お待たせしました。
「ご無事の帰還お慶び申し上げます養父上」
そう言って出迎えたのは、黒髪の女の子だった。
「うむ、出迎えご苦労」
「実光様そちらの方は?」
「山田晃助じゃ、よき才を持つ若者ゆえ客将として迎えた」
「………っ!? あっあの初めまして」
晃助にしては珍しく見とれてしまい、挨拶が遅れた。
(やっべ、恥ずかしい、それにしてもきれいな黒髪だ)
女の子は黒い髪を肩まで伸ばしてあり、黒曜石のような瞳を晃助に向けていた。
その眼は珍しいものをというより、怪しいものを見る目つきだ。
(あ~~~、でもなんかお堅い雰囲気してるな~、生徒会の書記にありそうな)
「名乗ります、
(蜂屋頼隆だとっ!? そんな馬鹿なっ、だっ………だって女だぞ!?)
蜂屋頼隆は美濃出身の武将だとゲームで知っていたが、女性だとは聞いたことがない。
だが、目の前にいるのはどう見ても女の子にしか見えない。
晃助の驚いた表情を実光は横目で見ながら。
「相変わらずお主は出発と帰還だけ、義娘になるのぉ~~」
「いえ、養子にしてくれたことは感謝しております。ただ実光様のような偉大な方をむやみに養父と呼ぶのは恐れ多く……」
「固い! 固いわ! 少しはその尻のように柔らかくならんと、よき男が現れんぞ」
「っっ!? そんなっ! 初対面の人の前でなんてことを言……」
「頼隆は胸が控えめだが、尻が……」
「キャー! やめてっ!! やめてください養父上っ!!!!」
実光のセクハラ発言により目じりに涙すら浮かべて頼隆は抗議している。
晃助はしばらく唖然としながら、親子漫才を見ていた―――――
漫才が終わるや館の中を案内された。
晃助を無視して騒いでいたことに気付いた頼隆は、
「お見苦しいところを申し訳ありません」
「あぁ……、気にしてませんよ」
謝罪してきたが、晃助は苦笑いで返すしかなかった。
なにせ実光が頼隆の胸は手に収まりそうな大きさだの、尻が正月の餅よりも柔らかいからアレを食って死ねる男は幸せ者だのと本人を前にして聞くのは気恥ずかしい内容を喋り続けたからだ。
隣を歩く頼隆は恥ずかしかったのだろう、顔は平静を装うとしているが。
(顔の筋肉に少し力入っているな、耳なんて真っ赤だし)
そんな頼隆は前を歩く実光を恨めしそうに見ていた。
だが、実光の言動から蜂屋頼隆は女だと信じるしかないが、ふと気づいた。
(つか、胸や尻に触ったことあんのかよ!? 尻はほぼ間違いないよな!?)
晃助も実光に疑いの目で睨むと、実光が振り返った。
「晃助殿ここが普段、政務や評定を行う部屋じゃ、戦時には兵たちの休息・手当を行う場所になる。……なんじゃその眼は?」
「っっ!? 何でもありませんっ! ここが平時は政務、戦時は兵のために開放する。はい! 聞いていました!」
「そうかのぉ……、何か悲しい男の視線を感じたのだがのぉ~」
「ははは、気のせいでありましょう」
(びびった~、なんだよ悲しい男の視線って、まぁ彼女いたことないけど…………)
晃助は突然振り返った実光に対し居眠りを指摘された学生の如く受け答えした。
事実彼は十七年の年月を生きたが、恋人がいたことも告白したこともされたこともなかった。
そんな現代の自分を振り返りやはり悲しくなった。
竹山城は敵の侵攻に備えているわけでないが、敵が来るとすれば北が近い、そのため大手門は北に、搦め手門は南にある。
城の内側は大勢の篭城がかなわない造りになっていた。
一番大きな建物には先ほど説明された通りの役割があり大手門の前にあった、その西隣には武器や兵糧を保管する蔵があり、その南には(主要館の南西)城主つまり実光殿とその家族が暮らす建物、通称[奥]があった。
そして今案内されたのは主要館の南、調理場もかねる食事場だ、ここは城主と家臣が共に食事をする場なのでいつも賑やかだとか、ちなみに主要館・食事場・奥は渡り廊下で繋がっている。
そこには質素な着物を着た女性が侍女を指揮しながら食事を作っていた。
「殿、お帰りなさいませ」
「うむ、今帰ったぞ」
「晃助殿、妻の
「お初になります。実光の妻です」
柔和な笑顔を見せるその雰囲気は実光の妻にふさわしかった。
実光は、晃助のことを頼隆にしたような紹介をしてくれた。
下田業兼を捕えた時の話をしながらどうして客将にしたかを説明していると、奥の方から駆け足が聞こえた。
「おっとう、帰ったかー?」
「おうおう今帰ったぞぉ~、娘のななじゃ、これがかわいくて仕方なくてのぉ」
(随分幼いな、十歳くらいか?)
元気溌剌を体現したような子だった。
実光を見つけるや飛びついている、実光は穏やかな目つきをさらにトロンとさせ、娘を抱き上げている。
それはもう、瞼が落ちるのでは? と心配になるくらいだ。
ななが晃助に気づき警戒するような調子で訪ねた。
「お前、おっとうのなんじゃ」
「素浪人上がりの客将だよ」
「客将?? なんじゃそれは」
「ワシを助けてくれた者じゃ、これからも助けてもらう頼りになる男じゃ」
実光殿はななに晃助の事を紹介した。
その言葉を聞くと、ななの態度は豹変した。
「そっか、おっとうを助けてくれてありがとう!」
「おっと!?」
晃助にも飛びついて来た。
小動物の如く晃助に懐いてきたななの姿に思わず、口元がほころぶ、すると隣から非難の色を帯びた視線を感じると、頼隆が晃助を見ていた。
「なっ!? これは違うんだ!」
「何が違うかわかりませんが、私のことはお構いなく」
「ぜってえ誤解してんだろ!? 俺はこんな子供に……」
「晃助はななが嫌いか……」
「なっ!? きっ嫌いではないぞ」
「ヤッタ!!」
ななの悲しそうな声色に思わず反応してしまったが、おかげで頼隆の視線がさらに寒くなった。
実光夫婦はそんな若者達を見て―――――
「ほぉっほぉっほぉっ、仲良くやってくれそうでよいのぉ」
「そうですねぇ、さぁみなさん食事にしましょう」
なんて呑気なことに言っていた。
食事中は竹山城下や千早家の話を聞かされた、川で村の子供が遊んでいるところ溺れてしまい頼隆が助けたが全身ずぶ濡れになり、村の男衆が大いに沸き上がると真っ赤になって逃げ出したことや、
ななが城から抜け出してしまい、みんなで探したところ、山でタヌキと昼寝していたことなど、楽しい食事になった。
だが食事が終わるや実光殿は―――――
「実は晃助殿は未来から来てのぉ」
「っ!?」
「「「 ??? 」」」
とんでも発言をした。
もちろん三人は、
「……未来ですか?」
「おっとう、未来ってなんじゃ?」
「実光様? 一体なにをおっしゃるのですか?」
(当然だ信じられるはずがない、実光殿は[話の分かる人]だがこの時代の普通の人たちは到底信じられるはずがあるまい)
晃助は竹田城主:千早実光という身分のある人物に認めてもらい[浪人上がりの客将]という身分があれば十分だと考えていた。
大半の人達が自分を信じてくれなくてもいいと思っている、晃助はコレを諦めだと自覚しながらもそう思っていた。
「今は、着物を貸しておるが、この者が着ていた着物はこの時代で作れないものじゃ、さらに携帯電話なる不思議な道具を持っておった、晃助どの皆に見せてやってくれまいか?」
晃助は少し悩んで、頷いた。
「…………分かりました」
(どうせ諦めるなら手を尽くしてからだ、それに今は実光殿という味方がいる、やってやる)
それから晃助と実光は未来について語りだした。
次回もう一人女キャラ出す予定。
あと晃助を通じ、下田業兼をいじってるうちに愛着が出てきた、小物キャラでも人気がある。
そんなのありませんか? (笑)