魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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蛇足にも感じましたが、最後に少し残火の視点が欲しくて書きました。


エピローグ

「やめろぉ! てめえ‼」

 

 あきらの手の上で転がされてきたこの俺が、物理的にも奴の手の上に居る。

 だが、今は絶望を感じているのが向こうで、希望を奪うのがこちらだ。

 過去の俺のイーブルナッツを破壊する事で、今の俺が行っていた行動が全て消滅する。

 引いては、あの世界が消える。

 俺が紡いだ絶望の道程が、希望を夢見て走り続けたあの時間がなかった事になる。

 それに何も感じない訳ではない。しかし、認めなくてはいけない。

 あの時間は。

 あの想いは。

 全て――無駄だったのだ。

 過去を変えるなど、どれ程の理由があろうとも決してやってはいけない事だった。

 辛くても、目を背けたくなるくらいに残酷でも、起きた事実を捻じ曲げる事は間違いだった。

 その行いこそが悪だった。だから、あきらに付け込まれる原因になった。

 もう俺は逃げない。もう俺は間違えない。

 色んな魔法少女たちと交流し、そして、彼女たちと時に分かり合い、時に擦れ違ったあの愛おしい時間は存在してはならない時間だった。

 俺は、俺を殺す。

 そして、概念化するあきらが生まれる世界を打ち砕く。

 神を生まれる前に消し去れる。

 

『さらばだ……我が絶望(きぼう)

 

 イーブルナッツに刻まれた俺の意識が、残存した魔力を全て解き放つ。

 小さな、本当に小さな力が収束し、限界まで凝縮され、外側へと流れ出す。

 この矮小な球体の身体が光を帯びて、破裂した。

 終わりだ。これで本当に終わり。

 絶望の円環はこれで完全に断ち切れる。

 流れた魔力と共に意識が流出し、薄れて行く。

 夢でも見ていたような、ふわふわとした朧げな感覚。

 いや、実際に夢のようなものだったのだ。

 これは夢……。

 ただの悪夢……。

 俺の願いが生んだ、あってはならない最悪の夢……。

 壊れた俺たちを眺めるあきらの顔が歪む。

 今にも泣きそうな、あるいは笑い出しそうな子供のような表情だ。

 あきら……。

 お前は強かった。

 だが、お前の強さには意味がなかった。

 願いもなく、目的もなく、意味すらない。

 ただ強くなれるから、強くなったそれだけの存在だ。

 ガキなんだよ。お前……。

 ただのわがままなだけの子供。

 だから覚めろ。お前もこの悪夢から目覚めてくれ……。

 今度、生まれるとしたら普通に生まれて来い。

 天才でも、完璧でも、最強でもなく、平凡な人間として、生きてみろ。

 そうすれば、きっと分かる。

 弱者の気持ちが。命の重みが。世界の有難さが。

 もう力に酔うな。神様になんかなるな。

 あきら……。

 俺の仇敵。世界の厄災。邪悪の権化。

 宇宙すら容易く破壊し尽くせる邪神。

 だというのに、最後の最後になって思う。

 可哀想な奴だったと。

 哀れな存在だったと。

 ほんの僅かでも奴に触れて、繋がった今だから理解できる。

 こいつは他人を必要としなかった。

 家柄、才覚、知能、容姿、身体能力。全てにおいて恵まれた奴は他者と繋がる意味を持たなかった。

 同種と群れる必要性を持たなかった優性個体。

 それが、一樹あきらという存在だ。

 だから、あきら。

 意識が消滅する寸前に、俺は祈った。

 誰のためでもなく、奴だけのために俺は願った。

 人と繋がれ……。

 他人と感情を分かち合え……。

 それが……お前の……本当の……し、あわ、せ……だ。 




残火の青春は、あきらとの青春。
二人には奇妙な友情がありました。少なくとも残火側には憎しみ以外の感情が芽生えていたと思います。

これで本当に完結です。

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