魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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前回までの『ゲスクールD×D』

俺、一樹あきらは、年齢=彼女いない歴の中学2年生。
そんな俺に彼女ができた!友よすまん、俺は一足早く大人の階段を上がる!
―はずだったのに、なんで俺は彼女に殺されてるんだ!?
まだなーんにもしていないのに、この世は神も仏もないのか!?
そんな俺を救ったのは学校一の美少女、飛鳥ユウリ先輩。
神でも仏でもなく魔法少女だという彼女の口から、衝撃の事実。

「お前は魔物として転生したの。アタシのために働きなさい!」

先輩のおっぱいとご褒美につられた、俺の下僕魔物としての人生はこうして幕を開けるのだった。
勢いと煩悩のみで贈る、学園ラブコメバトルファンタジー開幕。



第十三話 愚かなピエロ

 温かい日差しに包まれながら、俺は腕に付いた時計を眺める。

 デジタルな数字盤が指し示す時間は待ち合わせの時刻。

 今日、俺は一人の女の子とデートをする約束を取り付けておいた。

 身嗜みの最終チェックのために持って来ていた手鏡をそっと取り出して、折りたたみ式の(くし)で髪を()かす。

 まだ、かな……? 早く来てくれないかな?

 もじもじとしながら、遊園地の前で俺は彼女を待つ。可愛い。天使のような可憐さだ。

 ああ、もう、こんなプリティでキュアキュアしている男子を待たせておくなんて、本当に人が悪いぜ。

 自分の可愛さに自惚れていると、お相手の女の子が酷く面倒くさそうな表情で現れた。

 服装は袖の長い黒のセーターにミニスカート、首元に巻かれたマフラーと帽子が似合っている。いつも露出の多い格好をしていたから、布地が多少多いだけで清楚なイメージに見える。

 

「もう! 普通なら、待ち合わせの時間前に着いてるのが常識だぞ! あきら君、激おこぷんぷん丸!」

 

「ぶち殺したくなるから、そのキャラ止めろ」

 

 ゴミを見るような目で俺を恫喝する彼女の名前はユウリちゃん。謎多き、金髪ツインテールの魔法少女。

 シャープで整った顔立ちに獰猛さと冷酷さと狂気を兼ね備えた、一押しの美少女だ。

 

「まあ、時間通りには来てくれて嬉しいぜ。ユウリちゃんてば、連れないからさー」

 

「……あまり時間は掛けたくないからさっさとしてほしいんだけど? あいつらに任せたとは言え、かずみが目を覚まして脱走する可能性だってあるんだから」

 

 ユウリちゃんは本当にかずみちゃんのことばかりで、俺の相手なんかしてられないと言った表情だ。冷たい。ほんまに氷のような子やでぇ。

 そんな彼女の態度を一貫して、無視して俺は彼女の手を握って、遊園地の受付へと走り出す。

 

「今日は魔法少女とかそういうの全部、忘れて楽しもう。な?」

 

「おい、ちょっとあきら、いきなり引っ張るな、馬鹿」

 

 いきなり腕を引っ張られて、少し当惑しているユウリちゃんを余所に俺は既に買っていたチケットを受付のお姉さんに見せて、園内へと入っていく。

 ラビーランド。このあすなろ市でもっとも大きなテーマパークだ。

 キャッチコッピーは『夢と希望溢れる素敵なウサギの国』。ネットで見たがウサギのマスコットの目がやたらとでかいのに中の黒目が小さいせいで全然可愛くないのが印象的だった。こんな不細工なマスコットを考えたデザイナーもデザイナーだが、それを許容した遊園地側もアホだと思う。

 園内には大きな中世ヨーロッパの大きな城がデンとそびえ立っていて、その近くにジェットコースターや観覧車などが散見している。

 このあすなろ市はどこまで中世ヨーロッパ的外観に拘る気なんだか分からない。ここまでくると一種のコンプレックスみたいで面白いとも言えなくないけど。

 

 最初はメリーゴランドで乗り込み、軽快な音楽と共に動き出すウサギの形の乗り物に乗って遊んだ。ユウリちゃんはむすっとした顔のままで楽しそうじゃなかったので、降りた後にラビーちゃんマスクとか言う目の焦点合っていないウサギのお面を買ってあげた。本人はかなり嫌そうにしながらも、押せ押せのテンションで頼むと、被らないまでも縁日のように頭にずらして着けてくれる。

 案外、押しに弱い女の子なのだなと何となく、思った。

 その後、コーヒーカップに二人で乗って、くるくると回っていると、ずっとだんまりを決め込んでいたユウリちゃんがようやくその重い口を開いた。

 

「一体、何が目的なんだ?」

 

「目的って……デートの目的なんて楽しむこと以外にないじゃん。何言ってんの、ユウリちゃん?」

 

 コーヒーカップの中心にあるハンドルを回して、回転の速度を上げる。

 周りの景色の動くスピードが少しだけ、上がっていく。

 

「アタシは正直、あきらが何を考えているのか分からない。この大事な時にわざわざ遊園地に呼び出すなんて、意図が不明すぎる」

 

 不審な眼差しに俺は苦笑いを浮かべた。

 

「それだよ、それ。そういう不信感持たれちまってるとこを何とかしたいの。俺ら、いわゆる運命共同体な訳だろ? もっと、お互いのこと知り合うべきだと思うんだよね」

 

 俺もユウリちゃんもお互いについての情報が少なすぎる。

 ここらで彼女の過去をはっきり知っておきたい。争いの中心に立ったのにその争いの背景さえ知らないなんて茶番そのものだ。

 俺は物事の中心地でありたい。何もかも知った上で暴れまわってムチャクチャにしたいのだ。

 ユウリちゃんの瞳を覗き込む。

 

「聞かせてくれ。プレイアデス聖団を恨むその理由を。じゃないと今度のモチベーションに関わるぜ?」

 

 俺の顔をしばらくじっと見つめた後、ユウリちゃんは一息吐いてから、ぽつりぽつりと語り出す。

 話は一人の少女のことから始まった。

 

杏里(あんり)あいりという少女が居た。その子は大病に冒されて、もって三ヶ月の命だった。それを知ったあいりは自暴自棄になり、親友の女の子、飛鳥ユウリに泣き喚いた」

 

 ユウリ……? なぜ、そこで『アタシ』ではなく、名前で言ったんだ?

 そんな疑問を感じたが、ここで話をぶった切るのも空気が読めないのでそのまま、黙って聞く。

 

「そんなあいりを見捨てる事なく、ユウリはこう言ってくれた。『あんたが生きたいと思うなら、アタシはどんな手を使ってでもあんたを助ける』って。あいりにこの夢色のお守りを渡して、ユウリはあいりの病室を後にした」

 

 ユウリちゃんはそう言いながら、デザートスプーンを(かたど)ったペンダントを服の中から取り出した。

 大した値打ちもなさそうなちょっとアクセサリーだ。シンプルで実に安っぽい。

 しかし、会話の仕方がどうにも妙だ。まるで自分と話の中に出てくるユウリちゃんが別人にような話し方だ。

 

「間もなく、あいりの病気は完治した。二人は喜び合ったわ。その時は最高に幸せだったから。……でも、それからが悲劇の始まりだった」

 

 今まで気分よく話していたユウリちゃんの顔が一変して険しくなる。

 俺はそれを見ながらも、コーヒーカップのハンドルをゆっくりと回し続ける。

 

「あいりが学校に通えるまでになった頃、料理上手なユウリはあすなろドームで行われる料理のコンクールに出場した。あれよあれよと言う間に決勝戦にまで勝ち進んだユウリはそこで会場から姿を消した。当然、あいりは心配して、ユウリを探しにあすなろドームの外を歩き回ったわ」

 

 そこで一度話を区切り、夢色のお守りという名のペンダントを凝視した。

 

「歩き回っていたあいりは見知らぬ空間に迷い込んだ。見たこともないおかしな場所に……そこであいりは『化け物』と出合った。フォークと注射器をモチーフにしたような不思議な姿だったわ。そして、その『化け物』を即座に倒したのがプレイアデスだった……」

 

 ユウリちゃんは夢色のお守りをぎゅっと握り締めて、憤怒の形相で話を続ける。

 そこから先はそうでもしないと耐えられないというように激情を抑え付けるような声だった。

 

「……プレイアデスは『化け物』をあっという間に倒した。助けられたと思ったあいりは奴らにお礼を言ったわ。『助けてくれてありがとうございました』ってね。『化け物』が消えた後、不思議な空間から解放されたあいりは……そこでユウリのペンダントを見つけた」

 

 そこからとうとう抑えきれなくなった声で叫ぶように荒々しく話し出す。

 

「訳が分からずに困惑したあいりの前に妖精が現れた! そいつが教えてくれた! あのプレイアデスに倒された『化け物』がっ……ユウリだったという事を!! それから、ユウリがあいりの、()の病気を治す事を対価に魔法少女になった事を!」

 

 そこから先はかなり感情が入り混じりどうにもちぐはぐな喋り方だったが、話を要約するとこの話に出てきた『ユウリ』という少女は魔法少女となって魔女と戦うかたわら、難病を患う子供を治療していたが、それに無理が祟ってプレイアデス聖団の前で魔女になり、倒されたということらしい。

 そして、親友の『ユウリ』を殺した奴らにお礼まで言ったあいりはその悔しさと憎しみから、その場で妖精と契約して魔法少女になった。

 その願いが『自分をユウリにしてくれ』というもの。『ユウリ』として、プレイアデス聖団に復讐するためにユウリの姿を手に入れた。

 つまり、今まで話に出てきたあいりこそが、今俺の前に居るユウリちゃんで、本物の『ユウリ』は魔女になり、プレイアデス聖団の面子にぶっ殺されたということだ。

 俺らが魔女モドキだと言われた時から、モドキではない魔女が居るとは思っていたが、まさか魔法少女の成れの果てとは……。

 無理が祟ったとかいう話だったが、恐らくは魔力の使いすぎによる結果だろう。

 ジュゥべえとかいう妖精が魔力を回復させているみたいだったが、それをしないと自分たちが狩っている化け物に成り下がるという訳か。笑える話だ。超ウケる。

 爆笑しそうになったが、元あいりことユウリちゃんが確実に切れること受け合いなので自重した。

 代わりに、実に共感しましたーボロ泣きでございますーといった感じに悲しそうな表情を作り、ユウリちゃんを気遣う発言をする。

 

「そっか、そんな辛い過去を隠していたんだな。もっと、早く言ってくれりゃよかったのに。前よりももっと積極的に力を貸すぜ、『ユウリちゃん』」

 

「意外だな……。あきらなら、馬鹿しいとでも吐き捨てるかと思ったけど」

 

 少しだけ驚いたようにユウリちゃんは俺を見る。その眼差しはいつもよりも優しかった。

 こんなありがちな台詞吐いただけで、俺の心象が若干上がったらしい。粋がってはしゃいでいた割りに内心では理解を欲していたようだ。

 過去を吐露したせいか、底の浅さと精神の弱さが垣間見える。

 

「当たり前だろ? 親友を殺されたら誰だって憎むぜ。俺たちで正義の味方気取りの虐殺者に鉄槌を下してやろう!」

 

 俺はユウリちゃんに力強く、宣言した。

 

「……ああ。一人残らず殺して、ユウリの敵は必ず取ってやる」

 

 それに呼応するように彼女は瞳に狂気の色を滲ませる。

 実に扱いやすい女の子だ。自分に取って心地よい言葉を吐く相手は一番信用ならないというのに。

 はっきり言えば、今の話だって単なる逆恨みにしか過ぎない。代替案も出せずに文句を言う様は無知な幼子そのもの。

 大義名分にもならないクソを掴んで印籠のように得意になってやがる。こんな奴に恨まれたプレイアデス聖団の皆には同情するな。

 だが、まあ、取り合えず、今ここですべきは……。

 

「ジェットコースターに乗ろう。今夜の零時までずっと張り詰めてちゃ疲れちまうぞ?」

 

 ラビーランドで思い切り遊ぶことだ。

 俺はコーヒーカップを止めて、ユウリちゃんの手を引いてジェットコースターの方へ駆けて行く。

 俺に秘密を話し、己の理論を肯定してやったおかげでユウリちゃんはさっきよりも素直に着いて来てくれた。心なしか微笑みさえ浮かべている。

 

「あきら。お前って……よく分かんない男だな……」

 

「そう? 俺は思う様に生きているだけだと思ってるけど」

 

 ――アンタがチョロくて単純なだけだよ、ユウリちゃん。

 そう心の奥で呟いた。

 

 *

 

 日が暮れるまでアトラクションに乗って楽しんだ俺とユウリちゃんは、最後に観覧車に乗っていた。

 赤い夕日は高いところから見ると絶景でロマンチックに映った。

 ユウリちゃんは窓の外のその光景を遠い眺めていた。

 

「本物のユウリちゃんにも見せてあげたかったな、この夕日」

 

 俺がそう言うと驚きに満ちた目で振り向いた。

 内心で考えているだろうと思ったことを言葉にしたら大正解だったようだ。

 

「ああ……あいつらさえ居なかったらこの遊園地も来たかもな」

 

 すっかり俺に信用を置いた様子のユウリちゃんは、素直に頷いて俯いた。

 俺はそんな彼女を見て、少し趣向を変えた悪戯を一つ思い付く。

 何気ない口調でユウリちゃんに語りかける。

 

「なあ、俺はミッション系の中学校に通ってたんだけどさ。そこでキリスト教についてちょっと勉強してちょっと思ったことがあるんだ」

 

 意図の見えない発言にユウリちゃんは怪訝そうに顔を上げた。

 戸惑いの顔だが、俺はそれに構わず喋り続ける。

 

「イエス・キリストを本当の意味で殺したのは誰なのかって。金貨三十枚でイエスを売った弟子のユダか、イエスを捕らえた大祭司カイアファか、イエスを陥れるよう仕向けたガリラヤのユダヤ人領主ヘロデ・アンティパスか、イエスを殺すように叫んだユダヤの群衆か、イエスをその手で処刑した兵士ロンギヌスか……ユウリちゃんは誰だと思う?」

 

「知らないよ。キリスト教なんて興味もないからな。最終的に殺した兵士じゃないのか?」

 

 憮然と答える彼女に俺は首を横に振った。

 

「俺の見解は違う。イエス・キリストを殺したのは後の世のキリスト教徒だと思ってる。だってそうだろ? 隣人を愛せと、己の敵を愛せと言った人間の教徒を名乗る連中が散々異端だのなんだのって人を大量に殺したんだぜ? 魔女狩りとか、まさにそうだ」

 

「何だ? プレイアデスの事を例えてるのか?」

 

 魔女狩りのところからユウリちゃんはプレイアデス聖団を連想したようでそんな風に尋ねてくる。

 だが、俺はそれにも首を横に振って答えた。

 

「違う違う。ただ、イエス・キリストの代行者のような顔をしながら、彼の絶対にしそうにないことをするキリスト教徒は本当の意味でイエス・キリストを汚名で塗り潰して殺してしまったんじゃないかと思っただけだよ」

 

「結局何が言いたいんだ、あきらは」

 

 やはり理解できないように首を傾げたユウリちゃんに俺は笑った。

 その愚かさと傲慢さに賞賛と憐憫を籠めて、にんまりした笑顔を作る。

 ここまでの皮肉を言われて、気付かないのは一種の才能と呼べるかもしれない。

 

「あはは。俺、物知りだろって自慢したかったんだよ。そんだけ」

 

「嫌味な奴だな」

 

「いや、悪かったよ」

 

 少し不機嫌になった彼女に俺は謝りながらも、内心で爆笑し続けていた。

 これほど滑稽な物語なんてそうそう見られるようなものじゃない。

 難病に苦しむ子供を助けてきた少女の面と名前を使いながら、やろうとしていることは逆恨みの殺人行為。

 本物のユウリという少女が積み上げていたものにクソを塗りたくって素晴らしいとほざいている訳だ。

 最高のピエロだな。あまりにも滑稽すぎて返って愛らしく思えてくるほどだ。

 せいぜい、惨めに壊れて砕けるところまで見せてもらうとするか。

 取り返しの付かなくなったところで、指差して自分がやってきたことがどれほど愚かな所業か懇切丁寧に教えてやろう。

 




散々ユウリ(あいり)のディスりすぎてアンチに見えていますが、これはあきら君が酷いからこうなっているだけ、作者としては貶めているつもりはないのですが……。

まあ、存在自体が邪悪な彼が人のこと言えるとは思えませんが、彼は究極のエゴイストなので逆に突き抜けていますのでもはや意味がないのでしょう。

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