魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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やはり盛り上がって来ているので、嫌でも執筆してしまいます。


絶望の宴編
第四十二話 集結する者たち


~ユウリ視点~

 

 

 

 ユウリ……必ず復讐を果たしてやるからな。

 記憶の中の親友にアタシはそう言って、かずみを追い続けている。

 夜の街並みを見下ろしながら、コルと共に空を駆け抜けた。だが、一向に距離は縮まらない。

 苛立つ感情を抑え、手にした二丁の拳銃を撃ち鳴らす。弾丸は確かにかずみの背中を捉え、食い込んだ。

 黒い絵の具のような血を流しながらも、奴はまったくスピードを緩めない。

 それどころか、穿たれた弾痕はすぐに黒の血で固められて、傷跡さえも残さずに治ってしまう。

 治癒じゃない……これは再生だ。

 生き物の『回復』というより、機械か何かの『改修』。

 魔法というにはあまりにおぞましいそれは、見ているこちらの嫌悪感を煽る。

 

「化け物め……」

 

 そう吐き捨てると、こちらの攻撃には無反応だったかずみは一瞬だけ反応した。

 それを目の当たりにしたアタシは薄く笑った。こいつは物理的なダメージよりも、『化け物』と呼ばれる方が傷付くらしい。

 人間モドキがまったく、お笑いだ。あきらが居たら大爆笑しているところだろう。

 

「知ってるぞ。お前、プレイアデスに造られた魔法少女なんだって?」

 

 かずみを追う速度を緩めずにアタシは侮蔑と嘲りの籠った言葉を投げつけてやる。

 

「人間でもない癖に人間ぶりやがって……気持ちワルいな!」

 

「っ……」

 

 あからさまに傷付きましたという顔に虫唾(むしず)が走った。プレイアデスの人形風情が、一丁前に悲しんでいるのが腹立たしい。

 こいつを造ったプレイアデスにも同等の怒りが湧く。

 

「アタシからは友達を奪っておいて、自分たちは死んだ友達のクローン作って幸せって……ふざけるんじゃない!」

 

 殺してやる。ゴミ屑のように踏みにじって、プレイアデスの大切にしていたこいつを完膚なきまでにぶち壊してやる。

 無言でコルにかずみへ突進攻撃を命令する。

 しかし、かずみはその攻撃を避けようともする事なく、獣じみた腕から生えた鉤爪でコルを切り裂いた。

 

『ブモォォォ!!』

 

 一声(いなな)いた後、コルは魔力の粒子となって、消滅する。

 

「……あなたに何が分かるの? 偽物だって明かされて、家族って言ってくれた人にも化け物だって知られた、私の気持ちが少しでもあなたに分かるの!?」

 

 かずみは動きを止めてアタシに向き直り、憤りの籠った叫ぶをぶつけてくれる。

 知った事じゃない、そんな事。屑ども大切な人形の気持ちなんて理解したくもない。

 ただ一つ分かるのは、宙空で静止してくれたこの馬鹿はアタシにとっていい(まと)になったという事だけだ。

 撃ち出した弾丸はかずみの獣のような手足に当たると、リング状に変わってそれぞれ呪縛になって拘束する。

 

「こんな拘束……!」

 

 すぐにそのリング状の呪縛を魔力を籠めて、打ち砕く。

 けれど、それは囮に過ぎない。僅かに意識と時間を浪費させられればそれでよかった。

 本命はその隙に生み出したかずみの左右上下の空間に浮かび上がる四つの魔法陣。

 

「ぶっ壊れろ! プレイアデスの人形! 『イル・トリアンゴロ』」

 

 魔方陣を出現させ大爆発させる魔法『イル・トリアンゴロ』。アタシが持つ最大威力の魔法だ。

 あきらからもらったグリーフシードを使い、魔力を完全に回復させているこの魔法は前の時よりも遥かに強力になっている。

 それを四方向から同時に爆発させた。膨れ上がった魔力がかずみの至近距離で吹き荒れる。

 凄まじい煙が空を覆うように発生し、そして、霧散した。

 煙が晴れると文字通り、ぐしゃぐしゃに消し飛んだかずみの死体が宙から落ちて、地面に転がっていた。

 

「やった! やったぞ、ユウリ! アタシが復讐を取ってやったぞ‼」

 

 勝利の快感が胸を焦がす。喜色に溢れたアタシはすぐにボロ屑になったかずみの死体の元に降り立つ。

 下に広がっていたのは少し大きめの広場だった。石畳で舗装されたその場所の真ん中でぽつりとかずみだった残骸が落ちていた。

 惨めな姿になったそれはより一層、甘美な余韻を与えてくれる。

 

「ざまあないな、プレイアデスの人形! あはははははははははは、……は?」

 

 だが、その喜びはすぐに掻き消えた。なぜならかずみの死体がポンと小さな音を立てて、本物の人形に変わっていたからだ。

 そのデフォルメされた人形はかずみとは似ても似つかない。似ているのはプレイアデスの――神那ニコだった。

 まさかと思い、振り返った視線の先にはパーカーを着込んだ神那ニコが佇んでいる。その手には小さくなったかずみが入っている円筒形の水槽が握られていた。

 

「なるほどな。お人形を取り戻しに来たのか、プレイアデス……!」

 

 不敵な笑みを浮かべる神那ニコはアタシにその不快そうな目を向けた。

 

「その呼び方は止めてくれない。お馬鹿なユウリちゃん」

 

 かずみを人形と呼ばれたのが、そんなに腹立たしかったのか神那ニコの声は静かだが怒りが滲んでいる。

 プレイアデスの魔法少女どもは、本当にお友達ごっこが大好きな奴らだ。

 アタシはなおも馬鹿にした調子で奴に言う。

 

「そんなに大事なのか、その人形が? そこに居るのも失敗作なんだろ?」

 

「どこまで聞いたのかは知らないけど、いい加減にしろよ。この道化が! 『コネクト』」

 

 笑みを消した神那ニコは吐き捨ててると、鋭く魔法を口にした。

 言葉のすぐ後、アタシの背後から使い慣れた魔法の牛であるコルが出現する。

 

『ブルルルゥゥゥ!!』

 

「馬鹿な、何でお前が‼」

 

 一瞬の戸惑いにより、回避する事もままならず、コルの突進を受けて神那ニコのすぐ足元まで吹き飛ばされる。

 どういう事だ? たった今受けた魔法はアタシのコル……『コルノ・フォルテ』に他ならない。

 

「なんで、お前がコルを使える……?」

 

「なあ、ユウリ。お前さ、今私が着ているパーカー見覚えない?」

 

 神那ニコは質問には答えず、代わりにまったく関係のない事を尋ねてきた。発言の意味が分からず、アタシは問い返す。

 

「何を言って……」

 

「ほら。こうすれば分かりやすい」

 

 パーカーのフードを被り、倒れているアタシを覗き込むように顔を近付ける。

 間違いなくその見た目には覚えがあった。それはアタシにイーブルナッツを渡した奴の外見とまったく同じだった。

 

「お前だったのか……」

 

「そうだよ。お馬鹿なユウリちゃん」

 

 かずみの入った水槽を小脇に挟むと、手をアタシの額に伸ばす。

 その手に握られていたのは、イーブルナッツだった。それを弄びながら神那ニコは語り出す。

 

「お前は私の計画の役に立ってくれたよ。まあ、ドジで間抜けだったけど。ただ、一つ……一樹あきらという必要以上に強大な化け物を生み出した事を除いて」

 

「あきらの事まで知っているのか……、クソッ、手足が」

 

 いつの間にか、リング状の呪縛がアタシの手足を拘束するように付けられていた。

 これもコルと同じ、アタシが使う固有の魔法だ。御崎海香のように魔法を解析してコピーするならば、理屈は分かるが、少なくとも今までに使った魔法を解析された覚えはない。

 

「あの化け物を生んだ責任はお前自身で取ってもらう事にするよ」

 

「や、やめろ! それを近付けるな!」

 

 イーブルナッツを握った奴の腕がアタシの額に伸ばされる。

 それを使われれば、普通の人間ならまだしも魔法少女であるアタシが受ければどうなるかくらい想像が付いた。

 魔女になってしまう。モドキではない、本物の魔女に。

 

「さようなら、魔法少女ユウリ。そして……」

 

 伸ばされた腕。目の前に突き出されたイーブルナッツ。

 最後にアタシが脳裏に描いたのは親友の姿ではなく、――あの憎たらしい外道の顔だった。

 

『させねぇよ』

 

 そんな声と共にアタシの身体は地面から宙へと浮かび上がる。気が付けばアタシは大きな鉤爪の生えた腕の中に居た。

 漆黒の鱗がびっしりと生えた硬く冷たいこの腕の持ち主をアタシは知っている。

 

「っ、遅いぞ。馬鹿あきら!」

 

『ご機嫌斜めだねェ、俺のお姫様は』

 

 黒い竜の魔物にして、プレイアデスを半壊させた邪悪なアタシの協力者、一樹あきらだ。

 黒い翼を羽ばたかせながら、あきらは眼下に居る神那ニコに笑いかけた。

 

『いや、こうやってちゃんと話すのは初めてになるのかな、ニセちゃん』

 

「……お前はもう、気付いたんだったな。漆黒の邪竜、一樹あきら」

 

『いやん。そんな中二病的な二つ名要らねぇよ。だって俺はもう「(ゴッド)」だから』

 

「あきらのセンスは小学生みたいだな……」

 

 呆れた風にそう呟くと、ガーンと漫画のような効果音を口で言って、落ち込む真似をする。どこまでもふざけた奴だ。

 だが、こいつの登場によってアタシは一時危機から脱した。感謝を言うつもりにはならないが、少しくらい褒めてやってもいいだろう。

 

「まあ、その……よく来たな。褒めてやる」

 

『距離を保ちながら途中から見てたからな』

 

「前言撤回。もっと早く助けに入れ、ボケナス!」

 

 ……この腐れドラゴンに少しでも感謝を感じたアタシが愚かだった。こいつはこういう奴だ。一応は味方だが、全面的に下衆の極みみたいな存在だ。

 しかし、まあ、これでこっちが優勢に回れる。

 神那ニコめ、このアタシを利用した事を後悔させてやろう。

 

 

 ***

 

 

~赤司大火視点~

 

 

 

 あれから覚悟を決めたのはいいが、俺の身体は既に限界に達していた。

 蛾の魔物が死んだせいか、多少肉体を蝕む毒は弱まりどうにか立って歩けるまでにはなったが、それが俺の精一杯だった。

 意識は依然として、朧で気を抜けばその場で倒れて眠ってしまいそうだ。

 その状態で空を駆けるかずみを追うとなると、なかなかに絶望的と言わざるを得ない。

 だが、俺はお袋と約束だけを支えにかずみを探して、歩き続ける。

 横断歩道を渡り、アスファルトの道を進み、時折空を見上げて彼女の姿を探すが、映るのは夜空に星ばかり、中でもオリオン座は憎らしいほど綺麗に見えた。

 

「どこに居るんだ、かずみ……」

 

 零れた呟きは俺のものとは思えないほど弱弱しく、情けないものだった。

 しかし、それは今の俺の状況を(かんが)みれば致し方ないことだろう。

 たった一人の肉親だったお袋を失い、住んでいた家は燃え、新しくできた『妹』は怪物のような異形に変わり、去って行った。

 これで元気に満ちていたら、それはただの狂人だ。

 いや、駄目だと首を振って、惰弱な考えを頭から追い出す。

 こんな考えではかずみを取り戻す事などできはしない。

 

「かずみは、俺の家族だ。だから、絶対に取り戻してみせる!」

 

 そうだ。これでいい。これこそが赤司大火という男の声だ。

 挫けかけた己の意志を、再び繋ぎ止めて、俺は一歩一歩踏みしめるように足を動かした。

 

『赤司大火』

 

 その時、頭の中で響くような高い声が聞こえてくる。

 周りを見回すが、俺に話しかけたらしき人物は見当たらない。

 幻聴かと思い、そのまま歩を進めようとして、気付いた。足元に白い猫のような生き物が居る。

 

『やあ、赤司大火。初めましてだね』

 

「あ、初めまして、赤司大火だ」

 

 丁寧に挨拶をしてくるので俺もそれに倣って挨拶を返す。その時に猫が喋っているという事実と、今さっき聞こえた声の持ち主が彼だと理解した。

 驚きはあまりない。先ほど起きた事件に比べれば、猫が喋ろうが喋るまいが些細な事だ。

 

「お前は……?」

 

『ボクの名前はキュゥべえ。君はかずみという少女を探しているようだね?』

 

 キュゥべえと名乗る猫は一発で俺の目的を看破する。

 俺の事を知っているような口ぶりといい、どこかで俺を観察していたのかもしれない。

 しかし、そんな事は重要ではなかった。

 

「ああ、そうだ。かずみの居場所を知っているのか?」

 

『知っているよ。ボクには魔法少女たちの居所を特定する力があるからね』

 

「頼む。俺を彼女の元まで連れて行ってくれないか?」

 

 正体の分からぬ動物だろうが、こいつもまた俺に嘘を吐いている雰囲気はなかった。

 見た目や気配からは感情を読み取る事はできなかったが、情報のない今は信用する他ない。

 キュゥべえは二つ返事で俺に応じてくれた。

 

『構わないよ。元々、それが目的で君に接触したんだ』

 

「俺に?」

 

 真っ赤なガラス玉のようなその目から、当然彼の目的など分かりようがない。

 平坦な口調でキュゥべえは俺に言う。

 

『一樹あきらと同じ、ただの人間の身で特別な力を振るう君が、その力を持って魔法少女たちにどんな影響を及ぼすのか見てみたい』

 

「一樹、あきら……?」

 

 その人名は俺にとって聞き覚えがないものだったが、「俺と同じ力」と言えば、イーブルナッツによるものと考えていいだろう。

 もしかすると、その一樹あきらという人物こそ俺が追いかけていた……。

 俺の疑問に一足早く、キュゥべえは答えた。

 

『君からすれば、ドラ―ゴと言った方が分かりやすいだろうね』

 

 やはり、そうなのか。

 一樹あきらという奴こそが、街で暴れ、俺の家族を襲った連中のトップ、ドラ―ゴなのだな。

 しかし、今はそれよりもかずみの方が心配だ。

 倒すべき敵の本名を心に刻み、俺はキュゥべえに頼んだ。

 

「とにかく、今はかずみの元へ案内してくれ」

 

 奴を倒すのはかずみを取り戻したその後で十分だ。

 キュゥべえは俺を先導して、先を進んで行く。俺は彼を見失わないように続いていった。

 




あと六話程度でこの物語を完結させる予定です。

次回は、登場人物たちは一堂に会する事になるでしょう。
ハルマゲドンの時は近い……。

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