東方闇魂録   作:メラニズム

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第二十三話

文明の利器がひしめいている上海租界。

 

煌びやかで便利な物に溢れている上海租界だが、

急速に発展した為に、必要最低限の……上海人口の割合で言えば極僅かの金持ちが、その欲望を満たせる程度には……発展しかしていない。

 

故に、上海租界から出て少しすると、そこは未開の土地同然の有り様であった。

 

騎士はレミリアに着いて行きながら、目まぐるしく退化していく風景を見て、少しばかりの驚きと感傷に襲われる。

 

最初は無数に生えていたガス灯が、一本一本減っていき、そして消えた。

次は大地を舗装しているアスファルトが少しずつ途切れ途切れになっていき、やがて消えた。

最後には、あばら屋すらも少なくなっていき、辺りは地平が広がった。

これまではガス灯の灯りが押し隠していた満月の光のみが、騎士たちの足元を照らしている。

 

あばら屋が見えなくなった時、騎士は後ろを振り返った。

あれだけ眩しかった上海租界の光が、ちっぽけな物に見えるほど遠くまで来ていた。

記憶に残る摩天楼の如き建物と眩く光るガス灯を思い出し、騎士は目の前の風景とそれを比べて歪さを覚える。

 

「……どうしたの?」

 

騎士の足音が消えたからか、レミリアも振り返る。

騎士の眺める風景に、騎士の抱いている想いを察したか、呟くように言う。

 

「そうねぇ、奇妙よね。

皆暗がりを怖がる癖に、一か所だけ照らしてるんだから。

暗がりを怖れるなら、満遍なく光を灯せばいいのにね。

まあ、お蔭で私達みたいな連中は過ごし易いのだけれどね。

ま、いずれはこんな辺境にも光は届いて来るでしょ」

 

「さて、そうなったら私達は、今度はどこに行くのかしら」

 

レミリアは、吐息を漏らすように少しだけ笑った。

吐いた言葉とは裏腹に不敵な顔をしていて、そうなる事を想像し、半ば楽しんでいる様にも思えた。

 

「さ、行きましょ。

少なくとも、私達の目的地はこんな何もない所じゃないわ」

 

再び歩き出したレミリアに、騎士は付いて行った。

 

 

森が広がる山の中、レミリアの行く道だけが切り開かれていた。

両脇に広がる木々を抜けた先。

そこには、血濡れた屋敷が有った。

否、血のように赤く染まった館が有る、の間違いだろう。

 

これが血ならば、一体どれだけの人が死んだというのだ。

常識が否定し、更にきちんとペンキで塗ってあると目で確認しても、血のようだ、という印象は拭えなかった。

 

「ようこそ、その内に私の物となる屋敷へ。

……今? 今は私のお父様の物、って事にはなってるわね」

 

レミリアは屋敷の前に建つ鉄格子のような門の前に立つと、そう言いながら騎士に人形を抱えていない方の手を差し出す。

 

どういう訳か分からず、騎士が突っ立っていると、焦れたのかレミリアが騎士の手を取った。

 

「全く、察しが悪いわね。

レディが手を差し出したら、その手を取るのがジェントルマンの務めってものよ?

理解してなくても、手の甲にキスぐらいしてれば及第点はあげたのに。

それすら解らないあなたの事は、もうMrとかジェントルマンとは呼んであげないわ」

 

半ば笑いながら、しかし声音は拗ねたようにレミリアが言う。

そして、レミリアは手を握っている騎士ごと高く跳んで、門を超えた。

 

門を飛び越えると、レミリアは悪戯小僧のように少し舌を出し、言う。

 

「門を開けるより、こうした方が早いのよ」

 

そう言って、レミリアは大きな屋敷の扉を、その体躯に似合わず勢い良く開いた。

大きな音を立てて扉が開き、レミリアが大きく声を上げる。

 

「今帰ったわ!

お客様を連れて来たから、くれぐれも食べないようにね!」

 

その声に反応してか、何人か屋敷内の灯りに照らされていない、薄暗がりから姿を現す。

否、それは人型ではあっても人では無かった。

狼のような頭部をし、その獣じみた頭から腰に掛けて獣の体毛が身を包む。

辛うじて人の跡を残すのは、その五体と下半身に残ったズボンのみだ。

 

「珍しいですな、お嬢様が人間の、それも男を連れ帰るなど。

これは旦那様にご報告した方がよろしいかな?」

 

「別に、今からお父様の所に連れて行くつもりだったから、その必要は無いわよ。

それに、私よりもあなたの方が、そういった報告をするべきなんじゃない?」

 

「どうにも、体毛が濃い男を好む女子が居ませんのでな」

 

「後体臭も、でしょ?

ま、あなたと共に神から祝福を賜う相手は、当分居なさそうね」

 

「ある意味では、生まれた時から祝福を賜ってはいますがね。

それはお嬢様も同じでしょう?」

 

「あら、じゃあ仲間外れはお父様だけね?

酷い従者も居た物ね、主を独りぼっちにするなんて」

 

「こいつは手厳しい。

その存在からして特別、というような好意的な解釈はしてくれないのですか?」

 

「特別も独りぼっちも、どちらも似たような物よ」

 

「……全く以て」

 

「ま、こうして無駄口を叩くのは嫌いじゃないけれど、今日は客人が居るからこれで失礼するわ」

 

「そうですか。

……しかし、お嬢様。

常々思っていましたが、あなたの我々に対する態度は、とても下々の者に接する態度ではありませんな。

そろそろ、直した方がよろしいのでは?」

 

「あなたはお父様の従者でしょ?

私の従者じゃないから、貴方達をそんな風に扱う権利も無いし、上に立つ者は態度だけ立派ならば良いって物では無いわ。

傲慢と気高さは、似ているけれど完全に別物よ?

気高くある為に、傲慢でいなければいけないという道理はどこにも無いわ」

 

「……全くもって、しっかりしていらっしゃる。

私程度の者が口を突っ込む余地など有りませんでしたな。

次期当主がこれならば、スカーレット家は安泰でしょう」

 

「はいはい、世辞はいいわ」

 

その一言で、狼男との会話を打ち切ったのか、レミリアは歩み出した。

手持ち無沙汰であった騎士は、少しばかり反応を遅らせながらもその後を追い、歩き始める。

 

狼男は騎士とすれ違う時、丁寧に一礼をする。

その仕草は丁寧ながらも、その狼の顔には笑み……だと思われる……が浮かんでいた。

 

不敵な笑みと言い、これはまた一筋縄ではいかなそうな者だ、と思いながらも、レミリアに遅れない程度に軽く一礼をして立ち去る。

狼男は下げていた頭を上げると、立ち去る騎士の背中を見て呟く。

 

「……なるほど、中々どうして面白い。

異形の者相手に動じぬどころか、余裕すら浮かばせる、か。

流石に、お嬢様が連れてきただけの事は有る」

 

「さて、この奇妙な客人の取柄は余裕だけか、あるいは余裕を生むだけの何かがまだあるのか。

どちらにしても、少しは主の無聊の慰めとなってくれれば良いが」

 

狼男の呟きは、騎士の耳に届く事は無かった。

 

騎士とレミリアが立ち去り、狼男だけになった玄関ホール。

その静粛さを、暫くの間狼男は噛み締めていた。

 

このような静かな夜ならば、酒でも欲しい物だな。

 

狼男がふと思いつき、食料庫に酒を取りに行こうと玄関ホールを立ち去ろうとした時、閉じられた玄関の扉が開かれた。

すわ、侵入者か、と狼男が身構えた時、その声は玄関ホールに響き渡った。

 

「っひゃー、外から見ても大きかったけど、中から見ても相当広いや……。

っと、いけないいけない、私はここに仕事を探しに来たんだから。

あのー、すいませーん、ここって誰か雇ったりしませ……ん……か?」

 

能天気な声を上げた、中華服に紅い髪をした女性は、狼男の姿を視認した事を皮切りに、見つめ続ける時間と反比例して、その声音を小さくしていく。

声の大きさと比例するように、その顔色はどんどんと蒼くなっていった。

 

蒼褪めた表情の、何とも気の抜けるその妖怪の姿を見て、狼男は、今日は妙な客の多い日だな、と柄にも無く現実逃避をしていた。

 

酒を楽しむのは、また今度らしい。

 

 

人気も音も無い、真っ赤な内装の屋敷の中を、騎士とレミリアは歩んでいく。

 

どうにも暗いな、と騎士が思い、少しばかりしてその理由に思い当る。

この屋敷には、窓が無いのだ。

有る光源は壁に掛けられている蝋燭の物だけで、故に真っ赤な屋敷の内装は生乾きの血のように赤黒く染まって見える。

その暗い赤は、底冷えのする雰囲気を振り撒いていた。

 

悲しい場所だ。

 

そう思った時に、騎士は階段に出くわした。

二度折り返し、その間に踊り場のある階段である。

不思議な事に、これまで窓が無かったのが、踊り場の上方に窓が付いていた。

その脇には黒々とした、窓枠よりも二回りも大きいカーテンが備えられているが、今は開いている。

 

故に、踊り場から両階段の二、三段目に掛けて満月の光が、赤々とした内装を白く塗り潰していた。

思わず、一息つく。

ついた一息の音が聞えたか、レミリアは踊り場から階段を登ろうとして振り返った。

少し分厚い、木製の手摺りに体を預けながら、騎士に説明する。

 

「ああ、確かに人間にはこれまでの真っ赤な内装はきつい物が有ったかしら?

ここはね、お父様が無理を言って作った窓なのよ。

……あぁ、そう言えばあなたには言ってなかったわね」

 

レミリアは言い忘れていた事が有った事を思い出して、掌に拳を打ちつける。

 

「この家の当主の家系には私とお父様、そして妹が居るのだけれど、私達って吸血鬼なのよ。

知ってる? 吸血鬼。

ま、知らないなら超強い代わりに弱点が大量にある、と思っていればいいわ。

その弱点のうちの一つである日光対策で、この屋敷も一切日の光を通さない為に窓を付けない予定だったのよ。

それが、当の吸血鬼であるお父様が、ここに窓を作るって聞かなくてね」

 

「周りの反対を無理矢理押し切って、ここに窓を付けたのよ。

後で、丁度満月の日にここから月が見える事が解って、皆旦那様は室内から満月を見たかったのだな、って言ってたわ。

でもね、これ私だけが知ってるんだけど……。

部下からここから満月を見れる事を知っていて申し付けたのですね、それならばそうと言って下されば良かったのに、って言われた時。

お父様ったら、こっそり、あそこから月が見える時は、満月なのか……って言ってたのよ」

 

「全く、満月を見る気じゃなかったのなら何を見る気なのよ、って話。

あなたは解る?」

 

お父様が、何を見たかったのか。

 

レミリアが、騎士に問いかける。

 

それから、騎士に謎解きの時間を与える気だったのだろうか。

 

暫くの間、レミリアは何も言わず月を眺め続けていた。

 

「……さ、そろそろ行きましょ。

夜は気が長いけど、待ってはくれないもの」

 

唐突に、レミリアはそう言った。

歩いていくレミリアを騎士は追い掛けながら、最後に踊り場を一度だけ振り返る。

 

これから会いに行く男は、何を思ってここに窓を付けたのか。

 

レミリアに問われたのもあるが、それが、少しばかり気になった。

 

その答えを知りたければ、レミリアの後を追って直接聞かねばならないはずなのだが、

何故か騎士は、その答えが会いに行く男にでなく、この場所に有るような気がしてならなかった。

 

そんなはずが有るまい。

 

騎士はレミリアの後を追い、歩き出した。

 

 

幾つかの扉を通り過ぎ、レミリアはある扉の前で立ち止まった。

 

「この中に、お父様がいるわ。

変な事を言って怒らせないように……と言っても、あなたは喋られないんだったわね。

ま、あなたらしく居れば、それでいいでしょ。

自分らしく在ってそれで死んだら、まだ胸を張って死ねるってものでしょ?」

 

そう言って、騎士の方を見てレミリアは笑みを浮かべる。

肩を竦める騎士を尻目に、レミリアは扉を開いた。

 

「お父様、お客様を連れて来たわ。

一応、紹介しておこうと思ってね」

 

「……そうか。

まあ、入りなさい」

 

低い、男の声が響いた。

 

レミリアが先に入り、騎士はその後を追い部屋へ入る。

男は部屋の中央に備え付けられた豪奢な机に肘を掛けながら、椅子に座り込んでいた。

その視線は壁に貼られていた地図らしきものに注がれていたが、騎士が部屋に入って来ると地図から眼を離して騎士を一瞥し、口を開く。

 

「まずは、自己紹介でもしようか。

私はこの、レミリア・スカーレットの父、アルカード・スカーレットだ」

 

「それで?

君は何用で、この化け物ひしめく屋敷に逗留しようなどと思ったのかね?」

 

「残念だけど、お父様。

彼は口が訊けないのよ。

奇妙な事に、舌を切り取られてね」

 

男は鼻を鳴らし、騎士を見て言う。

 

「舌を切り取られるなど、よほどの大罪人か、知ってはいけない事を知ってしまった愚か者ぐらいだろう。

最も、そこまでされるような身の上ならば、生きている事自体が不思議ではあるが。

まあ、いい。

このような屋敷に留まりたいのならば、好きなだけ留まると良い。

最も、早々に出ていくか、狂うかのどちらかだろうがな」

 

そう言うと、男は早々に騎士に興味を失ったように、視線をレミリアへと向けた。

レミリアは、騎士に目配せをする。

 

どうやら、最早ここは己の居るべき場では無くなったらしい。

騎士は扉の前で一礼をし、部屋を出た。

 

部屋の中にはレミリアと男……父、アルカードだけが残った。

おもむろに、アルカードがレミリアに語り掛ける。

 

「その人形は、また件の人形師のか?」

 

「そうよ、お父様。

すっかりあの人形師の作った人形が気に入ったみたいね」

 

「……それで三体目だろう。

よくもまあ飽きない物だな、女子というのは」

 

「女の子は人形に囲まれて遊ぶのが好きなのよ、本能的にね」

 

「ならば、何故お前は人形遊びをしないのだ?」

 

「私、女の子である前に吸血鬼で、姉なのよ?

そういうのには興味が無いし、有ったとしてもそんな事をしている暇なんて無いわ」

 

「……すまんな。

お前には、苦労をかけている」

 

「謝らないで。

あなたは、私の父なのだから」

 

「……ああ、そうだな。

少し、気が滅入っていたらしい」

 

「そりゃ滅入るでしょうよ。

世界地図なんてずっと見つめてたら、どんな化け物だって気が狂うってものだわ」

 

レミリアが其処まで言った所で、扉が二度ノックされた。

アルカードは扉を気だるげに見やり、問いかける。

 

「どうした?」

 

「歓談中、失礼します。

この程度の事でお手を煩わせるのも心苦しいのですが……一つ、相談したい事がありまして」

 

「大丈夫よ、お父様は年がら年中暇だから」

 

「ぬかせ。

……まず、何が有ったか聞かせて貰おうか、狼男」

 

「はい、それが……。

この館で、雇って貰いたい、という妖怪が現れまして。

我々下々の者では決めかねます故、旦那様にご足労願えれば、と」

 

「今日は、千客万来のようね?」

 

「まず間違いなく、お前が呼び寄せたのだろうがな。

お前の後を付ける以外に、この場所を知る事などできるはずも無い。

……狼男よ、屋敷の全ての事は、お前に任せていたはずだが?

そういった裁量も含めて、お前に任せたはずだったのだがな」

 

「そう面倒臭がらないの、お父様」

 

言いながら、レミリアは扉を開ける。

 

開けられた扉の先には、少しばかり困ったような雰囲気を醸し出す狼男と、手持ち無沙汰の騎士が狼男の後ろの壁に背中を預けて虚空を見ていた。

 

「取り敢えず、見に行きましょう? お父様。

あなたも、案内してくれるわよね?」

 

「はい。

お嬢様、加勢のほどありがとうございます。

本日はお嬢様の好きなビーフシチューにでもしましょうか?」

 

「あら、良いわね。

けど駄目よ、獣臭いビーフシチューは美味しくないわ」

 

「ええ、知っております。

ですので、私としても軽々しく提案出来るという物でして」

 

「……私が行く事は、既に決まっているのか?」

 

呟くアルカードに、狼男とレミリアは満面の笑みを返す。

 

ため息をつきながら、気だるげに立ち上がるアルカード。

その手にはウィスキーの瓶が握られている。

 

「お父様、酒瓶を持ってどうするつもり?」

 

「元々これから予定が有ったのだ、独りで酒を嗜むという予定がな。

それがこんな事に時間を取られるのだ、少しは手間を省かねば」

 

「ま、酒を飲んでても、まだちょっとした威厳くらいは感じられるでしょうし、いいわ。

じゃ、行きましょ」

 

「それでは、ご案内いたします。

と言っても玄関ホールですが」

 

そう言って歩き出した狼男の後を追う前に、レミリアは騎士に近づく。

 

やる事が無く、気を彼方にやっていた騎士は、レミリアの接近に正気を取り戻す。

そして、どうしたのかとレミリアを見やる。

 

「何やってるの?

あなたも行くのよ、あなたも疲れてるでしょうけど、部屋に案内するよりも先にやらなきゃいけない事だし、ね。

それに、あなたを放っておくと適当にどこかに行ってしまいそうだし」

 

はて、レミリアがやらねばならない事は何なのだろうか。

 

意識を彼方に飛ばしていた騎士が、狼男の話を聴いている筈も無く。

よりにもよってレミリアの父、アルカードの隣を歩くという気まずい位置関係で、騎士は狼男の案内する道を辿って歩んでいった。

 

 

乾いた血の色をした廊下を、四人の足音が不規則な拍子でかき鳴らす。

その音の中に、アルカードの手に持ったウィスキーの、瓶の中で立つ波の水音が入り混じる。

 

この男は、どうにも近寄り難い雰囲気を放っている。

 

騎士は眼だけを動かし、アルカードの事を盗み見する。

長い黒髪に隠された、病的とも思える白い肌。

その白で、精悍な、荒鷲のような顔が彩られている。

精悍な顔の上方部に嵌め込まれた眼は、老人の如き静けさと帝王のような冷たさが同居していた。

 

この男は、かつて何をやっていたのだろうか。

 

騎士の脳裏に、好奇心を疼かせる疑問が湧く。

 

恐らくは、狼男以外にもこの男の配下の化け物は居るのだろう。

大抵、妖怪やそれに類する者というのは我が強い。

種族も違う化け物達を従え、それでいて気だるげな言動をする、この男。

少なくとも、ただの吸血鬼、という訳ではあるまい。

 

この時代の事も調べねばならないが、暇が有ればこの男の事も調べてみよう、と騎士が思い立った時、一行は件の月明り差す階段へとたどり着いた。

 

やはりこの屋敷の赤色は疲れる、と騎士が一息をつく。

それを見て、アルカードが呟くように騎士に話しかけた。

 

「……やはり、人間にはここは落ち着く物か。

無理も無い、このような内装ではな」

 

階段を降りながら、狼男が主の声に返事を返す。

 

「おや、では内装を張り替えますか?

次はどのような色にいたしましょう。

白にでもしますか?」

 

「馬鹿を言え、このままでいい。

大体、吸血鬼が教会のような白い屋敷に住むなど、似合わん」

 

「あら、この内装が気に入っていないなら替えればいいじゃない。

なんでこのままでいいのかしら?」

 

「……忘れない為、だ」

 

その呟きに対する返事は無かった。

返事など、返せるはずがなかった。

その男の顔に浮かんだ、その中に含まれた感情の一つ一つを判別できない程に重ね塗りされた感情。

それを凝縮し、絞り出されたその言葉に返すに相応しい返事など、誰も持ち合わせてはいなかった。

 

階段を降りる時に、騎士は一つ目に留まった事が有った。

それは一行の列の最後尾であり、同時にアルカードの隣を歩いていた騎士にしか見なかっただろう。

 

アルカードが丁度踊り場の真ん中に位置する手摺り、そのコの字型となっている部分を、不自然に撫でていた。

大切な物を扱うようなその仕草と、レミリアの言った、件の謎が結びつく。

 

……後で時間が出来たら、あの手摺りを調べてみよう。

 

心の中に書き留めをしながら、騎士はアルカードらと共に月光差す階段を後にした。

 

 

階段を後にし、どれだけ歩こうが変わらない、血濡れた様な回廊を歩き続ける。

その紅い回廊の見た目は何も変わらない。

だが、少しずつ進むにつれて、玄関ホールが有った場所から、人のざわめきが響いて来る。

そのざわめきが、歩みを進めれば進めるほど少しずつ大きくなっていく。

その少しずつ大きくなっていくざわめきだけが、無限の回廊に囚われていないという事を騎士に伝えてくれた。

 

玄関ホールに辿り着いてみると、相当な数の異形が其処には居た。

入った時には薄暗かった玄関ホールには灯りが灯され、その全容とそこにいる者共の姿がはっきりと見える。

 

玄関ホールも血のような赤に包まれており、その上方部には一本の通路として繋がったバルコニーがある。

玄関ホールにはバルコニーに繋がる階段は無く、先ほど降りてきた階段から上に上がり、道なりに行くしか辿り着く道はなさそうであった。

 

そして、異形の者達はバルコニーや、一階の玄関ホール、その中心を囲むようにして大量に居た。

 

二十、四十は居るだろうか。

 

妖艶な容姿をした女性らしき人型に、全身包帯まみれの大男。

甲冑姿の者はふとした拍子に転んで兜が転がるが、その頭部が有る筈の所には何も無く、鎧の裏が覗く。

中身が空の甲冑が、独りでに動いているのだ。

 

他にも挙げればきりが無いほどの多種多様な異形の者共が、玄関ホールの端々に居た。

 

彼らの視線の先である玄関ホールの中心には、一人の女性が居る。

 

中華服に身を包んだ、朱漆のような鮮やかな赤色の髪をした女性であった。

恐らくは彼女も妖怪なのだろうが、その身に纏う雰囲気は、本当に妖怪か首を傾げてしまうほど朗らかである。

 

中華服の女性は、周りの異形の者達の視線を一身に浴び、今にも泣き出しそうなほど怯えていた。

否、既にその眼は潤んでいる。

 

「……狼男よ」

 

「……はい。

仰りたい事は解ります」

 

「……本当に、あれがここに雇われたいと言ったのか?

私の眼には、迷い込んできた人間の女子にしか見えないのだが」

 

「残念ながら、彼女は本当に自らの意志でここに雇われたいのだと言っていました。

そして人間では無く、妖怪です。

何度も確認したので、間違いありません」

 

「今日は面白い奴にばかり出会うわねぇ。

……で、お父様、どうする訳?」

 

「……そうだな。

レミリア、お前が奴を試験してやれ」

 

「つまり、奴に合格を出せば、お父様では無く私の部下になるって事?」

 

そう言って、レミリアは中華服の女性を一瞥する。

 

「……いやまあ、確かに面白そうな、というか既に面白い奴ではあるけど。

癖も強そうねぇ、何を任せればいいかしら」

 

「そこを見る為に試験するのだ。

そろそろお前も部下を持った方が良かろう」

 

「ま、解ったわ」

 

レミリアは、玄関ホールの中央に立つ中華服の女性に近づいて行った。

 

「お、お嬢様の到着だぜ。

旦那様はどうした?」

 

「ほれ、そこに居るだろ。

……あの見慣れない男、誰だ?

というかあいつ、人間じゃないか?」

 

「……本当だ、人間じゃねぇか。

だが、人間にしてはビビッてねぇな」

 

「中々面白い奴なのかもしれん。

同じ妖怪相手にビビッてるあの女も、面白い奴ではあるがな」

 

「違ぇねぇ」

 

「ほら、ちょっと静まりなさいあんた達!」

 

レミリアの一声で、ざわついていた妖怪達が静まり返る。

静まり返った妖怪達を一瞥してから、レミリアは中華服の女性に話しかけた。

 

「私がこの館の主の娘、レミリア・スカーレットよ。

あなたの名前は、なんて言うのかしら?」

 

「え、あ、はい!

私は、紅 美鈴(ほん めいりん)と言います」

 

レミリアは、美鈴の名前を二度、三度と呟く。

その響きを気に入ったかのように、少し満足気な表情を浮かべて頷くと、美鈴に問いかける。

 

「あなたがここで雇われたいって聞いたんだけど、合ってる?」

 

「え、あ、はい!

私、ここで雇われたいです」

 

「これから、あなたがこの屋敷で働くのに相応しいかどうか、試験をするわ。

まず、あなたは何が出来る?」

 

「私は、拳法が出来ます!」

 

「……それだけかしら?」

 

「はい!

私、拳法一筋で生きてきましたから!」

 

「……その反応を見るに、そのようね」

 

さて、どうしたものかしら、とレミリアが呟き、腕を組む。

 

考えあぐねているのか、玄関ホールの端から端までを順繰りに眺める。

その時、レミリアの視界に手持ち無沙汰にしている騎士が目に留まった。

 

「……良い事思い付いたわ」

 

「へ?」

 

「最後に、あなたを雇い入れるかどうかの、最後の試験をするわ。

いいかしら?」

 

「は、はい!

いつでもどうぞ!」

 

「良い返事ね。

……ちょっと待ってなさい」

 

そう言うと、レミリアは騎士に向けて歩みを進める。

騎士の存在に気付いていなかった者も、レミリアの歩む先を見てその存在に気付く。

 

騎士はレミリアと中華服の女性……紅 美鈴と名乗る声は、こちらまで響いて来た……の話し声を聞きながら、彼女らの試験の様子を眺めていた。

騎士にとっては他人の事であり、彼女の試験の模様はアルカードとレミリアの歓談を待つ間の何もできない時間よりは、まだ物事に動きが有るので眺めている、その程度の認識でしかなかった。

 

だが、レミリアがこちらに歩いて来たのを見て、騎士は先ほどまでの気楽さが無くなったのと同時に、嫌な予感が過るのを感じる。

騎士は嫌な予感と言う奴は飽きるほど感じている為に、感じた予感がどのような災難に類するか、という事まで、感覚の経験則として覚えてしまっていた。

 

これは、碌でも無い事に巻き込まれる類の予感だ。

 

「ねぇ、ちょっとばかり頼みたい事が有るのだけれど」

 

口角を釣り上げた、いやらしい笑みを浮かべたレミリアの提案に、騎士は己の直感への評価をまた一段階釣り上げた。

 

 

「皆集まってるから、良い機会だし紹介させてもらうわね。

彼は今日からこの屋敷の客人になった、人間よ。

いい? 客人だからね?

食べようとしちゃ駄目よ」

 

レミリアがその"客人"を玄関ホールの中心に引っ張りながら告げたその言葉に、妖怪達はにわかにざわついた。

 

人間、人間である。

 

大なり小なり人間から迫害されてきた彼らにとって、敵対存在、とまでは言わずとも相容れない存在である。

それは人間にとっても同じ事で、その存在を信じていようが信じていまいが、妖怪に対して好感情を抱く事は少ないだろう、というのは少なくともこの場に居る妖怪達の共通認識だ。

 

そんな人間が、その体躯の半ばほどしかない妖怪の少女に手を引かれ、中央へと躍り出たのだ。

それも、面倒事に巻き込まれた、とでも言いたげな表情を浮かべては居る物の、大して怯えた様子も見せずに。

 

さて、そんな態度を取れるこいつは何者だ。

そして、何故お嬢様は今、この時にこの客人を紹介したのだ。

この客人と対比するように人間らしい反応を示している、あの妖怪への沙汰が決まっても、紹介は遅くないだろうに。

 

大なり小なり差は有れど、妖怪達が抱いていた客人に対する反応はこんなものである。

 

故に、レミリアの発言した"試験内容"を、想像出来た者など誰も居なかった。

 

「じゃあ、紅 美鈴。

あなたへの試験は、この人間を相手にどんな戦いぶりを見せるか、という事にするわ。

散々に打ち負かすか、手加減するか、殺そうするかまで一切合財、あなたの考えに任せる。

あなたの行動如何で、採用が決まると思ってちょうだい」

 

その発言を聞いた妖怪達の反応は、大よそ二分に別れた。

 

彼女の提案した試験内容に感心する者と、それに巻き込まれた騎士を憐れむ者達である。

 

その試験内容は、確かに様々な事がそれ一つで推し量れる。

 

人間の実力によってどれだけ推し量れるかが変わるが、試験される者の実力。

そしてその実力の上で、どんな行動を選択するか。

 

この試験内容の肝は、どのような行動をレミリアが良しとするかが解らないという事に有る。

 

それまでの彼女の行動や性格を慮って気に入られるような行動をするならば、その者はそういった事が出来るだけの知能を持っているという事になる。

そういった動向が見られないならば、その者の性格と、人間に対する感情が推し量れる。

 

暇をしていた妖怪達の暇潰しにもなり、一石二鳥と言った所だ。

 

ただ一つ問題なのは、美鈴との戦闘行為に、人間がどれだけ耐えられるかという事にある。

 

余りにも弱すぎれば、どのような実力か、性格かというのを推し量る為の判断材料は、極端に少なくなる。

そんな事は、提案したレミリア自身がよく解っているはずだ。

一瞬でやられた、なんて詰まらない結末は、当のレミリア自身が好まぬはずだ。

 

ならば、この男はある程度の実力を備えている、と思われるのだが……。

 

どんな実力を備えているにせよ、妖怪相手に勝てるような人間など居るまい。

そんな事が出来る者も世の中に居るには居るが、そんな人間がこんな所で妖怪相手に唯々諾々と従っているはずも無い。

 

つまりこの客人が負ける事は、妖怪達の中では最早必然であり、

騎士を憐れんで居る者は、下手に抵抗して普通に打ち倒されたり、殺されたりするよりも酷い目に会う事を想像した為である。

 

いずれにしても、騎士と美鈴に彼ら妖怪達の注目が集まる事に変わりは無かった。

 

レミリアの発言に、美鈴が目を白黒させながらその真偽を問う。

 

「え?

えっと、この人、人間ですよね?」

 

「そうよ、人間よ?」

 

「妖怪と人間が戦えって……本気で言っているんですか?」

 

「あら、あなたは私がそんなつまらないジョークを言うように見えるのかしら?

私は至って本気よ。

さあ、さっさと準備をしなさい、二人とも」

 

レミリアに急かされ、二人は一定の距離を保ちながら相対する。

 

騎士は、レミリアに囁かれた"頼みたい事"の内容を反芻していた。

 

『あなたには、あの娘と戦って貰いたいの。

勿論、あなたはどんな手段を使っても良いし、殺す気でやっても良い』

 

『大丈夫、あの様子を見るに、あの娘はあなたを殺そうとなんてしない。

あなたにしても、こうして皆の前で実力を示せれば、ただの私の客人として扱われるよりはずっと安全だと思わない?

最悪でも、あなたがいよいよ危険になったら私が助けてあげるから、心配は要らないわ』

 

なるほど、言っている事は解る。

 

主の客人であり、自衛力があるという二つの事柄を妖怪達が念頭に置けば、その二重の予防線は、確かに己の身を守るだろう。

美鈴も明らかに己に手を出す事を躊躇しており、己を殺す事は無いと言い切れるだろう。

 

言うまでも無いが、これは戦いの体を成してはいるが、その実はただの催しだ。

自衛の為に己の実力を示すならば、この催しは絶好の機会である。

 

しかし、どうにも見世物の戦いというのは好かない。

 

己は、そもそもが非才の身であった。

一端の騎士にこそなれた程度の才能と実力はあったが、俗にいう英雄や、化け物に相対できるような光る物は持ってはいなかった。

それを、ソウルの業という大層な下駄を履き、過酷な地であるという事にかまけた外道の行為を働き、死なぬという事に胡坐を掻いて何度も挑み、その上でようやくそれらを見上げるような存在に届いたのだ。

 

その事自体は己自身がやった事である故、恥じさえすれども、否定はしない。

だが、いざこういう風に見世物として披露するとなると、とても見せられる物では無い、見世物にする価値など無いのだ、という思いが湧き立ってくる。

 

特に、目の前の彼女のように、そのような後ろめたい所の何も無い、一途なほどに武芸の極みをを求めているのであろう者と対峙すれば、その思いは一際大きくもなる。

 

「……えっと、人間さん?

来ないんですかー?

下手に抵抗しなければ、私も痛くないように済ませられますけど……?」

 

相対したまま立ち尽くす己に、美鈴が恐る恐る声を掛けてくる。

その問いに答える舌は元より無く、己は周りを見渡した。

 

幾多の妖怪が己達を見ていた。

レミリアは興味深気に、アルカードは詰まらなさ気に。

 

さて、何を使い戦うべきだろうか。

 

余りにも貴重な武具……切り取られた竜の尾から生まれ出でた武具や、特別なソウルから生まれた武具など……を使うのは憚られる。

その貴重さ故に、新たな争いを招きかねない。

特にレミリアらのような、身分の高い者の目にそれらの武具が留まれば。

彼女らの気高さを知ってはいるが、それでもやはり面倒事は避けられないように思う。

 

さりとて、凡百な武具を扱うのも憚られる。

武術という技術を持ち得た妖怪相手に、そのような半ば傲慢とも取れる事をすれば、足元を掬われかねない。

そして戦いに絶対という物は無い故に、その傲慢さが死を招く事になるとも知れない。

 

貴重過ぎず、弱過ぎない。

そのような武具は中々思い出せる物では無く、故に騎士は美鈴に対して攻めかかる事が出来ない。

 

どちらも動かない状況が続く。

それを焦れたか、レミリアが発破をかけた。

 

「さっさとやりなさいな、夜は待ってはくれないよ」

 

その声は、己から攻め込むべきか悩んでいた美鈴の背中を押した。

 

「……い、行きますよ!

怪我したら御免なさいっ!」

 

律儀にも声を掛け、美鈴は踏み込む。

 

その速度は、同じように拳で戦う勇義のような凄まじいまでの力も、速さも持ってはいない。

だが、声を掛けられたにも拘らず、騎士はその踏込みへの反応を遅らせた。

 

人は誰しも息をする。

そして人の体という物は、濫りに拍子を乱す事を嫌う。

一定の呼吸、一定の心拍など、拍子は人の動きや思考にも多大な影響を及ぼす。

 

例えば、このように騎士の持つ拍子の間拍を縫って行動すれば、真正面から近づいていても不意を突けたりもする。

 

美鈴の巧みな踏込みに対して、騎士は意識的にでなく反射的に行動した。

それは間違い無く、うず高く積み上げられた騎士の戦闘経験による物で、普通ならば褒められるべき物ではあっても忌むべき物では無い。

 

だが反射的な行動は、騎士が先ほどまで考えていたこの戦闘での禁則を鑑みてはくれなかった。

 

美鈴の踏込みによる、腰の入った拳。

それを騎士は、その手に握った"骨"で持って逸らした。

 

妖怪の拳をも逸らしてなお傷すら見せないその骨は、竜骨の拳と呼ばれる物である。

古竜の大骨を人が握り、殴る事が出来る程度に加工しただけである為に、その形状は一目見て骨だと見て取れる。

 

竜骨の拳は、言うまでも無く竜にまつわる、というよりも竜その物とも言える武具であり、

同時にその竜骨が、ロードランへの道を守るアイアンゴーレムの核として使われていた為に、アイアンゴーレムのソウルから生まれ出でた武具でもある。

 

よりにもよって出してはいけない武具の二つの条件をどちらも満たしてしまう物を出してしまった。

 

やってしまった、と騎士が嘆く暇も無く、美鈴は第二撃を打ち込む。

一撃目を防がれた彼女は、今度は手数で押し切る気か、拳に勢いを付けず、隙の無い一撃を放つ。

しかし、狙った所は騎士の丹田。

犠牲になった威力を補う事の出来る、人間の急所である。

 

今度は、騎士は竜骨の拳を持っていない方の手にヒーターシールド……小型の金属盾……を現し、その一撃を防ぐ。

 

金属盾とはいえ、小型であるヒーターシールドはその衝撃を十分に防げる物では無い。

だが騎士はそれを逆手に取り、騎士は防いでなお伝わる衝撃を助けに飛び退いた。

 

衝撃を借りた跳躍は、しかし間髪入れずに踏み込む為足に力を入れている美鈴を、突き放せるだけの距離を稼げない。

 

武器を選別し、取り出し、振る。

 

それだけの動作にすら四苦八苦するほどに、美鈴は時間という物を与えてくれなかった。

 

その刹那とも言える時間を稼ぐ為、騎士は竜骨の拳とヒーターシールドを投げつける。

ヒーターシールドはブーメランの如く風を切って飛んで行き、竜骨の拳はその重さでヒーターシールドよりも遅く飛翔する。

騎士と美鈴の相対速度からして、竜骨の拳は宙に留まっているような遅さであり、半ば美鈴は拳に突っ込む形となった。

 

美鈴が首を傾げ、飛翔するヒーターシールドをすんでの所で避け、進行方向を塞ぐ竜骨の拳の下に滑り込んでくぐり抜ける。

 

苦し紛れの時間稼ぎは、避ける為にほんの少しだけ速度を殺した事によって生まれた、数瞬の間しか稼ぐことは出来なかった。

それだけしか稼ぐ事が出来なかったのは一重に美鈴の見事な対処に依る物であり、

戦っている間で無ければ手を叩いて褒め称えるような見事な身のこなしであったが、その数瞬こそが騎士の欲しかった時間であった。

 

騎士は思考を限界まで加速させる。

 

短剣も、直剣も、あの拳の素早さに応じるだけの速さを出す事は叶わない。

大剣以上の大きさのモノは、何を況やだ。

鞭は? 駄目だ、振り、戻るまでの間に一撃を貰う。

槍は? それも駄目だ、あれだけの体捌きならば、突き出した処で槍を掴まれて圧し折られ、致命的な隙を見せ兼ねない。

拳は? そもそもあれだけの武術の使い手に、己の喧嘩育ちの生半な拳法が通じるはずも無い。

 

否、待てよ?

 

"己の物では無い"武術を手繰れる物は有る。

 

戦いとなり勢い付いた騎士の思考は、一瞬の間にある一つの解を導き出した。

残った二、三瞬で、導き出した解を行う為の準備を済ませる。

 

騎士の片手に、骨が括りつけられた。

騎士のソウルより呼び出されたそれは、異形の者の骨。

 

骨の拳と呼ばれるそれを身に付けた者は、その者の修練に関わらず、常人離れした拳闘を繰り出せる。

それは己の力では無いが、故に安易な力を手に入れる事が出来る物であった。

 

滑り込んだ低い姿勢から体を持ち直し、されども走り込んで付いた速度はさほど殺さず美鈴が突っ込む。

先ほどとは違い、後ろに飛び退く為に必要な筋肉に力を入れていない様子から、美鈴は騎士が後退する気が無い事を悟る。

 

……様子見は終わりですか!

 

様子見だけでこれだけの技量、本気ならばどれだけの強さを誇るのか。

美鈴の血潮は熱く滾り、脳裏からは職の事や周りの厳つい妖怪達の事などという、戦いに要らぬ物は全て抜け落ちていた。

切り捨てた思考の分、相対する騎士への注意を更に深める。

そのロングハットに半ば隠れた顔の毛穴一本一本が見えると錯覚するほどに、騎士の一挙一動に注意を注ぐ。

無論、その手に括りつけられた骨を殊更に注視して。

 

一歩。

騎士が足に力を入れた。

 

二歩。

騎士が無駄の無い見事な重心の動かし方で、腰を捻る。

 

三歩。

拳が当たる距離となり、互いに攻撃を仕掛ける。

 

騎士は、殴るという動作においての無駄という無駄を斬り捨てた拳を突き出す。

美鈴は、床が割れると思うほど、否実際に少しばかりひびが入るほどしっかりと踏み込み。

 

そして、両者の攻撃の間に紅い槍が飛び込んだ。

 

騎士も美鈴も紅い槍に反応し、攻撃を止める。

そして攻撃を止めてから、相対している相手に攻撃を喰らわぬよう、両者共に間拍を入れずに飛び退いた。

 

飛び退き、騎士と美鈴は眼を見合わせてから、槍が飛んで来た方を見る。

 

そこには、片手を腰に当て、呆れたようにこちらを見るレミリアの姿が有った。

 

「あんた達ねぇ、流石に自分たちの世界に入り過ぎよ。

解ってる? 今はあんた達の果たし合いの時間じゃなくて、美鈴、あなたの試験の時間なのよ?

……ま、そこはまずいいわ。

私も久々に良い物見れたし」

 

「全く、私が止めて無かったら、それこそ死ぬまで止まらなかったわよ、あなた達。

特に美鈴、貴方結構危なかったのよ?

ほら、彼の手を見て見なさい」

 

美鈴が騎士の手を見る。

骨の拳が付いていない方の、空いていたはずの手にはクロスボウの矢……ボルトが握られていた。

良く見れば、大腿部の内側にボルトを仕舞い込める場所がある。

あのまま攻撃していれば、手に持ったボルトで突き刺されていただろう。

 

何故気づかなかったのか、危うく一杯食わされる所だった、と美鈴は背筋に冷たい物が走る。

 

だけど、私が負けていた訳じゃない。

 

武人特有の、武芸に関する事柄へのプライドが美鈴に口を開かせる。

 

「確かに危なかったですけど、痛手を喰らっていたのは私だけじゃありませんよ。

中国拳法に、鉄山靠(てつざんこう)という技が有りますが、私はそれを出そうとしていたんです。

姿勢を低くして、全身の力を上手く集中させて、肩で体当たりするんです。

だから、彼の突きは外れて、私の鉄山靠は当たってた筈なんです!」

 

「でも、彼の持ったボルトも、あなたに突き刺さってた筈でしょ?」

 

「いや、確かに気付いてなかったので避けれた気はしませんけど……」

 

「じゃ、引き分けって事で良いわね?」

 

騎士と美鈴が同時に首を縦に振ると、沈黙していた妖怪達は爆発するように歓声を上げた。

 

「いやぁ、人間に出来る動きとは思えなかったな、あれ。

あのおどおどしてた嬢ちゃんも、中々やるもんだ。

俺もケンポー? って奴、習ってみようかね」

 

「止めとけ、お前じゃ三日どころか半日すら持たないだろ。

ああ、だがしかし両者とも見事だった。

だが、あの人間の兄ちゃんが途中で出した盾やら何やらは、どうやって出したんだ?」

 

「"図書館の主"みたいに、魔法か何かで出したんだろうさ」

 

「やれやれ、何か面白い事が有るとすぐこうなるんだから」

 

レミリアが周りの妖怪達のざわめきに苦笑を浮かべる。

 

戦闘が終わり、体の力を抜いた騎士に、美鈴が歩き寄って来た。

 

「いやー、人間の癖に、って言ったら失礼かもしれませんけど、ここまで強いとは思ってませんでした。

それに、ご同輩だったなんて。

そうならそうと言って下さいよ、私結構判り易い服着てるじゃないですか」

 

騎士は、美鈴の言葉に首を傾げる。

ご同輩、とは一体どういう事なのか?

 

「え? えっと、あのー……最後の拳、中国拳法の型の突き、でしたよね?

凄く綺麗な型だったので、見間違えるはずが無いんですが……」

 

騎士のその様子を見て、しどろもどろに理由を説明する美鈴。

その説明に、騎士は互いの考えの擦れ違い、その元を把握した。

 

骨の拳が装備者に扱わせる拳法は、その中国拳法? という拳法と瓜二つか全く同じ代物らしい。

 

そうと解れば、誤解を解かねばなるまい。

 

騎士は骨の拳を付けた拳での突きと、付けていない拳での突き、両方を美鈴に見せる。

 

「……んん?

いやいや、そんな。

確かに曰くつきっぽい骨ですけど、付ければ拳法を繰り出せるようになる骨なんてある訳無いじゃないですか。

騙そうとする必要は有りませんよ?」

 

数度繰り返すと、美鈴は騎士の言いたい事を察する事が出来たようだった。

 

しかし、骨により拳法を繰り出せるなど、信じられないらしい。

 

無理も無い、骨一つを付けるだけで拳法を使えるようになるなど、その道に生きる者を侮辱するような物だ。

 

得てして、安易に手に入れた力という物は代償が要る物である。

骨の拳はこれまでその代償を求めるような事は無かったが、もしかしたらこの光景こそが、その代償なのかもしれない。

 

騎士から骨の拳を渡され、突きを出してから項垂れた美鈴の姿を見て、騎士はそう思った。

 

「なんですかこれ、私の突きよりいい突きが出せるじゃないですか……。

私の修行って、一体何だったのよ……」

 

長い長い溜息を付く美鈴。

 

取るべき態度も、語る言葉も持たない騎士は、溜息を付く美鈴を見る事しか出来ない。

 

長い溜息を付き終わった美鈴は、己の両頬を張り、眼を見開く。

そして笑みを浮かべて、騎士に骨の拳を返した。

 

「あら、落ち込むのはもう終わり?」

 

レミリアが頬に片手を添えながら美鈴に聞く。

 

「はい、落ち込んだって、私の拳法が磨かれる訳じゃありませんし。

悲しい事や嫌な事が有ったとしても、それを大事に仕舞ってても腐っちゃいますからね。

全力で落ち込んで、ため息ついて吐き出して、後は型の練習でもすればすっきりです。

私って、単純ですから」

 

明るく笑いながら答える美鈴を見て、レミリアは眩しい物を見るように眼を細める。

 

「お父様も、単純であれば良かったんだけどねぇ」

 

そう呟き、歩み寄って来たアルカードに、レミリアは向き直った。

 

「さて、どうするのだ?」

 

「そうね、合格、って事にするわ」

 

「……え、本当ですか!?」

 

レミリアの言葉を耳聡く捉え、美鈴は大声を上げる。

 

「再三言うけど、私は嘘でしかない寒いジョークを言うような奴じゃないわよ。

全く、これ以上とぼけた事言うなら、門番にでもしてしまうわよ?」

 

「え、来て早々に門番なんて大事な所を任せて貰えるんですか!

いやぁ、そんなに買い被られても困りますよぉ」

 

美鈴は猫のように眼を細め、頬を赤らませて恐縮する。

 

「……ナポレオンじゃないけど、あなたの辞書に皮肉という文字は無いようね。

他に門番は居ないから、休憩や食事以外はずっと外よ?」

 

「え? 皮肉も何も、屋敷の門なんて大事な所を若輩者の私に一任してくれるなんて、私もう感激ですよ。

それに、無体な扱いをする気なら、そんな改めて注意するような事しないですよね?」

 

何故そんな事を言うのだろう、とでも言いたげな、不思議そうな顔をして美鈴は言う。

それを見て、アルカードは口元に笑みを浮かべた。

 

「……この娘子は、中々の掘り出し物だったようだな。

こういう類の輩は、特にしっかりと管理してやれ。

平気で無茶をするからな」

 

「解ってるわよ、お父様。

お父様と真逆の類だものね、この子」

 

レミリアの言葉に、アルカードは鼻を鳴らす。

 

「この娘子の爪の垢でも煎じて飲めと?」

 

「……え、そういう趣味が有ったの?

いや、趣味なんて十人十色だから、私はお父様にとやかく言うつもりは無いけど……」

 

「……東洋に、そういう格言があるのだ。

格段に優れた者の爪の垢を煎じて飲み、少しでもあやかろうとする、という意味だ。

遠く離れた国では無い、この国のすぐ隣にある国の事だ、少しは学べ」

 

軽妙な会話をする親子の姿を見て、騎士は"もしも"を想像する。

もしも己に舌が有り、放浪しなくても良かったのならば。

このように、気の置けぬ親子の会話という物が出来ただろうか、と。

 

恐らくは、無理だろうな。

何せ親の方が酷く口下手なのだから、投げられた会話を返す事が出来ないだろう。

思えば、人の腹から生まれていないとはいえ、紫は己が親とは思えないほど優秀な子だ。

鳶が鷹を生んだ、と言う奴か。

 

己には分不相応な娘の事を思い出す騎士に、アルカードが声を掛ける。

 

「客人よ、忘れているぞ」

 

声を掛けられてアルカードの方を向いた騎士に、投げ渡された物が有った。

 

ヒーターシールドと竜骨の拳である。

どうやら、投げた物を拾ってくれたらしい。

 

これまで見てきたアルカードの性格からして、わざわざ拾って寄越してくれるというのは、少し意外な気がする。

恐らくはレミリアに話しかけるついでだったのだろうが、それにしてもこのような身分の者が、落ちた物を拾ってくれるというのも珍しい。

もしかしたら、この男は態度が悪いだけで、人格はそこまで捻くれてはいないのだろうか。

 

両手で受け取った騎士に、美鈴が声を掛ける。

 

「ああそうそう、私、それの事も気になってたんですよ。

その骨、竜の骨ですよね?

一体どこで手に入れたんですか?」

 

「……竜の骨、だと?」

 

アルカードが呟く。

その表情は一見何の感慨も浮かべていないように見えるが、この距離ならばその目玉がじっと竜骨の拳を見つめている事が解る。

少しばかり頬が赤いのは、その手に持つ酒のせいだと思いたいが。

 

その様を横目で見て、レミリアが溜息を付く。

 

そしてアルカードを見ていた騎士と目が合った。

その表情は微動だに動いていないにも拘らず、その眼は雄弁に、しょうがないわね、と物語っている。

 

眼だけで考えている事が伝わるのだから、器用な子だ、と騎士が思っていると、レミリアはわざとらしいほど大げさな身振りを交え、話し出す。

 

「あら、お父様。

竜の骨ですって、凄いわね。

もしかしたら、他にも何かしら面白い物を持ってるかもしれないわ。

……ねぇ、お客人?

もし良かったら、他にも面白い物を持っていたら、私たちに見せてくれないかしら?

そうね、この骨みたいに、竜にまつわる物とか、私凄く興味あるわ。

お父様も、一緒に見ましょ?

こんな機会、二度と無いわよ」

 

レミリアのまくし立てた提案に、アルカードは鷹揚に頷く。

しかしその頬の赤みは、先ほどよりも少しばかり、更に赤くなっている。

無論、先ほどから彼は酒を一滴も飲んではいない。

 

それどころか、周囲を見れば彼が持っていた酒瓶は狼男が預かっているようだ。

つまり、少なくとも彼は、こちらに近寄ってくるまでに一滴も酒を呑んでいないという事である。

 

その上でこの反応の意味を考えてみると、その答えは一つしか見つからなかった。

 

……どうやら、彼は竜がこの上なく好きらしい。

 

解らなくも無い。

 

この世界ではどうだかは知らないが、騎士にとって竜というのは、子供の頃から畏怖と憧憬の対象であった。

民話伝承に残る程度の、真実にすこぶる厚い化粧を被せた物語では、古の戦いにおける神々の敵役として主に認識されていた。

だがそれにしても強大な敵として表現される上に、竜と神々の戦いの勝敗を決したのは、ある一体の"白い、鱗の無い"竜が神々側に寝返った事が原因である。

 

これらの理由から、物語を見聞きした子供たちに畏怖、そして敢えて悪役を好む、少しばかり捻くれた類の子供には憧憬の的になっていたのが、竜である。

騎士はその捻くれ者の類に属する人間では無いが、その捻くれ者に類する者と交友が有った事があり、その魅力という物を説かれた事もある。

 

だからこそ、彼の気持ちも、解らなくは無いのだ。

 

解らなくは無いのだが、先ほどまでの怠惰をまき散らしながら、それでも溢れる威厳を思うと、ため息もつきたくなるという物だ。

それこそ、少しばかり彼に抱いていた"畏怖と憧憬"が台無しにされてしまった、というのは表現としては過大だが、そういった類のごく微小な失望を抱いたのは事実である。

 

恐らくは先ほどのレミリアのため息は、今の己の物と全く同じ理由でついたのだろうな、と思いながら、騎士は頷いた。

 

無論、打算も有る。

提案を無下にして関係を悪化させるよりも、最悪多少武具を放出する事になったとしても提案に乗った方が安全だろう、という打算だ。

 

しかし打算以上に、竜に対して見せた彼の態度に、親近感を覚えてしまったのだ。

 

一度近しい物を感じてしまうとその相手を無下にしたくないと思ってしまうのは、今日まで治す事が終ぞ出来なかった騎士の癖だ。

最早騎士自身、それによって己に良い事が起こる事も有るのだからと、最もらしい理由を付けて治す気も無い始末である。

 

こうなってしまったからには仕方がない、存分に己の、文字通り死ぬ思いをして集めた収集物を見せてやろうでは無いか。

子供の頃に抱いたきり忘れていた、幼稚な虚栄心が鎌首をもたげるのを感じながら、騎士は笑みを浮かべる。

 

その笑みを見る事無く、アルカードは己の部屋へと向かう為に通路へ足を向ける。

 

「そう言う事ならば、此処に居ても仕方が有るまい。

私は月を見ながら酒を呑まなければならないのだからな」

 

そう嘯いて先に歩き始めるアルカードだが、その足取りは明らかに、彼の部屋から玄関ホールに来る時よりも軽い。

彼は狼男から酒瓶を受け取り歩みを進めるが、その背後で狼男が笑みを噛み殺している。

 

「手間のかかる父親だ事。

……じゃ、行きましょうか」

 

騎士は頷き、アルカードの後ろを付いて行くレミリアを追う。

 

「え、えーっとぉ……。

その、私はどうすればいいんですか?」

 

「……あ、忘れてた」

 

空気を読んで黙っていた美鈴が、立ち去ろうとするレミリアに慌てて尋ねる。

レミリアは小さく呟き、それから一呼吸おいて、先ほどの呟きを無かったことにするように大声で指示を出す。

 

「適当にそこらの妖怪に寝床とか食事とかの面倒を頼みなさい。

門番の仕事は、明日からでいいわ。

……皆、今夜は新しく入ったこの子を"歓迎"してあげなさい!

"好きに"やっていいから、ね?」

 

その一言に、玄関ホールに集まっていた妖怪達は、文字通り"沸いた"。

 

「さっすがお嬢様、話が分かる!」

 

「さぁ、今日の主賓一名様だ!

おーい、誰か酒蔵行って酒とって来い!」

 

「鎧の野郎が既に取りに行ったぜ!

あの様子じゃ相当飲みたかったらしい、お嬢様が言う前から鎧かき鳴らして走ってったぜ」

 

「……鎧の中身が空っぽなのに、どうやって飲むんだあいつ?」

 

「……さあ……?」

 

かくして、にわかに玄関ホールは酒宴の場となった。

 

酒精に任せ、多種多様な妖怪が入り乱れるその空気を、美鈴は眼を白黒とさせながら楽しんでいた。

注がれた酒を少しずつ飲み下しながら、しみじみと思う。

 

ああ、ここはいい職場だなぁ。

屋敷は広いし、お酒も料理も美味しいし、皆優しいって、こんな所早々無いよ。

 

こんな部下を持ってる人なら、その人も優しいんだろうなぁ。

 

美鈴は、何だかんだで仲の良い、二人の主人親子を思い出す。

 

何か、口を挟みにくい雰囲気だったからその場では何も言わなかったけど、

新しい主のお父さん、何か竜に対して妙に反応してたなぁ。

 

まあ、当たり前か。

だってあの人から感じた気は……。

 

「おーう飲んでるかい嬢ちゃん!

酒が入ってねぇじゃねぇか、ほれ飲め飲め!」

 

「あ、はいありがとうございます!

それと、私の名前は紅美鈴です!」

 

「美鈴ね、なぁるほど覚えた覚えた。

ちゃんと覚えたよミスズちゃん」

 

「読みが違います!」

 

文句を言いつつも、ミイラ男の酌を受けて、美鈴は注がれた酒を一気に呑んだ。

 

ま、今は良いか!

今は一杯お酒を呑もう!

美味しい上にただ酒なんて、これ以上美味しい物は無いってものよ!

 

美鈴は先ほどまでの考えを全て放り出し、更に注がれた酒を今度はちびりちびりと呑み始めた。

 

……あー、美味しいなぁ。

 

舌に広がる酒精の風味に、美鈴はその顔をにへら、と歪ませるのだった。


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