魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~ 作:唐揚ちきん
~あきら視点~
かずみちゃんたちに誘われて朝からいちゃこら4Pショッピングデートと洒落込んでたら、急にかずみちゃんが一人どっかに走り出し、俺も何か不快なノイズのようなものを感じて着いて行けば、なんとビルの隙間に昨日の蠍の怪人とタコの化け物が『ドキ! 化け物だらけのバトル大会☆ ~ポロリもあるよ(多分首とか)~』を開催していた。
それを見て、待ってましたと魔法少女に変身するかずみちゃん。ついでに一緒に来ていた海香ちゃんとカオルちゃんまでもが魔法少女だと発覚する。
特に愕然とせずに眺めていた俺の前で、蠍とタコは共食い目的なのか、魔法少女をそっちのけでポケモンバトルならぬバケモンバトルをおっ始め、何だか分らんが喰らえと魔法少女三人娘が横合いから攻撃。
まあ、そんな感じで色々あった結果、タコの野郎は墨吐いて逃げて、蠍の方もマンホールにダイブして逃げた。
魔法少女ズと俺はぽつんと墨で汚れたビルの隙間で呆然と立ち竦んでいたが、こうしている間もお楽しみタイムは刻々と過ぎていく。
仕方がないので、俺が彼女たちに次の行動を促す。
「で、どうすんのさ? 魔法少女ちゃんたちは。あのまま、化け物二体を野放しでいい訳? 見なかったことにしてショッピング続けちゃう系?」
「良くないよ! でも、私どうしたらいいのか……『記憶を失う前の私』ならぱぱっと決められたのかな?」
かずみちゃんが突っ込むが、どちらを優先した方がいいのか判断が付かず、どうしたらいいか決めあぐねている様子だ。
海香ちゃんとカオルちゃんはそんな彼女を見て、なぜか少し悲しそうな表情を浮かべた後、ちらりと顔を見合わせた。
「かずみ、とにかくあの蠍の化け物……魔女は一旦置いて、タコの魔女を追いましょう」
「かなり弱ってたし、元気な方を野放しにしてる方が危険だしね」
二人の言葉を聞いて、かずみちゃんは頷くものの、新出ワードに食い付いて首を傾げた。それについては俺も気になる。形も別に女性的でもないのに、わざわざ魔「女」って明言している理由が分からない。
「『魔女』? それって、あの化け物たちの名前?」
「それついてはあのタコの魔女を探しながら話すわ。それで……あきら。あなたはもう帰った方がいいわ」
「おいおい、今更仲間外れかよ?」
海香ちゃんの態度に難色を示す俺だが、彼女は流石にこれだけは譲れないといった具合で語気を強めた。
「私たち、魔法少女はあの魔女たちと戦う使命があるの。何の力もない貴方を戦場に連れて行く事はできないわ」
ごもっとも過ぎる意見だが、こんなに面白いものを知ってハイそうですかと帰る訳にはいかない。
あの時に手に入れた変なオブジェの力のことを話して、戦力として見なしてもらうのも有りかとも考えたが、どうやら俺のは『魔女』とかいう存在に連なる力っぽいのでここで明かすと取り上げられかねない。
……ここは大人しく引き下がっときますか。
俺はあえて寂しげな表情と声を作ると三人に向けて言った。
「分かったよ。まあ、何の力もない俺じゃ行っても足手まといだしな。でも、これだけは覚えておいてくれよ。俺はアンタらの友達だ。何があろうと、な」
「あきら……ありがとう。詳しい話は後でさせてもらうわ。それじゃあ」
海香ちゃんは軽く感極まったような声で礼を述べた。
続けて、カオルちゃんも嬉しそうな口調で俺に笑いかけた。
「今日のショッピング楽しかったよ。アタシら、異性の友達とか居なかったから」
「おまけに俺はイケメンだからな。キラーン」
白い歯を見せて、気取った笑みを浮かべるとカオルちゃんは調子に乗るなと頭を小突いてくる。
それを笑って受け止めてから、俺はかずみちゃんの方に向け直ると彼女に殊更優し気な声で言った。
「かずみちゃん。記憶を失って色々辛いと思うかもしれないけど、今のかずみちゃん。俺は好きだぜ? 過去とかそういうのなくても気に病むなよ」
これで今までに女の子を
「あきらって馬鹿でスケベな癖に言う事だけは格好いいね」
なんと、〈こうかはいまひとつのようだ〉。ドライな返答頂きました! セメントです。鉄壁のセメント対応です!
「酷くね? 今の流れは『あきら……トゥクン』ってフラグ立つシチュエーションじゃん!」
「あはは。でも、ちょっとだけ気が楽になったよ。ありがと、あきら」
と思いきや、それなり好感度が上がったと見えるスマイルを俺を見せるかずみちゃん。このツンデレ娘め、おにーさんびっくりしちゃったゾ。
着々と魔法少女三人娘にフラグ建築して見送った後、俺は壊れたマンホールの方に歩を進めた。
あのタコの方も気にならない訳じゃあないが、俺としてはあの逃げて行った蠍の方が気になっていた。
ひしゃげたマンホールの蓋とコンクリートが砕かれた穴の縁を見つめてから、どうにか破壊を免れた側面の梯子を伝い、その中へと降りていく。
昨日の夜に襲撃してきた奴は俺とかずみちゃんの名前を知っていた。
もし、かずみちゃんを誘拐したという連中の一味なら、かずみちゃんの名前を知っていても何らおかしくはないが、俺の名前まで知っているのは不自然だ。
何せ、俺はちょうど昨日の昼過ぎくらいにこのあすなろ市に訪れた人間だ。かずみちゃんとの出会いすら偶然に過ぎなかった。
加えて、奴は明らかに俺への敵意と憎しみを持っていた。あの時、かずみちゃんを攫うことではなく、俺を殺すことを優先していたことからも
このことから踏まえて、蠍の奴は俺のことを知っていると断定していいだろう。それも名前や素性だけではなく、俺の本質まで分かっている。
俺が前の学校で自殺に追い込んだ奴の親族かとも考えたが、わざわざこの街で犯行に及ぶ理由がないし、かずみちゃんのことを知っているのはおかしい。よって、違う。
魔法があるなら、心を読む力かとも思ったが、それにしては行動が間抜け過ぎる。それに心が読めるだけであそこまで憎しみを向けられる訳がない。よって、違う。
考えつつ、下水道に降りると臭い不快な臭いが、鼻腔に迫ってくる。こいつはキツイぜ。
どちらに逃げたかは分からないが、俺の中に入ったあのオブジェのせいか、どちらの方向に進めばいいのかはノイズの強弱で分かった。
タコの方の可能性というのも十分あったが、それならそれで構わない。ようは俺が楽しめればいい。それがすべてだ。
頭の中のノイズに従い、歩きながら俺は思考を続行させた。
未来予知、という線はどうだ?
俺がこの力を使って、例えばあの蠍の知り合い、または家族とかを殺した未来が見えたから、俺を憎んで殺そうとしている。うーむ、随分と可能性は高いが、どうにも何かがしっくり来ない。
かずみちゃんが自分のことを知らないと言われて戸惑っていたし、まるであいつは俺と直接対峙したことがあるような……あ、ひょっとして、もしかすると――あー、なるほどなるほど。
俺は一つの可能性に思い至り、ひとしきり納得をすると奴の反応がする方へと走った。
*******
「う……うう……」
頭の中に急な痛みを感じ、俺の意識は急速に覚醒を余儀なくされる。
起き抜けに飛び込んで来た異臭と相まって、吐き気を覚えた。思わず、口元に手を持っていく。
手のひらが口に触れた瞬間、自分の魔物化が解けて元の姿に戻っていることに気付いた。
意識が途切れた時に、力が一旦抜けたせいで人間の姿に戻ったのだろう。
そこまで考えたところで俺の耳が反響する何者かの足音を捉えた。間違いなく、俺の方へと近付いて来ている。
何者だ? こんな下水道に来るようなもの好きは。それとも下水道の改修や見回りに来た業者か何かだろうか。
もたれ掛かっていた側面の壁を背にして立ち上がろうとするが、足が上手いように動かず、ずるずると背中を擦らせるだけに留まった。
足音がさらに近付く。まずい、こんな場所で傷だらけになっている姿を見られたら警察に通報されるかもしれない。
だが、そこでこの足音の主の声が響いた。
「なあ、そこに居るんだろ? バルタン君よぉ」
その声を俺が聞き間違える訳がない。
憎い。誰よりも何よりも許せない最悪の悪魔――。
「一樹あきらぁっ‼」
挑発するように大きな足音を立てて、奴は俺の前に姿を現す。
テレビに出てくる俳優と比べても遜色のない美形に、この世のすべてを嘲笑うかのような笑みを湛えて一樹あきらはやって来た。
力の抜けていた身体に怒りという名の燃料が投下され、背にした壁を殴りつけて立ち上がる。
俺の中にはこの男を抹殺すること以外の考えが消え失せた。俺の内部にあるイーブルナッツが急速に俺の姿を魔物へと変化させようとしている。
だが、奴はそんな俺を恐れるどころか侮蔑したように見つめて、言った。
「お前、タイムリープしてね?」
その言葉に脳の細胞までも動きを止めたかのように、思考が硬直する。
今、こいつは何と言った?
タイムリープ……?
日本語に直せば、『時間跳躍』。
その意味を正しく訳した瞬間、絶望と恐怖が俺を支配した。
こいつは。この男は。俺が未来からやって来たことを知っているのだ……。
唾液が止まり、口に中が急速に乾燥した。背中からは油分を含んだ汗が染み出てくる。
「な、ぜ……?」
「うん?」
「何故、俺が未来から来たことが解った!?」
叫ぶように問いただす俺を見て、奴はさもおかしそうに哄笑を上げた。下水道に奴の声がこだまする。
涙すら浮かぶほど笑い、にやけた顔に手を当てて奴は答えた。
「あはっあははははは! いや、確信が持てたのは今だぜ! 今までは半々だったんだがよ、お前自分で『過去から来た』って言っちまったんだぜ? 俺はタイムリープとしか言ってないのに! あはははははははは!」
しまったと思った時には既に手遅れだった。
ブラフだったのだ、先ほどの台詞は。恐らく、他にもいくつかあった内の推測の一つだったのだ。
奴の言葉は俺への時間跳躍の可能性を聞いただけ。未来からか、過去からかだとは一言も言っていない。
一樹あきらは俺の反応から背景を探ろうとしていただけに過ぎなかった。そして、俺の発言が奴に正体を教えてしまった。五割の推測を十割の確信へと変えてしまったのだ。
どこまでもこいつが恐ろしかった。今のブラフだけではなく、五割とはいえ俺の状況を言い当てる思考能力。
一見して幼稚な狂人にしか見えない奴なのに、奴は驚くほど知能が高い。到底、俺と同じくらいの年齢とは思えない。
いや、臆するな。所詮、こいつは頭がいいだけのただの人間だ。
今の一樹あきらはまだイーブルナッツを手に入れていない、無力な存在に過ぎない。
対する俺には力がある。あの時、敗北した頃とは状況が違う! 倒せるのだ、一樹あきらを!
どうやら近くにはかずみたちは居ない。ならば、今こそ好機だ!
「……お前は自分を過信し過ぎた。今のお前にはイーブルナッツの、魔物としての力はない! 変身っ!」
俺の肉体は一瞬にして蠍を模した人型の魔物へと変わる。
体力こそほとんど削れているが、それでも人ひとり捻り潰すのは訳はない。
『死ね! 一樹あきらぁ! お前にこの街は壊させない!』
叫び声を上げて、俺は奴へと駆け出す。
「へえ、『イーブルナッツ』に『魔物』、それに『俺がこの街を壊す』? なるほどな、随分な情報が解ったわ」
対する一樹あきらは逃げることも怯えることもせず、近付いてくる俺を蔑むように笑うだけで動こうとしない。
死を受け入れた? 違う、この男がそういった殊勝な精神を持ち合わせているはずがない。
何かある。何らかの秘策を用意している。だが、これだけのチャンスを逃すことは俺には――できない!
右腕の鋏を奴の頭上から振り下ろす。当たれば、頭蓋は砕け、背骨はへし折れ、肉すら潰れて原形すら残らない一撃。
しかし、奴はそれを気にも留めすに足を開き、己の右拳を握って、俺へと突き出した。
威力があるなし以前にリーチの長さが明らかに足りないパンチ。
俺に当たるはずなかった奴の拳は一瞬にして……黒い鱗の生えた腕に変貌した。
『ぐぁっ』
長く、太く、何より強靭になったその拳は俺の胸板に強く打ち付けられた。
身体のバランスが崩れ、奴へと振り下ろすはずだった鋏は虚しく空を切る。その隙にもう片方の拳が俺を突いた。
重みのある衝撃が身体を揺らし、殴られた場所が痛みの熱を発する。
何が起きたのかを確認する前に奴の黒い蹴りが脇腹へと捻じ込まれた。
『がはっ……』
下水道の足場を俺の身体が転がる。
痛みを無視し、即座に態勢を立て直すと真正面に居た一樹あきらの姿が変わっていく。
俺を殴った腕や足から黒の鱗が肉体を覆うように包み込み、その体積を変え、見覚えのある恐ろしい形状へと変化させていった。
頭部からは角が二本、後方に向かって伸び、口は大きく裂けて前に突き出る。その口からは収まりきらない牙が顔を出した。
首は長さを増し、背中からは大きな一対の翼を生やす。手足に至っては鋭い鉤爪が現れていた。
夜の闇を最も恐ろしいものに流し込んだかのようなそれは大きな目玉を俺へと向けた。
漆黒の魔竜、ドラ―ゴ。
かつて、俺が手も足も出ないほどに惨敗した最強最悪の魔物にして、オリオンの黎明の前身。
何故だ。何故、一樹あきらが魔物化できる!?
あり得ない。いくら何でも早すぎる。奴がイーブルナッツを入手できる経路など……。
そこまで行って、俺は昨日のカマキリの魔物を思い出した。
奴から排出されたイーブルナッツ。あれを使ったのか!?
自分の愚かさにもはや呆れすら湧かなかった。ただ、目の前の存在を倒さなければ、この街の滅びに繋がる。そう己に言い聞かせるのに精一杯だった。
漆黒の魔竜は
『さあ、始めようぜ。未来からの刺客さんよぉ。俺を愉しませてくれぇ!』
『……来い。最悪の魔物、ドラ―ゴォ!』
奴の鉤爪と俺の鋏が激しくぶつかり合い、火花を散らす。
下水道の中を僅かに照らし、音と光を振り撒いた。
次回、バトル回にします。
あきら君は主人公補正がなくてもチート気味で、書いていて楽しいです。