冬木の街の人形師   作:ペンギン3

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もう湖関係ないな、題名変えよう。
そう思えるほど、湖が関係ありません(白目)
題名がさらっと変わっていたのなら、それは作者の都合ですので見逃してください。

あとFateアニメ化来ました!!
凛可愛いです!
そして桜はやはり正妻でしたね(真顔)


第9話 その湖はどう見えたか 下

「美味しいですか?良いところの物なのですが」

 

 

「ちょうどいい甘さ、和菓子というのも悪くないわね」

 

 

 私と早苗は今、神社の奥のほうに存在している居住スペースにいる。

 早苗と茶菓子を楽しみつつ、互いのことを話している。

 それは取り留めもなく、最近起こったことや、身の上のことなど。

 無論、私は魔術などをぼかして、話を進めているわけだが。

 

 

「じゃあアリスさんは、その紳士さんが保護者だったのですか?」

 

 

「あれは単に紳士ぶっているだけよ。

 何なのか知らないけど、胡散臭くて堪らないわね。

 世話になっているのは事実だけれど」

 

 

 ある日突然、『さる方からの指示で、私が君の保護者になった。よろしく頼む』等と言ってあの紳士は現れたのだった。

 当然、私は警戒心しか抱けず、不審者を見る目で暫くの間、彼を見ることになっていた。

 だけれども、それなりに真摯に接し続けた彼を邪険にするのもどうかと思い、少し待遇を改善したのだ。

 学校の三者面談にまで現れた時は、流石に目を剥く羽目になったが。

 

 

「それで今は、凛って人の家にホームステイしていると」

 

 

「そうね、それなりには充実した日々を送っていると思うわ」

 

 

 ルーマニアからの留学。

 私は学び、達成したいが事の為に冬木にやってきた。

 毎日目標に向かって打ち込む日々は、私に活力を与えてくれているといっても良い。

 

 

「ではアリスさん、どうしてその冬木という街にホームステイしたんですか?

 別にその街ではなくても、よかったですよね?」

 

 

 早苗の疑問は、最もなものだろう。

 だがここで、素直に魔術に関することを口にする訳にはいけない。

 

 

「冬木で学びたいことがあったからよ」

 

 

 結局出てきたのは、何の面白みもない回答。

 しかも内容を詳しく話してない、不明瞭で曖昧な物。

 流石に無理があるか。

 そう思っていたのだが。

 

 

「それでも態々留学しに来るなんて、凄いことですよ!」

 

 

 空気を読んだか、大して内容に興味を持っていなかったのか。

 早苗は私を褒めるだけ褒めて、にこにこしながら次の話題を語りだす。

 

 それはそれで助かったのだけれど、複雑な思いも芽生える。

 嘘は付いてないだけで、本当のことは話していない。

 魔術師なら当然のこと。

 

 だけれど、ほんの少しだけ。

 裁縫の針が刺さる位に、私の良心が刺激された。

 

 だから、自分の出来る範囲で誠意を見せよう。

 私に出来る、せめてもの事で。

 私はそれを成す為に、鞄から彼女たちを取り出す。

 今日もお願い、2人とも。

 

 

「おぉ!人形さんですね!!」

 

 

「そうね、上海と蓬莱よ」

 

 

 上海と蓬莱を見た早苗は、目を輝かせながら彼女達を抱き上げる。

 その姿は年相応で、早苗も普通の女の子だなと実感する。

 どうにもズレたところが目立ってしまっていたから、より一層そう思うのだ。

 

 

「私は人形遣いよ。

 だから常にその子達とは、一緒にいるの」

 

 

「人形遣い……では劇とかもできるんですか?」

 

 

「得意分野ね」

 

 

 むしろ、それが私の真価を発揮できるものだろう。

 そして、それを聞いた早苗は、期待を載せた目を私に向けている。

 無言ながらに、彼女が訴えていることが手に取るように分かってしまう。

 

 

「小さなものでよければ、今から劇を始めましょうか?」

 

 

 もとよりそのつもりで、上海達を出したのだ。

 尤も、上海達を含めて数体しか人形を携帯していなかった為、大きな演目はできないが。

 

 だけれど、早苗はそれでも期待してくれているようだ。

 自然と正座をし、ワクワクと擬音が発せられそうな程に体を前のめりにしている。

 子供っぽい、そう思いつつも、彼女はそれさえも自分らしさに変換しているようで。

 その姿に、私は自然と口角が上がるのを自覚する。

 

 

「アリスさん、お願いします」

 

 

 神妙に頭を下げて、早苗はジッと私と人形達を見ている。

 それに私は応えるように、一つ礼をする。

 

 

「では、開幕よ」

 

 

 題目は『赤ずきん』だ。

 無防備な早苗に対する、警笛にもなるだろう。

 あなたは世の中に、怖い怖い狼がいることを知るべきよ。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「狼はどうして赤ずきんを丸呑みにしたのでしょうね?

 よく噛んでものを食べましょうという、ことなのでしょうか?」

 

 

「……どうしてそうなるのかしら?」

 

 

 ダメだった。

 何か致命的な違いが、私と早苗にはあるらしい。

 そもそも、早苗はどうしてそんな結論に達したのか。

 疑問が尽きなくて、ある意味興味深いとも言えなくもないかもしれない。

 

 

「だって、よく噛んで食べなかったから、猟師さんに看破されたのですよね?」

 

 

「そういう問題なのかしら?」

 

 

 私がおかしいのか?

 桜なら通じた。

 私が言いたかったニュアンスは、ちゃんと伝わっていたのだ。

 なのに、早苗には伝わらなかったようだ。

 一体どこで齟齬が発生してしまったのだろう。

 

 

「そもそも、赤ずきんちゃんもお馬鹿です。

 お婆さんに化けた狼を見たときに、『おまえのようなババアがいるか!!』と一喝して然るべきです。

 そう考えると、赤ずきんちゃんは修行不足だったのが否めません」

 

 

「……童話なのよ。

 細かい詮索はしてはいけないわ」

 

 

 童話なんて頭を空っぽにして見て、そしてありのままに感じた感情を噛み締めるものだ。

 それにツッコミを一々入れるのは、無粋というものでは無いだろうか?

 

 

「だってですよ?

 アリスさんの人形劇。

 すごく真に迫っていて、驚く程に魅入られました。

 だけれど、その分だけシュールさが増し増しなんですよ」

 

 

 成程、臨場感を持たせてやれば良いというものではないらしい。

 その劇に合った、雰囲気を持たせることこそが重要なことなのだろう。

 最近はバイトなどで、高年齢の人にウケるお話ばかりをやっていたから、感覚が鈍ったのか?

 いや、それは言い訳か。

 

 

「悪かったわね、次は上手くやる事にするわ」

 

 

 このままで終わるのは、私が許せない。

 早苗を感嘆させて、満足させる公演をしよう。

 

 

「次、ちゃんとありますか?」

 

 

 気付けば早苗の目が、私の目にしっかりと合わせられていた。

 純な瞳が私を射抜く。

 何かを確かめるように、まっすぐ私の目を見るのだ。

 

 

「あるわよ、次の劇は文句は言わせないくらいの物にするから」

 

 

 だから私も早苗の目に合わせて、自身の気持ちを伝える。

 今度の劇はしっかりと構想を練って、早苗にも伝えたいことを伝わるようにしよう。

 そして、今度こそ早苗が素直に楽しめるようにしたい。

 そんな思いを込めて、私は早苗の目を見つめるのだ。

 

 

「……良かった」

 

 

 何が良かったなのか。

 早苗が言ったことについて考える。

 もう一回、キチンとした形で人形劇が見られるから?

 いや、違うだろう。

 深い安堵を早苗からは見て取れた。

 人形劇が問題ではない?

 

 そこまで考えて、ようやく気付いた。

 そして、やはり早苗はお馬鹿なのだと認識する。

 

 

「そもそも、友達に会いに来るのに理由は必要?」

 

 

 もう会えなくなるかもしれない。

 早苗はそう考えたのだろう。

 ある意味において、早苗は異端であるが故に、同じ者同士の繋がりが絶たれるのが怖いのだろう。

 

 

「……ありません。

 理由なんて必要なんてないです!」

 

 

「なら安心なさい、私は嘘つきじゃないわ」

 

 

 情緒不安定気味になるのは、理解してもらえる人は早苗にとって貴重だということだろう。

 それだけ、早苗の中で私の存在が大きくなりつつある、ということかもしれない。

 

 

「でも、私も何時までも日本にいる訳ではないわ。

 それだけは肝に銘じておきなさい」

 

 

 だけれど、甘えられすぎるとそれは依存へと早変わりする。

 だから釘もしっかり刺しておく。

 私と貴女は対等なのだから。

 

 

「え、あぁ、そっか」

 

 

 私の言葉を聞いた早苗は、困惑したあと、納得したようにその言葉を呟いた。

 その顔は寂しそうで、切なそうで。

 

 

「だからその時は、早苗の方から遊びにいらっしゃい。

 出来うる限りの歓迎してあげるわ」

 

 

 それを聞いた早苗の変化は、目に見えてわかりやすかった。

 キョトンとしたあと、段々と表情が明るくなっていく。

 

 

「そうします!その時は、アリスさんの家にお邪魔しますから」

 

 

 早苗は私の手を握りながら、ブンブンと振り回し、楽しそうに笑っている。

 距離が決して縁を断ち切るものでない。

 それを分かった事が、私が思う以上に早苗を元気づけているのだろう。

 

 今の世の中、どれほど距離があっても会いに行ける。

 それは素敵なことかもしれない。

 そう思うのは、早苗がこんなにも嬉しそうにしてくれているからだろう。

 

 一方的に会いに来るのでは、対等とは言えない。

 互いに行き来してこそ、友達だろう。

 

 

「じゃあ、アリスさん。

 まずはメアド交換からしませんか?」

 

 

 スカートのポケットから携帯を取り出し、ピコピコ操作している。

 ストラップにカエルとヘビのデフォルメされたキーホルダーを付けているのは、ご愛嬌といったところか。

 しかし、残念である。

 

 

「携帯、持ってないの」

 

 

「え、もしかしてルーマニアには、携帯電話が普及してないんですか?」

 

 

 そんな訳あるか、二人に一人くらいは持っている。

 

 

「必要性を感じないから、持っていないだけよ」

 

 

 そもそも篭もりがちの魔術師は、家にある固定電話だけで十分なのだ。

 態々お金をかけて、携帯などを持つ理由にはならない。

 

 

「えぇ!?絶対持っていた方がお得ですよ?」

 

 

「はいはい、本当に必要なら買うことにするわよ」

 

 

 今がその必要な時なのに、などと早苗の小声が聞こえてくる。

 持っていないものは仕方がない、疾く諦めてもらおう。

 

 

「じゃあ、せめて写真撮りましょう、アリスさんと私で」

 

 

「それなら問題はないわ」

 

 

 写真、魔術師の中ではあまり好まれないもの。

 魂を閉じ込められる、そういう言い伝えがある。

 これはとある魔術師が、そんな術を開発したことがあるからだ。

 それがいつの間にか、都市伝説のように一般人の間に出回っていたというのが真実。

 尤も、早苗がそんなこと出来るはずもないし、今の私には関係ないことだが。

 

 

「写真機はどこかしら?」

 

 

「カメラは今回いりません。

 今回はこれで撮ります」

 

 

 早苗に視線を向けると、持っているのは携帯電話。

 それで一体何ができるというのか。

 困惑している私をよそに、早苗はぎゅうぎゅうと私にひっつく。

 

 

「ほらほら、アリスさん!

 もっと、くっついて下さい。

 このままじゃ、半分見切れちゃいますよ」

 

 

「早苗、ちょっと苦しいわ」

 

 

 あと、そんなに胸を当てないで。

 何故か苛立ちを感じるから。

 

 

「はい、1たす1は~!」

 

 

「2に決まってるでしょう」

 

 

 カシャリ、という音がしてフラッシュが焚かれる。

 鬱陶しいほどにひっついていた早苗が、ようやく離れる。

 そして携帯の画面を見て一言。

 

 

「アリスさん、全然笑ってないじゃないですか」

 

 

「訳が分からないわ」

 

 

 あまりの意味不明ぶりに戸惑いながら、取り敢えず早苗の携帯を覗き込んでみる。

 そして私は目を見開くことになった。

 

 

「撮れているわ、写真」

 

 

「携帯には、電話だけじゃなくて色んな機能があるんです!

 どうです、欲しくなりませんか?」

 

 

 確かに、これは大したものだ。

 科学の進歩を感じる、といったところだろうか。

 魔法が魔術に移り変わっていくのも、頷けるというものだ。

 

 

「他にも、何か機能があるの?」

 

 

「勿論です、本当に便利ですよ」

 

 

 さぁ、今ならまだ間に合いますよ?

 などと宣いながら、悪い顔をした早苗がにじり寄ってくる。

 それを適当にあしらいながら、私は思わず考えてしまう。

 

 このままいけば、何れ魔法なんてものはなくなり、科学を使って根源を目指すことになるのでは?

 魔術師としては忸怩たる思いもあるが、そんな未来もあるのかもしれない。

 

 

「言ったでしょう、必要になったら買うと。

 今は大丈夫よ」

 

 

 結局のところ、本当に必要ないのと、僅かに感じた反発心により携帯は必要無いと私の中で結論づけられた。

 

 

「本当に頑固ですね」

 

 

「貴方には負けるわ」

 

 

 筋金入りとはこの事ですか、なんて早苗の言葉は聞こえない。

 必要な時は迷わず買うから、問題などない。

 自分にそう言い聞かせて、私は時計を見る。

 

 

「5時ね」

 

 

 思ったよりも、時間を食っていたらしい。

 体感時間が短く感じたのは、楽しかったから?

 振り返るように考えて、そうなのかもしれない、と思った。

 だけれども、こういうのはたまには程度で私は十分だ。

 

 

「あ、アリスさん!私がこんなに引き止めてしまったから、こんな時間になってしまったんです。

 アリスさんさえ良ければ、泊まっていきませんか?」

 

 

 それがいいです!何て言っている早苗だが、それは無理だ。

 今回の旅の目的は、半ば観光気分で来ていた。

 

 

「宿を取っているから、それは出来ないわ」

 

 

 旅をするには宿が必要。

 それは常識でもある。

 

 

「そ、そう、ですよね」

 

 

 言葉が最後に向かうほど、小さく、弱くなっていく早苗。

 本人は善意からの言葉なのだろうが、それでも引き止めようとする気持ちも、幾ばくかは存在するだろう。

 それが完全に拒否されてしまった心中は、私には分からない。

 

 

「途中まで見送って頂戴、早苗」

 

 

 だから階段を下るまでの間だけ、話をしましょう。

 その程度は許されるでしょう、早苗。

 

 

 

 

 

「お邪魔いたしました。

 今度もまた、お邪魔させていただきます」

 

 

「図々しい物言いだね。

 ま、好きにすれば良いと思うよ。

 早苗も喜ぶだろうし。

 その分、お土産に期待しているからね!」

 

 

「図々しいのは、お前の卑しい性分だと思え、諏訪子」

 

 

「盗人風情がよく言うね、神奈子」

 

 

 何時の間にか、居間のテレビで2柱揃ってテレビを見ていたところに、帰りがてらに挨拶をする。

 喧嘩は中断されていたようだが、今再び勃発しようとしている。

 この2柱は、何時もこんな感じなのだろう。

 呆れればいいのやら、嘆けばいいのやらである。

 

 

「ふん、まぁ、何時でも歓迎するぞ、アリス・マーガトロイド。

 早苗の友に閉ざす門は、持ち合わせていないからな」

 

 

 だけれど八坂の神は但し、と付け加える。

 

 

「来るといったからには、絶対に来ることだ。

 これを違える事がないように」

 

 

 それは承知している。

 早苗が寂しがるであろうくらいには、思っているのだから。

 この2柱は、早苗を常に慮っているのだ。

 

 

「分かっています。

 暫くは来られませんが、何れは姿を見せると思います」

 

 

 それを言うと、八坂の神は重々しく頷いた。

 信じてもらえたか、とため息をつきかけた束の間。

 洩矢の神が、八坂の神の肩に肘を付きながら、こんなことを言う。

 

 

「単純に、私も寂しいから~遊びに来て~!ていうことだよ、アリス。

 私も基本暇しているから、何時でもウェルカムだよ!」

 

 

「……貴様の悪行は、温厚な私でも目に余るものがある」

 

 

「豪胆に見えても、器の小ささが測れてしまうよ、神奈子」

 

 

「もぅ、お二人共、アリスさんがお帰りになるんですよ?」

 

 

 早苗が呆れたように言うが、そんな言葉は2柱の耳に入るはずもなった。

 おざなりに、私への帰りは気をつけろ、等と言ってから、2柱の仁義なき戦いは再開されたのである。

 

 

 

 

 

「すみません、アリスさん。

 本当に何時ものことで、神奈子様も諏訪湖様も悪気はないんです」

 

 

「神様が人間に媚びる必要なんてないわ。

 あのくらいで、良いのかもしれないわね」

 

 

 神様としてはどうかと思うが、と小さく付け加えるが、早苗には聞こえていなかったようで、申し訳なさそうにしているだけだった。

 だけれども、先ほどと比べて、早苗の寂しさが紛れているように見える。

 あの2柱は、早苗にとって、それだけ大きな存在だという事なのだろう。

 

 

「夕暮れどきは美しいけれど、虚しく思えるわね」

 

 

「え、どういうことですか?」

 

 

 恐縮し続けている早苗に、気分転換がてらに話を振る。

 今目の前にある、大きな輝きの話。

 

 

「太陽が一番目立ち、輝いている時間は夕方よ。

 だけどね、それは太陽が月に抜かされようとしているだけ。

 彼らは、終わらない追いかけっこをしているだけなのよ」

 

 

 大きな彼らは、人間の都合なんて考えないで、一生懸命に走り続ける。

 それを見ていると、自然の前には、人間は何と矮小な存在なのだと思い知らされる時もある。

 偉ぶって、太陽や月などに法則性などを見つけても、人間が彼らに出来うる事なんて殆ど存在しない。

 

 

「そうですね、でも私は空が大好きです」

 

 

「どうしてかしら?」

 

 

 ふふ、とさっきの調子から一転して、嬉しそうに語る早苗。

 何だか自信にも満ちているその姿が気になり、聞いてみた。

 どうして、そんなに嬉しそうなの?そんな意味まで込めて。

 

 

「それはですね、天は神奈子様だからです。

 神奈子様は天から参られて、この地の山となったのです。

 だけれども、本質は天のままであらせられます。

 だから、私は空が、太陽も月も好きなんです」

 

 

 そうなのか、八坂の神は天であったか。

 それを聞いて、私は人間の手に届かないという点で、神と天は正しく同じだと思った。

 成程、昔の人が神を天に例え、天の向こうに住まう。

 そう考えた理由が朧げながらに、分かった気がする。

 

 

「勿論、地に住まう諏訪子様のことも、私は大好きですけどね!

 この諏訪の土地も、ずっと諏訪子様が見守ってきたんですから」

 

 

「みんな大好きなんじゃない」

 

 

 早苗が、天も地も嫌いになれるわけがない。

 守矢の皆が一緒にいる場面を見たら、それは自ずと分かること。

 だけれども、私は思わずそんな言葉を漏らしてしまう。

 

 そんな私に、早苗は夕暮れに照らされながら、

 

 

「そうですね、だから私はアリスさんのことも大好きですよ?」

 

 

 などと、のたまうのである。

 

 

「馬鹿ね、初めて会った日の内に、大好きなんてはしたないわ」

 

 

 結局、私から吐き出されたのはそんな言葉。

 夕暮れ時で良かった、心底そう思う。

 さて、石段はもうすぐ無くなる。

 もう、地に足が着きそうなのだ。

 

 

「アリスさん、今日はとっても楽しかったです。

 自分でも驚く程です。

 だから、またアリスさんとご一緒したいです」

 

 

「また来るって言ってるでしょう?」

 

 

 呆れたように、何度も繰り返した言葉を私は紡ぐ。

 また、と。

 それに早苗は嬉しそうに破顔し、スカートもポケットから何かを取り出す。

 袋のような、複雑な模様が施された物であった。

 

 

「守矢神社特製のお守りです。

 私が内職で、せっせと丹精込めて作りました。

 アリスさんに、一つ進呈します!」

 

 

「いいの?」

 

 

「勿論!」

 

 

 早苗の加護が籠ったお守りを受け取る。

 役に立つかは疑問だが、早苗を想う神様の加護が少し位は入っているかもしれない。

 お祈りしたら、早苗経由で2柱に届く可能性もあるだろう。

 

 

「有り難く頂くわ」

 

 

 元より受け取らないという選択肢は、存在しなかった。

 だが貰うだけというのは、些か居心地が悪くもある。

 

 

「なら私からは、これを」

 

 

 だから、私は持ってきていた人形の一体を、早苗に差し出した。

 最近作った子なので、解れなども気にならない子だ。

 

 

「本当にいいんですか?

 この子、アリスさんが頑張って作ったんでしょう?」

 

 

「それなら、早苗と同じ条件よ。

 遠慮せずに受け取りなさい」

 

 

 あれほど目を輝かせていたのだ。

 早苗が、人形が嫌いということはないだろう。

 

 慎重に、壊れ物を受け取るように、早苗は私から人形を受け取った。

 そして、その人形を抱いたまま、早苗は表情を崩す。

 柔らかい笑顔で、私に笑いかけたのだ。

 

 

「嬉しいです、大事にしますね。

 毎日ギュッと抱いて、一緒に寝ようと思います」

 

 

「あまり構いすぎるのも問題よ。

 壊れてしまったら、直せないでしょう」

 

 

「そう、ですね。

 では毎朝起きたら、頭を撫でるくらいにしておきます」

 

 

 素直でとても助かる。

 これなら、笑って別れられるだろう。

 

 

「では早苗、次に会うまで達者でいなさい。

 また、会いましょう」

 

 

 びくり、と立ち竦くむ早苗。

 だけれども、それでも早苗は笑顔を崩さなかった。

 私が見ても、とびきりと分かる笑顔で早苗は告げた。

 

 

「はい!またね、です」

 

 

 それが私と早苗が交わした、別れ際の、最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ下の石段で、東風谷早苗はずっと背中を見ていた。

 見えなくなるまで、ずっとずっと。

 

 

「行っちゃいましたね、アリスさん」

 

 

 もう会えるのは、何時になるか分からない。

 それなのに、早苗は自身が想像していたような、寂寥感は感じていなかった。

 それはきっと、また、という言葉。

 そして……。

 

 

「きっとこの子は、アリスさんが私の代わりにって、ことなのでしょうね」

 

 

 手元にある人形を、強く強く抱きしめる。

 アリスさんの匂いがする、アリスさんがくれた人形。

 

 

「決めました、あなたの名前は今日からアリスです」

 

 

 それはとっても、少女チックな名前で。

 それはとっても、彼女にあっていると感じた名前。

 

 

「よろしくお願いします、アリス。

 私とアリスさんと結ぶ、優しい子」

 

 

 また、アリスさんに会えますように。

 そんな希いを込めて付けた、縁を紡ぐ名前。

 

 アリス・マーガトロイドの背中はもう見えない。

 でも、きっとまた会えるから。

 早苗は背を翻し、再び石段を登る。

 自らの、風祝の責務を果たすべく。

 

 

 夕闇に染まりゆく中、アリスが笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、本気で送ってくるとはな」

 

 

 ルーマニア首都、ブカレスト。

 その中の、とある紳士の家に贈り物が届いた。

 

 その中身は、『グンマーの土』とラベルの貼られた瓶。

 中には、これでもかと言えるほどに土が詰められていた。

 

 あとは土と別口で、苺が大量に送られてきた。

 なんでも、『グンマー産 無農薬いちご』だそうだ。

 ついでと言わんばかりに、アリス自身がイチゴ狩りを楽しんでる写真までついてきている。

 ちゃっかりと、グンマー県を堪能しているようであった。

 

 

「全く、元気なことだ」

 

 

 やれやれと言いたげに、肩をすくめて見せる紳士。

 感心しているのか、呆れているのか、自分でも分からなくなっている紳士だが、ここであるものに気付く。

 

 

「なんだね、これは」

 

 

 苺の他に、葉っぱの栞があった。

 そして、それに手紙までついていたのだ。

 

 

「きっと、ご利益がある、とな?」

 

 

 それは、アリスが守矢神社でこっそりと拾った葉っぱ。

 御柱と呼ばれるようになる、大木の葉を栞にした物だ。

 だが、紳士はそんな事は、知りようがない。

 グンマーで拾ったものを、利用したと考える程度なのだ。

 

 

「ん?これは……」

 

 

 だが、紳士はこれに特異点も見つけた。

 葉が瑞々しいままなのだ。

 通常、葉は時間が経てば経つほど、枯れるであろうに。

 これは神の神力に千年単位で当てられていたからこそ、起こった現象。

 いずれ、その神力も抜け落ち、ただの栞になるであろう。

 

 

「グンマー、恐るべし」

 

 

 が、結局のところ、新たな誤解を生み出しただけに終わったようだ。

 こうして、グンマー県は新しい都市伝説を生み出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、良いかい?」

 

 

「……どうぞ」

 

 

 帰り際の電車、ガタゴトと揺られる中で、私は声をかけられる。

 相席させて欲しいとのことだったので、許可を出す。

 

 

「失礼するね」

 

 

 そう言って、座ったのは3人。

 一人は人畜無害そうな、黒縁の眼鏡をかけた青年。

 何故か右目のところだけ、髪で隠れてる。

 ファッションなのだろうか?

 

 

「へぇ」

 

 

 私を見て、何だかよく分からない納得を見せているのは、黒髪が綺麗な美人。

 大和撫子、と容姿だけ見ればそうなのだろう。

 だが、その口調はどうしてだか、男っぽい。

 

 

「あ~!お母様がパパのとなりにすわったぁ!!

 ずるいです!ずるいです!」

 

 

 そして、もう一人。

 小さな子供、恐らくは3,4歳くらいと推定できる。

 言っていることも、年相応で可愛らしい。

 

 

「悪いな、幹也の隣は私専用なんだ」

 

 

「う~、じゃあ、わたしはパパのおひざにすわります!」

 

 

 そう言って、少女は青年の膝にドカッと座る。

 それを見て、青年の方が、困った表情をして口を開く。

 

 

「こら、末那。

 他に人がいるのに、騒いだらダメだろ?

 それに式も、大人気ない」

 

 

 そう言うと、小さな娘の方が私の方を向いて、ペコリと頭を下げる。

 

 

「すみません、おさわがせしました」

 

 

「別に気にしてないわ」

 

 

 ほぅ、と感嘆するほどの感心を感じた。

 小さな娘とは思えないほどに、しっかりとしている。

 教育が良く行き届いているのと、きっとこの娘が素直だからだろうか?

 

 

「なぁ、お前」

 

 

「何かしら?」

 

 

 だが不躾に、母の方は私に語りかけてくる。

 彼女は不敵に笑っており、まるで動物が狩りをする前のようだ。

 

 

「お前さ、魔術だか魔法だかに関わっているだろ」

 

 

 断定、それは他の意思が介在する間もない程に、見抜かれていた。

 

 

「……同業者?

 いえ、違うわね」

 

 

 この人達からは、魔力を感じない。

 だが、目の前の彼女は堅気だとも思えない。

 一体、何なのだ。

 

 

「式、急に何言ってるんだい」

 

 

「幹也、こいつ、橙子と一緒の匂いがする」

 

 

 式、幹也、これが二人の名前らしい。

 だが、それよりも、気になる名前が存在した。

 

 

「蒼崎橙子を知っているの?」

 

 

 関係者なのだろうか?

 わからない、が少なくとも彼らは蒼崎橙子を知っているのは間違いない。

 でなければ、魔術師などと言う言葉は出てこないだろうから。

 

 

「昔の雇い主。

 給料未払なんてザラな、労働基準法をトコトン無視した奴だったな」

 

 

「……え?」

 

 

 給料未払とは、どういう事なのだろうか。

 もしかしたら、金銭に困るような生活を送っているのだろうか。

 

 

「仕事は何をしていたのかしら」

 

 

「人形工房、らしいけど実際は万事屋だったね」

 

 

 答えたのは、幹也と呼ばれた彼。

 こんなにも普通そうな人が、蒼崎と関わっていたのか。

 何だか不思議な感じがする。

 

 

「人形……まだ作っていたのね」

 

 

 蒼崎の作品は、昔に作られた人形しか今では見られないため、大変貴重なものだ。

 あの精巧さは、忘れられないほどに、完成しており、そして禁忌を犯していた。

 あれを見れば、大抵の者は魅せられてしまうだろう。

 私もその一人だ。

 

 

「おねぇさんは、にんぎょうがおすきなのですか?」

 

 

 私が人形、という単語に反応したのを見て、小さな彼女、末那と呼ばれていた子が反応する。

 ようやく自分がわかる話題が来たからなのか、やや嬉しそうに私に問う。

 

 

「そうね、人形は好きよ。

 貴女は人形はお好き?」

 

 

 そう言って、上海を取り出す。

 パタパタと上海の手を振らせると、わぁ、と笑みを零してくれる。

 

 

「わたし、にんぎょうはだいすきです。

 とってもかわいいです。

 お母様みたいに、にくたらしくありません」

 

 

 ……この式という人は、一体何をして、こんな言われようになったのだろうか。

 

 

「可愛くないやつだ、そんなに幹也が欲しいか?」

 

 

「はい、パパはわたしのです。

 かえしてください」

 

 

「……僕はどちらのものでもないよ」

 

 

 黄昏気味の哀愁を、彼から感じる。

 きっと、何時もこんな感じなのだろう。

 どこぞの2柱を連想させる。

 

 

「で、蒼崎の行方は分かる?」

 

 

 母と娘で揉めてる間に、幹也氏に話しかける。

 そうすると、彼は頭を振る。

 

 

「僕たちが結婚したのを期に、どこかに転居してしまって、今はどこに住んでいるのかもわからない。

 ……僕からも少し良いかな?」

 

 

「構わないわ」

 

 

 彼の答えは残念だったが、分からないのなら仕方がない。

 私も答えてもらったのだし、彼の質問には答える義理があるだろう。

 

 

「君は橙子さんを見つけて、何をしようと考えてるんだい?」

 

 

 温和な口調で、だけれども試すように、彼は問いかけてきた。

 何かを探るように、慎重さを持って、彼は話しかけてきたのだ。

 

 

「私も人形師よ。

 だからこそ、先達の知恵は拝借したく思えるの。

 あの人の人形を見れば、同業の者はそう考えるもの」

 

 

 私の言葉に、彼は納得したかのように、深く頷く。

 

 

「確かに橙子さんの人形は、引き込まれるからね」

 

 

「話が分かるわね。

 あの人の人形は、冒涜しているようで、それでも目が離せないもの」

 

 

「うん、好事家達の間で、大金で取引されていたようだからね。

 ……本人は二束三文で売り払う時があったけど」

 

 

「……本当なの?」

 

 

 何てことを!

 欧州では、億単位で金が飛び交うというのに!!

 

 精巧な人形作りから、何事にも細かい人を想像していたが、話を聞く限りでは、かなりズボラな人物らしい。

 認識を改めておかないと。

 

 

「お前ら、よく橙子の話なんかで盛り上がれるな。

 私は気分悪くなる」

 

 

「おとうさん、おにんぎょうのひとばっかりとはなさないで!」

 

 

 共通の話題で、つい熱中してしまっていた。

 何時の間にか、母娘がこちらを向いて、ジトっとした目で私と幹也氏を見ていたのだ。

 

 

「おとうさん、ふりんをしていいのは、みうちだけなんだよ!!」

 

 

「……誰にそんな言葉を習ったんだい?

 そもそも、そんなことは普通じゃないから、しちゃいけない事だよ」

 

 

「鮮花しかいないだろ。しぶとい」

 

 

 幹也氏はとても愛されているようだ。

 愛され方には、問題があるようだけれど。

 

 

「そういえば、だけどさ」

 

 

 話題を逸らすように、幹也氏が私に話しかけてきた。

 

 

「名前は何かな?

 教えてもらえるかい?

 僕の名前は両義幹也」

 

 

「アリス・マーガトロイドよ」

 

 

 小さい子に話しかけるように尋ねられたが、何故か不快感を覚えなかった。

 そして、するりと溢れるように、自分の名前を述べていた。

 普通なのに、不思議な人のように感じる。

 

 

「メンドくさい名前だな」

 

 

「欧州では、よくある事よ」

 

 

 旧フランス貴族などは、暗号のような名前を持っている人物もいる。

 それに比べたら、大分優しいものだろう。

 

 

「だけど……」

 

 

「何かな?」

 

 

 彼の名前を聞いて、何だか違和感を覚える。

 これは……そう。

 

 

「違和感があるわね。

 貴方の本当の名前なの?」

 

 

 何か、かっちりと歯車が噛み合わないような齟齬。

 どうしてだか、彼の名前が違うような気がして。

 

 

「婿養子だからな、幹也は。

 ただ、前の名前の方が、私も気に入っていたな」

 

 

「結婚したんだから、苗字が変わるのは普通のことだろう?」

 

 

 成程、そういう事か。

 この看板とラベルが違うような、そんな違和感はその為か。

 

 

「以前の旧姓は、どんな物なの?」

 

 

「フランスの、詩人のような名前さ」

 

 

 答えたのは、式と呼ばれていた彼女。

 婿養子というのだから、両儀というのは彼女の名前だろう。

 

 では幹也氏は?

 彼の名前は何か。

 フランスの詩人、そして日本人でも通用する名前。

 そして有名な人物といえば、数は限られる。

 

 

「『パリでは誰もが役者になりたがり、見物人に満足するものはいない』かしら?」

 

 

「ビンゴ」

 

 

 ジャン・コクトー、詩人としてだけでなく、多彩であった芸術家。

 ただ、目の前の彼とは、先のセリフのように、真逆の人物にも思える。

 だけれども、それがどうしてか、しっくりと来てしまうのだ。

 

 

「何だか、おかしな話ね。

 似合ってないはずのものが、妙にマッチしているように思えるのが」

 

 

「それが幹也らしいってことさ」

 

 

「……君たち、好き勝手に言うね」

 

 

 呆れたように幹也氏は言うが、それでもそれだけ理解されてしまっているということだ。

 ずっと一緒にいたから分かるのだろう。

 二人は有るべくして、同じ型にはまったのかもしれない。

 

 

「そもそも式、僕は君を許さない(離さない)って、言ったろ?

 それは両儀の名前も、背負うって事だよ」

 

 

「はいはい、お前のお小言は何度も聴いてるって」

 

 

「パパ、わたしもりょうぎだよ!」

 

 

「そうだね、末那も家族だからね」

 

 

 聞いているとノロケにも聞こえるが、二人だけで分かる合図のようにも聞こえる。

 

 

「何かの誓いかしら?」

 

 

「ふたりの秘密ってやつだな」

 

 

 はぐらかされてしまった。

 きっと二人の間だけで分かれば良い話なのだろう。

 

 

「パパ、お母様、わたしにもおしえてください!」

 

 

「お前にもいつか話す。今は保留だ」

 

 

「えぇ~!」

 

 

 娘も知らない、父と母だけの話。

 二人の中で埋もれるのか、何れは語るのか。

 それは家族の問題なのだろう。

 

 

 こうして、私はこの家族に乗車中、翻弄され続けることになった。

 景色すら見る余裕がない。

 だけれど、この姦しさは嫌いにはなれなかった。

 家族の喧騒とは、こういうものだろうから。

 

 

 

 

 

「私はここで降りるわ。

 電車での旅、健勝を祈っているわ」

 

 

 そう言って、私は荷物をまとめ立ち上がる。

 うるさくもあったが、悪くもない電車で旅路の終焉である。

 

 

「アリスさん、バイバイです!」

 

 

「そっちも、帰り道には気をつけて」

 

 

 そんな別れ際の言葉を貰い背を向ける。

 

 

「なぁ、お前」

 

 

 今、去ろうとしている時に、声をかけられる。

 両儀式、彼女の声だった。

 

 

「手短にお願い」

 

 

「簡単なことさ。

 ……お前、どうして私の目を見て話そうとしないんだ?」

 

 

 彼女が気になったのは、私が末那や幹也氏には目を見て話していたからだろう。

 でも彼女だけには、目を合わさなかった、どうして?

 

 

 ――だって、怖いから。

 ――あんなものを見続けたら、狂ってしまいそうだから。

 

 

「貴方の目、月の光みたいだからよ」

 

 

 それだけ言うと、私は下車する。

 それと同時に扉が閉まり、動き出す。

 

 ガタンゴトンと音を立てながら、車両は動き出したのだ。

 そしてその中に、蒼い目をした彼女(月光)がいた。

 

 ゾクリと、背中が泡立つ。

 彼女の目のつながっている場所が恐ろしくて。

 私は直ぐに、目を背けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ、見えたんだな」

 

 

 私の世界(視界)が、目を通して。

 うさぎのような、怯えを見せた彼女。

 

 

「カワイイ奴」

 

 

 幼さが隠しきれていない、黄昏の彼女。

 気丈に振舞っていても、隠せてなかったのだから。

 

 

「式、人を怖がらせるのは良くない」

 

 

「あいつ、虐め甲斐がありそうだったから、ついな」

 

 

 小動物のような振る舞いが、更にそれを引き立たせていた。

 だから構いたくなってしまっただけだ。

 

 

「しぎゃくしゅみって、いうんだよね。

 お母様みたいなひとは」

 

 

「それも鮮花からかい?」

 

 

「うん、叔母さまとわたしは、どうめいをむすんでるから」

 

 

 幹也はどこまでも自然だ。

 だから不自然なのは、無理なことなのに。

 本当にあきらめが悪い奴。

 

 

「あいつはロクなことを教えないな、本当に」

 

 

「その割には嬉しそうだね、式」

 

 

「だって可愛いだろ?

 届かないものに必死に手を伸ばしてる姿ってさ」

 

 

「悪趣味だよ」

 

 

「あくしゅみ~」

 

 

「そんな私を選んだお前も、大概だけどな」

 

 

 幹也は本当に趣味が悪い。

 変な奴に好かれやすいのも、そのせいだ。

 天性の大馬鹿だから。

 だから、コイツは誰にも渡すわけには行かない。

 幹也は私のものだから。

 

 

「全く、君は」

 

 

「はいはい、今度会ったら謝る」

 

 

「今度があるとでも?」

 

 

 不思議そうに幹也が尋ねる。

 だがそうなのだから仕方がない。

 

 

「似てるから、自然と出会うことになるさ」

 

 

「そうかな?」

 

 

「そう感じないのは、お前の考察力不足」

 

 

「式が動物的すぎるだけだよ」

 

 

「お母様はけだもの!」

 

 

 確かに勘で感じたということは認める。

 だけどまた会うことになるかもしれない、それは確かに感じたことだった。

 末那の頭をぐりぐりしつつ、次に会うのは何時になるか考える。

 

 1年先?10年先?

 

 だけれども考えているうちに、バカらしくなってきた。

 未来を見れるわけではないのだから、そんなものは分かるはずがない。

 そんなものが見えても、ロクなことにはならないのだから。

 

 

「ま、神のみぞ知る、てところか」

 

 

 神様がいれば、の話だけれど。





Fate本編までの道のりが長いです(自業自得)
サーヴァントの活躍とかも書きたいのに!(血涙)

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