魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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二話連続投稿です。


第三十六話 楽しき茶番と素敵な玩具

 海香ちゃんたちに引き続き、ジュゥべえまでもが去って行った後も俺はその場に残っていた。

 『レイトウコ』の中にて、みらいちゃんと共に他愛もない話を続けていると、彼女はやや唐突気味に話題を替えてくる。

 その顔には真面目そうな表情が浮かんでおり、何かの冗談を言う雰囲気ではなかった。

 

「あのさ、あきら……聞いてほしい事があるんだけど」

 

「何さ、みらいちゃん。急に改まって」

 

 俺がそう言うと彼女は少し言い辛そうに言葉を紡いだ。

 

「前にかずみが人間じゃないって話したの覚えてる?」

 

「ああ。あれね」

 

 覚えている。あの時はみらいちゃんを懐柔して情報を聞き出そうとしたのだが、割って入ってきたニコちゃんに邪魔をされて最後まで聞くことができなかった話だ。

 その続きが聞けるというならぜひともここで聞いておきたい。

 本当はあきらに話していいことじゃないのかもと前置きしてからみらいちゃんは話し出してくれた。みらいちゃんは口が軽くて素敵だなぁと半ば、本気で思う。

 

「かずみは私たちプレイアデス聖団が作った――人工の魔法少女なんだ。着いて来て」

 

 いまいちよく反応に困る発言をして、彼女は俺を連れ、『レイトウコ』の奥へ歩いて行く。少し進むと、水槽と水槽の間の壁に亀裂があった。

 そこの亀裂を潜り、みらいちゃんは入っていく。俺も彼女と同じようにその空間に入ると暗がりに人が何人か佇んでいるのが見えた。

 みらいちゃんは自分のソウルジェムをかざすと、そこから出る光がその部屋を照らし出す。

 中に居たのは十二人の少女。それもかずみちゃんとそっくり同じ顔をしている。 魔法少女の格好をした彼女たちは黙って俺とみらいちゃんを眺めていた。

 

「彼女たちはかずみの『ミチル』の出来損ない」

 

「ミチル……それって誰?」

 

 サキちゃんやカオルちゃんの記憶にもかずみちゃんはそう呼ばれていたが、どれだけ記憶を(まさぐ)ってもそこだけは分からなかった。

 まるで二人がそこだけは知られまいとしているように閲覧できない記憶。

 

「和沙ミチル。ボクたち、プレイアデス聖団の本当のリーダー……だった」

 

 悲しげに俯く、みらいちゃんの頭を軽く撫でた。普段なら、照れて嫌がるその行動も彼女は黙って受け入れる。いや、それどころか甘えるように頭を俺の方へ寄せる。

 

「……さっきのかずみの記憶は嘘があるんだ」

 

 そこから語り始められたのは真実の過去。

 和沙ミチルの正体であり、『かずみ』という名の意味だった。

 『かずみ』とうのは和沙ミチルの渾名だったそうだ。和沙のカズにミチルのミで、かずみ。

 彼女は皆に好かれる優しい女の子。

 だが、彼女は死んだ。魔女になって死んだ。

 みらいちゃんの唇は彼女に似合わず、饒舌に過去を吐き出す。胸に詰まっていた泥を出すように、苦しそうに、辛そうに。

 

「だから、皆の力を合わせて生き返らせようとした。……ミチルの死体に魔女の肉を詰め込んでクローンを造った」

 

 魔女の肉詰め、マレフィカ・ファルス。それがかずみの正体だとみらいちゃんは言う。

 和沙ミチルを除く、プレイアデスのメンバーがそれぞれの魔法を組み合せて彼女の蘇生を試みた。しかし、結果は失敗。

 姿形は和沙ミチルを模倣することができても、必ず魔女と戦えば暴走を始める始末。

 魔女化した記憶が引き金になっていると思った彼女たちは、十三番目のミチルにはあえて、記憶を植え付けずに生み出した。

 それが俺の知るかずみちゃんだ。

 悲しいかな。それもイーブルナッツを植え付けられたせいか。そもそも魔女の肉で作るクローン事態に無理があったのか。

 ともあれ、今回のかずみちゃんもみらいちゃんにとってはただの失敗作なのだと彼女は言った。

 

「アレはミチルじゃない。アレはボクたちのミチルじゃない。こんな人の形をした魔女はボクたちのミチルな訳がない。……サキもこんなもののせいで……」

 

「みらいちゃん、大丈夫。大丈夫」

 

 精神が不安定になるみらいちゃんを俺は優しく撫でて、宥めすかせた。

 これでは魔女になってしまう。こんなつまらないところでそんな風に死なれては俺は楽しめない。

 ソウルジェムを使えば、魔力を回復してやることもできるが、それほどみらいちゃんには愛着もない。

 だから、俺のために動いて死んでもらおう。

 

「みらいちゃんは悪くない。悪いのはかずみちゃんだ。いつ魔女になってみらいちゃんを襲うか分からない。それにアレのせいでプレイアデスの皆は死んじまった。みらいちゃんの親友のサキちゃんだって……」

 

「そう。そうだよ。かずみさえ、アレさえ居なければ……アレを、あの魔女が居なければサキも死ぬ事にはならなかったんだ……」

 

 転がり落ちるのは簡単だった。もともと、かずみに対する不信感やサキちゃんの死の遠因になったことが腹に据えかねていたのだろう。

 俺が誘導するまでもなく、みらいちゃんはその結論に辿り着いた。

 

「かずみを殺さなきゃ……。だよね、あきら」

 

「ああ、みらいちゃんは正しいよ。大切な友達の顔をしている化け物なんて気持ち悪いだけだモンな」

 

 俺は最後にそう嘯いた。その一言がスイッチになったのだろう。

 彼女は魔法少女の姿になると、かずみちゃんの失敗作に向けて巨大な大剣を生み出し、そして。

 ――斬った。

 

「死ね。魔女!」

 

 ――裂いた。

 

「消えろ、偽物!」

 

 ――殺した。

 

「お前らなんか、居なくなれ!」

 

 動かないのか、動けないのか。

 かずみちゃんの顔をした彼女たちは素直にみらいちゃんの手に掛かり、一人ひとり死んでいく。

 無感情なその瞳に映るのは何なのか。答えることなく、黒い体液を飛ばしながら、惨殺される。

 俺はそれをにやにやと笑って眺めていた。

 最後のかずみちゃんモドキの瞳が俺の視線と合う。

 

 ――バケモノ。

 

 そう確かに呟いて、みらいちゃんに切り裂かれて消えた。

 俺は本物の化け物から見ても化け物らしい。俺のような神の如き、高次元的存在は下等なクローンから見れば化け物なのだろう。

 ならば、神のような俺は無知なる子羊を導いてやらないと。

 魔女になる前に遊んで壊して楽しませろよ、魔法少女。

 一仕事終え、返り血を浴びたみらいちゃんを連れて、今度はかずみちゃんを殺させに俺は地上へと戻る。

 

「あきら」

 

「何、みらいちゃん」

 

「君が居てくれてよかった」

 

「気にするなよ。俺たち、友達だろ?」

 

「うん。そうだね」

 

 俺の口車に乗せられ、哀れな魔法少女は笑った。

 愚かで可愛いみらいちゃんはきっと自分を肯定してくれる存在なら誰でもよかったのだろう。

 本当にどうしようもないくらい馬鹿な子。でも、俺が役立ててあげるからね!

 

 テディベア博物館を出てから、みらいちゃんを連れて俺は海香ちゃんの家に行く。

 玄関のチャイムを押すと、海香ちゃんが出て来た。

 俺を心から信頼してくれているおかげで彼女は簡単に俺を家に上げてくれる。

 

「かずみちゃんは大丈夫?」

 

「今、上の部屋で寝てるわ」

 

「そっか。ニコちゃんは居ないの?」

 

 紅茶を俺とみらいちゃんに()れてくれた彼女にお礼を言って俺は口を付けた。温かなですっきりとした味が口の中に広がる。

 

「いいえ。一人でどこかに行くなんてしてほしくないのだけれど……」

 

「仕方ないさ。危ないから皆でずっと一緒に居る訳にもいかないだろ? 魔法少女狩りもしないといけないんだし」

 

 俺は自然な様子でニコちゃんが居ないことを聞き出し、さり気ない動作でみらいちゃんに目配せする。

 彼女はこくりと頷くとティーカップを置いて、席を立った。

 

「ボク、ちょっとお手洗いに行って来る」

 

「女の子なんだから、あまり言わなくていいわよ」

 

 みらいちゃんが席を外した後、彼女は二階に上がり、そして、かずみちゃんを手に掛けるだろう。

 俺はそれに協力するために悟られないよう、海香ちゃんとの会話を続ける。

 何の話をしてもいいが、なるべく長引く話がいいな。

 せっかく、過去が分かったのだからそこから攻めていくとするか。

 

「海香ちゃん、魔法少女になる時の願いごとって『才能を認めてくれて「大事にしてくれる」編集者に出会うこと』だったよな?」

 

 かずみの過去で見せてくれた光景では確かそう言っていた。

 

「ええ。それが私の願い」

 

「じゃあ、その願いで出会った編集者さんてどんな人? 俺よりもイケメン?」

 

 そう聞くと彼女はくすりと小さく笑って答えた。

 

「女性の方よ。とても私に良くしてくれるの」

 

「へぇー。男じゃなくてよかった」

 

「男性だったら何か問題があったの?」

 

「だって……恋敵が大人の男性だったら勝ち目がないじゃん」

 

 俺は海香ちゃんの手にそっと自分の手を添える。少し期待するような流し目で彼女を見つめた。

 しばし、驚いたような顔をした海香ちゃんは急に頬を赤く染めると、ばっと俺の手から自分の手を逃がす。

 その際にティーカップに当たり、中の紅茶がテーブルを汚した。

 

「……な、なにを言って」

 

「ああ。海香ちゃん、零れてる零れてる」

 

 指を差して言うと、広がってテーブルクロスに染み込む紅茶にようやく気付き、それを拭おうとする。しかし、動揺しているらしく、明らかにハンカチのようなもので拭いてるので紅茶による浸食を防げない。

 

「あ、あきらが馬鹿な事言うから」

 

「俺はそれなりに真面目だぜ?」

 

 本格的に口説きに入ろうと、顔を近付ける。より一層顔を赤らめる彼女だが、嫌がる素振りは見せない。

 思った通り、海香ちゃんは俺に気があるご様子。女の子ばかりと付き合っているから、男に対しての免疫がまるでない。

 そっと頬に手を添える。テーブルクロスをハンカチで拭う手は既に止まっている。

 

「海香ちゃんは俺のこと、嫌いか?」

 

「そうじゃないけど……」

 

 目を逸らし、煮え切らない態度を取る彼女に俺は再度問う。

 

「じゃあさ、今海香ちゃんにキスしたら……怒る?」

 

 海香ちゃんは答えない。それが無言の肯定だと俺には分かった。

 自分の唇を彼女の唇に近付ける……寸前に二階から絶叫が響く。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア‼」

 

 これは、かずみちゃんの叫び声だ。みらいちゃんめ、しくじったのか。

 俺はまるで驚いたような顔で海香ちゃんを見つめる。

 

「二階で何かあったみたいだ!」

 

「かずみに何が」

 

「取りあえず二階に向かおう!」

 

 俺は海香ちゃんと一緒に二階に上がるとそこでは獣のように牙を剥き出しにしたかずみちゃんがみらいちゃんと戦っていた。

 無数のテディベアを召喚する魔法「ラ・ベスティア」を使い、かずみちゃんを拘束した後にみらいちゃんは大剣を振るう。

 必殺の一撃。

 だが、彼女もまた同じように。

 

「ラ・ベスディアアアアアアアアアアア‼」

 

 無数のテディベアを生み出し、みらいちゃんを襲わせた。

 

「なっ……これは! ボクの……」

 

 みらいちゃんはあの時に言っていた。「プレイアデス聖団の魔法を合わせてかずみちゃんを造った」と。

 だとするなら、かずみちゃんはプレイアデス聖団の魔法を使えるのではないのだろうか。

 俺のその想像に答えるようにかずみちゃんはその右腕を鋼のように変え、みらいちゃんの大剣を打ち砕く。

 それはカオルちゃんの肉体硬化の魔法「カピターノ・ポテンザ」だ。

 

「この魔女めぇぇ!」

 

「ガ、アアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

「やめて、かずみっ‼」

 

 海香ちゃんの叫びも空しく、かずみちゃんの拳はみらいちゃんの首元にあるハート型に変形した薄桃色のソウルジェムを掴み取り、握り潰す。

 その迷いのなさたるや、俺も感心するほどだった。もはや、今のかずみちゃんに理性は残されていない様子だ。

 主を失ったテディベアは溶けるように消え、抜け殻と化したみらいちゃんの身体を硬化した足で何度も何度も踏み砕く。

 潰れたトマトのようにジョブチェンジしたみらいちゃんに満足したのか、そこでやっとかずみちゃんは正気に戻った。

 

「わ、私……嘘。嘘嘘嘘……みらいを殺しちゃった……」

 

 そんなモン、見りゃ分かるよと言いたかったが、シリアスさは保たなければいけない。

 俺はおずおずと彼女に切り出した。

 

「か、かずみちゃん……アンタ……本当にかずみちゃんなのか!?」

 

 その言葉に反応したのはかずみちゃんだけではなく、海香ちゃんもだった。

 怯えるような瞳で俺を、そして、海香ちゃんを見る。

 

「みらいは言ってた……私、プレイアデスに作られた魔法少女だって……ミチルって子の偽物だって……」

 

「かずみ。それは……それ、は」

 

 答えられない海香ちゃんにかずみちゃんは泣きそうな顔で言った。

 

「……本当、なんだ。私、人間じゃ、ないんだ……」

 

 ぼろぼろと堪えられなくなったように涙を流し、かずみちゃんは窓ガラスを砕いて、二階の窓から飛び出していく。

 俺と海香ちゃんは彼女の名前を呼びながら窓の外を見るが、かずみちゃんの姿は空中で消える。

 

「……瞬間移動。サキの魔法を使ったんだ……」

 

 え、サキちゃん。瞬間移動の魔法使えたの? 初耳なんだけど。

 じゃあ、俺も使えるじゃん、その魔法。今度、ドラ―ゴ状態の時に使おう。

 思わぬ話に心躍るも俺は深刻そうな演技を崩さず、海香ちゃんの隣で彼女の肩を抱いた。

 

「何で……何でこんな事に……」

 

「とにかく、ニコちゃんにも連絡しよう。……みらいちゃんのことも」

 

 俺は内心大爆笑しながら、この茶番を心から楽しんだ。

 さてさて、かずみちゃんはどうなるのだろうか。ちゃんと最後まで俺を楽しませろよ、愉快な玩具たち。

 

 




駆け足気味ですが、原作四巻の半分くらいの話を終えました。
これから、物語はクライマックスへと向かうでしょう。最近、ニ話に一人は登場キャラが死んでいる気がしますが、原作も似たようなペースなのでこれでよしとします。

次回は赤司が登場します。微妙に人気があるようなので、それなりに頑張って描きたいと思います。

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