魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~ 作:唐揚ちきん
~ニコ視点~
魔法が壊れた。
海香がこのあすなろ市に掛けた魔法が。
プレイアデス聖団の願いが。
壊れてしまった。
もう間に合わないのは分かっている。
海香が助からないも理解している。
ひたすらに一縷の希望に縋って走るのは私らしくない。
私はもっと冷めてて、私はもっと諦めてて。
私は何も願わない。
……でも。
でも!
今は、信じたかった。
希望を。祈りを。願いを。
ミチルの望んだ優しい世界を。
ただ、無垢な少女のように信じたかった。
だけど、やっぱり現実は願った通りにはいかないらしい……。
辿り着いた御崎邸は、魔女の結界に覆われていた。
思ったより、ショックは少なかった。
ああ、そうなのかと冷静な私が達観した目で見つめている。
「ニコ! 俺を置いて行くな!」
後ろから走ってきた赤司大火が追い付いた。
同じように目の前の結界を見て、表情を悲し気に歪める。
しかし、目を瞑って首を横に振ると私に語り掛けてきた。
「ニコ……行こう」
「行くって、どこに?」
「その邸宅の中にだ。あの歪んだ空間の中にお前の友達が居るんだろう?」
友達、か。
その単語は私たちの関係性をどのくらい表せるものなんだろうか。
もう私には分からない。分からなくなってしまった……。
「諦めるな!」
赤司大火に叱咤され、肩が震えた。
彼を見れば、その瞳は強い意志で煌めいている。
「お前は何のためにここまで走って来たんだ? たとえ、望まぬ結果が待ち受けていようと向き合うためではないのか!」
「それは……」
「お前が行かなくても、俺は行く。何が起きたのか、この目でしかと見なければならないからな」
それだけ言うと、赤司大火は私の前へと踏み出した。
「変身!」
肉体を魔力で変質させ、蠍を
俯く私に背を向けたまま、最後に言い残す。
『……その気概があるなら、後からでも来い』
「待って!」
第三者にそこまで言われては、引くにはいかない。
プレイアデス聖団として、そして海香の友達として、私は向き合わないとならない。
「……私も行くよ」
赤司大火は何も言わない。私も返事を必要としない。
するべき事はお互いに理解しているから、言葉は不要。
覚悟を決めて、二人で結界の中に足を踏み入れた。
内部に突入すると、見慣れた御崎邸の玄関の代わりに、魔力によって歪んだ世界が顔を見せる。
そこは積み重ねられた本の山。周囲の空には筆記体アルファベットの文字が浮かんでは消えていた。
魔法少女狩りのおかげで最近はめっきり見る事なくなった魔女の結界。
絶望し、魔女となった魔法少女の精神が具現化した世界。
ここに来て、改めて実感する。
この世界の主はやっぱり海香だ。
あの子らしい要素が目一杯詰め込まれている。
使い魔の出迎えがないところから察するに、他の皆と交戦中なのだろう。
『広いな。空間そのものが捻じ曲がっているようだ……』
「あれだけ偉そうな口を叩いておいて、魔女の結界に入ったのは初めてだった訳?」
『そうだな。魔物との戦いは何度かあったが、本物の魔女と出会った事は一度もない』
「へぇ~……」
キュゥべえの事は知っていたのに、グリーフシードについては無知だったりと彼の知識は偏っている。
少なくとも彼が力を得た後の『起こりえた未来』では魔女が発生しなかったのかもしれない。
喜ばしい事に聞こえるが、実際のところは魔女になる前にあきらに全滅されただけだろうから、何とも言えない。
多少会話を交わしていると、ソウルジェムが魔女の反応を感知する。
すぐそこが結界の最深部のようだ。
「魔女の反応が近いよ」
『そうか……。活性化したイーブルナッツの反応なら分かるんだが、魔女というのは魔物とは根本的な魔力の質が違うみたいだな』
赤司大火と共に魔女の居る最深部へ向かう。
変わり果てた仲間と会うのは気が滅入るが、プレイアデスの仲間が戦っているなら加勢する。
何より、かずみもここに居るはずだ。あの子には魔法少女の魔女化については何も教えていない。
きっと誰よりもこの状況に困惑しているだろう。
『見えたぞ。あれが……魔女か?』
何かを捕捉した赤司大火が私に尋ねる。
私もその方向に目を凝らし、魔力で強化した視力で確認した。
一見すると、それは大きなトンボのようなシルエット。
長い一本の棒状の身体に二対の羽のようなものが付属している。
だが、それはそんな生易しい形の存在ではなかった。
万年筆を中心にして、上部の両端に二本ずつ平べったい腕が生えていた。
魔物なんかよりもよほど狂気じみた悍ましい怪物。それでいて、童話の挿絵にでも出てきそうなほど、生物感のない無機質めいた見た目をしている。
「ああ、そうだよ。あれが…………魔女だ」
覚悟を決めていたはずなのに、魔女と呼称するのが辛かった。
海香……。
いや、『万年筆の魔女』とでも呼ぶのが相応しい魔女に魔法を放とうとバールの形の杖を向ける。
しかし、傍らに立つ赤司大火は構えない。
複眼のある兜のような顔からは表情が読み取れないが、彼の声音には悲し気な感情が滲んでいた。
『ニコ……戦いはもう終わっていたようだ』
その言葉を証明するように万年筆の魔女は弾けるように消滅する。
魔女の影に隠れ、見えなかった向こう側にはカオル、サキ、みらい、里美の四人がそれぞれ武器を構えて立ち並んでいた。
次第に異様な空間が薄らいで行き、魔女の結界は完全に霧散した。
景色は御崎邸のリビングへと戻る。
カオルたち四人は剣呑な表情で息を突き、椅子から転げ落ちたような姿勢で倒れている海香を見下ろしていた。
彼女は目を見開いた状態でぴくりとも動かない。
部屋の真ん中には大きなテーブルには、零れたティーカップと散らばったお菓子が乗せられている。
つい先ほどまでお茶会を続けていただろう様子が想像できる平和の残骸が、私により悲劇性を感じさせた。
「……海香はやはり魔女になったんだね」
ぽつりと呟くと、カオルたちは私の存在をたった今認識した様かのように目を向ける。
「ニコ! いつの間に戻って来たの? あきらとかずみは?」
「あきらとかずみ……? 私の方が聞きたいくらいだよ。二人はどこ?」
カオルの質問の意図が分からず、私は逆に聞き返した。
すると、サキが怪訝そうな顔で見つめる。
「何言ってるんだ、ニコ……。二人はついさっき、お前が連れて出て行ったんだろう?」
私が、二人を連れて出て行った?
ついさっき……?
それを耳にして、私は即座に気付く。
カンナだ――! 聖カンナが私の振りをしてここに来ていたのだ――!
かずみを連れて行った、だって。
最悪だ。あいつの目的の一つはあの子の身柄の確保だっていうのに。
「その私は偽物だよ! SHIT! してやられた……」
「は? どういう事、ちゃんと説明してよ」
喧嘩腰で詰め寄るみらいは、苛立ちを隠そうともせずに私を睨み付けた。
駄目だ。この四人が事情を把握するまで懇切丁寧に話していたら、それこそ間に合わなくなる。
悠長に説明をする暇はない。すぐにかずみのソウルジェムの反応を探して、あの子を取り返さなくては……。
「黙ってないで何とか言いなよ!」
「みらい、言い争いしている暇はないんだよ……」
癇癪を起したみらいが服を掴む。
やめてくれ。今は内輪揉めしている時間はないんだ。
そこへ一緒に来ていた赤司大火が開いていた扉から顔を見せる。
『ニコ! 話は聞こえた! ここでゆっくりしている暇はないんだろう!?』
彼を見た里美が悲鳴のような声で糾弾した。
「魔女モドキ……! ニコちゃん。あなたがそれを連れて来たの!?」
それを切っ掛けに四人の私への疑心感が膨れ上がったのを感じた。
……最悪だ。連れて来た赤司大火を見られた以上、もう生半可な説得をしても皆は聞き入れないだろう。
ここは一度退散して、かずみを取り返した後に時間をかけて事情を説明するしかない。
逃げ出そうと身体を翻して、リビングの窓から飛び出そうとする。
その最中、里美が猫の顔の付いた杖を振るった。
「逃がさないわよ、ニコちゃん……」
「……ぐ」
途端に私の身体の自由が利かなくなる。
これは……里美の『ファンタズマ・ビスビーリオ』。
生き物を操作する魔法だ。こいつを掛けられたら、身体の動きは全部里美の思うがままになってしまう。
『ニコに何をした!?』
赤司大火が両腕に付いた銃身を向けて叫ぶ。
それは悪手だよ……。気持ちがありがたいが、これじゃあ事態は悪くなる一方だ。
かずみの奪還を諦めて、皆への説明を優先する?
無理だ。あきらに対する信頼を打ち消すほどの情報提示できない。
私が赤司大火の話を信用したのは、私以外に知らないはずの聖カンナの事を詳細に知っていたからに過ぎない。
そうでなければ、私もあきらを信用し続けていたくらいだ。
あきらが邪悪な魔物で、私と瓜二つの魔法少女がかずみを狙っている。この事情を理解させるのはあまりに難題。
だったら――。
「赤司大火。私の事は放っておけ。君はかずみの元へ行ってくれ!」
疑われる事になっても、彼を逃がす。
この選択肢しかない。
『そんな状態になっているお前を置いて行ける訳が……』
「いいから早く行け! 間に合わなくなる前に!!」
当然、君は拒否するだろうね。
そう奴だから、私も心から信頼できる。
あきらと違って、不器用で愚かで、真っ直ぐな君を。
表情は分からない。だけど、悔しそうな雰囲気を滲ませ、彼は廊下から玄関へ向かった。
「裏切るのね、ニコちゃん。いえ、あなたが本当にニコちゃんなのかも疑わしいわ」
動けない私の顔を里美の手が触れる。
可愛らしい顔立ちに温かみを感じさせない表情が浮かんでいる。
似合わないと言いたいところだが、不思議と彼女には似つかわしく感じられた。
「怖い顔だね……。海香の魔法で忘れていた記憶を取り戻したんだろう? 皆もそんな無駄遣いしていいの?」
「……ニコちゃん」
表情を引きつらせている里美。
その背後ではサキがみらいに指示を飛ばす。
「みらい! 数十体でいい! 出せるか!?」
「うん! 大丈夫! 百単位はキツくてもそのくらいなら……『ラ・ベスティア』!」
みらいが生み出した無数のテディベアが逃げた赤司大火を追いかけ、追跡する。
せめて魔法が使えたなら、分身を作って邪魔できただろうが、今の私は文字通り手も足も出せない。
せいぜいできる事はといえば、彼が無事に逃げ切るのを祈る事くらいだ。
*******
俺は襲い来るテディベアを交わしながら、玄関へと向かう。
距離にすればほんの五メートルそこらの長さ。跳躍すれば一瞬で辿り着ける間合い。
しかし、何匹も湧き出る小熊のぬいぐるみは手や脚、頭にも取り付いて、動きを阻害してくる。
魔力の弾で数匹引き剥がすも、次から次へと新しいテディベアが組み付き、身の丈に似合わないほど頑丈な牙で噛んだ。
そう簡単には傷付かない俺の外骨格も同じ場所を何度も噛まれ続ければ、装甲は削れてくる。
『つおぉーっ!』
それでも、魔法少女たちが追い付いてくる前には玄関の扉から飛び出す事に成功した。
戸口の前で転がって、身体に噛み付いているテディベアたちを強引に引き剥がす。
大半はそれで振り落とされた事を見計らって、コルを呼び出し、空へと逃れた。
距離が離れれば、テディベアの操作に支障が出るのか、邸宅から離れるほどにテディベアたちの拘束力は下がり、ぽろぽろと剥がれて魔力に戻る。
いや、彼女たちも魔力の使用を控え、諦めたと見るべきだろう。
まして、友人が魔女に変貌し、それを己が手を汚して討った……内心穏やかで居られないのは言うまでもない。
俺の迂闊さ。彼女たちの不安、そして、間の悪さが合わさり、最悪の事態になってしまった。
だがしかし、ニコは彼女たちとは苦楽を共にしてきた間柄。拘束されたとはいえ、そう悪い目には合わせないはずだ。
意識を切り替え、彼女に頼まれた内容に集中する。
かずみの奪還。
あの子を連れ去ったのはあきらと、カンナ。
憎き仇と想い人。その両者が組んでいる事に遺憾の意を感じた。
だが、それはある意味でかずみの安全を保障する事に繋がっている。
あきらだけなら、気まぐれで惨殺する可能性があるが、カンナの目的は自分の同類であるかずみとこの世界を破壊する事。
彼女がかずみを手に掛ける事を良しとする訳がない。
カンナの存在があきらの暴走を留めているとも言える。
もっとも、あの傲慢で傍若無人の男がいつまでもカンナに大人しく従っているとは思えない。
猶予はあるが、悠長しているのは危険だ。
俺は、そっと目を瞑り、上空からあきらの体内にあるイーブルナッツの反応を探る。
二つもイーブルナッツを抱えているのだ。たとえ非活性状態でも魔力の痕跡くらいは辿れるはず。
そう信じて、探知を続けるが一向に引っ掛からない。
イーブルナッツを肉体から排出しているのか?
あり得ない。奴ほど傲慢な者がその力をわざわざ己から取り除くなど絶対にしないだろう。
まさか、……あきらはイーブルナッツの反応を完全に消す方法を手に入れたのか。
~ニコ視点~
「何で……ここに」
それを見た時。私は目を見開いて、声を震わせていた。
あり得ない。どう足掻いてもここに来るのはおかしい。
「『何で』? 私が仲間の家に戻って来るのがそんなにおかしい事なの?」
「……ニコ。その子、ニコそっくりだよ……」
かずみが動けない私を見て、私の目の前に居るそいつの袖を掴んだ。
クリーム色の髪を後ろで二つ結びにした髪型。気だるげな垂れ目。
どこからどう見ても私と同一の見た目の少女がそこに居た。
鏡映しの自分。けれど、その表情は今の私とはまったく違う。
―—聖カンナ。
私がキュゥべえとの契約の代償に願った奇跡。もう一人の自分。
顔を合わせるのは初めてだったが、向こうは毛ほども驚いた様子はない。
「おおう、本当に瓜二つだなぁ。ニコちゃんて、実は双子の姉妹が居たのか?」
カンナの脇に立つあきらが少し驚いた様子で目を丸くした。
知らないはずなどない癖に白々しい。これが演技だというのなら、ドラマの子役は全員大根役者だ。
「そんな訳さ。大方、魔法で私に変装しているだけだろうね」
平然と言い放つカンナは、リビングに居る四人の顔を見回した。
「ただいま。皆。そっちは終わったみたいだね」
「おかえり、ニコ! 良かった。やっぱりこっちが偽物だったんだ」
カオルは安心した顔で胸を撫でおろす。
「私は最初から分かっていたぞ。ここに入って来た時から、こいつの様子は不振だった」
「ボクもボクも。なんか怪しいと思ったよ、こっちの偽物は」
サキとみらいもカンナを本物の私と思い込み、蔑んだ目で私を睨んだ。
「良かったわ。私たちを裏切って、魔女モドキを助けるニコちゃんなんて居なかったのね」
里美も安堵した顔で自分の頬に手を当てる。
全員カンナの事を微塵も疑っていない。彼女こそ、本物の神那ニコだと信じ切っている。
これを狙っていたのか……。
カンナの狙いは、かずみを手に入れる事ではなく、私と入れ替わる事。
直接監視していたのか、コネクトの魔法を使っての情報収集かは分からないが、私が赤司大火と共闘するところを見て、この計画を企てていたのだ。
いや、もしかするとあやせにイーブルナッツを流したところまで全部彼女の思い通り……?
海香の魔女化さえもその手段の一つだった……?
呆然とする私だったが、かずみだけは気付いてくれないかと一縷の望みを託し、彼女の名を呼んだ。
「かずみ……私が本物の……」
「近付いちゃ駄目だぜ、かずみちゃん! この偽物、アンタに何かするつもりだ!」
「……!」
かずみはさっと怯えるような顔であきらの後ろに隠れてしまう。
恐ろしいものでも見るような、目付きで私に向けている。
……そうか。もうプレイアデス聖団に私を信じてくれる人は誰一人居ないのか。
私を眺めるカンナの口角が僅かに吊り上がる。
彼女からすれば最高の復讐の仕方だ。嬉しさを隠すのも大変だろう。
対して私は、失意のどん底に突き落とされた気分だった。
持っていた宝物を奪われて、盗んだ相手が自慢するように見せびらかしてくる。そんな感情に支配される。
もう何を言っても聞き入れてくれない。
ここでは私が偽物で、彼女こそ本物のニコなのだ。
…………いや、諦めてはいけない。赤司大火が教えてくれた内容を思い出せ。
あきらはあの黒い竜の魔物。それを証明すれば、少なくとも彼に対する信頼は傷付けられる。
コントロールを奪われた右腕に魔力を流し込んだ。
浄化されたソウルジェムの魔力量なら、里美の魔法にも抗える。
放つのは私の魔法の中でもっとも初動が速く、高威力の魔法。
くっ、予想以上に里美の魔法の支配が強い……。
数を捨てる。四発も要らない。一発……一発でいい。
あきらに防御を促し、魔物化させる。そのためだけの一撃……。
「……『プロルン、ガーレ』!」
人差し指の先を小型ミサイルに再生成し、打ち飛ばす。
「!」
狙いはあきらの顔面。
さしもの彼も人の姿のままでまともに受ければ、ただでは済まないだろう。
さあ、醜悪な正体を現すといい。邪な魔竜よ!
『……あぶねえな。やっぱ、かずみちゃんを狙ってやがったか』
「……!? その姿……」
『これか? ニコちゃんにもらった魔法のベルトの力さ』
灰色の騎士が長い剣を手に立っていた。
プロルンガーレはその剣によって、爆発する前に両断され、音もなく魔力の粒に還る。
魔力による変身。だが、黒い竜とは似ても似つかない、中世の甲冑を纏ったような姿。
当然、私はそんなベルトなど知らない。
カンナの事だ。彼女は、これすら見越していたとでも言うのか。
「あきら。その偽物を斬ってくれ。私の顔を使って、プレイアデス聖団の仲間を傷付けようとするこいつを見過ごせない」
彼女は私を見て、そう言った。
海香の魔女を利用しているお前が……それを言うのか!?
『分かったぜ、ニコちゃん。ちょうどこの技に名前を付けたところだったんだ』
灰色の騎士の剣に、さらに濃い灰色の魔力が収束していく。
同じ刀剣使いのあやせやルカとは異なる、魔力を変化させずにそのまま練り上げている。
それを目にした時、妙な納得があった。
私はこの一撃によって、死ぬ。
ソウルジェムが砕かれるだけでは済まない。
肉体共々完膚なきまでに破壊し尽くされる。
だからこそ、口から漏れたのはかずみへの言葉ではなかった。
「聖カンナ……赤司大火はお前を必ず――救いに来る」
いやらしく滲ませていたカンナの笑みが、剥がれ落ちた。
『イル・グリージオ・スパーダ』
刀身から撃ち放たれた灰色の斬撃が私を一瞬で呑み込む。
最後に私の網膜が捉えたのは、驚き戸惑った少女の顔だった。
海香の魔女との戦闘は、魔法少女五人がかりではまずプレイアデス側が圧勝するので完全にカットしました。
これでニコ編は終了です。
次回から多分……サキ編が始まります。