【長期更新停止】やはり俺の人間関係は中学時代からどこか可笑しい 作:Mr,嶺上開花
もう一つ、遅くなって申し訳ない…!
今日は水曜日である。そう、水曜日。何があるかと言うと、別に楽しいことではない。水曜ど○でしょうとかがやってるとかだけだったどれだけ良かったことか。…まあ個人的にはアレが北海道テレビじゃなくてチバテレビであったら速攻全てのDVDを買ってたが。
ともかく、水曜日である。部活である。数学部である。面倒だ。
「はぁぁぁ………」
思わず溜息をついてしまう。授業中とは言え、こればかりは許して欲しい。始めて部活めんどくさがる奴の気持ちを理解した気がする。こんな放課後に勉強するような部活、誰が入りたいと思うのか…。あ、雪ノ下か。
「おい、比企谷。ため息をするな」
それくらい見逃せよケチ教師。そう思いつつ前を見ると数学の教師である浅浦先生が教鞭をふるっていた。俺に。
「…うぃっす」
無視するともっと面倒なことになりそうなので仕方なく返事を返しておく。別にいいだろ、数学なんて俺の将来構造的には絶対使わないから。むしろ家庭科の方が数倍使う、だから家庭科の授業増やしとけよ。
「心がこもってないぞ比企谷。昼に職員室来い」
「…………うっす」
理不尽だ。
そんなこともあったが現在3限が過ぎ、次の授業が終われば昼食となる。教室全体が空腹オーラで包まれているのがその証拠だ。クラスメイトの半分は空腹からか机に沈んでいる。残り約半分は近くの席の人と会話、もう約半分は黒板をぼーっと眺めている。後少数派としてクラスを観察している少年もいる。
というか俺だった。
後もう残り少数は【ブラック企業の足跡】なんてタイトルの本を読んでいる。
というか雪ノ下だった。あいつは何てもん読んでんだよ、労働組合でも作る気か?
クラスメイトを観察対象にするのも飽きてきたので窓の外を眺める。中学2年の教室は全て3階にあるからか、とても見晴らしが良い。住宅地が一望出来、俺の家も見える。ついでに小町の通う小学校も見える。小町ーお兄ちゃんはいつでもお前を見てるぞー。
…小町に聞かれたら「うわキモ」とか真顔で冷たく言われそうだな。止めとこう、うん。
「授業始めんぞー」
そんなのんびりした声と共に入って来るのは理科の幸野先生だ。いつも理科室にこもっていることで有名でもある。出て来るのは登下校を除くと授業の時と職員会議の時くらいらしい。我が校の変人でもある。
「えーっ!まだ鐘鳴ってませんよ先生!」
前からそんな声が聞こえる。発言主を見てみたが、顔も名前も全く知らない生徒だ。まあクラスメイトだしな。
ちなみに俺にとってのクラスメイトは、クラスという箱があるとして、そこで偶然同じ箱へ詰められた知らない人である。知らない人である。
大切だから二回言った。
「別に鐘が鳴ってから授業を始めるなんて憲法も法律もないだろ。安心しろ、早く始まった時間分終わる時間も早くしてやる」
それで良いのか教師。
「早く始めましょう先生!僕に新たなる知識を植え付けてください!」
こっちは変わり身早いし…、しかも何かその言い方がすごく引っかかるだけど。植え付けるってなんだよ植え付けるって。お前は苗床か?
そんな訳の分からないやり取りの後はしっかりと幸野先生は授業をしてくれた。植え付けてください宣言をしてた生徒は20分くらいで寝てた。植え付け拒否してんじゃねえかおい。
そうして昼になる。クラス一同弁当箱をパカパカ開けている中俺だけは教室から出て職員室に向かう。ホント俺何で呼ばれたんだよ。
職員室に着くとノックを手早く2回して返事を待たず入る。早く弁当食べたい。
「失礼します、浅浦先生はいらっしゃいますか?」
いなかったら帰る。そう腹に決めて手短に要件を近くの教師に聞いた。
「浅浦先生は用があるとかで外に行きましたよ?」
「そうですか、ありがとうございます失礼します」
そう言って素早く礼をしてドアを閉める。ラッキーだ、これで帰れる。
「お、比企谷来てたか。取り敢えずこっち来い」
ーー帰れるわけないよな…。
後ろから声を掛けられる。浅浦先生だ、確実に。振り向く必要すら感じない。
「…了解です」
上げて落とされたからか、自分でもかなり変なテンションになっている。…早めに帰れると良いな。
そう思いながら浅浦先生の後ろをついて行くと、すぐに空き教室に着いた。ここは多分、数学部の部活だ。まだ俺数学部の場所を自信持って言えないんだよな。月曜日は浅浦先生の後ろに着いていって始めて行ったし、火曜日も雪ノ下の後ろに着いて行ってただけだし。つまり2回しか行ってない。むしろそれなのに場所を推測できる俺を褒めてほしい。
「当然ここがどこか分かるな?」
「数学部の部室…ですよね」
やはり自信を持てない。しかしその答えは合っていたようで、浅浦先生は意味深な表情を浮かべる。
「ああそうだ。ここは本来数学の少人数教室に使われているんだが、実は今日から少人数教室が別の教室に変更した為にここは空き教室となった」
「………は?」
思考が少し停止する。だがそれを見て見ぬ振りか、浅浦先生は話を続ける。
「で、だな。ついてはここの教室を本当の意味で数学部の部室として活用したいと思う」
「いやっ…ちょっと待ってください」
意味が分からない、何が意味が分からないかと言うとほとんど全てだ。
取り敢えず気になったことを一つ質問する。
「あの、何で部長である雪ノ下ではなく俺にそれを教えるんですか?」
「それは雪ノ下の為を思って…!」
…意外である。浅浦先生は雪ノ下がイジメの対象になりかけているのを知っていたのか。
その状況で突然雪ノ下が部長を務める部である数学部の部室が専属に変わったら雪ノ下を虐めようとしている人間にどう思われるか。そんなのは決まっている、格好の種だ。それを口実に[調子乗ってる]などとイジメの中心が言っていれば周りも初めはそれに乗じて、他のことは見て見ぬ振りをして盲目に縋りつき、やがてはその虚実を真実として自己完結させてしまう。
そうして雪ノ下の誤ったイジメの認識度は広がってゆき、更にあいつの敵には塩を送るどころか毒を塗りたくそうな性格も考慮するとそれがエスカレートとするのは簡単に分かる。
最終的には下手をすると、雪ノ下は学校に居場所が無くなり、不登校になる可能性だって存在する。
ーーーだから浅浦先生はその種である数学部に専属教室が手に入ったことを隠し通そうと代わりに俺に伝えたのか……。
続く言葉を紡ごうと浅浦先生は口を開く。
「まあ嘘だが」
「嘘かよっ!」
放たれた一言はあまりにも酷いものだった。俺の純情を返せ。
「別にお前じゃなくとも小坪でも良かったんだ。…いや、小坪は少しバカの素質があるから谷津か。だがお前にした」
…教師が『バカの素質がある』とか言っていいのかよ。
「と言うか別に俺じゃなくともいいんなら谷津にして下さいよ、早く昼飯食いたんですけど」
そんな嫌味を言うが全く動じずに浅浦先生は話を続ける。
「そうだな…そう言えば比企谷、お前にした理由が一つあったぞ」
「それは俺じゃなきゃいけない理由ですか?」
「ああ、そうだ」
それは何ですかと言おうとしたが、その前に浅浦先生がその答えを言った。
「ーー俺の憂さ晴らしにちょうどいい」
「帰らせてもらいます」
さて、昼飯食うか。まだ昼が始まって10分ちょっと経ってないくらいだから弁当食べてからも寝る時間はたっぷりある。そして五時間目と六時間目受けて俺は帰え……れないな。数学部があった。カマクラと一緒にソファーで寝転がりたかったのに。
「まあ待て比企谷、話すことは一応ある」
「一応なんすね…」
引き止める理由がかなり雑な気もしたが、気になったのでクラスに戻るのを止める。最初からその事を言えよ本当に。そして早く弁当食わせろ。
「ああ、10円ガムの存在価値についてだ」
「浅浦先生はもう少し真面目かと思ってました」
つかなんだよ10円ガムの存在価値って。確かに他のガムと比べりゃ手軽かつ単体で安いが、某キ○リトールみたいな100円のガムも大体が10個くらいは入っているし、そもそもそっちの方が美味しい。それを考えるとコスパで最強なのはガムではなくて100円でそれなりの量が入っているグミだ。特に多く噛める奴ハードグミなんかだったら最高である。
「まあとにかく今度こそ帰らせてもらいます」
「まあまあ待て待て比企谷比企谷」
帰ろうとすると、またもや浅浦先生に引き止められる。しかも今度は何か反復法使ってるし、何だよ新しいキャラ作りですか?それに俺を巻き込まないで欲しいんですけど。
「本当に話はあるんだ」
「何かドラマの裁判とかで容疑者が自己弁護する時に言いそうな台詞ですね」
あるいはオオカミ少年のようにも思える。本当に○○はあったんだ!みたいな。
「まあ聞け、数学部の現状についてだ」
今度こそは真面目な話のようで、浅浦先生も表情を引き締めた。
「実は数学部の部員は全員訳ありだ。まあそれは良い」
良いのかよ…!
あと本人目の前にしてそれを言うなよ、少し傷付くから。
そんなツッコミをしそうになったが、ツッコミを入れたら最後、またふざけそうなので浅浦先生の次の言葉を待つ。こっちは早く弁当食いたんだよ…。
「それでだ比企谷、雪ノ下は現在イジメの対象にされかけている」
「はい、それは雪ノ下から聴きました」
一瞬浅浦先生は驚いたような顔をしたが、直ぐに話を続けた。
「それなら話が早い。お前、クラスの中心人物知ってるか?」
「知りません」
ーーこの人、俺がぼっちなこと分かってて言ってるだろ。
まあそんな事を言い出すとキリが無いので黙っているが。浅浦先生に何を言っても逆の結果が帰ってくるのはもはや学習済みである。
「そうか。勿体ぶらずに言うと、そいつの名前は長谷秀典。【秀でる】という漢字が入ってはいるが別に頭が良い方じゃない。寧ろ学年では平均より少し下だ。数学の点数もお前と同じレベルでもあるな」
いや要らないしその情報。頭が良いとか悪いとか関係ないだろ。
そんなことを思うがグッと堪える。
「それでそいつがどうしたんですか?」
とにかくまずは話を促す。そうしないと雪ノ下に関する事が聞き出せない。
「ああ。その長谷は頭こそ悪いものの顔は良いんだ、ここまで言えば分かるな?」
「【リア充爆発しろ】という事ですね」
「何故そうなる。…お前本当にクラスの事知らないんだな」
喧しい。別に俺だって知る必要があったら知るし、知らなくて良いのなら知らない。この世の中では知らぬが仏なんて言葉もあるくらいだ、全てを知っている必要は無いだろう。寧ろ知りすぎたせいで苦労する事も大いにあるくらいである。なら知らないものは知らない、それで良いのだろう。
ーーそんな何時もの弁論が出てきてしまったが、先程と同じように心に抑え込む。言ってもどうにもならない上、言ったら言ったで話が長くなって最悪昼の時間が無くなってしまう。そんな自分のエゴでこれからの予定を崩すのはあまりにもアホらしいしな。
「そうっすね。なんなら隣の席の人の名前も知らないですしね俺」
「お前のそれはそこまでなのか…」
何か呆れられている気もするが、敢えて無視する。
「それで、早く話を進めて下さい」
「そうだな、俺も早く頼んだ弁当が食べたい」
まだ食べてないのかよ。てっきり自分だけは食べてからここに来たのかと思ったぞ。
「つまりだな、長谷はモテるんだ。そして問題の中核はそこにある」
そこまで言われたら俺でも気づける。というか誰でも気づく。
「…そうですか。つまりは長谷は雪ノ下の事が好きで、それを恨んだ長谷を好きな女子が嫌がらせをしようとしている、あるいはもう既にされていると」
「そう、その通りだ」
つまり解決するにはまずは長谷自身、更に周りの惚れている女子軍団をどうにかしなければいけないと。
…かなり面倒な状況になってるな。
「そう言えば浅浦先生は何故それを知ってたんですか?」
「決まってるだろ。部活の生徒だからだ」
理由になっているような、それでいて少しずれているような、そんな理由。だがその抽象的で先の見えない答えは浅浦先生らしくもあった。
それと同時に少し怖くもあるが。
「まあ、言いたかったのはそれだけだ。出来ればお前が円満に解決してやれ。俺はこれから職員会議で飯食わなきゃならないからもう行くぞ」
そう告げて職員室の方へ去って行く浅浦先生を俺は軽く見送りつつ、俺自身も自分のクラスへ戻った。
次の投稿は夏が過ぎた9月上旬くらいに上げれればと思っています。
…9月は忙しいのでこれ以上に更新速度が遅くなる可能性があります。ご了承下さい。