魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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第三十五話 みらいなき少女 前編

「さてと。皆さんも落ち着いてもらったところで、あなたたちに伝えなくていけない事があるの」

 

 レイトウコから解凍された魔法少女たちが居る中心に歩み出た里美は、柏手を叩いて注目を集めた。

 互いにお喋りをして、和やかな雰囲気は一転して酷く険悪なものに様変わりする。

 当然と言えば当然だ。何せ、里美は彼女たちからすれば、自分たちを拉致監禁した憎っくき敵。敵意こそあれ、会話などしたくもない事だろう。

 すぐにでも武器や魔法が里美に飛び掛かって来かねない一触即発の緊張感が張り詰める。

 俺は彼女を庇うためにそちらに寄ろうとするが、左腕を背後から掴まれ、立ち止まった。

 振り向くと俺の腕を掴んでいるのは、紺色の髪の忍装束(しのびしょうぞく)の魔法少女、ルイだった。

 

「何をするんだ、ルイ。手を離せ。このままでは里美が……」

 

「恩人よ、黙って見て置いてもらおう」

 

「恩人? 俺の事か?」

 

 ルイの呼び方に疑問を覚えて、聞き返すと彼女は静かに首肯した。

 

「ああ。我らプレイアデスに敗れた魔法少女の解放を願い出たのはお前だと先ほど里美が言っていた。故に恩人で相違ないだろう」

 

 確かについさっきまで魔法少女たちに追い回されていた時に、里美がそう弁護していたような気がする。

 間違いではないが、面と向かって恩人と言われるとどうもしっくり来ない。

 しかし、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

「いいから離してくれ! 里美が危険なんだ!」

 

 手を振り払おうとするも、彼女は強く俺の腕を握って離してくれる様子はなかった。

 

「待てと言っているだろう。恩人が庇えばそれこそ更に反感を買う事になるのが分からないのか? ……見てみろ、皆の顔を」

 

 握力を一切弛めないルイに促され、俺は周囲の魔法少女たちの表情を窺う。

 彼女たちの顔から垣間見えるものは深い怒り。いや、それだけじゃない。その瞳や表情から滲む感情は……不安だ。

 プレイアデス聖団に対する悪感情以外は、この状況に不安や恐怖を懐いている。

 

「この状況で恩人がプレイアデスの魔法少女の味方をすれば、彼女たちの感情は爆発し、それこそ暴動が起こりかねない」

 

「うっ、それならは俺は」

 

「黙って(けん)に徹するべきだ」

 

 ルイの意見は冷静でいて、第三者の観点から俯瞰したような分析に基づいていた。

 独自にレイトウコの存在を嗅ぎ付け、アンジェリカベアーズにまで潜入したのは、彼女の魔法の力ではなく、こういった思考力や洞察力の賜物だったのだろう。

 

「そ、そうですよぉ……。あ、あなたまで里美さんの味方をし、しちゃったら、き、きっと皆誰を頼ったらいいのか、分からなくなりますぅ……」

 

 彼女の後ろにくっ付いていたひよりもそれに追随して、桜色の長い前髪を振り乱して何度も頷く。

 当事者でもある二人にそこまで言われ、俺は大人しく引き下がり、里美への庇いだてを諦めた。

 その時、緊迫した空気の中でそれを打ち破るように一歩前に出たのは一人の魔法少女だった。

 袴姿に橙色の短いポニーテールを揺らした魔法少女、舞だった。

 彼女は真っすぐに切り揃えられた前髪の下で、里美を睨みながら歩み寄っていく。

 

「あたしもさ、色々聞かせてもらわないといけないとは思ってるんだ。でもさ、その前に落とし前ってヤツを付けさせてくれねぇかな……?」

 

「落とし前? 何をすればいいの?」

 

「決まってんだろ? ――殴らせろよ。そのくらいされても仕方ねぇって事した自覚あるだろ?」

 

 籠手の付いた腕を握り締め、もう片方の自分の手に叩き付け、舞は里美へ鋭い目付きを向けた。

 里美はそれを見て、僅かに怯んだ様子で唇を噛んだ後、一拍置いて返答する。

 

「……ええ。その権利はあなたにはあると思うわ。好きなようにしてくれて構わない……。でも、それが終わった後、話を聞いてもらえるかしら?」

 

 彼女の覚悟が分かりやすい暴力を前にしても、なお折れる事はなかった。

 舞はそれに大仰に頷いて、周囲の魔法少女に喧伝する。

 

「おい。皆、聞いたか? このプレイアデスの里美さんは、話を聞く代わりに好きなだけ殴らせてくれるってさ。ここはあたしが一番槍を頂くけど、あんたらもあたしの後で恨み辛みを受けてもらいなよ」

 

 何だそれは……? それでは公開処刑と同じではないか!

 やはり手出ししないのは無理だ。暴動など知った事か。この人数に殴られれば、如何に魔法少女と言えども撲殺されてしまう。

 俺はルイの手を力尽くで振り払って、前に進もうとした。

 しかし、その行動は途中で合った里美の目を見て、中断される。

 彼女の瞳は俺に「来るな」と無言で命じていた。

 正気の沙汰とは思えない判断。だが、俺はその彼女の決意に満ちた眼差しに射竦められて、動きを停止してしまっていた。

 

「それじゃあ、行くぞ。まずは一発……!」

 

 振り抜かれた舞の右拳が里美の顔面を捉える。

 ぐわんと後ろへ反り返った顔から、真っ赤な鼻血が深紅の花弁のように宙へ舞った。

 

「うっぶッ……」

 

 完全に芯を捉えたその拳は素人の俺からでも分かる、武道経験のある者の動きだ。あれほど鋭い一撃を正面から受ければ、視界は真っ白になるだろう。

 

「里美……!」

 

 思わず、声を掛けてしまうが、彼女はこちらには目もくれずに前に立つ舞へと見つめている。

 

「ほう……。わりと本気で殴ったんだが、まだ立ってられるのか。じゃあ、次。二発目……!」

 

 舞の左拳が今度は里美の鳩尾(みぞおち)へと食い込む。

 くの字型に曲がった里美の身体が打撃に耐え切れず、崩れ落ちた。

 

「お、おぐッ、うぇぇぇぇぇぇッ! げほッがはッ」

 

 ボタボタと吐瀉(としゃ)物を床に撒き散らし、むせ返っている。

 打撃だけの衝撃によるものではない。鼻血と胃液の逆流で呼吸が上手くできないのだ。咳き込む彼女は苦悶の表情を浮かべていた。

 これはいくら何でもやり過ぎだ。どれほどプレイアデス聖団が外道行為に走っていたとしても、無抵抗な相手を一方的に殴り倒すなど言語道断。到底容認する事は不可能だ。

 

「おい、舞! これは……」

 

「赤司さんは黙っていて!」

 

「……ッ!」

 

 抗議しようとした俺の発言を押し留めたのはルイでも舞ではなく、里美本人だった。

 震える脚で彼女は立ち上がると、衣装の袖で口元に付いた汚れを拭い取る。

 

「これは……私たち魔法少女だけの問題なの。そうでしょ? 三鳥舞さん」

 

「……思ったよりも根性があるんだな、里美さん。この辺で泣きを入れると思ってたんだが」

 

「涙はね、もっと大切な時に流すものって学んだの。それにプレイアデス聖団の罪も全部背負うって決めたから……。あなたが懐くその怒りを全て私一人に向けてちょうだい。居なくなった他の仲間の分も私が引き受けるわ!」

 

 里美……。

 お前の覚悟は充分理解した。その覚悟に到る背景に仲間の死が関係している事も。

 だが。

 だが! これ以上は我慢ならない!

 俺の怒りも頂点に達していた。里美へ更なる暴力を振るう気なら、俺がこの手で相手をしてやる。

 左腕を振り上げて、里美の傍に駆け寄ろうとした。

 しかし、それより素早く、舞の三発目の拳が里美の顔へと迫る。

 里美はその拳に目を瞑る事もなく、視線を逸らす事もせずに真正面から受け止めた。

 

「…………え?」

 

 舞の拳は彼女の顔面の手前でピタリと止まっていた。

 誰かが止めた訳ではない。舞が自分の意思でその振り抜いた拳を停止させたのだ。

 寸止め。テレビで見た空手選手がやるような、相手に当てないギリギリの場所で拳を止める動作だ。

 舞はニヒルな笑みを浮かべ、止めた拳を下す。そして、肩をポンと気安く叩いた。

 

「あんたの覚悟、しっかりと見せてもらったよ。あたしは充分気が済んだ」

 

「舞、さん……」

 

「さて、皆はどうだ? まだこの人殴りたい奴は居るか? ここまで腹括って、ここまで男気を見せた里美さんをボコボコにしたいって奴は。居るんなら出て来いよ」

 

 周りの魔法少女たちを見回して、尋ねる。だが、その呼び掛けに乗る者は誰一人として現れない。

 それを確認した舞は里美の肩に手を回して、このレイトウコに居る全員に声を掛けた。

 

「じゃあ、これでお終いって事でいいよな? 恨みも憎しみも全部流すって事でいいんだよな? 異論がある奴は出て来いよ。あたしが聞いてやる」

 

 魔法少女たちは互いに目配せをして、それから異口同音の返事を彼女へ渡した。

 もう全員が分かっていた。これ以上里美を責める事ができるのはこの場には居ないと。

 いつ弾けてもおかしくなかった険悪な雰囲気は綺麗に押し流され、跡形もなく霧散していた。

 背後でルイが言う。

 

「だから、黙って見ていればいいと言ったんだ」

 

「ルイ、お前……まさか、全部こうなる事を分かっていたのか? いや、ひょっとしてお前が仕組んだのか?」

 

 俺の問いにルイは事も無さげにこくりと頷いた。

 

「先ほど三鳥舞とは少し話した。彼女はそれほどプレイアデス聖団を恨んでいるようには見えなかったから、一役買ってもらった訳だ。大体、本気で怒りを向けている魔法少女がわざわざ『拳』で殴りかかると思うか?」

 

 言われてみればその通りだ。

 俺は武器を持った彼女たちに襲われていたのだ。堪え切れない怒りを持った魔法少女なら使い慣れた武器で攻撃させろと言うだろう。

 

「そ、それに舞さん。い、痛そうな場所だけを狙って、そ、ソウルジェムは狙わないようにしてました。あ、あと、目とか顎とか心臓とか本当に危ないとこは避けてました……」

 

「確かに……鼻なんか派手に痛くて血が出るが、案外ダメージとしては致命傷にはならない場所だ。というか、ひより詳しいな」

 

 ひよりの補足に俺は納得する。

 胃袋の中を吐き出させたのも演出重視という事だったのか。ルイの計算高さと舞の格闘技術あっての作戦だが、俺もすっかり騙されていた。

 魔法少女の中でもこれに気付けた者は恐らく居ないだろう。仮に居たとしても、里美の覚悟自体は本物なのだ。文句を言う者も出て来ないはず。

 

「えへへ……わ、わたし、中学校で虐められてたので、み、見た目よりも重篤な障害が残る、ぼ、暴力とか、結構詳しいんですぅ……」

 

「それは正直、聞きたくない情報だった……」

 

 ひよりには、魔法少女の事とは関係なく虐げられていた過去があるらしい。

 この話は掘り下げると、非常に宜しくない気がするのでそっと心の奥にしまい込んだ。

 だが、これで状況は整った。

 里美に対しての悪感情も晴れた今、魔法少女たちは彼女の話す内容に耳を傾ける事だろう。

 後はその内容にどのような反応を示すかだが、それも里美なら上手く調整できる。

 

「それじゃあ、皆。私の話を聞いてくれるかしら?」

 

 今の一件で信用を勝ち得た里美の発言に異論を挟む者は居ない。

 彼女もそれを確認した後、静かに語り出す。プレイアデス聖団が何故魔法少女を狩って、この場所に閉じ込めていたのか。

 そして、魔法少女が辿る過酷な運命についての内容を……。

 全ての内容を語り終えるまで、三十三名の魔法少女たちは一切話を遮らなかった。

 

「……これが私の知る真実。信じたくない事だとは思うけれど、それでも本当の事なの」

 

 レイトウコの中がざわめく。無理もない。彼女が語る真実は魔法少女にとっては滅びへの一本道に違いないのだから。

 あれだけの覚悟を見せ付けた里美が、プレイアデス聖団の活動を正当化して語っている訳がないと思わせたのも大きい。

 

「それでもグリーフシードによる浄化をこなせば、魔女にならずには済むわ。だから、決して絶望しては……」

 

『おかしいな。まだ彼女たちに話していない事があるんじゃないのかい? 里美』

 

 里美の口頭を遮り、全員の脳内に聞き慣れた反響する声がする。

 ……この中性的な声は。

 レイトウコの入口からするりと入って来たのは白い外道の小動物。

 魔法少女たちの中の誰かがその名を口にした。

 

「キュゥべえ……」

 

『やあ、囚われの魔法少女の皆。久しぶりだね』

 

 何をしにやって来たというのだ。この生き物は……。

 胸騒ぎがした。即座にこの生き物を殺してやりたいところだが、それをしても無駄だという事は分かっている。

 目的がある内は、キュゥべえは絶対に引き下がらない。こいつの本性を知らない魔法少女に要らぬ不信感を持たれるのも悪手だ。

 非常に嫌だが、出方を見る他にない。

 

「話していない事……?」

 

(とぼ)けるつもりなのかい? この街には魔法少女を即座に魔女に(かえ)す事のできる道具を持った魔法少女が居る事を』

 

「……! それは……」

 

 言葉に詰まる里美。その隙を逃さずにキュゥべえは言葉を重ねた。

 

『このレイトウコにも居るだろう。一番後ろのカプセル内の五人の魔法少女。あの子たちのソウルジェムは既にその道具であるイーブルナッツで魔女にされてしまったね』

 

 クソッ、痛いところを突かれた。

 そこに関してはどう言い(つくろ)おうとも、誤魔化せない。

 何故なら、そこに証拠である少女たちの身体があるのだから。

 

『更に言うなら、イーブルナッツで魔女モドキに変身する存在まで居る。それを教えてあげないなんて酷いよ、里美』

 

「それは……いきなり全てを聞かせるには重すぎると」

 

『それはおかしいよ。君はその魔法少女や魔女モドキと戦うための仲間を募るために、レイトウコから解放したんだよね? 頼りのプレイアデス聖団は壊滅しているから、それに代わる戦力補強を行うために』

 

 キュゥべえは畳み掛けるように、里美へと話していなかった事実を暴露する。

 場の流れが変わっていくのが肌で感じられた。

 奴の言葉に言いくるめられ、言葉を失っている里美。そして、その危機感を煽るような話に魔法少女たちの不安は否応なしに膨れ上がる。

 

「駄目だ! 聞くな、皆! こいつの目的は魔法少女を魔女に変えて、感情エネルギーを集める事なんだ!」

 

 俺がそう叫ぶが、キュゥべえは否定するどころか、平然と肯定した。

 

『その通りだよ、赤司大火。ボクはずっとこの時を待っていたんだ。レイトウコの封印が解かれるのをね。魔女にならずに眠らせておくなんて勿体ないよ』

 

 駄目だ。こいつにとっては魔法少女を騙していた事は露わにされたところで何の問題もないのだ。

 隠すつもりは一切なく、むしろ堂々と自分から話すような内容でしかない。

 

『でも、ボクは嘘は言っていないよ。この街に魔法少女の安全なんかどこにもない。君たちは救い出されたんじゃなく、戦うための力として呼び戻されたに過ぎないんだ』

 

「こ、この外道がぁ……」

 

 奴の魔法少女の心を傷付ける真実で、魔女へと変えようとしていた。

 怒りに任せて、キュゥべえを踏みつけに行くが、見た目に似合わず俊敏な動きでそれを回避してみせる。

 だが、そんな事に気を取られている内に、レイトウコ内で絶叫が迸った。

 

「いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ! 私たちは助かったんじゃなかったの!? 魔女になる運命だって嫌なのに……そんなの、そんなの、耐えられないよぉぉ!」

 

 背後を見れば魔法少女たちの内の一人が救いようのない真実を聞き、狂乱状態に陥っていた。

 キュゥべえなど後回しにして、その少女の元へ走り出す。彼女の肩を掴んで、必死に声を掛けた。

 

「ッ……! 駄目だ、落ち着け! 絶望なんてするな! ソウルジェムを濁らせばキュゥべえの思う壺だ!」

 

 しかし、俺の言葉は少女には届いていない。

 喘ぐように叫びながら、自分のソウルジェムを黒く濁らせるだけだ。

 そうだ。グリーフシードを使えば、魔女化は防げる!

 ズボンのポケットからグリーフシードを取り出そうとするが、右ポケットに入っているために左腕では上手く探れず、手間取ってしまう。

 ようやく取り出し、彼女のソウルジェムへと近付けようとした時。

 彼女のソウルジェムは砕け散り、その形を俺の握るグリーフシードと同じ形状に変化させていた。

 レイトウコ内の空間が歪み、広大で異質な場所へと変換されいく。

 ……間に合わなかったか。

 次の瞬間、俺の居る場所は地下の一室ではなく、足元に金銀財宝がひしめく広い洞窟の中に居た。

 周囲には等間隔で(まば)らに立つ魔法少女たち。だが、その全員の様子が妙だった。

 顔を俯かせ、脱力した前傾の体勢で立ち止まっている。

 

『魔女化する魔法少女を見せる事で連鎖的な魔女化を期待していたんだけど、流石はプレイアデス聖団の生き残りだ。とっさに全員の意識を魔法で支配するなんて』

 

 洞窟の上に放置されている宝箱の上にキュゥべえがそう独り言を呟いた。

 まさか、これは里美の魔法か。

 そう思い、彼女の姿を探すと、間隔を置いて立つ魔法少女たちの中心に猫の顔の付いたステッキを掲げている。

 里美の顔は汗で濡れ、荒い息を吐いている。

 彼女の魔法がどのようなものかは初めて知ったが、三十人以上の魔法少女を一気に支配する魔法がどれだけの負担になるかは想像に難くない。

 早く、この結界から脱出しなければ、彼女まで魔女になりかねない。

 俺は魔女を目視で探すが、この結界の中には金の延べ棒や宝石、装飾の付いた刀剣や槍のような儀礼的な武器などが転がっているだけ、魔女の姿は見当たらなかった。

 しばらく、見渡していると、バサバサと大きな音が上から響いてきた。

 

「上か……!」

 

 見上げると天井も見えない闇の中から、大量の財宝が雨水の如く降って来る。

 そして、その財宝を追うように、大きな何かが舞い降りて来る。

 財宝の上にその巨体を現したのはカラス……。

 王冠を頭に被せた巨大なカラスが、洞窟の主だと言うように翼を広げ、激しく(いなな)いた。

 

『lsflsrleisjgi;esrifji;eikrfi;hfnruoajdfkcnnvjabg!!』

 

 これがこの結界の魔女。そして、俺が救えなかった魔法少女の成れの果て。

 左拳を握り締め、口惜しさを胸に魔物へと変身する。

 

「想変身……!」

 

 遠距離からの『トリニティ・リベリオン』ですぐに片を付ける。

 そう考えて、変身した俺の姿は――白い外骨格に覆われていた。

 

『……なッ!? これは、どういう事だ……?』

 

 〈復讐者の形態(リベンジャーフォーム)〉ではない。これは俺の本来の魔物態だ……。

 いや、それどこか俺の中にあったあいりの魔法の力が一切感じ取れない。

 これは右腕を失ったせいなのか!? 確かにあの右腕にはあいりからもらった“夢色のお守り”が含まれていた。もしあれが魔力の源だとしたら、俺の中のあいりの魔法の力は、ない……。

 戸惑う俺の前で魔女を守るように財宝の中から幾つもの人影が現れる。

 出て来たのは、輪郭の曖昧な山賊のような使い魔たち。それらは床に広がる装飾過多の剣や槍を掴むと、俺へ目掛けて襲い掛かって来た。

 

『……クソッ。それでもやるしかない』

 

 背後には守らなければならない少女たちが居る。

 あいりの魔法がなくとも、右腕がなくとも、それでも俺のやるべき行動に変更はない。

 ――俺はそのためにここに存在しているのだから。

 




今回はオリジナル魔法少女のキャラ付け回にしてみました。
もし応募して下さった方々が喜んでくださったなら幸いです。

そして、今回登場したのも読者応募の魔女、強欲の魔女です。
こちらは猿山ポプラさんより頂きました。

大火は右腕を失った事で、弱体化してしまいました。
里美は魔法少女たちを魔女化させないように、意識を奪う事で精一杯。

最悪の状況、どう切り抜けるのか!?
次回『みらいなき少女 後編』に続きます。

どうでもいいですが、このキュゥべえ。見滝原市ではとある少年にやり込められ、逃げ回っています。
大火ぐらいじゃないと強気に出られないのが切ないところです。

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