未来人の選択   作:ホワイト・フラッグ

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晃助が行った交渉の内容です。
最後までご覧下さい。


13.カラスの孵化

「千早家が出す条件は姉小路家との短期同盟です」

 

相手が岩谷家でなく姉小路家になって方針が変わったが、晃助は先日、実光と話し合い道三に手紙を書いて貰い許可をもらった交渉を続行した。

 

「私たちと、短期同盟?」

「はい、その際の交渉窓口をしたいのです」

 

斎藤・姉小路の間で関銭や援軍といった、政治・軍事のやり取りをしたいと晃助は申し出た。

 

「どうして私たちと盟を結びたいのですか?」

「我々の利益になるからです」

「それはどのような?」

「簡単に言えば斎藤家における千早家の役回りを増やし格を上げたいのです」

 

晃助の歴史の知識に千早家は無い、美濃でどのように過ごしていたか分からないので、これから起きる歴史イベントをどうこなすかも分からない。

だが近々斎藤義龍(さいとう よしたつ)が父である斎藤道三を討ち美濃の国主になる。

実光は道三と親しいので上手くしないと竹山の千早家が滅ぶ、そうなれば自分の戦国生活の基盤が崩れる、そうならないようにする一手がこの同盟だ。

 

「千早家が斎藤家における姉小路家との交渉窓口になりたいと?」

「その通りです」

「この同盟にこちらの利益はありますか?」

「まず……領地が近くなったので小競り合いが起きるかもしれませんね、近隣の領主と話し合い旧岩谷領に出兵しないように掛け合いましょう。 ……そちらも新しい領地の整備などで忙しいでしょうから余計なことに気を取られなくていいですよ」

 

とにかく浮かんだ向こうの利益を言ってみた。

当然だ最初は落ち込んだ岩谷家を相手に高圧的に話すつもりだったのだ。

今も頼綱を説得するための判断材料を頭の中で探し回っているところだ。

 

「それなら、停戦で十分ではないですか? なにも同盟を結ばなくてもできることよ」

「いいえ、停戦ではできないことが同盟ではできるようになります。 停戦とはお互いが戦うのを一時的にやめるだけで敵であることには変わりません」

「?」

「そういえば……信濃は大変ですね、川中島で上杉と武田が睨み合っている。 川中島周辺の豪族はどちらに就くかよく考えないと潰されてしまいます」

「……!?」

 

どうやら頼綱は気付いたようだ。

 

(馬鹿じゃなくてよかった、……賢すぎるなよ?)

 

晃助は心の中で呟きながら頼綱の言葉にわが意を得たりと思った。

 

「江馬家をはじめとする飛騨の勢力ですか?」

「……ああ、そういえばあの家は武田か上杉かで親子が争うとか? さしずめ飛騨は川中島の代理戦争地ですね」

「……」

 

晃助は代理戦争という言葉を使ったが、実際の歴史でもそのような展開だ。

武田信玄は川中島で直接決着をつけられないので、越後の隣にある越中の勢力を扇動し上杉を攻撃。

挟まれては苦しいと判断した上杉謙信は越中の隣にある飛騨の勢力を扇動する。

それを止めるため、信玄も飛騨に扇動すると、越中から飛騨にかけて上杉と武田に扇動された勢力が争い出すという状況だった。

そして史実の姉小路家は織田家に誼を通じ国の安泰を計った。

それを一時的に千早家を通した斎藤家にしようと晃助は考えたのだ。

史実では頼綱は道三の娘を娶ったらしいから同盟があったかもしれない、今同盟していないならさせてしまえとも思っている。

 

「まぁ、くだらない例え話は脇に除けて、同盟すればお互いを助け合えるということです」

「……ならば斎藤家と同盟を結びます」

 

「有難い! 交渉窓口は千早家が務めるこれは?」

「ええ、それで構いませんよ。ただし」

 

頼綱はそこで言葉を切ると。

 

「下田業兼を無償で返してください。これから味方となるのでしょう?」

(くそっ! 最後に念を押したのは失敗だった。もしかしたら言われるかもって思っていたが本当に言いやがった……やっちまった)

 

どうやら、頼綱は晃助がなんとしてでも交渉窓口の役を欲していると気づいてしまったようだ。

実は道三の手紙には、

 

 

捕虜の返還交渉については千早家の好きなように進めるとよい。

 

 

とあったので、返還金が斎藤家からの条件と言ったのは嘘だ。

全て千早家主導の交渉であり、姉小路からの返還金は千早家の資金となる予定だった。

 

「……わかりました。返還金は無しでいきましょう」

「ありがとうございます」

 

晃助は頼綱に同盟の条件を書いた書類を用意し印を押して貰った。

 

 

 

 

 

 

交渉が終わりみんなで昼を食べているときだ。

 

「それにしても晃助殿、よくしゃべれたな」

「酷い綱渡りですよ最初の計画とずれましたので修正が必要です」

「晃助は未来の世界でこの時代のこれからを知ってるんでしょう? そのための計画?」

「あぁ、だけど詳しく教えてやれない」

「どうして?」

「余計な事をされて計画が狂いかねないから」

「私が余計な事をするとでも言うの!?」

「ああ痛てててて!?」

 

頼隆が晃助の頬を引っ張っているときに、長頼が来た。

 

「晃助さまあの護衛の武士を見ましたか!?」

「ああ、なんか見たことのある顔なんだが思い出せないな?」

「あの武士! 黒犬ですよ!」

「え!? 晃助は黒犬と遭遇して生き残ったの!?」

「あれが……、いやこの時代で会った敵は下田とその配下だけだ」

「じゃあどこで会ったのよ?」

「それが分からないんだよ」

 

ぼんやりとだがあの顔は見たことがあるような気がする。

しかし、世の中似たような顔の人物は大勢いるので気のせいと結論づけた。

 

 

「それにしても若いのぉ、あの者達が盛り立てる姉小路家は手強くなりそうじゃな」

「ええ、これから脅威になるかと思います。晃助の計画通りとはいかなくても同盟できたことは喜ばしいことです」

(脅威になるならその力を利用するまで、向こうは国内のことで悩んでいるようだが、知らんよ。せいぜいこれからの動乱で利用させてもらうからな)

 

食事が終わるといつもは訓練なのだが、今日は晃助の武具を見に井ノ口の町に行くことになった。

共連れは、なな、頼隆、長頼を含めた四人で行くことになった。

距離があるので、馬を使うが晃助はこれまでの訓練で乗馬を重点的に行ったので、それなり乗れるようになっている。

珍しく晃助と遠出ができると、ななは大はしゃぎだ。

 

「兄さまはどんな武具を買うのですか!」

「う~ん、重苦しい防具は嫌だな」

「晃助さま! それでは槍で突かれたときにすぐ死んでしまいます!」

「いいのよ彦、使う人によって防具の考えは変わるから、晃助の好きにさせましょう」

「そうですね! 私なんて胸が大きいせいでいちいち特注ですから困っています……」

(……くっ、いつか私もあんなこと言いたい……)

 

頼隆が背後に俯いた般若を召還しながらなにか言っていた。

今の彼女はちょっと危ないので、晃助はそっとしておこうとしたが、

 

「兄さまとお出かけ~♪」

(まずい!?)

「こうすけ? ななと引っ付きすぎでは~?」

「そっ、そうでも……ないだろ? おっ、落ちないようにしょうがないだろ?」

「なな、晃助と引っ付きすぎないように、馬を扱いづらくなるから」

「ななは、兄さまの邪魔をしていたか……?」

「そっ、そんなことないぞ!?」

「兄さまと一緒~♪」

「……」

 

ななは馬に乗れないので現在、晃助の前に乗せて二人乗りだ。

最初は頼隆が二人乗りさせようとしたが、なながどうしても晃助と乗りたいと言いこの状況だ。

ななは千早家に来た時からそうだが、養子入りすると更に晃助に懐くようになった。

そのためたびたび、頼隆が般若を召還し背筋が寒くなるが、さっきから感じていた般若の眼光が更に強く感じる。

 

(怖い、怖いですよ智慧さん)

 

 

恐怖に耐えながら井ノ口の町に到着すると、馬を降りることができたので少しは眼光が和らいだ。

長頼の案内で甲冑や陣羽織など戦装束を多く取り扱う店に案内された。

姫武将の風潮があるため、女性用に調整された武具も置いてあった。

晃助は防具としての性能、意匠、値段など吟味して決めた。

 

「晃助さま? これにするのですか?」

「兄さまかっこいいです!」

「でも、ほとんど胸元しか防具が……」

「これでいいんだよ」

 

晃助が選んだのは平素でも使えそうな戦装束だった。

全体的に白く、腰帯と左肩に掛けた短いマントは黒いが、頼隆の言う通り防具と言える鉄板は胸元しかなく身を守るということに関しては頼りなかった。

鎧というより服と言った方が正しいかもしれない。

だが、晃助は店中見て回ってたくさんの防具や服を見たが、これが一番いいと感じたのだ。

 

「前線で暴れ回るのは彦や他の足軽に頼るよ。だからこの格好でいいんだ」

「晃助がそう言うならいいけど……」

「はい! 暴れるのはお任せ下さい!」

(ま、気に入ったのもあるが、本当は自腹だから軍資金を温存したいんだよ)

 

晃助は心の中で小さく呟くと、店主に金を払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△△△

 

「へぇ、自分の色のことを自覚してるのかな?」

「さあな」

「色と言えばあちらはどうなっているのですかね?」

「なんだよ、変えるのか?」

「かまわないでしょう? そちらにとっても悪い話ではないと思いますが?」

 

△△△




最後は……何者でしょうかね。
頻繁に出ないということは宣言します。

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