未来人の選択   作:ホワイト・フラッグ

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飛騨方面の話です。
新キャラのことを書いたので、少し長いですよ。


11.未来から来た犬

「初めまして、姉小路頼綱(あねがこうじ よりつな)です」

 

眩しい笑顔をする女の子が来た。

晃助は実光と共に下田業兼とその部下たちの返還交渉の場にいた。

 

「これはこれは、[山谷の日ノ出](さんやのひので)と評される笑顔を拝めるとは」

「こちらこそ、東美濃にその人ありと評される実光殿に会えて光栄です」

(ああ、四人目となるともう慣れちまったよ)

 

飛騨の大勢力、姉小路家の当主姉小路頼綱も女の子だった。

ゲームで毎回残念な国力、たいしたことない家臣団で構成された大名家だ。

 

(あぁ、よく覚えてるよ、苦しい境遇だから一種の縛りプレイだからな)

 

彼女は美人・可愛いの狭間にある容姿だが、その破壊力絶大な笑顔から[山谷の日ノ出]と呼ばれ飛騨のアイドル的な存在らしい。

 

 

「ところで、岩谷家臣の下田業兼をなぜ姉小路家が引き取りに?」

「岩谷家は姉小路家に取り込まれました」

「「 !? 」」

「その後処理が大変でなかなか使者を出せませんでした。私が来たのはせめてのお詫びのつもりです」

 

なんとなく予想していたが、岩谷家は滅亡したようだ。

姉小路に追い立てられ美濃に遠征して返り討ちにあったのだ、斎藤が攻める前に姉小路に一手先を打たれてしまったが、 まあいい、斎藤としては取れるなら取ろうという、飛騨への入り口を無くしたが、今勢い盛んな姉小路家に恩を売れる。

 

「それでは捕虜の引き渡しにおいて条件を伺いましょう」

「斎藤家は、返還金を要求しておる」

 

実光が条件が書かれた書類を見せた。

これは先日、斎藤道三と話し合って決めたものだ。

 

「やはりこれくらいしますか」

 

頼綱は少し残念そうな顔をした。

そこで晃助は初めて口を開いた。

 

「斎藤方はその要求ですが、我ら千早家としては別で条件を出します」

「貴方は?」

「失礼、千早実光の養子で千早晃助と申します」

「晃助殿ですねよろしく、それで別の条件とは?」

 

自己紹介の挨拶を省いて話始めるのは、普段の彼らしくないことだが、こうすることで自分の印象を強く持たせ尚且つ条件の内容に興味を持たせることを狙ったのだ。

といっても僅かな効果しかないが、

 

「千早家が出す条件は―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとやっかいかな?」

「何がだ?」

「さすがは実光殿だなって」

「あの養子か?」

「正解! あの人結構切れ者かも」

「ふん、弱そうな奴だがな」

「戦は槍だけじゃないよ、自分に有利な状況を事前に作ることも大事!」

 

頼綱は護衛の兵と話しながら飛騨に帰っている途中だった。

後ろには下田業兼とその配下がついてきている。

 

「まさか主家が滅んだと思いきや、お主と姉小路の娘が迎えに来るとはな」

「生きててよかったじゃないか、また大好きな殺し合いができるぜ?」

「こら海斗! これから一緒に頑張っていくのだから仲良くする!」

「わかったよ、(みつ)

 

姉小路頼綱はあだ名を(みつ)といった、そして彼女と話しているこの男は―――――

 

「初めて名を知ったぞ黒犬(くろいぬ)

「俺の名は新夜海斗(あらや かいと)ってンだ、覚えとけよ恥さらし」

「こらぁ! 海斗!」

「あぁ、あぁわかったよ」

「ふんっ、恥さらしは事実だが、そっちは随分な活躍だったようだな、斎藤方はお主の話で持ち切りだぞ」

「ムカつくあだ名をつけやがって」

「それはそうよだってあの戦で―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すこし時間を遡る、晃助がこの世界にたどり着くより少しだけ前の話だ。

 

 

 

 

新夜海斗は森の中で目覚めた、自分はいつもの如く喧嘩騒ぎを起こして扶養者に木刀で折檻されたのだ。

海斗にも木刀は渡されて対等な条件だったがいつも負ける、そして気絶するまで打ち合ってそのまま放置されて起きたら自分のベットに行く。

ほぼ毎日そんな感じの生活だったが、今日は違った。

起きたら森の中にいる、なぜ? 

 

「あのオッサン、俺を森に放り出したか?」

 

いや、あのオッサンはそんな面倒なことはしない。

意味が分からん、どうしようもないので歩き回ることにした。

 

 

暫く歩くと大勢の人々の騒ぎ声が聞こえる、人がいるなら話をしてみようと森を抜けると―――――

 

「なっ! これは!?」

 

時代劇のようにチャンバラをしていた。

だが、演技には見えなかった。

槍で腹を貫かれ膝をガクガクさせながら死ぬ足軽。

前の敵に気を取られ、後ろから近づかれた侍が首を掻き切られて血飛沫をあげて周りの地面を濡らす。

死ぬ、殺す、殺される、首にされる、

 

 

地獄だった。

 

 

海斗はこの光景に憤りを感じた。

 

「何をしているっ」

 

八歳のときに戦場報道官の父が殉職、十歳のときに海外旅行に行った母がテロに巻き込まれ死亡する。

道場師範をいている父の友人が引き取ってくれたが、海斗は戦争を憎むようになった。

父の死は仕事だから仕方がないと思っているが、母は戦争に何をした?

以来彼は戦争を無くせるかもと政治を勉強したが、政治家の汚職報道が多く取り上げられた。

全ての政治家がそうではないと分かっているが、地元の慈善家で知られた人物が逮捕されたのを見て、嫌気がさした。

それでも戦争が憎くてたまらず、近場で喧嘩という小さな争いをする不良たちと喧嘩を繰り返した。

目の前で起きる殺し合いを許せない全員殺したい、全員殺そうか?

そのとき

 

「うっ!? ……うおおおおお!」

 

一人の武者が四本の槍で腹や胴を刺されていた。

更に足軽が集まり追加で二本刺す。

 

「ごっ……ぬおおっ」

 

それを見て―――――

 

「手前らああああ!!」

 

近くに落ちていた槍を拾い駆け出す。

 

「ぎゃあああ」

 

一人目は背中を刺して

 

「なんっ!? ぐあああ」

 

二人目は引き抜いた槍でわき腹を刺す

 

「くらえっ!! ……な!? ぐあ!」

「!?」

 

突き出される槍の穂先に触れないように左手を伸ばして穂の付け根(口金(くちがね))に手首を当て巻き上げる。

自分の体に当たらないように腕を回し持ち主に接近して頭突き、槍を手放した足軽の口に奪った槍の石突きを打ち込み三人目。

四人目の首に鋭い突きで浅く刺すように穴をあける。

 

「な、なんだこいつ!?」

「強いぞ距離をとれ」

 

いきなり乱入してあっという間に四人倒した海斗に周りの兵は距離をとるが。

そこへ

 

「若ー!!」

 

下田業兼(海斗は名を知らない)が周りの兵を倒しながら、駆け寄って来た。

 

「若! お気を確かに」

「……ぬぅ、ワシはもう……無理だ」

「若!」

 

若と呼ばれる人物は海斗を見ると、

 

「お主に……た、頼みが、こっ、この兜と陣羽織を……父上に」

 

そう言うや、こと切れた。

武者(業兼)は泣き出したが、海斗は死んだ人間の最後の頼みに困惑した。

 

(どうする? そこまでしてやる義理があるのか?)

 

海斗がこの武者を助けようとしたのは、大勢の人に暴行(死ぬぐらい)されていたからだ。

昔もこんなことがあった、路地裏を歩いていると、大勢の男女にリンチされている少年を見つけ助けてやったがその少年は海斗が一緒に戦ってくれると勘違いしたらしく、自分を殴っていた男子を何人か殴り返していた。 だが海斗は争いにムカついて助けたのだ、コイツも争うならばと、周りの奴を全て片付けた後、その少年の後頭部を掴み壁に叩き付けた。 少年はそのまま気絶したが海斗は何食わぬ顔で家に帰った。

少し後味が悪い喧嘩だったが、今はもっと悪い。

 

(兜は分かるが陣羽織? この上着か? 血塗れじゃないか、親父にと言われても誰か知らねえし断ろうにも本人は死んじまった)

 

海斗はどうすべきか武者に(業兼)聞こうとするが、

 

「くっ、ワシは部隊を率いて本陣に奇襲する! その間に牧戸城へ!」

「あっ、オイ!」

 

武者(業兼)は行ってしまった。

しかも海斗が頼みを引き受けたと勘違いしている。

 

「あぁ~、なんだっけ? 牧戸城に行けって? …………しょうがないか」

 

最初に手を出してしまったのだ、乗りかかった船から降りるのは気に入らなかった。

海斗は「若」と呼ばれた武士の陣羽織を無理やり剥がし懐に入れた。

兜は試しに被ってみると、ちょうどよかったのでこのまま使う。

 

敵の追撃部隊がやってくると、周りの岩谷兵は応戦の構えをとるが傷だらけで頼りない。

 

「まずは、あいつらをぶちのめすか」

 

海斗は周囲に落ちている槍を集めながらそう言った。

 

 

 

追撃部隊の大将は第二陣を率いながら先頭を駆ける。

第一陣は即席で編成した部隊だが彼らだけで事が足りるかもしれない、それでも大将は直接の手柄が欲しくて部下を追い越す。

だがそこには、

 

「……なんだこれは?」

 

百近くの死体から出る血の河だった。

 

その先には黒い格好で槍を担いだ敵が背中を向けて歩いている。

まるで、畑仕事を終えて「飯はなんじゃろな~」とでも言っていそうな背中だ。

 

その背中を追いかけ四人の部下たちが槍を並べて突撃する。 

追加の敵に気づいた黒い敵は横に回転させるように槍を投げた。

水平に回転して飛ぶ槍は一列に並んだ部下たちの頭や胴に当たる、端にいた部下は運悪く穂先で首が切れて死んだ。

怯んで槍衾が乱れたところを黒い敵は拾った槍で二人目の首を貫く。

立て直した残り二人は同時に槍を繰り出すが、片方は槍を叩き付けられ防がれる、もう片方は素手で逸らされ味方を刺してしまった。

味方を殺してしまい驚いている部下に黒い敵は、容赦なく槍を突き出し殺す。

あっという間に死体を増やした黒い敵に後ろにいた部下たちは竦み上がった。

 

「ひゃ、なんじゃあいつ!?」

「あの血の河はあいつが作ったのか!?」

「無理だ! 敵うわけねぇ!!」

「ええい! あのような輩、ワシが討ち取ってくれる!!」

 

大将は兵の動揺を収めるために、馬の腹を蹴り敵に挑む。

すると黒い敵は槍を拾い上げ、二槍を構える。

大将は馬上から槍を突き出す、黒い敵は槍を抑えようと自らの槍を叩き付けるが、大将はギリギリで槍を引っ込める。

黒い敵の槍が空振ったところで再び槍を突き出す、黒い敵はもう片方の槍を叩き付けるが、大将は槍を手放し刀を抜く。

 

(かかったな、これでこの者は槍を使えん)

 

二撃目を防ぐために振り下ろした槍は空振りになった自分の槍を抑え込んでしまい×(クロス)しているのだ。

更に手放した槍は二撃目の槍に覆いかぶさるように投げた。

これでは両手の槍を素早く使うことができない、大将は勝利を確信して刀を振り下ろすが

 

「なっ……!? うわっ!?」

 

刀から肉を切る感触がせず、そしてなぜか馬が暴れ出し落馬したのだ。

 

「いったい何が? ……うぐっ!?」

 

落馬から起き上がると自分の胴に槍が刺さった。

 

「馬鹿な!? ……ワシが、負ける?」

「今まで散々殺したんだろ? じゃあ殺されることもあるぜ」

 

大将は驚愕の表情を浮かべて死んだ。

 

海斗は刀が振り落されたとき、両手の槍を捨てブリッジしたのだ。

馬上の高低差もありその一閃を避けると、ちょうど手を突いたところに先ほど倒した敵の槍を掴むことができた。

あとはその槍で馬の尻を刺し、馬上から敵を下してから槍でとどめを刺す。

最後のは自分が死ぬことに疑問を持っていたようなので、どうして死ぬのか教えてやったのだ。

もっとも、自分にも当てはまることだと自覚しながらの発言である。

この短時間に自分も言い訳のできない殺人者になってしまった。

扶養者に文字通り体で覚えさせられた、我流武術でこれほどの死体を作ったのだから。

海斗はこの意味の分からない世界でどうしていけばよいのかわからなくなっている、戦争を無くしたいがどうしたらいいか分からず喧嘩する者たちを両方倒していたら、警察に補導される。

だが、この世界は争いを止める方法に殺しまで当たり前のようだ。

ではこの世界で殺しまくるか? いいやそれでは争いが終わらない気がする、よく分からないがそれではダメな気がする。

結局目の前のことを済ませようと歩き出す。

後ろで大将が死んだ、黒犬にやられたなどと騒いでいるが、争う気がないならどうでもよかった。

 

「で、牧戸城ってどこだ?」

 

海斗は陣羽織と兜を届けるために牧戸城を目指した。

 

 




時空列上、二人目の未来人です(晃助は三番)。 
ちなみに作者の頭の中の戦国マップは、信長の野望天道・太閤立志伝5で構成されています。
牧戸城は本来の城主と違いますが、まっいいか! というノリです。

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