影が薄いことが、僕の存在意義なのかも知れないね……。   作:ゴズ

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第二影

 どうして僕は、今天井を見上げているんだろう? 死んだなら、そこで終わって終わりなのに。確かに心臓が貫かれたのに。どうして世界に色があるんだろう? 何を見ることも出来ない筈なのに。もしかして、僕は死んでいないのかな? それだけはあり得ないけど……そうでも無いと、こうして天井を見ていることの説明がつかない。意識もハッキリしてるし、自分が影井薄斗だって言う自覚もある。

 疑問はまだ残ってる。まず、こんな豪華な天井を僕は知らない。真っ白で、細部まで装飾が施されていて、シャンデリアが提がっている天井に覆われた部屋なんて知らない。首を動かせば、何処を見ても白しか無くて、眩しい位だ。

 そこで思い出す。

 廃れた社で見つけた鏡から、強烈な光が放たれたことを。

 その直後にほんの一瞬だけ見た、どこまでも続く平原を。

 2人はどうしたんだろう? まぁ、良いか。今はまだ横になっておこう。

 遅まきながら気付く。全身白い服に包まれていて、髪が白くなっていることに。理由は考えても分からないから、早々に止めた。

 そうして暫く天井を眺めていると、慌しい足音が聞こえた。勢い良く近付いてくるソレは止まることなく近付いて来て、扉を壊しながら2人が入ってきた。そのまま寝ている僕に駆け寄ってくる。それはそうと、扉が壊れた時の音は何だったんだろう? キンッて音がしたけど……。

「薄斗!」

「は~くん!」

 鎧に身を包み、背中に大きな剣を背負っている一輝と、腰に2本の刀を差している友輝は、涙を流しながら、それでいて笑いながら僕を呼んだ。

 

 1時間経って、その間にあれからのことを聞いたけど、どうにもここは地球ではない別の世界で、僕は10年間眠っていたらしい。ギルガイアと言う名のこの世界は、魔王とやらに支配されそうになっていて、救世主とやらを異世界から呼び出す為にあの鏡を3人で見つけた場所にどうにかこうにか転送したんだそうだ。それによってこの世界に連れて来られた僕達。正確に言えば一輝と友輝の2人は、こっちに来て早々存在を嗅ぎ付けた魔王の配下によって殺されそうになったけど、そこで死んだのは僕だけ。で、大量に血を流して完全に死んでしまった僕を見て、2人は魔力とやらが目覚めたそうな。配下を殴り殺した2人は、その後遅れて駆けつけたこのジルドイ王国が誇る騎士団に手厚く迎えられた。本来呼ばれる筈の無かった僕は連れて行けないと団長が言ったらしいけど、殺すぞと一言言っただけで了承したんだとか。王国の城に着いた2人は、城にいる王と王女の所へ殴りこみよろしく突っ込み、最高の医者を用意しろと命令したらしい。誰が見ても一目で死んでいると分かる状態だった僕なのに、2人は死んでいないと確信できたんだとか。それから医者が集まったけど、死んでいる人間を生き返らせることなんて出来る筈も無く、何もしない内から諦めたみたいで、2人が治癒術と呼ばれる物の扱い方を聞き出し、曰く洒落にならない魔力でソレを行使した結果――僕は生き返ったそうだ。

 でも目を覚ますことは無く、王が言うには魔王の呪いとか言うヤツにやられた所為だと聞いた2人は、居所を聞きだした後城から装備なんかを奪って出て行き、5年の歳月を経て魔王を打ち負かしたらしい。そして呪いを解かせ、更に5年が経った昨日、僕の胸に刺さっていた黒く鋭い何かは完全に消滅し、今日こうして僕は目を覚ました。

「10年経った割りに、成長してないのは?」

「あ、それはね。あたし達3人共、不老不死になったからなの」

 随分さらっと言う。

 説明してもらうと、こっちに来た時点で2人はそうなったらしい。そして僕は、そんな2人の魔力を篭められた治癒術で生き返ったからそうなったんだとか。あり得ないことだけど、2人が死なない限り僕も死なないそうだ。

「……は~くん、不老不死になるの、いやだった?」

「泣かなくて良いよ。何とも思って無いから」

「そっかぁ……よかったぁ」

「友輝。薄斗がそんなこと気にしないのは――」

 賑わう2人から窓の外に目を遣ると、そこには中世ヨーロッパと言うか、そんな感じの景色が見えた。と言っても少しだけど。また2人を見ると、楽しそうに話していた。僕のことみたいだけど、どうしてそんなに話すことがあるのか本当に不思議だ。僕は2人のことを話しても、小さい頃からいることと名前を言えば終わりなのに。

 と、また足音が聞こえてきた。近付いて来たソレは、扉が壊れていることに多少驚きながらも中に入ってくる。

 入ってきたのは、蒼髪ツーテールの小さな女の子と、逆立った金髪の男性。女の子は一輝に、男性は友輝の横に立ち、2、3言葉を交わすと僕を見た。

「コイツがハクト? 大したことないじゃない」

「なんか……貧弱そうだな」

 言った瞬間、2人は何かを感じ取ったのか肩を震わせ硬直した。殺気って言うのは、こういう物を言うんだろうね。感情の篭っていない目で女の子と男性を見る2人。そこら中から軋む音が聞こえるけど、このままだとこの城、壊れるんじゃないかな? そんな状況でも、女の子と男性は一歩足りとも動かない、と言うか動けない。冷や汗を大量に流しながら、短い間隔で息を吐いている。

「…………おなか空いたな……」

「あ! それなら、あたしがご飯作るよ! こっちに来て野宿ばかりだったから、料理の腕上達したの!」

「俺だって、最高の飯を作るぜ! 行くぞ、薄斗! 友輝!」

「僕そんなに大食いじゃないんだけど……」

 僕を背負い、隣に並ぶ友輝共々異常な速度で城内を走る一輝。

 

 辿り着いた食堂で食べた2人の合作料理は美味しくて、本当に気絶した。

 翌日目を覚ましてそのことをお礼と共に言ったら、大号泣しながら抱きつかれた……。

 

 1週間色々あって、王と王女に謁見することになった。

 あ、言葉が通じているのは、何かしらの力で勝手にこっちの言葉を話しているかららしい。怖いことこの上ない。

 今居るのは謁見の間。左右には大量の騎士が居て、赤い絨毯の先には座っている男と女が居る。名前は長いから覚えられなかった。因みに、ここに来ているのは僕だけ。2人は近隣に発生した魔物とか言う生物を倒しに、5分前城の外へ出て行った。まぁ、厄介払いだろうけど。

「……………………お前には2つの選択肢を与える」

 立っている訳でも片膝を着いてる訳でも無い正座で、王の言葉を聞き流す。

 間があったのは目の前にいる僕を認識するまでに掛かった時間だよ。

 どうせ禄な選択なんて無いし、どっちを選んでも結局この国の良い様に使われるだけ。魔王は既に打ち倒しているんだから、この国所かこの世界に居る必要もないんだけど……僕は元々来る筈じゃ無かった訳だし。かと言って帰る方法は無ければ帰るつもりも無い。一輝も友輝も世界が滅ぶでもしない限り死なない。僕は2人と一緒に不老不死だから、1人でフラフラしていても問題ないだろうね。

 王の話しが終わったらしく、答えを聞いてきたきた所でまた城が軋み出した。帰って来たらしい。そして消し飛ぶ謁見の間の巨大扉。

「お帰り」

「おお! ちゃちゃっと終わらせて来たぜ!」

「ただいま、は~くん。お腹空いてない?」

 空いてる、と答えれば、また片手ずつ手を繋がれる。僕は何とも無いけど、2人は恥かしくないのかな? ……良いか。笑ってるし。

 王の声を無視、と言うか耳に入ってない2人は僕を連れて歩き出し、謁見の間を出ようとした所で控えていた騎士達が武器を突きつけて来た。それでも歩みを止めない2人だけど、ちょっと待って、と言えばピタリと止まる。

「一輝と友輝は、別にこの国の人間って訳じゃないんだよね?」

「ああ。どこの国にも属して無い」

「家は、ちゃんと森の中にあるけど」

「国以前に、この世界の住人でも無いからな……それがどうしたんだ?」

「いやね? どうもここの人達は、2人のことを国民として捉えてる節があるでしょ?」

「……あぁ、あるな。さっきもそうだったよ。な? 友輝」

「ええ。魔物を倒したら、貴方方は我が国の誇りです~、とか言われちゃったし……あたし達は誰の物でもない、は~くんの物なのに」

 僕にもそんなつもりは無いんだけど……どう思うかなんて個人の自由だから良いか。

「そういうことなんで王様、王女様。並びに騎士の皆さん。2人と、2人と共にいる僕が何をしようと、今の様に武力で制圧しようとするのは意味がありません。無駄な統率力を見せて戴き、誠にありがとうございました。それじゃ、行こう」

「おう」

「りょうか~い」

「…………ま、待つ――――」

 圧倒的な質量となった殺気に、謁見の間に居た全員が地に伏す音が聞こえた。

 


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