 

原長頼は美濃出身で、賤ヶ岳の戦いにおいて柴田方の先鋒・殿(しんがり)を務めた猛将だ。

そのせいか、ゲームで戦闘寄りのステータスに偏っていたなと、晃助は覚えていた。

その長頼は、ポニーテールで胸がでかい女の子だった、おかしいな? こんな可愛くて胸が大きい子と会っていたら忘れるはずがないのだが、

 

「下田業兼捕縛の際に本隊に伝令に走ったのですが、忘れてしまったのですか?」

「ああ、あの時のか、でもあの時の君は足軽では?」

「その時の功によって出世できました。 ありがとうございます!」

 

どうやら、その縁もあるから晃助の副官に選ばれたのだろう、更に長頼は出世のことで晃助に恩義を感じているようだ、実光の人事と心遣いには感謝感激だった。

実光は人事と共に主命を与えた、己の部隊を把握しろとのことだ。

要するに自分が新しい上司だと交流してこいと言ったのだ。

 

長頼の案内で部隊の許に行こうとしたら、頼隆がついてきた。

 

「晃助殿どちらへ? それにその(ひと)は?」

「これから自分の部隊に顔合わせに行くんだよ、こっちは副官の……」

「原長頼です! 姫さまお見知りおきを!」

「ええ、よろしく……」

 

頼隆は長頼の胸を見て、(…………負ける)と小さく呟いた。

そんな事とは別で晃助は気付いた。

 

「お前ら二人とも名前に(より)が入るな、呼ぶとき紛らわしいんだけど」

「私は、彦二郎(ひこじろう)というあだ名があります! あっ! でも可愛くないので(ひこ)と呼んでください!」

 

長頼はそう宣言するが、頼隆は少し悩んでから、

 

「……智慧(ちえ)と呼んでちょうだい」

「わかった、これからお前らのことをそれぞれ、彦、智慧と呼ぶからな、だから俺のことも敬称を付けなくていいから晃助と呼んでくれ」

「えへへ、わかりました!」

「わ、わかったわ、晃助」

 

長頼は早速あだ名で呼んでもらい喜びながら、頼隆は僅かに照れながら、呼び方に同意した。

 

 

 




次回、原作キャラ出します。
頼隆のあだ名ですが、広辞苑で彼の通称っぽい般若介を調べると、智慧と出ました、それを採用。

史実と比較すると常備軍の数が多いかもしれませんが、本文にあるように、それぞれのお家により内政事情が違うため……というのは建前で、多めにしないと作者が合戦を書けないのです(泣)。

許してくれ~

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