魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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第二話 ダイナミックご来店

 BUY-LOT。公式ホームページサイトによると、あすなろ市で最もナウでヤングでポピュラーなショッピングモールらしい。

 取り合えず、この紹介文を載せた奴とそれを許可した奴はその素敵なセンスの責任を取って一刻も早く死んでほしいところだ。

 俺はそのショッピングセンターの正面玄関からクレイジー・A・スペシャルに乗ってダイナミックご来店を果たす。

 

「そいやあああああ!!」

 

 自動ドアの感度は良好のようで、俺は足止めを食らうことなく店内に入ることができた。まるで店が俺の来店を待ち望んでいたようだ。

 クレイジー・A・スペシャルに乗ったまま、無駄に広い中央のスペースまで滑っていくと、立花の携帯電話のコール音が鳴り響く。

 

「もしもし?」

 

 電話に出るとさっきの合成音声が聞こえた。

 

『トランクハドウシタ?』

 

「あれ? まだ来てないんだ。俺の方が先に着いちまったか、参ったぜ!」

 

 流石、俺のクレイジー・A・スペシャル。女の子の足など簡単に追い抜いてしまった。

 ドヤ顔で自分のスケートボードの速さに満足していると、電話の相手はそれに不満を持ったのか、しばらく無言、いや無音声になる。

 

『…………』

 

「安心しろよ。すぐに来るって」

 

『ソコノベンチノ裏を見ロ』

 

 今度は急に話を変えて、そんなことを言ってくる。俺はそこで何かきな臭いものを感じたが、俺はそれに素直に従う。

 

「ベンチの裏~、エッチな本で俺にあんのか? ……あー、こりゃ何だ?」

 

 そこのベンチの裏に白い布を被された大きな長方形の物体が置いてある。

 君子危うきに近寄らず。しかし、俺は君子ではなく、エンターテイナーであるためにあえて、その物体に近寄って布を取り去る。

 

「うん? こりゃあ……かずみちゃんが入ってたトランク?」

 

 いや、デザインこそまったく同じだが、凹みや傷がない。とすれば、立花が取り間違えた爆弾が入った方のトランクか。

 

『ソノトランクヲ開ケロ』

 

 何だ、こいつ。俺を爆弾で殺す気か? 俺がこのトランクの中身を知らないとでも思っているのか?

 だが、そんな時、こちらの方に近付いてくる三人の女の子が居た。

 その中の一人はかずみちゃんでトランクを持ってこちらに向かって来る。その後ろの二人の少女は当然ながら知らない顔だ。

 片方は紺色のロングストレートヘアの知的な顔立ちの少女。もう片方はオレンジ色のボブカットの活発そうな顔立ちの少女だ。

 

「あきらっ! 何でここに来たの?」

 

 驚くかずみちゃんに俺はにこやかに返す。

 

「君が心配で来てしまったんだぜ、ベイべー」

 

 人差し指を銃のように突き出して、かずみちゃんに向かって撃つ真似をする。

 正直に言うなら、ただ単純に面白半分だけど、それよりこっちの言い分の方が良い男っぽいでそう言った。

 

「うわ!馬鹿なんじゃないの、こいつ」

 

 オレンジ色ボブカットの少女が俺の格好いい台詞を聞いて失礼なことを言う。

 はっきり言って俺の方がこいつよりも頭がいい自身がある。俺はろくに勉強もしなくても去年全国一斉学力テストでトップ10に入ったレベルの学力だし、IQテストでも140の数値を叩き出したほどだ。

 

「この彼がかずみの事を保護してくれた人なの?」

 

 紺色のロングストレートの少女の方は冷静にかずみちゃんに俺の事を尋ねている。

 これはこれで反応として寂しい気がする。もっと俺に食いついて来てくれないと。

 三人とも何か仲が良さそうだったら多分かずみちゃんの友達なんだろう。

 

「うん。そうだけど……ってあきら、そのトランクは?」

 

「あー……」

 

 トランクを開いて、中のものを三人に見せる。

 中にはバスケットボールほどのサイズの球体が入っており、丸っこい大きなボタンと縦長タイマーのような画面が付いていた。

 

「時限爆弾、らしい」

 

「「「……はぁ!?」」」

 

 まったく同じようなリアクションをする三人。本当に仲が良いようで大変宜しい。

 

「その通りよ」

 

 声と共にスーツ姿の女性が俺らの前に姿を現した。

 その後ろには武装した警官隊が十人ほど控えている。

 

「警察よ。動かないで」

 

 見りゃ分かるわ、そんなこと。

 内心で突っ込みながら冷めた目で見ていると、刑事らしき女性は俺に話しかけてきた。

 

「一樹あきら君ね」

 

 まさか、自分の名前を呼ばれるなんて思わなかった俺は少しだけ驚いたが、多分電話の相手が俺のことをリークしたのだろう。

 

「えー……あれは悲しい事故と言いますか」

 

「あなたがこのショッピングモールを爆破しようとしていることはわかっている。少しでも抵抗すれば――あなたを撃つ」

 

 そう言って、拳銃を取り出して俺にその銃口を向けた。

 ……おい、待てや。まるで意味が分からんぞ。

 ていうか、銃を中学生に向けるな。少年法ってこの街じゃ適応されないのかよ。

 しかし、残念ながら刑事さんの顔は真剣(マジ)だし、その後ろの警官隊もそれを止めようとしない。

 

「ちょ、ちょ、ちょ。あの俺、中坊っすよ? ショッピングモール爆破とか意味分からないんですけど?」

 

「あなたは立花宗一郎という人物に唆されて、このショッピングモールを爆破するように頼まれた。その爆弾のことを知っていたのが何よりの証拠よ」

 

 ん? いや、待て、この刑事の発言おかしいぞ。そもそもこの街に来て数時間しか経っていないのに何で俺の名前を把握している?

 怖い顔をして睨む刑事さんのその言葉を聞いて俺は不信に思い、問い返す。

 

「それを言うなら、何で刑事さんもこのトランクに爆弾が入ってること知ってたんですか? それに加えて警官隊まで配備とか……準備が良すぎじゃないですか?」

 

 まるでここで誰かを待ち伏せしていたようなその周到振りがおかしすぎた。

 

「それはここで立花が爆破計画を企てていることを知って、張り込んでいたからよ。君みたいな中学生がその役目を受け継いでいたなんて知ったのはさっきだったけれどね」

 

 いや、それだけじゃないはずだ。ここに来るのは立花のはずだったのだから、俺の名前まで知っているのはおかしい。ひょっとしてあの合成音声の奴とグルか。ただ何かが引っ掛かる。

 ひょっとして、ひょっとすると……。

 俺は自分の中の直感に従い、ボケットの中を弄り、立花の携帯電話の通話記録から上から三番目の電話番号にリダイアルする。

 

「動くなと言ったはずよ!」

 

 その瞬間、電話のコール音がその場に鳴り響く。

 音源は目の前の刑事だ。

 

「なっ……」

 

「ああ、やっぱり、刑事さんが最初の電話相手だったのか」

 

「ちっ」

 

 俺が全てを察するや否や、舌打ちをした刑事さんは拳銃の引き金を引こうとする。

 それを見越していた俺は持っていた時限爆弾を後ろのかずみちゃんたちの方へに投げ、クレイジー・A・スペシャルの裏面を構えた。

 このクレイジー・A・スペシャル、簡易的な鈍器にもなるように裏面には鉄板を仕込んである。備えあれば、憂いなし。

 放たれた弾丸は弾かれて、兆弾する。

 

「おいおい、危ないぜ、刑事さん。アンタ、小学校の通信簿に『頭が悪く隠しごとが下手なので犯罪は止めましょう』って書かれてんじゃないの? なあ、『ボンクラ』」

 

「クソッ……」

 

 俺の挑発に刑事は血相を変えて銃を構え直そうとするが、後ろの警官がそれを止めた。

 

「おい、何やってんだ。相手はまだ子供なんだぞ!?」

 

「怪しい動きをしたから撃ったのよ!」

 

 正直、「もっと早く止めろよ、この税金の無駄遣いども」と思ったが、あの脳みその足らない杜撰刑事に連れて来られるような人員じゃろくなものじゃないなと考えて諦めた。

 その時、後ろから「あーーーー!!」と大きな声が上がる。

 振り返ると、かずみちゃんが青い顔で俺を見る。

 

「受け取った時、押しちゃった……」

 

 タイマーの画面には数字が表示されて、もの凄い速さでその数字は減っている。

 

「ちょっ!」

 

 後ろに三人が居たからキャッチしてもらえるだろうと思い、顔も向けずに爆弾を投げたのだが、それが裏目に出たようだった。

 慌ててかずみちゃんの手から爆弾を取ると最初の状態で三分程度しかなかったようで、残り時間は一分を切っていた。

 この爆弾の規模がどのくらいか分からないが、ちらりと横目で見た刑事の恐怖に歪んだ表情から察するにもう手遅れくさいことが分かった。

 あ、やばい。今度こそ死んだか、これ?

 死の一文字が脳裏にちらついた瞬間、祈るように手を握り締めていたかずみちゃんの耳の鈴の形をしたイヤリングがリンリンと鳴り出した。

 周囲の空間をその音色が包み込む。

 

「!! カオル!」

 

 その音色に何か気付いたような紺色のロングストレートヘアの少女は俺の手にある爆弾を弾いた。

 

「おまっ!」

 

 弾かれた爆弾は移動していたオレンジ色のボブカットの少女の方へ飛び、それを胸でリフティングするように受け止める。

 

「ナイスパス、海香」

 

 そして、受け止めたボールを今度はサッカーボールのように吹き抜けの天井になっている方へと蹴り上げた。

 どうでもいいことだが、この時の二人の台詞により、オレンジ色の方の少女は「カオル」で紺色の方の少女は名前が「海香」だと判明した。本当に、クソどうでもいい。

 打ち上げられた爆弾は回転しながら、飛んでいき、そしてポンと小さな音をさせて弾けた。

 

「……は!?」

 

「え!?」

 

 俺は呆然し、かずみちゃんは驚愕した。

 なぜなら、爆弾が破裂して出てきたものは爆発ではなく、星やハートマークの紙吹雪だったからだ。

 爆弾じゃなくて、くす球だったのか。

 俺はそう思い、刑事の方を見たがまるで彼女はあり得ないものを見たかのような顔になっていた。

 その顔から見るにあれは本物の爆弾だったのだろう。と、するなら……あの電話の奴にすり替えられたと考えるのが妥当だ。

 しかし、俺の直感はそれにノーと言っていた。

 俺の中の第六感は……本物が玩具に変わったのだと囁いている。何の確証もない、アホのような勘だが、俺の勘は今まで一度も外れたことがない。

 ならば、かずみちゃんの鈴のイヤリングの音色が魔法でも起こしたとでも言うのだろうか?

 俺はかずみちゃんを見る。しかし、かずみちゃんの視線は刑事の方を向いていた。

 俺もつられてそちらを見ると、警官隊のほとんどは刑事に対して、「いたずらかよ」「これだから女の捜査は……」などと文句を言いながら撤収していく。それに渋い表情を浮かべて刑事は立ち尽くしている。

 

「あの爆弾……刑事さんが作ったものだよ」

 

 ぼそりと呟いたかずみちゃんの言葉に刑事が弾かれたように振り向いた。

 

「俺もかずみちゃんのいう通りだと思う。っていうか、刑事さんが言ってた立花と連絡して奴が刑事さん本人だから間違いなく、犯人だろうな」

 

 俺の追撃の発言に刑事は表情を歪ませた。

 しかし、こちらに何か言う前にさきほど刑事の凶行を止めた警官隊の一人に肩を掴まれて連れて行かれた。

 爆弾は玩具ということになったが、中学生目掛けて発砲したことは始末書じゃ済まないだろう。下手をするとクビだわな。

 

「本当に済みませんでした。謝って済まされる事ではありませんが……」

 

「本当ですよ。まったく! 俺は殺されかけたんですよ? だから、近頃の警察は税金の無駄遣いって言われるんですよ。市民の血税で買った弾丸を市民に向けて撃つとは信じられませんね」

 

 警官隊の人は丁寧にお詫びの言葉を述べたが、俺は警察が嫌いなのでここぞとばかりに貶しまくった。

 刑事の方も頭こそ下げているもののこちらに対しての罪悪感は感じれない。それどころか薄っすらと俺とかずみちゃんを見上げるように睨んでいた。

 

「何ですか? その目は。申し開きがあるなら聞かせてくださいよ!」

 

「……いえ、本当にすみません。後日、ちゃんとしたお詫びをさせて頂きます」

 

「あー、じゃあ、そうですね。こちらのかずみちゃんを攫った誘拐犯について調べてください」

 

 かずみちゃんに記憶がないことや誘拐されかけていたことを話し、それについて全力を持って調べてもらうように刑事に頼んだ。

 だが、俺はこの刑事が誘拐犯と接触していることには気が付いているのでこの話は自体には意味がない。

 しいて理由をあげるなら。

 

「お願いしますね。名誉挽回してくださいよ、()刑事さん」

 

 にやっと笑って刑事を見つめる。

 その顔には屈辱と憎悪に燃えていた。

 ――単に喧嘩を売るための行為だ。

 こんな下らない事件を巻き起こしたのは恐らくは手柄欲しさといったところだ。妙にプライドが高く、自意識が過剰、けれど迂闊(うかつ)で間抜けなこの女なら確実に俺に復讐しようとするはず。

 俺はそれを迎え撃って踏み躙ってやるつもりだった。

 俺がショッピングモールから出て行く時も刑事は頭を下げて姿勢でこちらを睨み付けていた。




今回はあまりうまく書けなかったです。原作から弄ろうとした結果、ちょっと変な感じになってしまいました。

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