未来人の選択   作:ホワイト・フラッグ

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本来二つに分けてあった説をまとめました。


12.首輪を着けられる

牧戸城にて

 

「ごほっごほっ、それでは倅は……死んだ……のか?」

「ハッ! 最後まで戦い抜いて果て申した」

「そっ、……そんな、ワシが起こした戦で、ごほっごほっ」

 

岩谷業木(いわや なりもく)は配下の戦後報告を聞いて体調を崩してしまった。

姉小路領に侵攻しようと戦を仕掛けたことから重臣を失い、その負けを取り返そうと斎藤家の領地を侵攻する愚を犯して今度は跡取り息子を亡くした。

業木はもう前が見えなくなった、これからどうすればいい? 

飛騨を支配するどころか、家臣を養う事すらできなくなる。

そんなときに来客がきた。

 

「こんにちは、姉小路頼綱(あねがこうじ よりつな)です」

「無様な姿を拝みに来たか?」

「そんなことをするつもりはありません、息子さんのことは残念でしたね」

「っ! 倅は美濃侵攻に反対しておった……ワシが間違ったばかりに……ごほっ」

「今日は岩谷家の今後について話があって来ました」

 

 

 

 

 

 

海斗は牧戸城を目指してさまよっていた。

道順については近くの農民に聞きながらなんとなくこっちかな? といった具合に歩いている。

また、道を聞くついでにこの時代のことを聞いたりして戦国時代にいると考えた。

勉強はあまりしていなかったが、桶狭間の戦い、本能寺の変、関ヶ原の戦い、が昔あったことは知っている。

当然、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、の三人も知っている。

農民に話を聞いたところ、いずれの戦いも人物も出てこなかったが、織田家には[うつけ]がいると聞けた時点で海斗には十分だった。

小学校で歴史に詳しい教師が桶狭間の戦いについて語っていたからだ。

信長は[うつけ]要は馬鹿な振る舞いをする者を演じて、敵を油断させ戦いに勝利したらしいから、その[うつけ]がいる=信長がいる時代、戦国時代にタイムスリップしたと結論づけた。

 

牧戸城に着いた、テレビで見たことのある城と違い貧相だった。

 

「ボロイな、ほんとに城かよ」

「なんだ貴様!」

「我らの城を愚弄するか!?」

 

岩谷家の家臣たちは城の前をうろつく不審者が自分たちの城を馬鹿にされていると思い、刀に手をかけながらやって来た。

 

「オイ! ここが牧戸城か?」

「ならば何とする!?」

「あっ! こいつ若の兜を!」

「さては斎藤の者だな!? 若を討ち取ったことを勝ち誇りに来たか!?」

「おのれ許さん、皆! 出あえ!」

「オイオイ、ちょっと待てよ! こいつは預か……」

「問答無用!!」

 

岩谷家臣は切りかかって来た。

しかたなく海斗は、切りかかってくる相手の懐に素早く踏み込むと、刀を持つ手を抑え捻りあげた。

悲鳴をあげながら刀を落とした相手を二、三発殴って倒す。

他の家臣たちが更に切りかかって来るが同じだ。

避ける、懐に踏み込む、殴るか投げる、これを繰り返していると十人くらい地面で呻いている。

そこへ

 

「なにをしているの!? やめなさい!?」

 

姉小路頼綱が仲裁に入って来た。

 

「岩谷家当主、岩谷業木(いわや なりもく)はわが姉小路家に降りました。よってあなた方は私の家臣です。もう一度言います、やめなさい!」

 

頼綱は業木の書いた書状を掲げながら再度命令した。

書状を確認した、家臣たちはすぐに海斗から離れる。

頼綱は騒ぎの原因らしき少年を見た。

性格にはその眼を見てこう言った。

 

「あなた悲しい眼をしている、どうしてこんな事をするの?」

(なんだこの女は? 人の過去なんて聞いてなんになる? 鬱陶しいな。)

「…………」

「……よほど悲しいことがあったのね、お父さんやお母さんは何も言ってくれなかったの?」

「っっ! その親が物言わぬ身になっちまったんだよ!!」

 

海斗は突然、過去に起きた自分の核心を突かれるような発言に思わず答えてしまった。

 

「そう、それは悲しかったでしょうに原因は戦? それとも飢え?」

「そんなモン聞いてなんになる!!」

「今あなたに殴られていた人たちも同じ、その悲しみは貴方だけじゃないわ」

 

頼綱は、答えを聞けなかったが、この時代で人が死ぬ理由は悲しいことに大体この二つだ。

 

「だからなんだ! こいつ等から俺に絡んできたんだ」

「どうして絡んできたか聞いた? 相手が誤解しているなら話し合えば争いが起きないじゃない?」

 

「っ! ……この羽織と兜の持ち主を殺したと言いがかりをつけられたんだよ」

 

海斗は苛立ちながらそう言って血塗れの陣羽織と兜を見せる。

 

「それで貴方は本当に殺したの?」

「違う! これは持ち主から預かったんだ!」

「ならそう説明すればよかっ……」

「説明しようとした! けどそいつらは話も聞かず襲って……!」

 

海斗はふと、「そういえば喧嘩の理由を正面から聞かれたのは久しぶりな気がする」

そう思うとなぜか涙が込み上げてきた。

最初はオッサンや学校の教師が聞いてくれたがいつの間にか、決めつけられた(諦められた)。

 

「だからと言って相手を傷つけてしまえば、争いが起きてそれは続……」

 

そこで彼女は海斗が泣を堪えるために作った弱々しい表情にきづいた、それは一瞬のことだったのに。

 

「……相手を全部殺せば、争いは終わる、……けれどもその地には死体しか残らない、

悲しいことしか残らない、だから悲しい眼をしていたのね。」

 

彼女はそこで言葉を区切り、飛切の笑顔を浮かべてこう続けた。

 

「なら、戦争が終わったあとに幸せを残せばいいじゃない?」

「……そんなモンどうやってだよ」

「私がみんなを笑顔にするわ!」

 

海斗はそれを聞いて、馬鹿にするように言った。

 

「……フン、無理に決まってンだろう?」

「あら、どうしてよ?」

「この国に何人、人がいると思っているンだ? そいつらを全員笑わせるなど誰にもできやしねぇ」

 

ここは、戦国時代で未来よりも人口が少ないが、億単位でいるだろう、それなのにテレビどころかラジオもない、どうして全員に干渉するなんて無理だ。

 

「一人一人回ってお話しするわ」

「全員回るまでにババアになるぜ」

「じゃあお城に上って大声で、呼びかけるわ」

「……城の周辺の人しか聞いてくれねえぞ」

 

頼綱が出す案を海斗は一つずつ答えていた。

頼綱は悩み、閃いたといわんばかりの笑顔で最後の案を出す。

 

「うーん……、そうだ! この国で一番高い山、富士に上ってもっともっと大きな声で呼びかけるわ!!」

「…………そんなこと未来人でもできねえよ」

「未来人? なにそれ?」

 

海斗は真面目に答えたが、この時代の人が理解できないことを言ってしまった。

そんな頼綱は純粋な疑問を海斗に問うた。

 

「言葉通りだ、未来を生きる人だ」

「……? その未来人という人でもできないってなんでわかるのよ!?」

「俺が未来人だからだ」

(これしか答えようがねえな、信じてもらえねえだろうがな)

 

海斗は半ば投げやりに自分の正体を言ってしまったが、頼綱は大きく頷くと―――――

 

 

 

 

 

「よくわかんないけど、私が富士に上ってみんなを笑顔にできたら、その未来人とやらよりもすごいわよね!? 私やるわ! やって見せるわ!」

 

自信満々に馬鹿なことを宣言し、拳を上げている。

それを見て海斗は思わず吹き出した。

 

「フッ……ククッ……アッハッハッハッ!」

(コイツ馬鹿か!? そんなことをしても大してすごくねえし、暗に俺より上になると言ってるも同然じゃねえか!?)

 

海斗は大いに笑っていた、当たり前だ彼にとってこれほど楽しい出来事は久しぶりだからだ。

海斗の笑いを引き出した、頼綱は彼に負けない笑顔でこう言った。

 

「ほら、まずあなたを笑わせることができた。悲しい眼をしていたあなたに幸せを見せた。確かにあなたの言う通り、日の本すべての民を私が笑わせることは出来ないかもしれない。

寿命とか、新しく生まれる人がいるからね。 でも、私がみんなを幸せに、楽しく笑顔で! そんな風に暮らせる世は創れるかもしれないわ。」

 

本当は自分で笑顔にさせたいけどね、頼綱は小さく笑いながらそう言った後、

 

「だからまず、戦をなくさなきゃならない、そのお手伝いをしてくれないかしら」

 

頼綱にそう勧誘され海斗は自分の中にあった葛藤が溶けていくのを感じた。

今まで自分は争いを無くすことを考えていた、でもそのあとに幸福がなければ争いがまた起きる、でも幸福はどうすれば創れるかわからず、ずっと悩んでいた。

だが、久しぶりに自分を笑わせた彼女なら―――――

 

「わかった、俺が争いを無くしてやるから、あんたが幸福な世を創ってくれよ」

「違うよ、一緒に無くして、一緒に創るのよ」

 

そう言って、二人は主従となった。

 

 

 

 

 

 

「斎藤方に恐れられる程の武勇を持つ貴方に会えたことは幸運だったわ」

「ハンッ、でその武勇の持ち主を農家の草むしりに駆り出せるからか?」

「幸福な世を創るためよ!」

「聞いたかよ? お前も最初の仕事は草むしりだぜ」

「……なんとも、それは……」

 

 

そんなこんなしている内に姉小路家の居城桜洞城(さくらぼらじょう)に着いた。

 

 

下田業兼は困惑した。なぜ草むしり?

 

 

 

 

 

桜洞城で頼綱一行を迎えたのは、髪を背中まで伸ばした、つり目の女の子だった。

 

「お帰りなさい(みつ)

「ただいま(はつ)

「無事に下田業兼を解放できましたね」

 

女の子は業兼に自己紹介した。

 

「初めまして、金森長近(かなもり ながちか)です。通称は五郎八ですが、長いので(はつ)と呼んでください」

「八は主に姉小路家の内政を担当しているわ」

 

頼綱が教えてくれたが飛騨で一番の勢力と言えど、飛騨という国自体が十五万石という国力のため、財政が苦しく苦労をかけているそうだ。

 

「光、お客がいますよ」

「えっ! 誰?」

「弟様とその一行です」

「顕綱? もしかして江馬殿と一緒に?」

「江馬は危険な男と聞いている、合わない方がよいのでは?」

「しかし一門の共連れとして参ったのです。会わない訳には参りません」

「しょうがないか、会いに行くよ」

 

頼綱たちは、休む間なく飛騨の他勢力と会見することになった。

 

 

 

評定の間にいたのは四人

 

「遅いではないか姉者」

「ごめんごめん、顕綱」

 

鍋山顕綱(なべやま あきつな)、頼綱と同じく良頼(よしより)の子として生まれた頼綱の弟だ。

鍋山家に養子に出されたが、鍋山の当主を毒殺し他の一族を追放することで鍋山家を乗っ取った人物で今は姉小路家の一門衆としてここにいる。

 

「客を待たせるとはなんたることだ」

「まぁ、無理もあるまい女子の足じゃよちよち歩きも同然じゃ」

 

前者が塩屋秋貞(しおや あきさだ)、元は塩商人の出と言われる飛騨の豪族だ。

後者が内ケ島氏理(うちがしま うじさと)、飛騨の中でも陸の孤島と言われる峻嶮(しゅんけん)な土地を領有する豪族だ。

 

「俺たちが留守にしてるとこに来た方がワリいだろ」

「いやはやその通り」

 

そして、江馬輝盛(えま てるもり)だ。

 

「留守にしているときに押し掛けた我らが悪いが、よかったではないかこうして会って会見ができるのですから」

「どういうことですか?」

「ククク……いやなに……途中で賊に襲われでもしたらという意味ですよ」

 

不吉なことを言うがこの人物ならあり得る。

父親と折り合いが悪く家督を弟に譲られそうになると、父親を暗殺し弟たちを追放して江馬家の当主になったのである。

あくまで噂だが、鍋山顕綱が鍋山家を乗っ取る際に手を貸したのではないかと言われる。

 

この四人が集まったのは先日、姉小路家が取り込んだ岩谷家のことでだ。

領地、家臣、財産をよこせとのことだ。

姉小路家は最近勢力を広げている、その勢いを少しでも抑えるための会見らしい。

 

「こちらには、業木殿が書いた譲り状があります」

 

長近が姉小路家の言い分を堂々と掲げる。

 

「それはこちらにもありますぞ」

 

なんと輝盛も同じものを提示した。

 

「馬鹿な、なぜ!?」

「業木殿は嫡子を亡くしてから体調がすぐれない様子で薬師を連れてよく見舞いに行ったのですよ。 すると業木殿は私の善意に甚く感謝しこうして譲り状を書いて下さった」

「そんなっ!? 私が最初に貰ったのに」

「ククク……後先は関係ありませんよ、業木殿が譲る意思があるかどうかですよ」

「そうだ! 家を亡くした人物が後を託したいかどうかである」

「むしろ後に書いて貰った方が効果が高いのではないか?」

 

塩屋と内ケ島も抗議する。

そこで今まで黙っていた、顕綱が口を開いた。

 

「まぁまぁ方々、ここはどちらかがではなく、どちらもと考えてはいかがか?」

「ふむ、それはよいな」

「さすがは良頼殿の嫡子だ」

「私はそれでも良いが、ククク……どうされる頼綱殿?」

 

頼綱と長近はなんとか抗議しようとしたが、もう状況は出来上がってしまっている。

結局、顕綱の案が通ってしまった。

領地が近いので江馬家が領地を、戦闘力が乏しい塩屋家に家臣を、生産力が弱いため内ケ島家が財産を、それぞれ一部であるが譲渡するしかなかった。

幸運なのは美濃との要地、牧戸城を守れたこと。

家臣の中で一番の有力者、下田業兼が残ってくれたことだ。

江馬家や塩屋家が強く呼びかけたが、

 

「某を迎えに来たのは姉小路頼綱である、お主らではない」

「だが、岩谷家を潰したのは姉小路家であるも同然」

「ククク……左様、それに父君を殺したのも姉小路家だぞ」

「先に戦を仕掛けたのは岩谷家である、父上は武運がなかっただけのこと」

 

そう言って、頑として首を縦に振らなかった。

 

 

 

会見が終わり四人が帰って行ったあとで頼綱たちは話し合っていた。

 

「申し訳ありません姫様」

「いいのよ、私も何もできなかったから」

「しかし、大分削られたのではないか? 姉小路家としては岩谷を取り込んだ旨みがほとんどなくなったのではないか?」

「ええ、貴方と牧戸城という重要事項を守れましたが、お金が……」

「ヘンッ、全部守りたければまず会見なんかしなけりゃよかったじゃねえか」

「そうはいきません、鍋山顕綱さまがお客人として連れてきたのです。 追い返す訳にいかず……」

「じゃあ戦だな」

「ダメ! それは出来るだけ避けたいの!」

「あぁ、そう言うと思ったよ」

 

海斗が会見の場に居ながらずっと黙っていたのは、戦以外に解決策が浮かばず、そして頼綱は戦を回避したがると思ったからだ。

 

「あの人はもしかしたらこのことを予想していたのかな?」

「あンの、千早の養子に泣きつくのかよ」

「まだ頼らないよ、まだ……」

海斗は変遷交渉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千早家が出す条件は姉小路家との短期同盟です」

 

 

 

 




飛騨方面の情勢を書きました。
この土地に介入する勢力はまだいますが、国内ではこのようになっております。
次回は晃助に視点を戻します。

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