魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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前回まで『ゲスな使い魔』

平凡な中学生・一樹あきらはある日突然、異世界アスナロに召喚されてしまう。彼をこの世界に召喚したのは、アスナロ魔法学院の生徒でありながらサディスティックな魔法少女「サドのユウリ」こと、飛鳥ユウリだった。
失敗とはいえ、召喚の儀式によって呼び出されたあきらは、「使い魔」としてルイズと契約のキスを交わす。すると、あきらの左手には使い魔の証である契約のルーンが浮かび上がった。こうして、ユウリと「犬」扱いされるあきらとの奇妙な同居生活と冒険が始まった。


第十四話 ご注文はスイカですか?

 あしなろ市にある最大のスタジアム、あすなろドーム。

 野球はもちろん、この市内で行われる大規模なコンクールやコンテストなどは基本にここで開催されると言われる超エキサイティングな場所。

 だが、名前が安直すぎる。この街の人間はどいつもこいつもネーミングセンスが欠如しているらしい。

 現在、午前0時0分。プレイアデス聖団との約束の時間ぴったりの時刻だ。ちなみに真面目に巡回をしていた警備員の皆さんは新鮮なお肉へと転職をしてもらった。ハローワーク入らずだね。

 俺を含んだトラペジウム征団は魔法により、スタジアムの真下に隠されていたのだが、予定していた時刻になった瞬間、空間がエレベーターのように動き、スタジアムに競り上がっていく。

 中心には台座があり、そこには縛り付けられたかずみちゃんが座っている。

 その周りには魔物化した俺、リッキー、サヒさんが護衛するように囲っていた。

 俺たちの立つ場所が観客席を見下ろすほどの高さを得ると、浮上し続けていた足場は停止する。

 そこから見える観客席にはサキちゃん、みらいちゃん、里美ちゃん、ニコちゃんの四人。流石に一日では魔法少女と言えども再起可能にはならず、カオルちゃんと海香ちゃんの姿は見えない。もしかしたら、伏兵として潜んでいるのかもしれないが、片方は失明状態、片方は足が負傷しているため、できることは高が知れている。

 プレイアデスの四人は俺たち、いや捕まえられているかずみちゃんの方を見るが、今日のアイドルは俺たちでもかずみちゃんでもない。

 

「ようこそ、イーブルキッチンへ! プレイアデス」

 

 ドームの後ろにある巨大な画面にユウリちゃんがどアップで映る。

 皮肉げな笑顔で嘲笑するようにプレイアデスの面子を歓迎した。

 そして、画面から這い出すようにせり出した足場へと飛び降りる。『リング』の貞子を彷彿とさせる演出だが、さっきわざわざ姿を変えられる魔法で画面に化けていたことを見ている俺としてはご苦労様としか言えない。

 仲良くなって分かったことだが、ユウリちゃんて結構アホなところが多い。そもそも一度かずみちゃんを攫おうとした時にトランクを間違えたくらいドジな女の子だったりするし。

 舞台へ降り立ったユウリちゃんはスタジアムのスポットライトが彼女に当たる。ちなみに照明を当てているのはひむひむだ。何でも演劇部だったらしく、照明器具の扱いには心得があるとのこと。

 

「かずみ!」

 

「かずみちゃん!」

 

 サキちゃんと里美ちゃんが台座に座ったかずみちゃんに呼びかけながら、こちらに跳んで来ようとするが舞台の端の不可視の壁に阻まれる。

 

「ぐあああ!」

 

 その壁に触れた瞬間、二人は電流でも走ったかのように苦痛に満ちた呻き声をあげた。後ろから来たみらいちゃんやニコちゃんに抱き留められて、真下へとどうにか着地した。

 ユウリちゃんが前以て張っていた結界のような魔法だ。この魔法の壁は外側から内側に入ることはできないが、内側からは自由に外側に出られるという便利な構造になっている。ユウリちゃんてば本当に多彩な魔法少女である。

 台座に居るかずみちゃんはその光景を見つめながら、ぽつりと呟く。

 

「え? だ、誰なの……」

 

『ですよねー』

 

 記憶喪失になったことを誰一人考慮していないせいで、かずみちゃんからすれば見たこともない少女が自分の名前を呼びながら突っ込んで来ているに過ぎない。

 せめて、カオルちゃんか海香ちゃんが居れば自分の仲間だと認識できたかもしれないが、彼女たちは今のところ不在だ。

 

『黒髪ちゃん黒髪ちゃん。あの子たち、アンタの仲間らしいよ』

 

 親切にちょんちょんと指を差して教えてあげると、かずみちゃんは俺を訝しげに見つめた。

 そういえば、攫う時はユウリちゃん一人でやらせたし、その後の警備も他の奴らに任せっ放しだったから、こうやって魔物形態で顔をつき合わせるのは初めてだった。

 

「……あなた、普通に喋れるんだね」

 

『見た目で差別しちゃ嫌だなァ? お嬢ちゃん。こう見えても知的なんだ、俺』

 

「その人を食ったような態度……何か見覚えが……」

 

 俺のことに何か気付きかけたかずみちゃんに俺は少しだけ嬉しくなる。姿がここまで変わっても態度で感じ取ってくれるなんて親でも無理な話だ。

 にも関わらず、かずみちゃんは今の俺から『一樹あきら』を連想しようとしている。

 見た目ではなく、その本質を理解してくれている証拠だ。

 しかし、その時誰かさんの馬鹿みたいに大きな笑い声が響き渡った。

 

「あはっあはははははははははは、うふ! いい気味ね、プレイアデス!」

 

 かずみちゃんの注意は俺からその笑い声の主であるユウリちゃんに移る。

 鬱陶しい奴に思えてきたな、あの子。底の知れた今じゃただのピエロにしか見えないし、せいぜい派手に壊れて俺を楽しませてほしいところだ。

 

「ここは悪魔の調理場。今宵はこのアタシ、魔法少女ユウリがお前たちに取って置きの料理を振る舞ってやる。今日の食材はこのイーブル・ナッツと――魔法少女かずみ!」

 

 ユウリちゃんは指に挟んだイーブル・ナッツを高らかに掲げ、プレイアデスの皆さんに見せる。

 そして、にやりといやらしい笑みを浮かべ、そのイーブル・ナッツをかずみちゃんへと向けた。

 

「作り方は簡単、このイーブル・ナッツ額に埋め込み、アブラ・カダーブラ……ここに居るこいつらと同じように立派な化け物へと早代わり……どうだ? 見てみたいだろう?」

 

 かずみちゃんは俺やリッキー、サヒさんを見て怯えた顔を浮かべる。言葉にはしなくても、こんな姿にはされたくないという嫌悪感が伝わってきた。

 舞台の下に居るプレイアデスの面々もぞっとした顔で思い留まるようにユウリちゃんに叫ぶ。

 

「やめろ、ユウリ! そんな事をして何になる!」

 

「そうだ! やめろ! かずみを返せ!」

 

「あなたは私たちに何の恨みがあるの!?」

 

「私たちにはあなたにここまでされる事をした覚えはないけど?」

 

 その言葉を聞いて、ユウリちゃんは顔から全ての表情を消し去った。いや、恐らくは怒りが臨界点を突破して思考が真っ白になっているのだろう。

 舞台から飛び降りて、プレイアデス聖団の皆を直接殺しに行こうとするが、それを俺が掴んで止めた。

 

「……っ!」

 

 凄まじい形相で俺を睨むが、それに気にせず俺はユウリちゃんを宥める。

 

『おいおい。料理人が調理場から出て行っちまったら駄目だろ? ギャラリーはこっちに任せてくれよ。オルソ、ポルコスピーノ、それからヴァンピーロ。行くぞ!』

 

 俺が二人に呼びかけると、待ってましたとばかりにリッキーとサヒさんは舞台から飛び降りる。さらに上の方からスタンバイしていたひむひむが翼をはためかせながら降下してきた。

 それを見送ってから、俺も二人に続いて下に降りようとした。

 

「待て……」

 

 すると、それをユウリちゃんが止める。

 振り返えると、彼女は被っている魔女っ子の帽子を少しだけ目深にして、俺に呟いた。

 

「さっきはどうかしてた。……ありがと」

 

 表情は見えないが、照れていることは十分伝わってきた。

 まったく、ちょっと過去話に共感示しただけでここまで心を許すとは……復讐者なんて名乗ったところで大したことのない子だ。

 だが、俺はそれに優しく答えた。

 

『どういたしまして。復讐、頑張りなよ』

 

 そう言うとすっと顔を背けて、翼を広げて舞台の下へと舞い降りた。

 下では既にひむひむたちはプレイアデス聖団と睨み合いをしている。

 そこにちょうど俺が混じることで数としては四対四の形が出来上がる。合コンみたいでちょっと心が躍った。

 

『さて、プレイアデス聖団の皆さん。俺たちはトラペジウム征団というもんだ。とりあえず、今はユウリちゃんとは協力関係にあるから、彼女の邪魔はさせないぜ? そちら二人ほど欠員がしてるみたいだけど……あのオレンジ髪と黒髪の魔法少女はどうしてる?』

 

「カオルと海香をあれだけ痛めつけたのはお前らか……かずみを返せ!」

 

 サキちゃんが俺に怒気と共に襲い掛かってくる。この女、クールなのは見た目だけで中身はただの狂犬みたいだ。

 乗馬鞭のような武器を俺に向けて振るうが、どうにも動きが読みやすい。

 

『行儀なってないなァ。それじゃ、淑女には程遠いぜ!』

 

 俺は少し様子を見るために、口を開いて軽く火炎の息吹を吹きかける。

 炎が波状になって彼女を包もうとするが、それを乗馬鞭で払い除けて進む。

 

「舐めるなよ!」

 

 雷のようなものを乗馬鞭に纏わせて、炎を切り裂くように突っ込んでくる。

 電撃を武器に纏わせることができるようだ。だが、何とも動きの方は相変わらず、まっすぐ過ぎる。馬鹿にしているのか、それともこいつが単にイノシシ女なのか……かずみちゃんが人質に取られているとはいえ、軽率だ。

 しかし、何だか分からないが、その意気や良し。俺も炎の中の彼女に付き合い、そちらへと向かって飛んだ。

 炎は俺にも纏わり付くが、身体中にびっしりと生えた鱗が高熱から俺を守ってくれるおかげで実質無害だった。

 正面から迫るサキちゃんを鋭い鉤爪で引き裂いてやろうと手を振るう。

 サキちゃんはそれを身体を捻ることでどうにかかわすが、腕を掠めたせいで持っていた乗馬鞭を炎の海に落としてしまった。

 

『大事な武器は飛んでちまったなァ?』

 

 俺は好機とばかりに笑みを深めて追撃しようとして、違和感を捉えた。

 この状況でサキちゃんの口元が笑っていたのだ。

 咄嗟(とっさ)に周囲に気を配ると、俺の斜め後方から火炎の波の中から何かが跳ね上がるのに気付いた。

 死角から顔を狙って振るわれるそれは先ほどサキちゃんが落とした乗馬鞭。纏われている電撃は今も健在でバチバチと音を立てている。

 手から離れても遠隔操作で操れるのか!?

 眼球を潰すような軌道で襲い掛かる乗馬鞭を俺は辛うじて尻尾でそれを弾いた。鱗に覆われている尻尾は僅かに痺れを感じただけに済んだが、もしもあのまま気付かずに顔を狙われていたなら、眼球が潰れていたかもしれない。

 弾かれた乗馬鞭はなおも宙に浮かび上がり、俺と対峙する。

 当のサキちゃんは舞台の側面を駆け上がり、かずみちゃんの方に向かおうとしていた。

 遠隔操作できる乗馬鞭をわざと落として油断させ、不意を突き、自分はかずみちゃんの救出しに行こうという魂胆だったようだ。

 単なる猪ではなかったみたいだが、戦いよりも人質救出に向かうのは愚策だな。こんな遠隔操作できる鞭は流石に驚いたが、所詮は一発芸。

 二度目をやるほど俺は甘くはないぜ?

 複雑な軌道を描き、翻弄しようと乗馬鞭が襲い掛かるが、何のことはない。

 見慣れれば、動きは手に握られていた時よりも読みやすい。

 乗馬鞭の追撃を避けながら、舞台を駆け登るサキちゃんの傍まで飛びながらにじり寄る。俺の接近に驚いて振り返るがもう遅い。

 そのすらりとした背中に爪を立ててやるよ!

 真っ黒い黒曜石のような鉤爪がサキちゃんの背中を抉るように引き裂く。

 

「くっ……!」

 

 小豆色の軍服に似た衣装がばっくりと裂けて、内側から鮮血が吹き出し、俺の腕を赤く汚した。

 

「サキィ!? ボクのサキを傷つけやがってぇぇえ! 『ラ・べスティア』ァァァ!』

 

 リッキーが相手をしているみらいちゃんが激昂して、俺に向けて大量のテディベアを召喚する。ぞろぞろとテディベアどもが群がるアリのように寄って来た。

 翼を羽ばたいて、蹴散らすがまた体勢を立て直すと俺に向かって行進を始める。

 

『生憎とお人形遊びは好きじゃないんだよ!』

 

 火炎を吹きかけて燃やそうとするが、みらいちゃんはさらにキレた顔で呪文を叫ぶ。

 

「だったらぁ! 『ラ・べスティア・リファーレ』ッ!」

 

 テディベアたちが一斉に固まり合い、固体同士を融合しあって、一匹の巨大なテディベアへと姿を変えた。さらにみらいちゃん自身が走ってきてそのテディベアの頭の上に飛び乗る。

 俺と同サイズのテディベアにこれまた驚く。魔法少女って多彩!

 だが、目には目を熊には熊を。

 

『悟飯! オメエの出番だ!』

 

『誰が悟飯だ!』

 

 俺のボケに返しつつもリッキーは巨大テディベアを脇から突き飛ばす。

 相撲でいうところの「ブチカマシ」という奴だ。リッキーを無視して俺に攻撃しようとしていたみらいちゃんは乗っていたテディベアごと吹っ飛ばされる。

 

『お前の相手は俺だよ! 無視すんな、ぬいぐるみのガキ!』

 

「クソが! 雑魚は引っ込んでろ!」

 

 巨大な大剣を出現させて、みらいちゃんはリッキーを真っ二つに切ろうとする。

 しかし――。

 

『貧弱ななりして、そんな得物使ってんじゃねぇ!』

 

 純粋な筋力で言えば、トラペジウム征団でトップのリッキーはその大剣を白刃取りで受け止める。

 

『オラァ!』

 

 そして、その強靭な腕力で大剣をこなごなにへし折った。

 サキちゃんを傷付けられて理性を失っていたみらいちゃんもこれには肝が冷えたようで表情に怯えが浮き出る。

 すぐさま、残っていた剣の柄を投げ捨て、自分を巨大なテディベアに回収させてからリッキーと睨み合う。

 うんうん。あっちはあっちで対処できそうだ。他のメンバーも同じく一人づつ、魔法少女にマンツーマンで対応している。

 ひむひむやサヒさんの方も少し気になるが、俺は引き続きサキちゃんの相手をしよう。

 こうしている間にも背中の傷を無視してサキちゃんはかずみちゃんの元へと向かっていた。どれだけかずみちゃんが心配なのやら。

 俺の周りをハエのように飛び回って攻撃してくる電撃が付与された乗馬鞭を見やり、グリップ部分を狙って尻尾で絡め取る。

 思った通り、グリップ部分には電気が通ってないらしく、痺れることはなかった。

 

『落し物だぜ? お嬢ちゃん』

 

 再び、空を飛んで距離を詰め、愚かにもまた俺に向けている背中の傷口目掛けて乗馬鞭の先を押し込む。

 

「うづッああああああああ!」

 

 サキちゃんの悲鳴が上がる。

 付与されていた電気は霧散して、青白く発光していた乗馬鞭は元の黒色に戻った。

 けれど、俺はそんなことは気にも留めずに、乗馬鞭を押し込み続ける。平べったく、柔らかいために真っ直ぐに突っ込み続けるのは難しかったが、尻尾の筋肉を駆使して捻じ込んでいく。肉がひしゃげて血液が染み出し、黒い鞭を赤く変えた。

 

『大事なものは奥の奥に入れてやれておかないと、悪い人に取られちまうぞ?』

 

「ッ、返しにきた事を後悔するといい!」

 

 背中に手を回して、半ば背中に埋まった乗馬鞭を掴んで引き抜く。

 

「うぐぅ……!」

 

 押し込まれていた肉が無理やり引きずられて、血をだらだらと流している。爪で引き裂いた傷はさらに広がり、真っ赤な断面図と露呈していた。

 だが、それと同時に俺の尻尾が絡んでいるグリップ部分が伸びて俺の身体を縛るように巻きついていく。

 

「武器を返しに来るとは間抜けだな!」

 

『おう。俺はサービス精神旺盛だからな。もう一つおまけをしてやるよ』

 

 俺は縛られたまま、翼を動かして上空へと飛び上がる。乗馬鞭の先を握っているサキちゃんも強制的に空の旅に参加させられることになる。

 

「なッ、貴様。何を!?」

 

『人質の魔法少女が心配なんだろ? 特等席から見せてやる』

 

 舞台の上の方がよく見えるように高く飛び、椅子に縛り付けられたかずみちゃんをサキちゃんに見させてあげる。親切な俺はまさに空飛ぶ天使と言えるだろう。

 当のかずみちゃんはちょうど額にイーブルナッツを押し込まれている最中だった。

 

「メインデッシュ! マキガ・アラビアータの完成だ!」

 

 ユウリちゃんは邪悪に歪んだ笑みを浮かべて、指先で摘まんでいたイーブルナッツがかずみちゃんの頭の中へと吸い込まれていった。

 その瞬間にかずみちゃんの瞳が限界まで見開かれ、瞳孔の形状が人のものとは思えない形に変化する。縛り続けていた椅子の拘束を引きちぎり、呆けた表情で天を仰いだ。

 

『おお。ナイスタイミングだったな。大好きなお友達が化け物に変わる姿を眺められるな』

 

「かずみィィィ!!」

 

 サキちゃんは乗馬鞭から手を離して、舞台を覆う不可視の壁にへばり付くように飛び降りた。

 身体をその壁に焼かれながらも、いじましく涙混じりに壁を殴打する。

 ああ、何と感動的なシーンなんだ。記憶を失い、自分のことも分からない友を助けるために身体を傷付ける。

 俺はそんな彼女に心打たれて、かずみちゃんの元に行かせてあげるために不可視の壁を砕いてあげることにした。

 空中で一度離れてから加速しつつ、爪の生えた大きな足が不可視の壁を打ち砕く。サキちゃんの身体ごと。

 悲鳴さえ上げる暇もなく、ガラスのように砕け散った障壁とともにサキちゃんの身体が舞台の上に転がった。

 

『感動のご対面だ。ほら、嬉しいだろ?』

 

 雑巾のように前のめりで倒れたサキちゃんは天を仰いだかずみちゃんを見上げる。

 かずみちゃんはそんな彼女をゆっくりと見るために顔を動かした。

 

「か、かずみ……?」

 

 ぎょろりとサキちゃんを見つめたかずみちゃんの瞳は対極図のような形状をしていた。

 無造作に振り上げた彼女の手には十字架を模した杖があり――。

 それを容赦なくサキちゃんへと振り下ろした。

 例えるなら、それはスイカ割りのようだった。

 何がどうなったかなんてわざわざ口に出すほうが野暮だと思えるほど、当たり前の結果がそこにはあった。

 




今回は前編みたいな扱いです。続きはもうちょっと待っていてください。

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