魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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第四十六話 オリオンの黎明

~聖カンナ視点~

 

 

 

 途轍もない力が爆発した跡のような円状の破壊地点に黒い蠍の騎兵のような化け物は居た。

 近寄ってみれば、その黒い装甲には無数の罅が入り、下半身の尻尾に至っては途中で溶け落ちたようにちぎれている。恐らくは一樹あきらとの戦闘による損傷と見るのが正しいだろう。

 

『アギィィィ!』

 

 その傷付いた身体を(いたわ)る事もせず、何かを探すかのように大きな鋏を振るってまだ辛うじて形を残していた建物を砕いていく。

 私とかずみが近付くと、蠍の騎兵はこちらへ赤く光る複眼を向けた。

 少しでもタイカとしての反応を期待していたが、奴は唸り声を上げて有無を言わせず、襲い掛かって来る。

 

『アギギギィッ‼』

 

「タイカ、私だよ。かずみ。あなたが家族だって言ってくれたかずみだよ!」

 

 かずみが私の前に出て、奴の巨大な鋏をその十字架を模した杖で、受け止める。

 拮抗したのは僅かな数瞬、その後には押え切れなくなり、彼女は私の後ろまで弾き飛ばされた。瓦礫に埋もれて、勢いを止めるが、その威力は凄まじく彼女のむせ返る音が聞こえる。

 けれど、私はそこでかずみの方には行かず、彼女が作ってくれた隙に『コネクト』の線を手のひらから伸ばし、蠍の騎兵に打ち込む。

 繋がった瞬間、流れ込んできたのは凄まじい悪意。吐き気のするような破壊衝動と、嗜虐心、嘲笑……ありとあらゆる他者を冒涜する悪意の感情が蠍の騎兵を通して私に入ってくる。

 

「タイカ。これが……今、お前が感じているもの、なのか……」

 

 本来ならば、『コネクト』は相手に気取られずに使うことのできる魔法だ。わざわざ、こうやって真正面から使用するなど愚の骨頂。

 だが、私はあえて、奴を前にして、コネクトを使う。

 ――タイカに直接呼びかけるために。

 

「確かにこれは最悪だ……! 普通の人間なら狂って心が壊れるのも無理はない! でも、お前は赤司大火だろう!? この街を守ると豪語し、義憤に燃えて魔女モドキに立ち塞がるような馬鹿だろう!? この程度の悪意に負けてるんじゃない!」

 

 私は知っている。この男がどれだけ馬鹿なのかを、この男がどれだけ愚直なのかを。

 最初にコネクトをかけたのはタイカが街でこの事件について調べていた時。一樹あきらにぶつける、都合のいい手駒になるかと目を付けていた。

 しかし、こいつと来たら、内心と言葉がまったく同じで思わず、笑ってしまったのをよく覚えている。

 それが原因で要らない事までべらべらと饒舌に語ってしまった。

 

「私がイーブルナッツを作ったのが原因だと言ったのに、イーブルナッツを使って魔物になった。おまけに私を責めるどころか、心を失ったら殺してほしいだなんて頼んできた」

 

 どれだけ、馬鹿なんだお前は。すべての原因に文句の一つも言わずに、本心から私を信じるなんてどうかしてる。

 でも、それがタイカなんだ。

 抑え付けるように制御しているのに、蠍の騎兵はそれに抵抗して巨大な鋏をゆっくりとだが動かして、私を叩き潰そうとする。

 

「さっせない‼」

 

 それを瓦礫の山から這い出てきたかずみが杖を片手で防いでくれた。

 蠍の騎兵の攻撃は彼女に任せて、私はタイカの呼びかけだけに専念する。

 

「タイカ! お前は熊の魔物と遭遇した時の事を覚えているか。お前はあの時に見ず知らず奴のために心を痛めて戦った」

 

 あの時もお前は人の命が奪われた事に怒りを感じながらも、これ以上の犠牲者を出さないために己の力を振るった。自分の誇示するためではなく、街の安寧を守るために戦っていたのだ。

 

『アギィイイィィ‼』

 

 蠍の騎兵はかずみをその大鋏で捕まえ、ギリギリと万力のように挟み潰そうとする。

 かずみはそれに苦しみながらも、十字架状の杖を使い、辛うじて閃光の魔法『リミーティ・エステールニ』を放つ。

 通常の魔女を一撃で消し飛ばすほどの威力のそれを受けた蠍の騎兵は、巨体を仰け反らせる事さえしなかった。しかし、衝撃で僅かに弛んだ大鋏からかずみは脱出し、地面に着地する。

 魔女さえ従える私の『コネクト』に抵抗し、かずみの必殺の『リミーティ・エステールニ』さえ大した攻撃にならない奴は最強の魔物と呼んでも差し支えない。

 だけど、私には分かる。

 

「あの時のお前の方が何倍も強かった! そんな力に振り回されている今のタイカよりもずっとずっと強かった!」

 

 タイカの強さは正しさを失わない事だ。力に呑まれず、確固とした正義を持って戦えるところだ。

 断じて今の悪意と憎悪に支配されたお前よりも弱かったとは思わない。

 

「戻れ! 戻れ……戻ってよ……タイカぁ!」

 

『アギィアアアアアギィイィィィィィィー‼』

 

 出鱈目に振るわれた大鋏の乱舞が私を捉える。一瞬でかずみも私もその重たい一撃を避けられずに()ね上げられる。無様に荒れ果てたアスファルトの地面にうつ伏せに叩き付けられた。

 

「がぁ……っづ……」

 

 それでもコネクトだけは絶対に解除しない。衝撃による激痛とダメージで放しそうになる魔力の線を、私は決して手放さないように意識を引き締める。

 額が割れて、血が目の中に入る。魔力で塞がりかけていた腹に受けた傷も今の一撃で完全に開き、血液を涙のように流し始めた。

 駄目だ、コネクトで流れ込む悪意が邪魔で未だにタイカの心と繋がれない。もしかするとキュゥべえの言っていたように本当にそんなものは消滅してしまったのかもしれない。

 それでも私はタイカに呼びかける。思いの丈をぶつけ続ける。無駄かもしれない足掻きを止めない。

 

「本当は、本当はかずみをお前が拾ってからの事も見ていたんだ。お前とかずみがどうやってこの一週間過ごして来たのかをコネクトでずっと見ていた」

 

 すぐに破綻すると思った。かずみの中の人間への不信が強まる結果になるだろうと高を括っていた。

 でも、その結果は私の予想を超えるものだった。

 かずみは帰るべき場所を見つけ、人間への信頼を取り戻し、自分だけのホンモノを手に入れる事になった。

 ……いや、違う。それはただの客観的な意見だ。私が感じたのはそこではない。

 

「かずみが羨ましかった。私と違って誰かの代わりじゃなく、自分だけを必要としてくれる場所を手に入れたかずみが心から羨ましかった」

 

 違う。これもまだ、本心じゃない。私の本当に感じたものはもっとずっとシンプルであまりにも普通なもの。

 誰もが一度は感じるような、ニセモノもホンモノも関係ない想い。

 蠍の騎兵が立ち上がる事もできない私の頭部を目掛け、掲げられた大鋏を振り下ろす。

 

「私は……いつの間にかタイカの事が好きになっていたんだ! 合成魔法少女の苦しみだとか、プレイアデスへの復讐だとか……そういうものも忘れてしまうくらいにお前に心奪われていた!」

 

 だから、ユウリたちが手を出すまでかずみをそのままにしておいた。

 見ていたかったから。お前が幸せそうに微笑むのを。例えそれが自分に向けられたものでないとしても。

 

「私はお前の真っ直ぐで優しい心を見続けていたかった!」

 

 頭を捉えた大鋏が眼前まで迫る。かずみは私とは真逆の方向に吹き飛ばされて帰って来ない。

 コネクトから手を離さなかった私にはそれを回避する手段もない。

 これで死ぬのか、私は。

 後悔はあるとするなら、それはタイカを、恋した男を救ってやれなかった事だけ。

 ああ。何だ、私はもう世界を壊す気も、合成魔法少女が新人類に成り代わる事も、どうでもよくなっていたのか。

 お前に会えた事で、絶望と憎しみしかなかった心はとっくの昔に満たされていたのか……。

 

「約束勝手に破ってごめん、タイカ……」

 

 目を瞑って、観念して迫り来る自分の死を受け止める。

 だが。

 

「……あれ?」

 

 私は待っていても死は訪れなかった。

 目を開くと、目と鼻の先で停止している巨大な黒い鋏が見える。

 同時にコネクトを通して、私の名を呼ぶ声が脳裏に響いた。

 ――カンナ。

 

「タイ、カ……?」

 

 その聞き覚えのある声は紛れもなく、あいつの声だった。

 ――ありがとう。お前の言葉……。

 

「しっかり俺に届いたぞ」

 

 黒い蠍の騎兵の身体が一瞬でガラスのように粉々になって砕けた。

 飛び散った黒の装甲の破片はより小さくなって散り、千々に分かれて、煙となって消えていく。

 絵画のようなその光景の中心に私の恋する男は立っていた。

 

「タイカ……元に、元に戻ったのか!?」

 

「お前のおかげだ、カンナ。悪意の暴風の中で消されそうな俺を導いてくれた」

 

 凛々しく顔を引き結んでいるタイカには珍しい、優しげな微笑みを浮かべている。

 目尻が熱くなり、泣きそうになる自分を誤魔化して、私は叫んだ。

 

「馬鹿! 気付いていたならもっと早く反応しろ!」

 

「すまん。最初の頃はお前の声を頼りに自分を保つ事が精一杯だった。しっかりと意識が覚醒してきたのは……カンナの熱い告白の辺りで……」

 

 照れた風にそういうタイカに急激に、私の中で恥ずかしさが渦巻いた。

 どうして、ああも赤裸々に好意を語ってしまったのだろう。今更になって己の叫んだ言葉を思い出す。

 とても普段の自分が言うような台詞ではない。あまりの羞恥心で脳髄が焦げ付きそうになった。

 

「……あそこまで熱烈に好意を述べられたのは初めての経験だ」

 

「やめろぉぉ‼」

 

「『私はお前の真っ直ぐで優しい心を見続けていたかった!』。……カンナの俺への愛が伝わってきた」

 

「口に出すなぁっ! 忘れろ! 今すぐにでも記憶から消せ‼」

 

「いや、この記憶は例え死んでも忘れない」

 

「いっそ、もう私を殺せぇぇー‼」

 

 両手で顔を押さえると、驚くほど頬が熱かった。鏡を見なくても私の顔は真っ赤に染まっている事が容易に想像できる。

 真顔で、愛だの口にするタイカの存在がなおの事、私の羞恥を煽る。からかっている訳でなく、本心から言っているのがコネクトを通じて伝わるから余計に性質(たち)が悪い。

 しばらく、顔を隠して黙っていると、指の隙間からタイカは周囲を見渡し、拳を振るえるほど握り締め、確認するように尋ねた。

 

「……この惨状は俺が引き起こした事なのだな?」

 

「違う。タイカ、これはお前が望んでやった事じゃ……!」

 

「――違わない!」

 

 この真面目な男がこれだけの事を起こして、平然としていられるはずがなかった。沈痛な面持ちで顔を歪めた。

 罪悪感に苛まれたこいつにはどれだけの慰めの言葉を掛けても無駄だと私は知っていたはずなのに、下らない事を口にしてしまった。

 

「何一つ、違わない……これは俺がやったんだ。俺が、やった事なんだ……」

 

「タイカ……」

 

 何も言えずに辛そうな顔を見ている事しかできない私自身に口惜しさを感じた。せめて、共に過ごしたかずみならもっとましな行動をしてくれるかもしれない。

 そう思って、先ほど弾き飛ばされたかずみの姿を横目で探すと、彼女は既に私のすぐ脇まで来ていた。

 

「タイカを元に戻すことができたんだね。お手柄だよ、カンナ!」

 

「ああ。でも、私には今のあいつに言葉をかけてやる事がない。かずみ、代わりに何か言葉を掛けてあげてくれない?」

 

 私はそう言って、かずみに目を向けると妙な事に気が付いた。

 黒い露出の高い魔法少女の衣装を身に纏った彼女は私以上の猛攻を受けていたのにも関わらず、どこも怪我をしていなかった。

 それどころか、砂埃で汚れた形跡すら見取れない。

 おかしいと感じたその時、かずみの遥か後ろの瓦礫の山からボロボロに傷付いたもう一人のかずみが現れた。

 

「カンナ、そいつは偽物だよ!」

 

『いや、アンタら二人はそもそもがニセモノだろ?』

 

 一瞬で私の傍に居た方のかずみはマゼンダカラーの鱗を持つ、竜の姿に変わる。

 これはユウリの変身魔法……!

 驚きと身体に残った傷のせいで私は動けなかった。

 奴の開けた大きな口が視界を覆う。鋭角な白い牙が並んだその口が私が最後に見た景色だった。

 

 

~かずみ視点~

 

 

 

 少し離れた先に居たカンナの頭が一瞬でなくなった。大きな顎に嚙みちぎられて、この世界から消滅した。

 呆然としている私を余所にカンナの身体が、ハンバーガーか何かように歯型状に上から消えていく。

 タイカも私と同じようすぐ目の前で起きた惨劇に言葉もなく、硬直している。

 

『あー。ニセちゃんたら抜け目なく首のうなじにフェイクのソウルジェムを持っていやがったな。まあ、全身食べちまえば変わらないんだが。それにしても凄い量のソウルジェムだぜ』

 

 足の先まで食い尽くした後、竜の魔物、あきらはカンナが隠し持っていたソウルジェムを一つ残らず、頬張った。バリバリとまるで飴玉を噛み砕くような気安さで、魔法少女の魂を身体の中に取り込んでいく。

 また、大切な仲間が一人、この化け物によって奪われた。その理不尽をようやく理解して、ボロボロの身体を怒りで動かす。

 杖を振り上げて、最大魔力を籠めた魔法の閃光をあきらへと撃ち出す。

 

「よくも……カンナを……! 『リミーティ・エステールニ』‼」

 

 身体に残った魔力を練り上げた私の最大魔法は鱗の色を変えたあきらの火炎に意図も容易く掻き消された。

 前に見た炎よりも段違いになった火炎は閃光を押し返し、私の身体を飲み込む。

 

「あっ、があああ……!」

 

 身体に纏わりついてくるかのようなうねる炎は私の身体を焼き焦がした。魔力による耐性すらもはや意味をなさない。

 魔法少女の衣装は溶けるように消え、焦げ付いた肌は炭になって剥がれ落ちる。

 

「……カンナだけではなく、かずみまでもむざむざ目の前で殺させるものか!」

 

 私と同じようにカンナの死に激昂し、人間状態のままで、タイカはあきらに掴みかかる。だが、長い尾で簡単に払い除けられて地面を転がった。

 あきらは飽きたように炎を吐き出すのを止めると、焼け焦げた私を見下すように笑う。

 

『悪い悪い。別にかずみちゃんを燃やし尽くそうとした訳じゃないんだ。ただ、アンタの魔法を打ち消そうとしたら、ついうっかり、加減を間違えちまってなァ……』

 

 冗談や挑発ではなく、きっと本気で言っている。

 それくらいにあきらが発している魔力の波動は桁違いだった。「ついうっかり」で燃やし尽くす事ができるほどに、私とあきらには魔力量の絶対的差があった。

 息も絶え絶えの私にあきらは怯えさせるためにわざとゆっくりと近付いてくる。

 

「やめろ……かずみにまで、手を出すなぁっ!」

 

 立ち上がったタイカがコンクリート片を掴み、あきらの身体をそれで打つ。けれど、砕けたのはコンクリート片の方だった。

 魔力による防壁か、鱗には傷どころか汚れすら付着していない。

 

『いてぇじゃねぇの、お兄ちゃん。そういや、さっきは散々やってくれたなァ?』

 

 矛先が私からタイカに変わる。駄目だ、今のタイカにはあきらの攻撃を避ける事も不可能なのだ。

 だけど、タイカはそれを恐れず、私を守るように立ち塞がった。その背中には微塵の恐れも感じさせない。

 

「……それで俺が怯えるとでも思ったのか? 弱い物虐めしかできない奴の姿だな……」

 

「駄目! 早く逃げて、タイカ。何のためにカンナも命を懸けてタイカを助けたと思ってるの!?」

 

「すまんな、かずみ。だが、カンナは俺にこういう馬鹿なんだ」

 

 視線だけを僅かに向けて私に謝った後、あきらに拳を構えて睨み付けた。

 私の家族はどこまで馬鹿なら済むんだろう。これではカンナがあまりにも浮かばれない。

 

「来い。一樹あきら!」

 

『そうか、そうか。これじゃあ、絶望が足りないか。なら、もっと良いものを見せてやるよ』

 

 対するあきらはその挑発に乗るどころか、少し考える素振りを見せた後、翼を羽ばたかせて空中に舞い上がる。

 そして、辛うじてその姿が確認できるほどに高く夜空に飛び上がると、声を張り上げて話しかけた。

 

『ニセちゃんから手に入れた魔法、コネクトの真の力をあの子に変わって見せてやるよ。俺の中の全ソウルジェムの魔法を繋げて、同時に魔法の力を引き出してな!』

 

 その台詞を吐いた後にあきらの身体が凄まじい輝きを放つ。目を瞑っても、遮る事のできない光は太陽を思わせた。

 

「何だ、この光は……!」

 

「眩しい……」

 

 光がやがて緩やかにその光量を下げると、夜の空に煌々(こうこう)と光を放つ巨大な何かが浮かんでいる。

 あまりにも大きすぎるそれは一目では全貌を把握する事ができず、何なのかしばらく分からなかった。

 

「十二枚の……翼……。黄金の、巨竜……」

 

 タイカの呟き通り、その光を放つ巨大なそれは六対で十二の翼を持つ、黄金色の巨大な竜だった。

 大きさはどう小さく見積もっても、五十メートルはある。その巨体を十二枚のこれまた巨大な翼を羽ばたかせる事で夜空に浮かんでいた。

 神々しく、神聖な黄金の竜は夜の瓦礫に満ちた街に舞い降りた天使のように私の瞳に映る。

 美しいその優雅な羽ばたきを常に行いながら、黄金の竜は私たちに言葉を放った。

 

『これが今の俺の姿だ。どうだ? まだ、弱い者虐めしかできないように映るか?』

 

 

 無理だと私の心が囁く。

 勝てる勝てないではない。この存在に逆らってはいけない、そう感じた。

 目の前に居るのはもう、あきらであって、あきらではない。

 魔物と呼べる次元を超越した神のような存在……。

 瓦礫の脇からするりと姿を現したキュゥべえが私の思いを代弁した。

 

『あれはもう魔物と呼ぶには強大過ぎるね。そうだね……魔女すら喰らう最悪の存在、「魔王」とでも呼ぶのが相応しいだろう』

 

 魔王。その言葉を聞いて、私は海香から教えてもらったプレイアデスの七姉妹に纏わるギリシャ神話を思い出す。

 プレイアデスの七姉妹は常に追い回した狩人の逸話。

 星座となっても、諦めずに彼女たち七姉妹を追い続けた執念深い獰猛な狩人。

 その名は――。

 

「……オリオン」

 

 今、光り輝くあの魔王が狩人オリオンと重なった。

 私の漏らした言葉にキュゥべえは反応する。

 

『そうか、なるほど狩人オリオンか。プレイアデスの魔法少女を追い回しその手に掛けた彼にはぴったりだ。なら、彼に敬意を表してこう呼ぼう』

 

 ――魔王、『オリオンの黎明(れいめい)』。

 キュゥべえは夜闇を裂いて、朝陽のように輝くあの竜にそう名を付けた。

 

 




この物語も残すところ、あと二話となりました。
夜闇を照らす最凶の魔王『オリオンの黎明』となったあきら君。果たしてかずみと大火に逆転の目はあるのでしょうか?

……もはや、ラスボス以外の何者でもないですね。

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