△△△
「とにかく[三画]を集め…………に祈りましょう…………五色を未来へ返せるもの」
「そうだな、……等の言う…………が実態だがな」
△△△
真喜と透子は土橋の屋敷で一晩を明かした。
「おはよう透子」
「……おはよ~」
「あはは、ねぼけてるな」
透子は朝に弱い、いつも電車の出発ギリギリに乗り込んでくるから駅員に怒られたりしている。
だが透子はそれとは別でボーとしていた。
(あの夢はなんだろう? いつもよりクリアに聞こえた)
透子は昔から霊感体質だった。
寝ているときに見る夢で知らない人物達の会話を聞くのだ(これでは夢を聴くだが)。
原因は母方の血統が巫女の流れを汲むからというらしい。
だが、未来にいたときはゴニョゴニョとした会話しか聞けなかったが、昨晩のモノは途切れていたが、ハッキリと聞き取れた。
(女性の声は[三画]を集める、五色を未来へ返せると言っていた。男性の声はよくわからなかった。でも昨日、
「透子!」
「へ? ひゃあ!?」
「目を覚まさないと、もっと揉むぞ~」
「ちょっと、やめ……ひゃあ!?」
考え事をしながら廊下を歩いていると、真喜が透子の胸を揉みしだいた。
実は透子の胸はそれなりに大きい、最初は妬みからだがその内、遊びとして真喜が透子の胸を揉むようになった。
「ホント大きいよね~、確かEカップだったかな?」
「ちょっと……やめてよ」
「いいよね~、ウチはBしかないのにさ~」
「お前たち何をしているのだ?」
「「 あ 」」
二人がじゃれ合っていると(透子は遊ばれてる)、重治が目の前にいた。
三人とも食堂に向かっているところなのだから、遭遇するのは当たり前だが、真喜と透子が廊下の突当りに留まっているのだから、彼女の通行を邪魔していた。
「こんなところで格闘訓練をするな、邪魔だ」
「へ~、これが格闘訓練に見えたんだ~」
透子を解放した真喜は意地悪い表情を浮かべながら、重治の胸を見ていた。
透子は解放されてホッとしたが、真喜の表情を見てマズイと思った。
「重治姉さんのはどのくらいかな~!」
「むっ!?」
真喜は重治に飛び掛かった、重治は真喜を背負投げしようとしたが、真喜は体をよじって受け身を取る。
何度も何度も真喜は重治に挑む、その胸を目指して
「くっ、やるな」
「も~、さわらせてよ~」
「真喜ちゃんやめようよ!」
「お前ら朝から何やってんだ?」
「「「 あ 」」」
四人は食堂で朝食を食べていた。
「まだ痛いです兄上」
「守重兄さん強いね~」
「お手数かけて申し訳ありません」
「今度からあんな場所で喧嘩なんかするなよ」
守重はじゃれ合う真喜と重治を喧嘩と判断し腕力で収めたのだ。
あのときの守重はすごかった。
二人に近づくと、それぞれの手を取り、真喜は腕の捻りで、重治は足払いも加えられて二人同時に投げ倒したのだ。
そのことを透子が称賛すると、
「傭兵団の大隊長をやってるからな、これくらい当然だ」
「そういえばウチは少佐になったんだよね? コレってどういうこと?」
「雑賀衆は鉄砲を使った傭兵を生業にしている」
透子はある程度知っていたが、守重と重治が二人に雑賀衆と土橋傭兵団について教えてくれた。
現代の和歌山県は紀伊・紀州と呼ばれていた。
紀州には大きな武家勢力・大名がなく、複数の豪族が割拠した、協同体として運営していた。
その中でも有力な地域が雑賀衆と呼ばれている、土橋家は鈴木家に次ぐ影響力があるらしい。
「雑賀衆の中でも、財力・武力・指導力が高いのは間違いなく鈴木家だ。悔しいがこれは現実だ。だから雑賀衆の頭目[孫一]を代々輩出している」
「だが我らも負けてはいない」
兄妹が言うには潜在的な力は土橋の方が僅かに上らしい。
雑賀衆がなぜ鉄砲傭兵団として名高く活躍できたか、それから話された。
まず、この国に鉄砲が渡来したのは九州の種子島だ、その数二丁。
ポルトガル人に吹っかけられて種子島の領主が二丁しか買えなかったのだ。
それを本願寺ならぬ本猫寺とは別で宗教を広め僧兵・貿易を手広くやっていた、根来衆の頭目
それが成功し鉄砲本体は完成。
だが鉄砲の運用が高額になる原因は火薬の原料[硝石]が日ノ本で産出しないつまり、外国から買うしかないのだが、雑賀衆は海賊としての顔もある、貿易をしているので資金もありルートもあったのだ。
こうして雑賀衆は最強の武器:鉄砲を運用する環境があったため、傭兵として有名になった。
長くなったが、鉄砲量産の立役者、根来衆に一族を送り込んでいるため、そちらの戦力・財力を操れるという、根来衆の僧兵は二万以上と言われ、重治が言うには四千は手駒として使えるらしい。
「個人戦闘力は鈴木に負けるが根来をアテにした数は負けないということ?」
「も、守重さんは鈴木家と戦うのですか?」
「いいや、アイツが上だ下だなんて理由で争うわけねえ、孫一はライバルのようなモンさ、雑賀衆はそれぞれの考えで自分たちの縄張りを運営する、ウチはウチ、よそはよそ、そんな感じだ」
守重の言葉を聞いて真喜は感激した。
「自分たちの好きなルールで他とは干渉しない・させない、それって最高!」
「気に入ったかようでなによりだ」
透子ははしゃぐ真喜を心配そうな目をでみていた。
真喜は十一歳のときに両親が海外旅行に行った先でテロに巻き込まれ亡くした。
真喜の赤髪は亡くなった彼女の母の遺伝だ。
その後は父方の家に引き取られて過ごしたが、彼女は大きく沈まなかった。
むしろ快活で度々母方の実家:アメリカに行き銃を撃っていた。
彼女曰く、
「テロは憎いけど、両親を殺されたことより、平和を壊すことが許せない」
その為か、ちょっとした争いにもよく仲裁し、イジメられている子を守るため男子と喧嘩したりした。
彼女は政治のニュースを見るたびに、「仲良くすればいいのに」と大真面目に言っている。
透子は心配だった、真喜はこの戦国時代を肯定的だ。
雑賀衆をそれぞれのルールを尊重し助け合う集団だと思っているようだが、そう簡単なモノじゃない。
傭兵も困った人を助ける正義のヒーローと考えているかもしれない。
彼女のことだ、昨日助けた大名を「今回はアンタが悪い」と言って戦うだろう、現代では喧嘩だったが、戦国時代は戦争だ、この違いと大義の矛盾に彼女が壊れないか心配だった。
透子自身は未来に帰りたい、帰る方法は分からないが手がかりは、夢の会話と土橋重隆だったが、面会したいと守重に言うが駄目だった。
「あのババアは病態だあんまり起こしちゃポックリ逝っちまう」
「守重兄さんは、おばあさんを嫌っているのか心配してるか分からないな~」
「両方さ、家督を俺に譲っているのに実権の半分は手放さない、おかげでババアの命令を俺が調整するハメになる、全部任せちまえばいいのに」
食事の後で傭兵団のもとに案内された。
真喜に預けられる部隊は三百人だった。
これは土橋の兵力七百から計算すると多めである(根来の支援なしつまり独力)。
「貴様をまだ仕事に使うわけにはいかんが、将としての資質はあると見た」
「えっ、どうしたの? 守重兄さん」
「馬鹿者! 今は土橋大佐だぞ!!」
どうやら仕事とプライベートを分けているらしい。
「教育がまだなので、今は厳しく言わんが、これだけの兵を預かるに足る将になれ」
「わ、分かりました。」
「なんだその返事は!!」
「はい! 了解しました!」
真喜は規律の方で苦労しそうだ。
その後、訓練教官を紹介された。
「
彼は雑賀衆で一番の猛将と呼ばれた豪傑だ。寡黙な男だが近接格闘を担当してくれる。
「
彼は先の源四郎と共に後に起きる紀州征伐で最後まで抵抗した者だ。気さくな印象で射撃術を担当する。
「
彼は雑賀衆の水軍大将として名高い人物で、海賊らしく荒々しい男だ。
操船を担当するらしいが、希望者のみ受け付けしているようだ。
「私に教えてください」
「言うと思ったぜ嬢ちゃん! なにせ嬢ちゃんの持ってきた設計図で船を作ってるのは俺だからな!」
「私も自分の手であの船を操りたいのです」
「いいぜ! 船酔いには気を付けろよ!」
「大丈夫です。小さい頃はよく船に乗っていましたから」
こうして二人の修行が始まった。
△△△
「ま、順調だな」
「そうですね、ではチャンネルを変えましょう」
「そうだな、これから大きな分岐が起きるところだ」
「フフフ、楽しみですね」
△△△
次回はごちゃごちゃしてきたので人物紹介ですから、すぐ上げます。
その次はいよいよ長良川です。