魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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今回ちょっと短めです。


第三十一話 魔女はランチ

『いや~、ブッサイクだね、魔女って』

 

 ニコちゃんだった魔女を間近で見た俺の感想はその一言に尽きた。ていうか、他に感じるものがない。

 やっぱり、魔法少女の内に殺してやるのが正しいことだと改めて確信したくらいのモンだ。

 こんなドブスになる前に、美しい魔法少女として殺してあげる俺って、本当に天使だ。いや、この慈悲深さはもはや神だ。俺、イズ、ゴッド。

 そうか。俺が神なのか。何か、納得だわ。これぞ、真理。

 

『かずみちゃん、ユウリちゃん。俺、神だったみたい。俺のケツにキスすれば天国連れてってやるよ!』

 

「死ね」

 

 呆然としているかずみちゃんはガン無視。ユウリちゃんは人に言ってはいけない台詞ナンバー1の台詞を吐く。あ、でも、俺神だからいいのか。

 アホなことをいい感じに考えていると、ニコちゃんだった魔女、マネキンの魔女はその先が刃になった腕を俺たちに振るってくる。

 

『危ないな、オイ』

 

 空を飛んで避けるが、俺よりも傍に居たかずみちゃんはもろに喰らって弾き飛ばされた。

 床に倒れて気絶したフランちゃんと死体と化したルカちゃんは真っ二つになり、地面の赤い染みへとジョブチェンジする。あー、もったいない。食べ物を粗末にしやがって。

 ユウリちゃんも距離を取りつつ、二丁拳銃で攻撃する。魔女は刃の腕をクロスさせて、それを防いだ。

 向こうさんは攻撃したからか、はたまた別の理由か、ユウリちゃんを狙って接合している床ごと動いて襲い掛かる。

 やれやれだな、まったく。

 ユウリちゃんを援護すべく、俺がマネキンの魔女に近寄る前に何者かが魔女に飛び付く。それは先ほど弾き飛ばされたかずみちゃんだった。

 魔女となった友達を助けようとしているハートフルな展開かと思えば、ぎらぎらと獣じみた眼光でマネキンの魔女の肩に噛み付いている。

 前になった時と同じように彼女の中に埋め込まれたイーブルナッツが暴走し、バーサーカー状態になっている様子だ。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 口からは尖った牙が生え、手足が獣のような姿に変化し、毛むくじゃらになったその四肢から巨大な爪が伸びている。まさに魔物といった風情だ。妙に良い子ちゃんぶったいつものかずみちゃんより、こっちの方が魅力的に映る。

 

『んじゃ、俺の方も。ガアアアアアアアアアアアアア‼』

 

 俺もまたかずみちゃんに負けないように大きな口を開き、長く頑丈な牙をマネキンの魔女へと突き立てた。痛みを感じたらしく、魔女は口もないに不快な絶叫を発声させる。

 炎や雷は便利だが、やっぱり近接武器で戦うのが一番気持ちいい。

 魔女の頭部を嚙みちぎると俺と、肩の肉を削ぎ落すかずみちゃん。組み付いてしまえば腕の刃しかないマネキンの魔女は脅威ではなかった。

 俺に当たらないように気を付けたユウリちゃんの援護射撃が飛ぶ。

 勝敗が着くまでには時間はあまり掛からなかった。

 俺とかずみちゃんのランチと化したマネキンの魔女は朽ち果て、少しまた少しと胃袋へと消えていく。

 旨くはなかったが、敵を喰らって飲み下すという行為には程よく甘美に感じられる。

 マネキンの魔女が消滅するとすぐに張られていた結界が消え、俺たちはラビーランドへと戻って来た。

 遊園地の地面には目を瞑り、動かないニコちゃんの死体が転がっている。

 ……ニコちゃん。アンタの活躍は忘れないぜ。

 二秒ほど感傷に浸った後、さあ、頭から齧ろうかと大口を開くが、それをかずみちゃんに邪魔される。

 

「ギッ、ガアアアアアアアアアアアアアアアア‼」

 

『何おう。こっちだって。グガアアアアアアアアアアアアアアア‼』

 

「張り合うな、馬鹿」

 

 威嚇対決を繰り広げていた俺の頭をユウリちゃんが拳銃のグリップで殴る。

 野性に戻っていた心が常識を取り戻し、ちょっとだけ照れて、頭を鉤爪で掻いた。

 

『へへっ』

 

「ドラゴンの顔で、はにかむな。気持ち悪い」

 

 冷めた顔で再び、駄目出しを喰らう俺。どないせーちゅうんや。

 ボケも程々にしてかずみちゃんの方を向く。未だにバーサーカーモードが続いたままで、今にも襲い掛からんとこちらを凝視していた。

 あらやだ、この子。まだ理性帰ってきてない。

 

『どうどう、落ち着け。じゃあ、ニコちゃんのお肉はかずみちゃんが食べていいから』

 

 大人しく、ニコちゃんの死体を食べる権利を譲るがまったく聞いた様子がない。

 ユウリちゃんの方を向くと、銃口を構えて、打ち殺そうとしている姿が視界に入った。

 わお。こっちの子は理性がない子にも容赦ない。

 

『駄目だよ、ユウリちゃん』

 

「止めるな、こいつは……」

 

『動物保護団体に怒られちまうよ』

 

「何の心配してんだよ、お前は!」

 

 俺に突っ込みを入れて、意識が逸れたのを見計らい、野獣と化したかずみちゃんが飛び掛かる。

 そっと避けると俺の斜め後ろに居たユウリちゃんが押し倒された。成り行きを見ているとユウリちゃんに乗り、長い爪を刺そうとする。

 ユウリちゃんは二丁の拳銃でそれをうまいこと防いでいるが、筋力が拮抗しているのか、お互いにプルプルと腕が震えているのが何か笑えた。

 

『どうしたの、百合展開? 百合展開なの? 女同士の愛芽生えちまったん?』

 

「馬鹿言ってないで助けろ!」

 

 切れ気味で俺にそう怒鳴った後、ユウリちゃんは上に乗っているかずみちゃんとの隙間に膝蹴りを食い込ませて、彼女の腹に一撃決める。

 グウと小さく(うめ)いて離れた。何だ、助ける必要ないじゃん。

 だが、そろそろこのじゃれ合いも飽きてきたし、ここらでかずみちゃんも処理してしまおうかと動くが、その前に一人の少女が登場した。

 ニット帽を被った二つ別けの黄緑色の髪の女の子。見覚えがある気がする。ふと下に転がっているニコちゃんの死体を見る。

 同じ顔だ……あれ、ニコちゃんが二人?

 

『ひょっとして、イッコちゃん?』

 

 指を差すして尋ねると、暫定イッコちゃんは複雑な表情した後、俺に言った。

 

「そっちは魔法少女の願いで作った私のコピーだよ。私が本物の神那ニコさ」

 

 イッコちゃん改め、真のニコちゃんが転がっている偽ニコちゃんの顔を触ると浮かんでいた顔がふっと消えた。

 

「……選手交代」

 

 そう小さく呟くと陰のある笑みを浮かべる。

 ニコちゃんが死んでないと分かったかずみちゃんは少しずつ、獣のような手足が戻り、元の彼女へと変わっていく。

 

「ニ、コ……無事だったの?」

 

「うん。心配してくれてありがと。かずみ」

 

 二人は感動の再開をする、めでたしめでたし――とは当然問屋が卸さない。

 伸ばした尻尾で気を抜いていたかずみちゃんを吹き飛ばす。鈍く呻いて、彼女は園内の壁に叩き付けれた。

 

「かずみ!」

 

『戦場で気ィ抜いちゃあいかんでしょ? かずみちゃ~ん』

 

 それを避けつつ、壁に頭を打ち付けたかずみちゃんの方へと走るが、ユウリちゃんの方も間発入れずに銃弾をニコちゃんへと撃ち鳴らし、牽制した。

 これで戦いは振り出しに戻っただけ。また、戦いの火蓋が切って落とされる。

 そこに新たな乱入者がやって来る。ラビーランドの人気は侮れないぜ、本当に。

 入場ゲートからエントリーしてきたのは現れたのは、ボロボロになった角の生えた赤い熊の魔物、我らがリッキーだ。口にはみうキチを咥えている。

 

『どったの、オルソ? そんな熊面ぶら下げて』

 

『ドラ―ゴ……ポルコスピーノがやられた。魔法少女の一人、宇佐木里美が化け物に……』

 

 そこまで言い終えた後、身体からイーブルナッツを落とす。熊の魔物はたちまち少年の姿になって、みうキチと共に地面へぶっ倒れた。

 

『……ああ、大体分かったわ』

 

 通りの方で何か起きていると思ったが、あっちもあっちでドンパチやっていたらしい。現状の戦力などもあるし、これ以上魔女になられてお楽しみを減らされたくはない。

 ここは残念だが、一旦出直しとしよう。

 

『ユウリちゃん、撤収』

 

「なっ、こいつらを追い詰めるチャンス……」

 

『ここで魔女になりたいのかよ? アンタも結構魔力使っただろ?』

 

 文句を言う彼女を眼差しで黙らせると、かずみちゃんたちにも情報のお裾分けをしてあげる。

 

『アンタの別のお友達、魔女になったとさ。嘘かどうか、自分の目でチェックだ!』

 

 相手の反応を待たず、落ちているリッキーとみうキチを両手に掴む。ついでに転がっていたリッキーのイーブルナッツと偽ニコちゃんのグリーフシードも回収し、上空へと舞い上がった。

 ユウリちゃんは思い切り舌打ちをしてから、牛の使い魔を作り出す魔法「コルノ・フォルテ」を使って、空中まで飛んでくる。

 俺はそれを確認してから、ユウリちゃんたちと愛する自宅へと帰って行った。

 

 




あやせ編が終わり、次からはまたあきら君のほのぼの悪巧みが始まります。

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