魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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これがかずみ?ナノカの今年最後の更新です。
前編のままだとキリが悪いので無理して書きました。


第十九話 ライオン劇場 後編

『襲われそうだったお前を助けてやっただろ? ヒーローじゃん』

 

「いや、人を助けるからヒーローというのは少し安直過ぎますって。もっとこう深みがないと」

 

 魔女の結界内の中、獅子村は竜の姿の俺にまったく物怖じせずに駄目出しをしてくる。

 自分が死に掛けたことなど大したことでもないかのように頭から抹消したらしい。そんなにも死体役を希望しているのか。

 このまま、このイラッと来るお子ちゃまを「ピチャピチャの刑(俗名・ミンチ)」に科してやりたいのは山々だがそれをした場合、俺はヒーローが演じられないという(そし)りを受けることになる。それでは試合に勝って勝負に負けるようなものだ。この俺のプライドが許さない。

 とにかく、ここの魔女を可能な限りヒーローチックに倒した後、獅子村に負けを認めさせ、然るべき刑罰に処そうじゃあないか。

 

『まあ、とりあえずこの結界の中に居る魔女ってのを倒さないと俺たちは帰れない訳だ。それまでは俺が責任持ってきっちり守ってやるよ』

 

 ……その後は、一体『どう』なっちまうのか分からないがな。

 

「お、今のはちょっとオレ的にポイント高いです」

 

 いや、そもそも基準決めるのは俺たちじゃなくて、駅前に居た通行人だろ。あれ? ということはこいつが演技も結局自己申告な訳だし、通行人が居ないこの状態ではそもそも無意味なんじゃね?

 一瞬、ここでミートボールを製造しようか迷ったが、それはこいつに俺の演技を見せつけて心をへし折ってからでも遅くない。

 

『じゃあ、背中に乗んな』

 

「御言葉に甘えさせてもらいますね。よっと」

 

 獅子村を背中に乗せて、俺は結界内を飛び上がる。黒い翼が空気を裂き、羽ばたき出した。

 結界内には天井があるために飛んで逃げるということは不可能だが、ちまちま歩くよりは魔女を見つけやすい。

 全体から見ると、この結界の中は絵本に出てくるような海の底みたいに見えた。巨大な珊瑚や海草のようなものが至るところから生えている。そして、何故かやたら背の高い鳥居がところどころに起立していた。きっと浦島太郎に出てくる海の中を具現がすればこうなるだろうって外観だ。

 だが、ざっと下を見降ろす限り、魔女らしき影は見つからなかった。それどころか、使い魔も見当たらない。

 

「あきらさん! 何か天井から生えてきてます!」

 

 いきなり、俺の背中に居た獅子村は顔を上げて叫んだ。

 連れられるように俺もそちらを向くと、天井からクラゲの使い魔が這い出してきている。

 

『ギャハハハ!』

 

 陽気な笑い声を上げて口を開いているものの無表情のそれらは不気味な印象を俺たちに与える。近付いて来ようものならさっきと同じく火炎の息で炭火にしてやろうと思ったが、どうにも様子がおかしい。

 

『ギャハハハハハハハハ!!』

 

 クラゲの使い魔たちはぐにゃりと伸び上がるとその身体を一つに纏め上げ、横長の魚の胴体をくっ付けたデフォルメされたクラゲ頭、いや赤ん坊の被る帽子ような化け物へと変化する。

 魔物の姿になった俺の三倍はあるその巨体を見て、何となく思った。

 使い魔が集合して魔女になったのではなく、魔女が分散して使い魔のように見えていたのでは、と。

 なぜそう思ったのかと思考がその理由を探ろうとした時――頭の中で映像が流れた。

 

 *

 

『食べられちゃえばいいじゃん。だって、死にたいんでしょう?』

 

 黒い魔女っ子帽子と長いローブ、そして十字架を模した杖を携えた魔法少女がそう冷たく言い放つ。

 その姿と声は俺がこの街で初めて出会った少女、かずみちゃんのものだった。

 

『それとも……デッド・オア・アライブ?』

 

 映像の中のかずみちゃんは魔女っ子の帽子から黒いショットガンを投げ落とし、俺にそれを拾わせる。

 いや、拾ったのは俺じゃない。この映像の視点人物だ。

 さっき見た小さな使い魔が絡まり、今俺の前にいる大きな魔女の姿になった。

 かずみちゃんはそれに少し驚いた様子で呟く。

 

『あらっ? 使い魔じゃなく、魔女だったか』

 

 視点人物はさっき見たのと同じ姿の魔女と相対している。すぐ目の前に居るのは薄ピンク色のふんわりした髪の少女……こいつはみらいちゃんか? 底の厚い眼鏡を掛けていて今よりも随分野暮ったく見える。

 そのみらいちゃんもまた視点人物と同じ、黒いショットガンを構えており、それを襲い掛かるクラゲの魔女へと放った。

 視点人物とみらいちゃん以外にも銃を撃った誰かが三人ほど居たようで計五発の弾丸がクラゲの魔女を貫く。

 身体に穴の開いたクラゲの魔女はそこから空気が抜けたように萎んで、干からびた。

 

『やっ……』

 

 歓声に似た呟きが傍であがった。思う様、死亡フラグだ。

 クラゲの上のベールのような帽子の顔が垂れていた触腕の一つを加え、空気を入れると、魔女は膨らみ、元通りの姿になる。

 そして不気味な笑みをこちらに向けた。

 

『ギャハッ』

 

『うわああああっ』

 

 視点人物を含めた少女たちの絶叫が上がり、手に持ったショットガンの引き金を引くがもう弾は出なかった。代わりにガチガチと無機物の奏でる不快な音だけが響く。

 

『ちくしょう……』

 

 クラゲの魔女は大きな口を広げて、視点人物を食らおうと――。

 

 **

 

「何ぼうっとしてるんですか!?」

 

 獅子村の声で俺は意識は戻ってくる。

 奇しくも俺の視界に入ってきたものは映像の中とまったく同じ魔女の口だった。

 俺たちを食らわんと牙の生え揃った大口を開き、眼前へと迫って来る。

 

『クソがもっと早く言えや! ボケ!』

 

「あ、ヒーローポイント-1! 正統派ヒーローは暴言を吐きません!!」

 

 このボケナス君はこんな状況だというのに俺の演技に対して、批評を欠かさない。こいつを魔女の口の中にぶん投げてやろうかと思ったが、それは敗北宣言なのでやめた。

 八つ当たりとばかりに鉤爪の生えた手を迫り来るクラゲの魔女の顎に突き刺して、相手の勢いを殺さずに魔女の身体を切り裂きながら下を潜り抜ける。

 

『おっらあ!!』

 

『ギャバハァ!!』

 

 クラゲの魔女は俺の鉤爪に切り裂かれて、顎の下から五本の傷が縦に広がった。

 悲鳴を上げて、胸から空気を排出しながら、魔女は細く萎んでいく。

 

「やったか!?」

 

『おい、馬鹿やめろ』

 

 目を輝かせて、あえてお約束どおりにフラグを立てる獅子村を睨むが、恐怖など既に消し飛ばして、ファンタジーものの演劇の登場人物になりきっているらしく、一向に意に介さない。

 獅子村の立てた「やってないフラグ」のせいという訳でもなく、さっき脳内で見た映像と同じように頭部の帽子に付いた顔が触手の一本に空気を入れることで復活を果たす。

 映像の中といい、今のといい、群集の魔女のだからか、一撃で殺しつくさない限りはこうやって簡単に再生を繰り返すようだ。

 だが、俺には炎がある。こいつで直火焼きにしてやるよ。

 クラゲの魔女へ俺は口から高温の火炎を吐き出した。

 しかし、魔女の方も待ってましたとばかりに、大きく開いた口から溢れんばかりの水を噴射する。

 水と炎が空中でぶつかり合うと、俺の炎を押し返すように勢いを増す。

 

「頑張れ負けるな! ダークアイズブラックドラゴン!!」

 

 背中に乗っているボケナスのテンションがやたら腹立つ。ぶち殺してやりたい。誰の目が闇だコラ。俺の目はいつだって光で溢れているんだよ!

 馬鹿を無視して火炎を放ち続けるが、炎では水には勝てない。なぜなら炎タイプに水は効果抜群だからだ。

 畜生め、どうして炎タイプは昔からこう不遇なんだよ!

 

「……あきらさん、今違う事考えてません?」

 

 エスパータイプか、お前。それなら、テレポートでポケモンセンターに戻ってレポートをしなお――。

 その時、また頭が(うず)き、映像がちらつく始める。

 ここでまたトリップしたら、確実に目の前が真っ白になること間違いなしだ。

 そこで俺は炎を吐きながら、獅子村に話しかける。

 

『獅子村……いや、サブ』

 

「何ですか?」

 

『君に決めたァ!』

 

「な、何を!?」

 

 俺は手の中から隠し持っていたイーブルナッツを取り出して、俺の背中から顔を出しているサブの額に突っ込む。

 肉体を魔物へと変貌していくその最中、俺は尻尾でサブの身体を掴み、水を噴き続けるクラゲの魔女へとぶん投げた。

 身体を大きく変形し続けるサブと激突したクラゲの魔女は大きく吹き飛び、サブ共々地面へと落下していく。

 

『ひ、ヒーローのやる事じゃなぁぁぁぁいー!!』

 

 黄緑色のライオンの姿へとなって落ちていくサブとクラゲの魔女を見送りながら、俺の視界は先ほどの映像に変わっていった。

 

 ***

 

 こちらを食い殺そうと襲い掛かってくるクラゲの魔女を前に視点人物は絶望の叫びを上げた。

 だが、その時、誰かの叱咤(しった)する声がその場に轟く。

 

『あきらめるな!!』

 

 大きく開かれた魔女の口にはつっかえ棒のように十字架の杖が挟まっている。そして、こちらを向いて語りかけてくるのはかずみちゃんだった。

 

『生きようとする限り、人は絶望なんてしない。希望はあるんだよ! 絶対にあるからっ!!』

 

 青臭い子供が好みそうな台詞を言うと右手を掲げて叫ぶ。

 

『例えばこんな――リーミティ・エステルティーニ!!』

 

 呪文と共にクラゲの魔女の口の中に縦に挟まった十字架の杖が眩く光、魔女の身体は光に消し飛ばされるように消滅する。

 かずみちゃんは魔女が居た場所に落ちていたものを拾う。それは俺が見たものと同じ、思い出した。確か名前はグリーフシードだ。

 

『お前は一体……』

 

 呆然とした声を出し、視点人物がそのかずみちゃんを見つめる。かずみちゃんの大きく黒い瞳に映っていたのは尻餅を突いている白いショートカットに眼鏡を掛けた少女、サキちゃんだった。

 そこで俺はこの映像が誰のものか、初めて気付いた。

 これはサキちゃんの記憶の映像だ。なぜこんなものを見ているのかそのメカニズムはよく分からないが、恐らくは俺が彼女のソウルジェムを砕いて食べたことが原因と見て間違いないだろう。

 とすると、この映像に映るかずみちゃんは記憶を失う前の――。

 

『私? 私は和沙(かずさ)ミチル』

 

 え? 待て。今、この目の前の少女は何と名乗った?

 和沙ミチル? かずみちゃんじゃないのか?

 もし、この記憶が正しいのなら、なぜかずみちゃんに本名を教えない? そして、なぜ誰も彼女を本名で呼ばない?

 俺はプレイアデス聖団の魔法少女たちとかずみちゃんの間に知られてはいけない秘密があることを確信した。

 そして、そのすぐ後、俺の意識はまた現実へと戻っていく。

 

 ****

 

 記憶の世界から戻ってきた俺はすぐに上空から下を見下ろすと、黄緑色のライオンとクラゲの魔女が激しい戦闘を繰り広げているのが見えた。

 黄緑色のライオンの魔物ことサブは俊敏に動き、食らい付こうとするクラゲの魔女を巧みにかわしている。それでいて、たびたび反撃とばかりに噛み付き、クラゲの魔女の一部を噛み千切っていた。

 ただ、向こうとしては大したダメージにはなっていないようで、見た目は激しいながら実質防戦一方と言ったところだった。

 俺は地面に滑空して下りていき、クラゲの魔女の横腹に位置エネルギーのこもった蹴りをお見舞いする。

 

『グッ、ギャアア!!』

 

 悲鳴を上げて突き飛ばされ、地面を転がったクラゲの魔女を尻目にサブを心配する発言をした。

 

『無事か、少年! もう、俺が来たからには安心だぞ』

 

『デジャブ!? いや、酷すぎますよあきらさん! いきなりこんな姿に変えられるわ、戦わされるわで最悪です』

 

『まあ、そう言うなよ。こっちも色々事情があったんだ。回想シーンとか』

 

 そうは言いつつも、さほど怒っているように見えないのは怪物に変わり、怪物と戦うという稀有な体験ができたからだろう。これで新しく怪物の演技ができるぞなんて考えているのが何となく伝わってくる。

 もう少し、こいつに戦ってもらってもよかったのだが、調べなくてはいけない用件ができた。ちゃっちゃと片付けて、そちらの方に取り掛かりたい。

 起き上がって俺を睨みつけるクラゲの魔女は再び、大口を開けて水流を噴き付けてくる。

 炎ではさっきの二の舞だ。斬撃は効かない。尻尾で弾いても特出してダメージは与えられないだろう。

 

『なあ、サブ。ヒーローっていうのはさ、回想シーンを挟むと強くなるって知ってるか?』

 

『はあ。まあ。そういう演出はよくありますね』

 

 俺の質問の意図が分からず、ライオン顔で首を傾げるサブ。

 それにさらに質問を足す。

 

『なら、新技で敵に止めを刺すってのはヒーローの演出としてどうよ?』

 

『それはポイント高いですけどって……あきらさん! 水流が!!』

 

 差し迫る水流にサブが慌てた声を上げる。さっきは映像のことに気が行って気付かなかったが、クラゲの魔女が吐く水には潮の香りが漂っていた。

 この海の中を模した結界、くらげのような見た目から察して、奴の吐く水は海水と断定していいだろう。

 そして、この俺の中にはサキちゃんの記憶を閲覧したせいなのか分からないが、自分の中に新たな力が渦巻いているのを感じられた。

 ソウルジェムを食った俺はサキちゃんの記憶を手に入れた。もう少し時間を掛ければ、恐らくはサキちゃんが経験した記憶をもっと見られるようになるかもしれない。

 だが、果たして俺が手に入れたのは記憶だけだろうか?

 

『あきらさん! 身体の色が白くなってますよ!?』

 

 サブの言うとおり、俺の漆黒の鱗は瞬時にその色を変え、打って変わって純白に変わっていく。

 クラゲの魔女の海水の鉄砲水が俺を穿(うが)とうと押し寄せるのを眺めながら、大きく口を開けた。

 そこから流れ出るのは炎ではなく、真っ白い電撃の波だった。

 塩分の含まれた海水は電気をよく通す。俺の吐き出した雷はクラゲの魔女の噴射している水ごと魔女の身体まで届いた。

 一瞬。本当に瞬き一つの間にクラゲの魔女は消し飛んだ。まるでサキちゃんの記憶の中と同じように。

 

『まるで……ヒーローのようだ……』

 

 雷の光に照らされたサブがそう漏らした。

 クラゲの魔女が倒されると、結界は解けるように消滅した。

 後に残されたのはあのグリーフシードだけだった。すぐに人間の姿に戻った俺とサブはそれを拾う。

 カオルちゃんはグリーフシードのことを魔女の残留思念なんて言っていたが、とんでもない。

 これは卵だ。魔女が生まれる邪悪な卵。そして、孵化させれば何度でも魔女を呼び出せる魔法の卵だ。

 なるほどなるほど。これに比べりゃ確かに俺たち魔物は「モドキ」止まりだ。

 いや、それにしても魔法少女がなる以外で魔女を作る方法があるなんて……。

 そう思いかけた瞬間に気が付いた。このグリーフシードがイーブルナッツよりも似たものがあることに。

 ――ソウルジェム。そう、あの宝石にも似ている。

 魔法少女は魔女になる。魔法少女の本体はソウルジェム。そして、魔女が生まれるグリーフシード。

 つまりこれも、魔法少女の成れの果てという奴だ。

 今日はいい日だ。たくさんの収穫があった。学校を休んだ甲斐があったというもんだ。

 そして、何より『和沙ミチル』。

 ああ。本当にこの街は俺を飽きさせない。

 最高だ。愛している。だから、たっぷり遊び尽くしてやらないと。

 魔女も、魔法少女も皆俺に使い倒されるためにある玩具なのだから。

 

「くくく、あははははははは!」

 

「でも、やぱり邪悪だわ、この人」

 

 楽しさのあまり大笑いをする俺の横でサブがそう呟いた。

 




あきら君、ライジングフォーム登場。
獅子村君の魔物態がお披露目回なのに、それよりも目立つ自己主張の激しい主人公……。

活動報告にて、ヒロインアンケートやってます。

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