魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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第二十九話 炎と氷の魔法少女

 血抜きをして味が引き締まったサブを齧っていた俺は、上半身を喰いちぎったところで、ふとそう言えば美羽ちゃんたちのことをサヒさんたちに任せ切りにしていたことを思い出した。

 面白そうだからと拾ってきたが、途中で面倒臭くなって丸投げしてしまったが、どうしているんだろうか。……まあ、どうでもいいか。死んでても良し、生きてても良しだな。

 サブの死体を食べ終えた後、腹ごなしにかずみちゃんたちを探しに行こうと思い立って、下水道から外へと出て行く。マンホールまでの梯子で上がるのは思ったよりも疲れて、地上に出た後大きく伸びをした。

 

「うーん……っと。さてはて、かずみちゃんたちはどこまで逃げたのかね~」

 

 怒りをすっきりさせたおかげで、るんるん気分でスキップしながらかずみちゃんたちが逃げた方角を進むが、流石に多少時間が過ぎたせいで既に近くにはいないようだ。

 再び、魔物形態になり、上空から探すかと思い、物陰で竜の姿になり、翼を広げて空へと飛びあがった。

 大通りの方でも何かが起きているのか騒がしかったが、それよりもかずみちゃんたちの方が気になったので一旦無視して彼女たちを探す。

 しばらく近くを空から見下ろしていると、前にユウリちゃんと言った遊園地・ラビーランドが視界に入った。

 ただ前と違って様子がおかしい。開園しているのに人の気配がない。というよりも、何か別の空間に侵食されているような、途轍もない違和感があった。

 近付いてみれば、そこではかずみちゃんたちが銀色の鷹に乗ったあやせちゃんと戦っているのが見える。どうやら、魔力で疑似的な結界を張っているらしく、音が外まで漏れていなかった。

 よっし! まずは突っ込んでから考えよう‼

 取りあえずはノリと勢いで戦闘を繰り広げている間に俺も突撃を敢行(かんこう)することにした。

 魔力でできた半透明な皮膜をぶち破り、宙を舞っているフランちゃんに火炎の息吹を噴き付ける。

 

「フラン、避けて!」

 

『っ!?』

 

「かずみ! 上!!」

 

 フランちゃんの背に乗るあやせちゃんはその攻撃に気付き、とっさに回避を促した。当たれば、鋼も融解する炎は斜めに軌道を逸らした銀色の鷹の脇のコンクリートの地面を焼く。

 近くに居たかずみちゃんもニコちゃんに言われ、バックステップでそれをかわした。

 当然、この程度は避けると確信していた俺はさほど気にもせず、戦いの中心に割って入る。

 

『仲間外れはよくないぜぇ? 乱交パーティなら俺も混ぜてくれないと』

 

「お前は!?」

 

「ドラ―ゴ……!」

 

 ニコちゃんとかずみちゃんは唐突にダイナミックエントリーした俺を睨み、怨嗟の色をその目に宿す。

 あすなろドームでサキちゃんを頭からムシャムシャ、モグモグ、ランランルーしたことをまだ根に持っているらしい。過去に囚われた哀れな子たちだ。俺のように過去などすっぱり忘れて常に未来を見据えるような人間を見習ってもらいたいモンだ。

 一方、皆とやや離れたところに『カオル』ちゃんは俺を見ている。本物のカオルちゃんの魔法までは真似できないから、友達を失ったばかりで戦えないとか理由を付けて戦闘には参加していない様子だった。

 悪くない選択だと薄く笑い、俺はさらに戦場を搔き乱すべく、プレイアデス聖団のお二人に向けて喋る。

 

『よお、かずみちゃ~ん、ニコちゃ~ん。苦戦してるようじゃんか。力を貸そうか?』

 

「誰があなたなんかに……!?」

 

「ちょっと待って。お前はこいつらの仲間じゃないの?」

 

 怒りを露わにするかずみちゃんと違い、ニコちゃんは俺の言葉に反応して尋ねる。

 こういうところが侮れない。まあ、この場合はそっちの方が楽でいいけどな。

 

『そうだぜ。俺とそっちの可愛子ちゃんは無関係。で、どうする? 怨敵の俺と組んでそいつらを倒すか、それとも俺と一緒に戦って勝つか……何やら足手まといも居るようだし』

 

 『カオル』ちゃんを見て嘲笑うと、かずみちゃんは怒り出して十字架型の杖を俺に向けようとするが、ニコちゃんがそれを視線で制した。

 

「……分かった。今回は協力しよう」

 

「ニコ!?」

 

「ここはまず、あっちの魔法少女を倒す方が先決だよ。まあ、信じられるかどうかは疑問だけど」

 

 賢いニッコニッコニーは俺と組むことを選ぶが、流石に全面的信用はできないようで懐疑的な視線を寄こす。

 俺としては、そろそろあやせちゃんやフランちゃんは邪魔なので、そろそろ始末したかったところ。ここでは素直に協力の意志を見せつけよう。

 羽ばたいていた俺は地面に降り立ち、膝を折り曲げ、背を二人に見せる。

 

『交渉成立だな。乗りな、お二人さん。あっちと同じように空中戦がしやすくなるぜ?』

 

「…………」

 

 それでも疑わしげな眼差しを向けたかずみちゃんだが、鋼の翼の鷹が再び近付いてくるのを見ると、唇を噛み締め、俺の背に飛び乗った。ニコちゃんもそれに続く。

 

『んじゃあ、俺たちの友情パワー見せてやりますか!』

 

「それ以上、ふざけた事を言うようならあなたから先に落とすよ……」

 

 かずみちゃんが野獣の如き眼光でマジ切れしているので俺も自重し、向かってくるあやせ&フランペアに備え、空中へと上昇する。背中に乗せた相手を挑発するほど俺だって馬鹿じゃない。

 敵さんの方を見ると、あやせちゃんは俺に凄絶な笑みを浮かべ、吐き出すように呟いた。

 

「あなた……本当にスキくない。本気で潰してあげる。――『ルカ』、行くよ」

 

 すると、彼女の表情が急に凛々しいものに変わり、声色も変化した。

 

「御意。承知致しました、『あやせ』」

 

 独り言と言い切るにはあまりにも大きな差異があった。俺の中のシックスセンスが叫ぶ、こいつはデンジャーだと。

 油断せず、火炎放射で牽制(けんせい)する攻撃を放つ。さっき見たあやせちゃんの魔法は炎だった。シンプルな威力だけなら俺の方が上だ。同時に放てば俺が勝つ。

 (ほとばし)った火炎の息吹は彼女たちを覆う――瞬間、俺とフランちゃんの対角線上にある狭間の空間が突如として大爆発を起こす。

 衝撃と爆風に煽られ、俺は吹き飛び、背中の二人もバランスを崩して、落ちかけるが尻尾を巻きつけて引き釣り上げた。

 俺に助けられたのが気に入らなかったのか、少し不機嫌な顔をするかずみちゃんだが今はそんなことに注意を払っておく暇はない。

 空中で態勢を立て直し、鋼の鷹の姿を探すと向こうもグラつきながらも空中に留まっていた。

 しかし、その背にはあやせちゃんの姿はない。落ちたのかと下を向いた時、ニコちゃんの声が耳を撃つ。

 

「上だ!」

 

 その言葉を信じ、右翼を傾けて緊急回避を取る。俺がさっきまで居た場所にはサーベルを振り下ろしていたあやせちゃんの姿が見えた。

 その姿は白いドレスから赤いドレスに変わっており、右肩が露出し、ソウルジェムは右胸の肌が出てるとこについてる。

髪止めはマジシャンの杖みたいな物に変わり、首にはリボン巻いてる、腹には着物っぽい帯を付けており、さっきまでのあやせちゃんとは正反対のような格好だ。

 

「奇襲成らず……かわされましたか」

 

 静寂な風鈴のような声には子供っぽさはなく、淡々とした口調は上品さがあった。

 即座に俺の背中の二人が、それぞれの魔法を飛ばすが、彼女はそれらをサーベルを使って弾き、知らぬ間に真下に来ていたフランちゃんの背に着地した。

 明らかに前とは雰囲気が異なるあやせちゃんに俺は問いかける。

 

『口調も姿も変えて、イメチェンしたのかい? あやせちゃん』

 

「私は双樹ルカ。あやせに(あら)ず――『カーゾ・フレッド』」

 

 そう言って、炎ではなく、巨大な氷柱を剣より放った。それを距離を取りつつ避け、爆発の正体を理解する。

 水蒸気爆発……。超高温の魔力の炎に当たり、あの氷の魔法が瞬時に水、というか水蒸気になった結果、瞬間的に蒸発による体積の増大が起こり、大爆発を引き起こしたのだ。……魔力で作られたものがちゃんと物理的法則に従うのはよく分からないが、多分それに似た現象が起きたとみていいはず。

 

『なあ、カズミン、ニコニー。ソウルジェムを交換すれば、魔法少女って別の魔法使うことできんの?』

 

「……いや、そんな事はできない、はず。あと、その呼び方止めて」

 

 ニコちゃんが言うにはそう言ったことはできないらしい。魔法少女狩って、ソウルジェムを回収しているプレイアデスの皆さんが言うなら間違いないだろう。多分、あやせちゃん、いや……ルカちゃんが特別なようだ。

 しかしまあ、こうなってしまえば、無闇にやたらに炎を撃ち出すのは悪手でしかない。俺の方もフォームチェンジしておくとしよう。

 

『カラーチェンジができるのはアンタだけじゃないんだぜ?』

 

 俺はその身体を覆う鱗を黒から白へと変色させる。口元から吐き出される息吹は炎から雷になり、鋼の鷹へと光速で飛ぶ。

 刃で構成されている鷹は、避雷針の如く、雷撃を集めてしまう。

 飄々としていたルカちゃんの鉄面皮に初めて(ひび)が入る。そう、フランちゃんは戦った時に色を変えたので知っていたが、あやせちゃんはこれを知らない。

 あやせちゃんが来た時には戦いの途中、俺のカラーは白から黒に……稲妻から炎に戻してからだ。そして、あやせちゃんが知らないことはルカちゃんも知らないと踏んでいた。

 答えはビンゴ。即座にフランちゃんから離れようとするも光の速さには追い付かず、電撃をその身に受けた。

 

「うっ……ぐう‼」

 

『さあ、お二人さん。今の内にレッツ・追撃! 追い込んでー追い込んでー!』

 

「う、うん。『リーミティ・エステールニ』!」

 

「まあ、卑怯とは言わないよ。『プロルンガーレ』」

 

 若干、その戦法の汚さに引いたのか、微妙な顔をしつつ、追撃の魔法を彼女たちに撃ち放つ。

 かずみちゃんがレーザー光線のような魔法を、ニコちゃんが自身の指を四本ずつ小型ミサイルに変える魔法をルカちゃんたちに喰らわせた。

 三人の連係プレイにより彼女たちは煙幕を上げて地面へと落ちていく。

 

『流石、プレイアデス聖団の魔法少女! 追い打ちを掛けることに容赦がない! そこに痺れる、憧れるぅ~! よっ、あすなろ市一の外道少女‼』

 

「あとで覚えてて」

 

『ごめんちゃい』

 

「まだ、やってないみたいだぞ。気をつけて!」

 

 煙幕が晴れると、ところどころに穴の開いたボロボロのドレス姿のルカちゃんが憤怒の形相で真下から睨み付けている。フランちゃんも流石は俺と引き分けた相手だけあり、多少傷付いてはいたが、まだ魔女モドキの形態を保っている。

 

『しぶといなー。さっさと死んでくれよ』

 

 翼を羽ばたかせて、飽き飽きとした顔でルカちゃんを見るが、彼女には敗北した雰囲気はなく、何やら奥の手を残しているっぽい。

 

「ここまでやるとは思っていませんでした。――それでは見せてあげましょう。私たちの本気を」

 

 そう告げた彼女は二つのソウルジェムを掲げる……前に尻尾でかずみちゃんを掴み、下方に投げ飛ばした。

 

『そうはさせるか! 喰らえ、かずみちゃんインパクト!』

 

「え!? ちょっ!? うわあああああぁぁ」

 

「な、かずみ!」

 

 かずみちゃんは位置エネルギーを持って真下――ルカちゃんへと目掛けて落下していく。

 俺の行動に驚きの声を上げながらも、落下の衝撃を和らげるため、その十字架の杖を構えてレーザー光線の如き魔法を撃ち出した。 

 

『あやせ、ルカ! 危ない‼』

 

 両翼を広げ、ルカちゃんをかばうが、近距離で且つ傷付いた身体では『リーミティ・エステールニ』を受けきれずにその身を焼かれた。

 銀の鷹は元の少女に戻り。イーブルナッツを身体から落として、ぐったりと倒れ込んだ。

 

「フラン!」

 

『油断大敵だぜ、ベィビィ?』

 

「しまっ……!?」

 

 フランちゃんが翼を広げてくれたおかげで、ルカちゃんの視界が完全に遮られた。その僅かな隙に加速して俺は彼女の後ろに回り込んでいた。

 背中に居たニコちゃんが飛び付いてソウルジェムを奪う魔法『トッコ・デルマーレ』で、片方の……あやせちゃんのソウルジェムを奪い、俺はもう片方のルカちゃんのソウルジェムを腕ごと喰いちぎって略奪した。

 薄紅色のソウルジェムを飴玉のように舌先で転がし、ガリッと噛み砕く。

 

『ジェム摘みなんて言ってたけど、自分が摘まれる気分はどうよ?』

 

 片手のちぎれた死体を蔑み、笑みを浮かべてフランちゃん共々胃袋に収めようと近寄った。

 そこで急に周りの地面が溶けてから(うごめ)き、鎖が生まれて俺を拘束した。ダウナーな笑みでニコちゃんがバールのような杖を突き出して、俺に言う。

 これがニコちゃんの魔法。

 鎖が魔力から生まれたのではなく、地面を鎖に再構成させたところや指をミサイルに変えたりするのを見るに、錬金術のように何かを別に変えることができるっぽいな。

 

「それじゃあ、今度はお前が摘まれる番だねー」

 

『えー、裏切るのかよ。俺たち、一緒に戦った仲じゃん。もはやフレンドだろォ?』

 

「……あなたはサキを私たちの仲間の命を奪った」

 

 かずみちゃんもまた十字架の杖を構え、俺に向ける。万事休す、絶体絶命。大ピンチ!

 クソッ、どうしようもない。せっかくここまで頑張って来たのに……これじゃあ、もうお終いだ。

 そこで仕方なく、俺は諦めることにした。

 

『分かったよ。残念だが、仕方ない』

 

「一応、一時的とはいえ、協力した相手だ。痛みはなく、一瞬で……」

 

 苦渋の選択だが、他に方法もなく、諦めた。

 プレイアデス聖団を裏切りの絶望に落とすプランを。

 

『カオルちゃん、やれ』

 

 敵を倒したこともあり、俺に集中力を切らしていたニコちゃんの後ろに居た『カオル』ちゃんにそう言った。

 二丁拳銃を構えた『カオル』ちゃんは心底嬉しそうな顔で俺の命令に従い、引き金を引く。

 ニコちゃんが振り向くよりも、かずみちゃんが異変に察知するよりも早く、撃ち出された弾丸は彼女を穿った。

 『カオル』ちゃんの顔がくにゃりと歪んで解け、その下から邪悪に笑うユウリちゃんの顔が現れる。

 

「な……まさか、魔法で化けて」

 

 俺を拘束していた鎖が消えるその時に尻尾でニコちゃんを弾いた。彼女の手から離れたあやせちゃんのソウルジェムを伸ばした舌先でキャッチし、これまた砕く。

 

「ようやく、お前らを踏みにじって殺せるかと思うと気分がいいな。ご機嫌いかかが、プレイアデス」

 

 倒れたニコちゃん。銃を構えて笑うユウリちゃん。驚愕するかずみちゃん。そして、めっちゃ落ち込んでる俺。

 その場の状況は一変し、かずみちゃんたちの優勢は崩れた。そして俺もショックで崩れた。

 チキショウ……カオルちゃんの偽物を入れて、プレイアデス聖団を内側から崩壊させる楽しい計画がご破算だ。せっかく、楽しみにしていたのに……。

 すっかり落ち込んだ俺は仰向けに倒れたニコちゃんを一瞥する。

 

『うん? 何だ?』

 

 そこで違和感に気が付いた。ニコちゃんの身体が若干浮いているのだ。

 『カオル』ちゃんがユウリちゃんだったということに衝撃を受けているかずみちゃんや、憎いプレイアデスの一人を傷付けてすっかりご満悦なユウリちゃんはそれに気付いていない。

 ニコちゃんの『濁り一つない』ソウルジェムが宙に浮いた。そこで二人も異変を認める。

 

「おい、これは……」

 

「ニコのソウルジェムが!」

 

 浮いているソウルジェムの()が剥げた。

 その下からどす黒く握り切ったソウルジェムが現れ、砕け散る。奥から現れたのは『グリーフシード』。

 思い出した。ユウリちゃんのソウルジェムをグリーフシードで浄化した時に知ったんだった。ソウルジェムを浄化する方法。ジュゥべえでソウルジェム浄化は本来の方法ではないこと。

 そして、あれから何が産まれるのかも……。

 

 宙に浮かぶグリーフシード、魔女の卵は孵化する。

 空間が歪み、本物の結界が周囲を覆い、俺たちの眼前には結界の主が顕現した。

 そこには、顔のないマネキンの上半身をひたすら巨大にしたような、魔女が居た。

 

 へぇ~、魔女ってこういう風に生まれるんだ。参考になったわ。ニコちゃんサンクス。

 俺は内心で貴重な映像を見せてくれたニコちゃんに感謝した。




あやせとルカの最後の切り札はその目を浴びることなく、倒されてしまいました。
変身の最中に攻撃の手を弛めるほど、あきら君は紳士ではないのです。

ようやく、魔女化を描けて安心しています。あきら君が居ると魔法少女は魔女になる前に食い殺されてしまうので、なかなか魔女になる魔法少女を書くことができませんでした。

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