東方のアリスが主人公です。
何故?可愛いからです!(他の作品の方々の、アリスが可愛かったというのが大きな理由)
追記:この小説は、ひたすらアリスが関わった人と過ごしていく、のんびりとした話です。
聖杯戦争は、ひたすら彼方先にあります。
いつ始まるか、それは作者にすら分かりません。
それを留意した上で、閲覧ください。
聖杯戦争、それは魔術師達が聖杯を巡って争う、血塗られた戦い。
勝利の暁の盃は、あらゆる願いを叶える。
魔導を嗜むものだったら、その即物的な手段はとても魅力的である。
通常、何代にもわたって魔術刻印を受け継ぎつつ、永久の研究を続けるのが
それが段階を飛ばして、
これで興味を持たないならば、それは魔術師ではなく、単なる引きこもりか
とにかく、何らかの研究テーマを各人共に持っているものである。
だから彼女は目指すのだ、更なる深みへと……。
東欧の町、ブクレシュティ。
ドラキュラ発祥の地でもある国の首都は、瀟洒で活気に満ちている。
大道芸をしている周りに人が集まり、観光客は優美な建造物などをじっくりと堪能している。
だがこの美しい街にも、裏側は存在する。
ルーマニア宗主宮殿の周辺である。
一見してそこは、普通に祈りを捧げ、神に懺悔をする人が見られるだけである。
しかし実態は、共産主義政権時代に宗教弾圧が行われ、宗主宮殿一帯に宗教家やカルト集団が団結して、共産主義の粛清の刃に抵抗していた場所でもあった。
だからこそ、そこには東欧独特の、薄暗い影のある街の様子になっている。
魔術師達はその土地に群がった。
閉鎖された空間や土地は、魔術師達の活動する場としては適した場所だ。
その周辺は魔を惹きつけるが如く、雑多に混沌な様相を呈することとなった。
「おや、人形術師。どこかへ出かけるのかい?」
「えぇ、少し海外へ」
その混沌とした場所で、知り合いの少女を見つけたとある紳士は、話しかけることにしてみた。
キャリーバックを引いている少女に、もしやと思い聞いてみると、すんなりと少女は返答した。
それを聞いた紳士は、目を細め、土竜が外に這い出たのを見たような表情をする。
「珍しいね。研究は良いのかな?」
「これも研究の一環の様なものよ」
胡乱げな表情を崩さないまま、しかし得心がいったと目が語っていた。
「君が態々、遠出するということはだ。
それなりのリターンが有る訳だ」
「どうでしょうね」
はぐらかされ、オヤオヤと肩をすくめて見せる紳士。
だが、気まぐれか何かか。
唇に軽く人差し指を当て、少女は一つだけ自身の見解を述べた。
「ただ……どんな物でも、大きなことに挑戦するならリスクは付き物よ」
「然り、だな」
遠まわしに少女は答えていた。
そして職業柄必ずしも一回はその道を通らねば、大成は不可能なことを悟っている紳士はただ一言、そう返しただけに終わった。
「ふむ、ところでどこに行くのだ。
ロンドンか?エジプトか?」
魔術師達の本山か、巨人の穴蔵か。
魔術師達が研究に打ち込む為の、大掛かりな設備を有しているのは其処くらいだろう。
尤も、後者は排他性が強く、何十年もひたすらに自身とのみ対話をできる者のみが入り込める場所なのだが。
「いえ、違うわ」
少女ははっきり、否と言った。
はて、独自のツテがあるのかと紳士は考えた。
「日本よ」
少女は簡潔にそれだけ述べると、カラカラと音を鳴らし、キャリーバックを引きずり始める。
日本、極東か。
とても閉鎖的で、独自の研究をする者には楽園のような場所だとだけ聞いたことはある。
これは暫くは帰ってこなくなるかな、とだけ漠然と考えた紳士は一つだけ頼み事をすることにした。
「土産はグンマー県の土で良い。
是非持って帰ってきてくれ」
魔術師達の噂で、日本の秘境であり神秘に満ちた場所として、グンマー県は有名である。
かの場所は、日本で最も根源に近い土地として持て囃されている(一部の者達だけにだが)。
無論、誰もその場所のことは語っても行くことはないので、一種のジョークとして流行っているだけだ。
紳士はジョークを嗜むものなのである。
「えぇ、分かったわ。
世話にはなってるし期待してて」
だからこそ、そう返してきた少女に顔を引き吊らせざるを得なかった訳だが。
もっと吹っかければ良かったか、そう落胆しつつも頼んだよ、とだけ投げるだけであった。
紳士は言葉を違えないのだ。
尤も、少女もそれが分かっていたから、彼女なりの仕返しをしただけなのだが。
後ろ姿しか見えない紳士は、彼女が舌を出して笑っていることには気付かなかった。
私、アリス・マーガトロイドは人形の研究をしている。
人形と聞けば、「赤」の魔術師を大抵の者は連想するだろう。
私自身も憧れたことはあったし、展示会で見かけた、禁忌を犯すような限りなく精巧に作られた人形に心を奪われもした。
しかし、私の研究はまた別物である。
私が目指すのは、「赤」の魔術師の様な肉体の神秘を探るのではなく、人形の完全自立化を目的としている。
第三魔法の亜種とも言えるだろう。
第三魔法は魂そのものだけで自然界に存続できる、謂わば不老不死とも言える御技である。
しかし、私がしようとしている事は、無から生を生み出そうといているのである。
神の域に自分が突き進むと宣言したようなものだ。
誰もが嘲るであろう無謀の所業。
だが、魔術師などという生き物は、大なり小なり他者から嘲られるような研究を、何代にも渡り続けている。
五十歩百歩も良いところだ。
それはさて置き。
私も根源に独力で到れるとは思っていない
才能はあることは自負しているが、それでも100年以上は研究を続けて、やっと手掛かりの一つを掴める程度だと思っている。
だから、多少の近道を見つけた時は少しはしゃいでしまった。
それで、である。
近道があるといった。
その近道とは、日本で行われている降霊術の儀式があるのだ。
60年周期で行われており、つい9年前にも開催されたらしい。
情報はルーマニア宗主宮殿の書架で手に入れた。
本来、聖職者と魔術師は対立するのが世の習わしだが、この国は過去の出来事から、暗黙の了解が存在する。
お陰で今はオーストリアとハンガリーの関係みたいなものである。
そんなところで情報を手に入れた私は、早速出かけることにした。
日本の冬木という土地。
現地の名士である、遠坂にも連絡を入れた。
降霊術について研究したいと言ったら、自身の家での監視付きでなら、と警戒しながらも許可は得た。
その代わりに、かなりの金額をぼったくられたが。
全ては自律人形のため。
多少の損は投資と判断できる。
予定では約3年の留学という形になり、魔術とは別に向こうの高校にも通うことになる。
ホームステイになるのだ。
その間に学ぶ事、降霊術についてなのか?
それは是でもあるし否である。
確かに興味深くもあるけど、それは二の次である。
私の真の目的は、降霊術によって呼び出した過去の魔術師の英霊に師事することである。
無論、魔術師に頼み事をする以上、対価は用意する。
それが彼女達にとって必要な物なのかは分からないが、私が用意できる最高の物を提供するつもりだ。
最悪の場合、令呪なる絶対命令権で対応はするつもりなのだが、魔術師は策士が多い。
あまり強硬な手段ばかり取っていると、寝首を掻かれかねない。
だから、それはあくまで最後の手段にするつもりだ。
「まもなく、伊丹空港に到着します。
お客様におきましては、シートベルトの着用をお願いいたします」
どうやら思考を巡らしている内に、飛行機が日本に着いたらしい。
どうにも慣れない重力に満ちていく中で思うことがある。
意地でも何かを掴んで帰る。
自らの魔術礼装であるグリモワールを撫でながら、決意を固める。
……そういえば、このグリモワールは何時から所持していたかしら?
何だか、たくましいアホ毛の様な物だけが、記憶の渦の中を過るのだが、うまく思い出せない。
うーん、と悩む私は、未だ自分の人生の転換点が近いことを知らない。
60周年の期限だと記されていた魔術の祭典は、すぐそこまで迫っていたのだ。
そしてそれは、私にとって忘れられない記憶となって、更なる濁流に飲み込まれる始まりでもあった。
勢いだけでやった。
公開も反省もしている。
追記:聖杯戦争まで、2年の月日が必要です(小声)。
いつ、サーヴァントを呼び出せることやら(遠い目)。
小ネタ
アリスがルーマニア宗主宮殿で見つけたのは、マキリ・ゾォルケン著作の「聖杯の行方」というのがあったので、それを読んでいた。
最終的な内容は、「無いなら自分たちで作ればいいじゃん!」であった(冬木のこともそこに記載されていた)
尚、聖杯戦争についての記載はなかった模様。