魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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前回までの『とある外道の有害図書』

超能力が科学によって解明された世界。能力開発を時間割り(カリキュラム)に組み込む巨大な学園都市・あすなろ市。その街に住む中学生・力道鬼太郎のもとに、漆黒のブラザーが現れた。彼は有害図書(アキラックス)と名乗り、魔法少女に追われていると語る。こうして力道鬼太郎は、外道の邪悪の交差する世界へと足を踏み入れてゆく。


第十一話 キャプテンあきら

『サッカーしようぜ! 俺はエースストライカー。そんでお前、ボールな』

 

 壁の破片が散らばる床の上に転がるカオルちゃんのお腹に俺は蹴りを入れる。右足を膝下から食いちぎられた彼女は移動することもできず、竜になっている俺の爪先をその柔らかい肌で受け止めた。

 

「っがぅ……!!」

 

 血の混じったゲロを吐き出しながら、惨めに弾んで歪な放物線を描き、床に情熱的なキスをした。

 身体を硬化させる魔法を持っていたはずだが、大事な利き足がもげてすぐには使えない様子だ。精神的にも肉体的にも大きな傷を負ってしまい、魔法に集中ができないと見える。

 なので、俺はここぞとばかりにカオルちゃんを蹴た繰り回す。

 それはもう、小学校の帰り道で小石を蹴って家まで戻る遊びのように蹴って、蹴って、蹴って、また蹴って、飽きるまで蹴り続けた。

 次第にカオルちゃんは陸に上げられて放置された魚のようにぐったりと生気がなくなっていく。

 駄目だなぁ。新鮮さが売りだろ、魔法少女は。ピッチピチだから、大きいお友達は下半身をスタンダップさせて踊るんだよ。まったくもって、なってない。

 光がなくなりかけた目を見ながら、蹴り続ける俺は気分が萎えてくるのを感じた。

 これでは面白みに欠けるので、一旦、足を止めて、大好きなお友達の元へ放ってあげる。

 地面に倒れ伏して十秒くらいは意識が朦朧していたカオルちゃんだったが、ようやく目の前で寝ている大針でズタボロにされた海香ちゃんだと気が付くと守るように顔を抱きしめた。

 

「う、みか、大丈夫、か……?」

 

「カオルの、方……は?」

 

「私は、頑丈だけ、が取り得だか、ら……」

 

 目玉が両方とも潰れた海香ちゃんに自分の心配はさせまいと健気に振舞おうとするカオルちゃん。しかし、俺に蹴られていたせいでうまく喋ることができず、言葉を吐き出すたびに苦しげな吐息を漏らしているので無意味だった。

 いや、意味はあるのか。こんなに私頑張ってますよアピールというクソの足しにもならない意味が。

 

『いいね。血に塗れてお互いを気遣うその姿……ふつくしい。実に芸術的だよ』

 

 肘鉄を食らい、押し退けられたひむひむが羽根を動かしてこちらへと飛んで来た。その後ろからは重たげな足取りでリッキーも続いている。

 二人とも俺がカオルちゃんサッカーを楽しんでいる間にやっと再起したみたいだ。

 

『クッソ……。思いっきり蹴りやがって』

 

 お腹を押さえて痛そうに顔を歪めるリッキーはかなり情けなく目に映る。半ばからぽっきりと折られた角がその惨めさにさらに拍車を掛けていた。

 ひむひむ組は頼りにならないな。俺とサヒさんはきっちり海香ちゃんを戦闘不能に追い込んだというのにこの子たちと来たら。

 何が「ふつくしい」だ、ボケが。自分の任された相手くらいしっかり潰せと言いたい。

 

『さてと、じゃあ……どう料理しますかね? 皆の衆』

 

『はい、ドラーゴ先生。ボク、生け作りが良いと思います』

 

 ひむひむが皮膜の付いた手を上げて、ぴょんぴょんと跳ねる。

 こいつは取り合えず、生きた状態で血飛沫を見たいだけだと改めて確認できた。

 

『俺はミンチがいいと思う』

 

『僕は串に刺すのが……』

 

 リッキーもサヒさんも自分が得意の料理方法を提示してくる。気持ちは分かるが、それだとありきたりでつまらない。

 彼女たちが一番精神的にクル方法はないものか……。

 そう思考を働かせると俺の脳中で天使が囁いた。

 ――あきら君あきら君、彼女たちはお互いを大切に思い合ってるんだよ。

 知ってるよ。そんなことは百も承知だ。今更それがどうしたって言うんだよ。

 ――だったら、二人とももっとくっ付けてあげないと可哀想だよ。

 くっ付ける……?

 天使の囁きの意味が分からず、海香ちゃんとカオルちゃんを眺める。

 そして、天使の言葉の意味に気が付いた。

 俺はにんまりとほくそ笑むと、即座にそれを実行に移す。

 カオルちゃんの腕をむんずと掴み上げ、言葉も発させずに海香ちゃんへと思い切り押し付けた。

 

「……あ……」

 

 即ち、身体中にサヒさんの大針を受けたサボテン状態の海香ちゃんにカオルちゃんが覆い被さる。

 海香ちゃんの白い衣装から生えた針がカオルちゃんのオレンジと白の衣装にまで突き刺さった。そのせいで海香ちゃんの針もまた彼女の皮膚に深く埋まる。

 そして、その上でカオルちゃんの背中に足を乗せる。

 

「いっ……」

 

 二人の顔が同時に歪む。

 大好きなお友達同士で抱き合うなんて幸せもんだね、カオルちゃん、海香ちゃん。

 焼けちゃうぜ、お二人さん。

 しかし、これではまだ足りない。一工夫が必要だ。

 故に俺はカオルちゃんに踏み付けて、耳元に顔を聞こえるように近付けて言う。

 

『なあ、オレンジちゃん。そのままじゃ、アンタの身体にも針が刺さっちまうぜ?』

 

「な、にを……」

 

『でも、アンタには身体の一部を鋼に変える魔法があっただろ。あれを使えばいい。そうすりゃ、針は刺さらない。ま、お友達の子はもっと苦しむことになるけどな』

 

 代わりに下の海香ちゃんの身体により針が深く沈み込むことになるが、それは仕方のないことだ。自分の身を守るためには時には友を犠牲にしなければならないこともある。

 

「ふざ、けんなっ!」

 

 カオルちゃんは俺に殺意を籠めた眼光を向ける。

 まあ、この程度のことで裏切るほど脆弱な関係性ではないことはさっきのやり取りを見れば分かる。

 なので、俺は足を退け、漬物石を召喚した。

 

『オルソ、さっきの雪辱を晴らさせてやる。こいつらを踏め』

 

 この中で最も体重の重いリッキーをカオルちゃんの上に乗せることで二人を一層密着させてやろうという俺の粋な計らいである。

 

『はっ、なるほど。いいぜ』

 

 リッキーも俺の優しい心遣いが理解できたようでその巨体をカオルちゃんの華奢(きゃしゃ)な身体の上に両足で飛び乗った。

 これでカオルちゃんにはどんなに軽く見積もっても彼女の六、七倍はある大熊が全体重を乗せて圧し掛かる。さらに下に居る針のムシロとなった海香ちゃんとさらに密着し、ずぶずぶと針がカオルちゃんにも突き刺さる。

 めりめりと軋む音が聞こえてくるが、果たしてそれは床の音だけなのか。

 調子に乗ったリッキーはカオルちゃんの背中で足踏みする。

 

『ははは。いい気分だぜ。さっきはよくも蹴りをくれたな、おい』

 

「うっず……!! カ、カピターノ・ポテンザ……」

 

 カオルちゃんは魔法で背面を全て鋼に変えて、真下に居る海香ちゃんを庇うように四つん這いになる。だが、右足は膝下がなくなっているため、床に接した切り口からは出血量が急激に増えた。

 ひむひむは興奮して彼女の足元に行き、滲み出た血液を長い舌でぺろぺろと舐め取り始めた。俺以上のマイペースさにちょっと尊敬の念を抱きそうになる。

 しかし、背中を鋼にしてとしてもそれでリッキーの重量に耐えることは不可能だ。質量の差があまりにも違い過ぎている。

 現に少しずつカオルちゃんの身体は少しずつ、沈み込んでいる。せめて、全身を鋼に変えれば針による傷は防げるだろうが、それをすれば海香ちゃんの針はさらに肉の中に潜り込んで行く。

 死への時間をほんの僅かに先延ばしにするしかない行動しか取れない。それは苦痛を味わう時間を延長しているのと同意だった。

 しばらく二人の無意味な頑張りを見て、心を癒していた俺だったが、流石にそろそろ飽きが来てしまった。

 遊びは終わりにして、二人とも殺すかなんて考え始めていた時、少し離れた場所の天井が崩れて何かが落ちて来た。

 落ちて来たのはユウリちゃんだった。大きな魔女のような帽子が取れないように片手で押さえつけている。

 

「お前ら、まだ遊んでいたのか。こっちはもう終わったぞ」

 

 ユウリちゃんは俺たちを見付けるとそう言って、片手に持ったものを見せ付ける。

 そこにはかずみちゃんが捕まえられていた。その髪は前に見た時と違い、ショートカットになっている。やはり髪を切っていたようだ。

 気絶しているのか微動だせずに頭を掴まれてうな垂れている。

 

『じゃ、そろそろ撤収しますかね。オルソ、退いてやれ』

 

 リッキーにそう命令すると不満そうな顔で俺に反対する。

 

『だがよ、まだこいつ死んでないぞ』

 

『殺しちまったら、他のプレイアデス聖団にその黒髪の魔法少女が連れ去られたことを伝えられないだろ? 伝言役として生かせって言ってんの。オルソだって、他の魔法少女の首を捻じ切りたいだろ?』

 

 少々不服そうにしていたが、力をあげた俺に義理を感じてか渋々とカオルちゃんから降りた。

 ようやく、言葉通り重荷から解放されたカオルちゃんは虚ろな目でかずみちゃんを見て呟く。

 

「か、ずみ……」

 

 自分の無力感からその瞳からは涙が滲んでいる。目の前の大切な友達が攫われようとしているのに立ち上がることさえできない己を恥じているように見えた。

 そして、そんな彼女の後ろで床に染みた血液をまだ舐め続けているひむひむ。奴の辞書に『自重』という二文字は載っていないようだ。俺もないけど。

 

「残りのプレイアデスにも伝えな。かずみを返してほしければ明日の夜の0時にあすなろドームへ来いってな。このユウリ様がお前らにいいものを見せてやる」

 

 そう言って、嘲笑をカオルちゃんと海香ちゃんに向けると落ちて来た穴へと舞い上がりどこかへ消えて行った。

 

『提供は俺たち、魔物の集団『トラペジウム征団』でーす。魔女じゃなくて魔物ですよー。お間違えのないように』

 

 俺はリッキーの肩を掴んで、ひむひむはサヒさんを回収して、それぞれが空けた穴から飛び去っていく。

 魔物状態のリッキーは非常に重かったが、人間の姿を見られるのは避けたかったのでそのまま空を飛んだ。

 ひむひむも針だらけのサヒさんを持つのに四苦八苦しながらも、最終的に前足だけを掴んで飛んでいた。

 先に飛んで行ったユウリちゃんはどうしているのだろうと目を配ると、赤い薄っすらと発光する巨大な牡牛に乗って飛んでいた。その牡牛の背中には気絶したかずみちゃんも縛られて乗せられていた。

 

『その牛は?』

 

 俺が尋ねるとユウリちゃんはやたら上機嫌で答えた。

 

「ああ、こいつはコルノ・フォルテ。アタシの魔法で生み出した牛だよ。っくく、それにしてもあいつらの顔は見ものだったな」

 

 カオルちゃんと海香ちゃんたちの惨めな姿を見て、気分が高揚している様子だ。相当、あの二人、いやプレイアデスの魔法少女に憎しみがあるらしい。

 どんな因縁があるのか後で聞かせてもらいたいが、今は後回しだ。

 今はすぐに解散して、カオルちゃんたちのところに戻って、どうなっているのか確認したい。

 俺は学校裏の林に到着してリッキーを降ろすと、人間の姿に戻り、さっさと自分だけ御崎邸に舞い戻る。

 

「俺はちょっと二人の様子見てくるわ。あとはユウリちゃんと宜しくやっておいて」

 

『え、ちょっと……』

 

 ひむひむが制止しようと声をかけるが、俺は颯爽と走り出し、皆を置いてその場から去って行く。

 道中のバスの車内でカオルちゃんに電話をかけるが、当然の如く通話に出てくれない。もっともこれは理由作りのための工作なので電話で話がしたい訳ではない。

 重要なのは電話をかけて、相手が出てくれなかったという事実。

 これで「電話にも出てくれなかったから、直接家に訪ねてきた」という言い訳が成立する。

 何の脈絡もなく、この時間帯に現れたら流石に不自然だからな。

 

 *

 

 御崎邸まで辿り着くと、そのボロボロに崩れた外観に目を奪われることもなく、さっさと砕けた壁の穴から侵入すると未だ倒れたままだった二人に近付いて身体を揺する。

 見るからに満身創痍だったが、どういう訳か、流れ出る出血は止まっていた。これも魔法少女だからなのだろうか。

 

「おい! 大丈夫か!? カオルちゃん、海香ちゃん! 何があったんだ!!」

 

 白々しく状況の把握できていない友人を装い、二人に声をかける。

 先に反応したのは下に居た海香ちゃんの方だった。

 

「あ、あきら……? どうしてあなたが……」

 

「カオルちゃんにさ、明日の時間割聞こうと思ったんだけど出てくれなくて……それであの女刑事さんのこと、思い出してさ。それで心配で見に来たんだ。そしたら、家がめちゃくちゃになってて、二人は大怪我してるし、訳が分かんねえよ……」

 

 如何にも「私混乱してます」と言わんばかりにたどたどしい口調で説明する俺。心配そうに顔を歪めて、涙腺を器用に操り、涙まで流してやった。

 そんな俺の様子から、目の見えない状態の海香ちゃんはある程度信用してくれたのか、あるいは疑う余裕すらないのか、素直に助けを求めた。

 

「とりかく、カオルを……カオルを私から剥がして」

 

「わ、分かった」

 

 俺はカオルちゃんを海香ちゃんから引き剥がした。身体のあちこちの骨が折れ、海香ちゃんに密着していたせいで彼女の身体にはいくつもの刺し傷が点々としていた。

 しかし、魔法少女にはやはり一定の治癒能力があるようで、出血やむなしと思っていた傷からは血は流れず、それどころか、ゆっくりと塞がり始めている。

 これなら、手足のもう一本でももぎ取ってもよかったかなと少しだけ後悔した。

 カオルちゃんをソファに寝かせて、足の断面図を治り始めているか確認した。しかし、流石に引きちぎられた部分までは再生しないようで出血が止まっていただけだった。

 胸に手を当てると、出血多量で死んでもおかしくないほど血を流したはずの彼女の心臓はちゃんと脈動していた。顔は少し白くなっていたが、命には別状はないようだ。

 この分なら、次はもっといたぶって遊べるだろう。俺は海香ちゃんに言われた場所から救急箱を取ってきて、カオルちゃんの右足を覆った。

 

「次は何をすればいいんだ……」

 

「……ペンチを持ってきて。向こうの部屋の工具箱に入ってるから」

 

 なるほど。針を一本一本俺に抜かせる算段か。普通ならまず大量出血で死ぬのだろうが、こいつら魔法少女は自然治癒力が人間とは思えない速度で起こるので何とかなりそうだ。

 俺が工具箱を発見して、持って行くと、思った通り、俺に針を抜くように頼んできた。

 まあ、できなくもないが、一応まともな常識人らしく拒否してみる。

 

「で、できるわけないだろ!? 俺は普通の中学生なんだ! 出血多量で死んじまうぞ!? 病院で何とかしてもらった方が……」

 

「あきら……カオルが話したって言っていたから知っていると思うけど、私たちは魔法少女なの。身体の作りも普通の人間とは違うわ。病院には行けないの。だから、お願い」

 

「分かった……可能な限りなんとかしてみる」

 

 俺が覚悟を決めた振りをして、針の刺さっている海香ちゃんの手を握る。

 まるで王道漫画の正統派主人公のようだ。すっごい馬鹿みたい。自分でやっていて笑えてくる。

 半笑いを浮かべた俺に目の潰れている海香ちゃんは感動したように「……ありがとう」と呟くように答えたのがまたさらに笑えた。

 確かに普通の中学生ならこんなグロテスクなものを見せられたら、たかだか二日程度の付き合いの奴なんて見捨てて逃げるだろう。

 ここまで親切にしてくれる男子中学生など、百人中一人居るか居ないかだ。

 そう考えると俺は優しい。まさに天使だ。

 俺は壮大な自画自賛をしながら、ペンチで針を抜いていく。

 

「ん……ぐ……」

 

 大きな針を抜かれる度に呻き声を出しそうになっているが、俺が躊躇しないように健気に抑えている。

 それがまた色っぽく聞こえて、スケベな気持ちになってくる。

 ふふふ、いいぞ。俺にもっとその声を聞かせてくれ。

 針ではなく、違うものまで抜きそうなる俺は海香ちゃんが目が見えないのをいいことにひっそりと楽しんだ。

 だいたい三百本くらいの数の針を抜き終わると、三時間ほど経っていた。

 中でも目に刺さった針を抜くのが一番難しく、眼球に深く突き刺さっているために房水という透明な液体が針に垂れてきて、ペンチが何度もすべりそうになった。

 この時に上げられた苦悶の声が今夜一番のエロボイスだったのは言うまでもない。

 




自分で散々な酷いことしておいて、素知らぬ顔で戻ってくるあきら君マジ下衆野郎です。
一体どういう神経しているのか、わりと本当に気になりますね。

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