魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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前回までの『ボクは理解者が少ない』

あすなろ中学二年生の氷室悠は、三ヵ月前に転校してきたものの、ハーフで金髪という風貌で誤解されやすいために、友達が全然できなかった。ある日、邪悪な性格と殺人癖のせいで孤立していた一樹あきらとひょんなことから知り合い、肉塊作りを目的とした「殺人部」を結成。入部希望者が続々と集まってくる。しかし、部員の一人が考案したゲームが波乱を起こし……。


第十二話 魔法少女いらっしゃい

 プレイアデス聖団。

 七人の魔法少女からなる集団でこのあすなろ市で一番勢力を持っているらしい。

 要するに『とってもつお~い女の子』たちなのだが、正直そこまで大した相手とは思えない。

 現在その内、二人戦闘不能、一人拉致。涙が出るほど惨敗。数の上ではこちらが二倍だったから仕方がないとは言え、見っともないことこの上ない結果だ。

 個々の面子が強いというよりは、連携やチームワークが要なのだと思うが……まあ、それは追々調べてみよう。

 

 海香ちゃんは盲目状態でありながら携帯電話を指先の感覚だけで操作して、その残りの四人を半壊した御崎邸へと呼んでいた。

 現れた四人はそれぞれ特徴のある女の子たちだった。

 リーダー格っぽいのキリッとした背の高いショートカット白髪の眼鏡の子、その隣にふわふわした薄ピンク髪の長い幼い顔の子、柔和なそうな表情を浮かべたパーマ掛かった赤髪の子、前髪だけ一房飛び出した下の方で二つ分けのクリーム色のツインテールの子。

 皆、海香ちゃんたちと同じく平均水準以上に可愛い顔立ちの女の子たちばかりだ。魔法少女と契約する妖精とやらは美少女だけを狙っている疑惑が俺の中で浮上した。

 

「かずみが攫われたっていうのは本当か!?」

 

 来て開口一番に白髪ショートの子が言った言葉はそれだった。

 半壊した邸宅やボロボロの二人の心配よりもかずみちゃんを心配する台詞が出るとは意外だった。彼女にとって一番重要度の高いことはかずみちゃんのようだ。

 

「ちょっとサキちゃん! まずは二人の身体を気遣ってあげるべきじゃないの?」

 

 良心的な台詞を言ったのは赤髪のパーマの子。サキと呼ばれた白髪ショートを咎める物言いになかなかの常識人らしさを感じた。

 

「二人とも喧嘩しないで。まずは海香たちからここで何があったのかを話を聞いてからにしようよ。……そこの君の事も聞かせてほしいし」

 

 クリームツインテールの子は(いさか)いを始めそうな二人を宥めながら、俺を一瞥した冷静そうな落ち着き払った態度に俺はこいつが一番手強い相手だと直感する。

 まず最初に殺しておかなければいけないのは七人の中でこの少女だ。

 そう思いながらも、俺は少し現状が把握できていないお馬鹿さんのような演技を開始した。

 

「なあ、アンタら、海香ちゃんたちと同じ魔法少女なんだろ……? だったら、二人の怪我を魔法で治してやってくれよ! カオルちゃんは足ちぎれてて出血量が多かったみたいで顔色も悪くて目を覚まさないし、海香ちゃんは全身針穴だらけでおまけに両目が潰れてるんだ!」

 

 取り合えず、一番手近な位置にいたふわふわピンク髪の子の肩を掴んで揺する。

 彼女は俺を不快そうに見ながら、拳で俺の顔を殴る。

 

「いきなりボクの身体に触るな! この変態が! ていうか、誰だよ!?」

 

 暴力的で思慮に欠ける見た目どおり幼い挙動。短絡的な思考は恐らく、精神の未熟さの表れだ。精神的にはこいつが一番扱いやすそうだ。

 魔法のことはまだ分からないが、こいつはプレイアデスの『穴』だ。扱いやすいということは同時に壊しやすいということと同義だ。

 内心でマークを付けて、俺は殴られた顔を擦る。

 

「いってぇ!! いきなり殴るとか酷いぞ、アンタ」

 

 涙目で見つめると、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。うんうん、実にテンプレートなお子ちゃまタイプだ。

 自分の人間像が大体合っていることに満足すると、話が通じやすそうな赤髪パーマの子に視線を移した。

 

「と、とにかく、俺のことよりも二人をどうにかしてやれないのか?」

 

「ちょっと待ってて。……べえちゃーん。出てきてべえちゃーん」

 

 赤髪パーマの子は「べえちゃん」という何者かを呼ぶと穴の開いた天井から一匹の獣が降りてきた。

 それは黒い身体に顔だけ白い猫に似た小動物だった。長い尻尾と首元から生える二本の触腕のような部位が特徴的だった。

 これが魔法少女の『妖精』という奴だろうか。思っていたのよりも可愛い見た目で僅かに驚いた。

 

「べえちゃん。海香ちゃんたちのソウルジェムを浄化してあげて」

 

「おう、任せろ。掃除の時間だぜ、二人とも」

 

 声変わり前の少年のような声を発して、床に倒れこんでいる海香ちゃんとソファで横たわるカオルちゃんの傍に寄っていく。

 海香ちゃんは自分の手のひらに自分の髪と同じ色の宝石のようなものを乗せている。カオルちゃんの方もクリーム色のツインテールの子が太ももに付いている装飾品を外して、色違いの宝石を出現させた。

 猫似の妖精はそれを見届けるとくるりと宙で一回転する。

 すると、その身体はくるくると高速で回転しながら宙に留まり、黒い小さな竜巻のなると、二つの宝石から黒い濁った光を吸い込んでいった。

 まるでそれはブラックホールのように二つの宝石から黒い光を吸い終えると、回転を止めて元の小動物の姿に戻り、床に降り立った。

 

「大分、消耗してたみたいだが、これで綺麗になったはずだ」

 

 にやりと意外に歯の鋭い口元を見せて妖精は笑う。

 こうやって魔力は回復させる訳か、まるで便利なアイテムみたいだな。この生き物を殺せば魔法少女との戦闘はずっと簡単になりそうだ。

 俺がそんなことを考えて見ていると、ソファの上のカオルちゃんが小さく呻いた。

 立ち上がって駆け寄り、彼女の身体に触れる。

 

「カオルちゃん、意識が戻ったのか!? 俺だ、あきらだ。分かるか?」

 

「あ、きら……? どうしてここに……」

 

「明日の時間割電話で聞こうとしたら、全然出ないから胸騒ぎがして駆けつけたんだよ。でも、意識が戻って本当によかった!」

 

 薄目を開けたばかりのカオルちゃん俺は涙を流しながら、抱きついて頬擦りをする。

 意識がはっきりしてきた彼女は恥ずかしそうに俺を突き放そうするが、俺が泣いていることに気付くと照れたような表情で頭を撫でて来た。

 自分を散々痛めつけた相手とも知らずに心を許すカオルちゃんは素直に笑えた。

 

「ごめん。心配かけたみたいだね……」

 

 しばらく俺にされるがまま抱きつかれているとハッと気付いた顔になり、尋ねてくる。

 

「そ、そうだ!? かずみは? かずみはどこに?」

 

 俺が視線を逸らし、悲しそうに首を振る。

 その仕草でかずみちゃんがここには居ないことを知ると身体にある怪我のことも忘れ、無理に立ち上がろうとした。

 それを止めようと声を掛ける前に目に包帯を巻きつけた海香ちゃんが制止の言葉を口にする。

 

「カオル……今のあなたじゃ、立ち上がることもできないわ」

 

 辛辣なその台詞の意味することを察したカオルちゃんは自分の足を見つめた。右の膝下から醜い断面図を晒すその足では一人で立つことさえままならない。

 内心でほくそ笑む俺だったが、次の海香ちゃんの言葉でそれが吹き飛ばされた。

 

「まあ、魔力は回復できたから、五日もしない内に修復できると思うけど」

 

「え!? この怪我治るの?」

 

 超重大なことをさらりと聞かされ、俺は目を丸くして驚愕した。

 それらしく、治してくれとは吐いてみたが、本気でこの重症が完治するとは欠片も想像していなかった。

 

「魔法少女はソウルジェムさえ無事なら怪我くらい簡単に治せるんだ。逆にそれが壊されてしまえば簡単に死ぬんだけど」

 

 答えたのはクリーム色のツインテールの子だった。

 ぼんやりとしたやる気のなさそうな表情で告げられた新たな情報を俺は脳内で咀嚼(そしゃく)する。

 あの宝石さえ無事なら魔法少女は死なないだと? そんなことはユウリちゃんは一言も教えてくれなかった。

 俺のことを完全に信用していなかったからだろう。寝首を掻かれないために黙っていたという訳だ。

 嫌な子だな、ユウリちゃん。仲間ならお尻の穴まできちんと見せてくれないと。

 重大な秘密を隠していたことに僅かな殺意がちらついたが、それをこの場では見せることなく笑顔を浮かべた。

 

「じゃ、じゃあ、海香ちゃんの目も治るってこと?」

 

「まあね。魔法少女はそれほど柔じゃないよ」

 

 俺が彼女たちのために喜びの笑みを浮かべたことで好感を抱かれたらしく、クリーム色のツインテールの子も小さく口元を弛めた。

 

「よかった~。カオルちゃんはサッカーができるようになるし、海香ちゃんも小説を書いたり、読んだりできるようになるってことだろ? すげえ安心したわ」

 

「あきらは……私たちの事が怖くないの? 傷が簡単に治るなんて普通じゃないでしょう?」

 

 海香ちゃんが俺にそう聞くが、俺はあっけらかんと答えた。

 

「魔法少女ってのは普通じゃないんだろ? 別にいいじゃん。二人が大好きなことが元通りできるようになるんだから最高だろ」

 

 それにどれだけ乱暴に扱っても大丈夫ってお墨付きをもらったのだ。嬉しくない訳がない。どのくらいのダメージでも治るのか早く試したいくらいだ。

 五寸刻みでバラバラにしても修復が可能なのだろうか。引きちぎった部位は腐るのか腐らないのか。考えるだけで夢が広がり、心が躍る。

 

「あきらって変わってるけど……良い奴だね」

 

 カオルちゃんが俺にそう言って優しく微笑んだ。

 俺もつられて嬉しくなる。ああ、この子の(はらわた)を引きずり出して縄跳びがしたい。

 苦悶の叫びをBGMに涙の顔を観賞しながら、スポーツに励みたくて堪らない。

 パンツの中で我慢汁を垂らしながら、どうにか欲望を抑え込む。

 遊びたい。ここの底から楽しみたい。今すぐにでも絶頂しながら体感したい。

 でも、駄目だ。サプライズはもっと関係を深めて、信頼感情を強くしてからにしないといけない。

 

 *

 

「かずみちゃんが攫われたって話だけど、俺はまだ無事だと思う」

 

 簡単な自己紹介と情報共有が終わった後に俺はそう切り出した。

 白髪ショートの浅海サキちゃんとふわふわピンク髪の若葉みらいちゃんがそれに対して反論してきた。

 

「何でそう思うんだ、魔法少女でもないお前に」

 

「そーだそーだ。部外者はすっこんでろよ」

 

 この二人はとりわけ俺のことを嫌っているようで、先ほどからやたらと冷たかった。

 サキちゃんは排他的でよく知らない相手には心を許さず、みらいちゃんの方は単純に精神が幼い故に人嫌いが激しいようで俺を目の敵にしてくる。

 まあ、そういう奴らほど一度壁を破れば、アホみたいに信用してくれるのだが、それには少し時間が掛かりそうだ。

 

「攫われたってことは目的があるはずだ。しかも一度じゃなく二度もある。すぐに危害を加えるっていうのは考えられない。明日の零時に場所を指定して集めていることから察するにその時までかずみちゃんは安全だと思う」

 

「でも、その攫っていった魔法少女と四体の魔女はカオルちゃんたちをこれだけ痛めつけたのよ? かずみちゃんを丁重に扱ってくれているとは思えないわ」

 

 赤髪のパーマの宇佐木里美ちゃんは俺の答えに難色を示す。

 確かに二人の現状を見れば、かずみちゃんの身柄が殺されないまでも無事かどうかは疑問に思える。

 少々乱暴に扱ったからな、ユウリちゃんの奴。髪とか掴んでいたし。

 ちょっと口ごもっていると、海香ちゃんが口を挟んだ。

 

「かずみの事ももちろん気になるけど……私はあのユウリって魔法少女も気になるわ。私たちプレイアデス聖団に対して尋常じゃない怒りを持っていた」

 

 それをカオルちゃんが次いで話す。

 

「あの魔女ども、いや、『魔物』って名乗った奴らもおかしいよ。明らかに人の言葉を理解してたし、魔法少女に付き従ってたってのも、複数で行動してたのも、結界を張らなかったのも既存の魔女とは全然違う」

 

 俺はそれに少し気になってカオルちゃんたちに聞いた。

 

「結界って何だ?」

 

「……魔女は普通の人には見えない結界を張ってそこに人間を引き込んで食べる」

 

 面倒くさそうにサキちゃんが俺の疑問に答えてくれた。無愛想だが、案外面倒見が良いのかもしれない。

 にこっとお礼に笑顔を振り撒くが、顔を背かれてしまった。隣にいたみらいちゃんはなぜか俺に舌を出して嫌そうな顔をしてくる。

 

「そんな事も知らないでよくこの会話に参加できるね」

 

「いや、俺が会った魔女……カマキリの魔女になった刑事は結界なんてもの張らなかったし」

 

 ヒントのつもりでそう呟くと、今まで黙っていたクリーム色のツインテールの神那(かんな)ニコちゃんが真っ先に飛びついてきた。

 

「待って。その言い方じゃ人間が魔女になったようだけどどういう事?」

 

「? どういうことも何もその通りだよ。俺とかずみちゃんの前で女刑事は魔女になった。あとそれにあいつも人の言葉を喋ってたし……あれ? それが普通じゃないのかよ?」

 

 魔女がどういうメカニズムで生まれるのかは知らないが、人間が魔女になることはないらしい。だから、あえてヒントを与えた。

 まあ、海香ちゃんたちもとっくに教えているんだが、話題に上げてくれないので仕方なく自分で話した訳だ。

 彼女たちは目を合わせ、俺の言葉をさらに聞く。

 俺はそれに大人しく答えてやった。もちろん、全部話すほど愚かじゃない。必要な部分だけを切り取って教える。

 目の前でカマキリの化け物になった刑事がかずみちゃんを狙っていたこと、刑事には協力者が居たと言っていたこと。

 そして、その二つのことから、かずみちゃんを狙っていた魔法少女は魔女……否、魔物を作り出すことができるのではないかという推察も加えておいた。

 

「というのが海香ちゃんたちの話を聞いて俺が思った推測なんだけど……」

 

「人間を魔物に作り変える魔法を使う魔法少女か……」

 

「あきらの話の通りなら、ユウリとかいう魔法少女はいくらでも手下を作り出せるって事ね。ぞっとするわ」

 

 ニコちゃんと海香ちゃんが俺の説明を聞いてそう残す。

 推測で十分考えられる範囲のみを伝えたおかげで、俺を疑う者は一人も居なかった。

 俺のことを気に食わなさそうにしているみらいちゃんですらそれをしない。それどころか、少しは頭が回るんだなと見直してくれたようだった。

 

「というか、そのユウリって魔法少女に恨まれる心当たりとかないのか? 家を調べて襲撃してくるなんて相当だぜ?」

 

 ユウリちゃんがプレイアデスの面々に拘っていた理由が聞けるだろうと少し期待していたのだが、皆顔を見合わせるだけで語りだそうとはしなかった。

 

「ユウリなんて魔法少女は知らないわ。顔をもよく見えなかったし」

 

「ふ~ん。じゃあ、逆恨みなのかもな」

 

 知らないだって? あれだけ憎悪の炎を燃やしていたユウリちゃんがただの逆恨みとは到底思えない。確実に何かしらの因縁があるはずだ。

 問題は彼女たちはそれを覚えていないということだ。

 仕方ない。ユウリちゃんの方から聞かせてもらうとしよう。

 

 **

 

 俺はカオルちゃんたちにかずみちゃんのことを無事助けてくれるよう頼んだ後、俺は御崎邸から出て行った。

 最低限の顔を合わせもできたことだし、何となくだが人物像も把握できた。

 何よりソウルジェムさえ無事なら、魔法少女が死なないという重要な情報も知ることができた。

 かずみちゃんがどうなっているのかも知りたいし、何よりユウリちゃんの確執も気になる。

 明日はトラペジウム征団で深夜のパーティの手筈を決めた後に、ユウリちゃんとデートをしよう。

 ゆっくりと彼女のことを教えてもらうことでより関係を深めていきたいところだ。

 ……何せ、ここまで重要なことを秘密にさせるくらいの仲でしかないのだから。

 




今回はあきらがプレイアデス聖団の残りの面子と邂逅した話でした。
この回は基本的に話は進展しませんが、これがないとキャラの名前が出ないままで話が進んでしまうので書きました。
皆さんは誰が好きですか? 私はべえちゃんです。

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