魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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第五十二話 破局都市

〜かずら視点〜

 

 

『…………?』

 

 超越者として、天に君臨していたあたしは一つだけ疑問を感じた。

 街のどこを探してもドラーゴ(パパ)の姿が見つからなかったからだ。

 こんな事は本来あり得ない。あたしは今、あすなろ市を二百の眼球で見下ろしている。そのどれもが風に吹かれて揺れる木の葉さえ正確に確認できる視力を持っている。加えて、巨大になったおかげで肉体の感覚域はこの街全土まで広がっていた。

 あたしの目を盗んで逃げる事はできない。何より、この雨雲はただ触れた人間を魔物に変えるだけのものじゃない。

 これは簡易的な結界だ。空から衛星情報、電波、さらに魔力の膜として、内部から脱出も外部からの侵入も許さない防護壁の役割を持っている。

 いくらパパと言っても、この雨の壁を突破して街からの脱出は無理だ。

 じゃあ、建物の中に隠れているって線はどうだろう?

 でも、建物に隠れていたとしても、イーブルナッツの反応までは隠せない。もしかして、身体から排出した……?

 ううん、それはない。それは絶対にない。

 もしこの街で無力な一般人に戻れば、魔物たちが歩き回る傍で無防備になる。それにあたしが気まぐれに暴れて街を壊す可能性を考えれば、あの強かなパパがそんな危険な賭けに出るとは考えられない。

 ……いや、地下ならどうかな?

 入ってきた雨水のせいであたし手製の魔物へとなる可能性や怪物化した生物と遭遇する事を考慮すると、下水道はない。

 地下デパート! ……は逃げ場がないなら地上の建物と変わらない。

 地下駐車場! ……は車で脱出しても結局は上に上がるだけだし。

 他に地下で移動先がある場所……あ!

 自問自答の結果、あたしは可能性のある場所に思い当たる。

 

『地下鉄道……』

 

 あそこなら雨水が入って来る可能性は少ない。そして、雨の結界で封鎖されていない外への経路がある。

 パパは地下鉄道に居る。決まりだ。そうに違いない。

 今のあの人にはあたしを超える力はないけど、外へ逃げて何らかの手段を使ってあたしに対抗する方法を考え付くかもしれない。

 この世界であたしに手出しができるのはパパくらいなものだ。後は魔法少女(羽虫)狼のお兄ちゃん(カトンボ)くらいで雑魚しか残ってない。

 唯一危険視しているパパを探そうと意識を集中させていると、そこに付け込んで生意気にも羽虫共やカトンボがあたしの作った可愛い魔物たちを狩り始めた。

 小癪な事に、この偉大なるあたしからかずみお姉ちゃんを奪おうと企んでいるらしい。

 わざわざ急いで殺す価値もなかったから放っておいてあげただけなのに、頭が悪いせいで付け上がっちゃったのかな?

 ちょうどいい。地下交通網と一緒に壊してしまおう。

 百ある頭の内、四十くらいの頭を指定の方向へ向けた。

 狙うのは地下鉄の出入り口。それと地下鉄が併設されている駅ビルすべて。

 大それた遠距離攻撃は要らない。ただ首を伸ばして地下鉄に繋がる入口に突き入れる。

 この街はある意味、聖地なのでなるべく壊したくないが、パパを確実に仕留める方が重要事項だ。

 

『チャオ。あたしの大嫌いなパパ……』

 

 喉から噴き上がる魔力の奔流が地下へと続く通路へ噴き入れる。

 濁りのある白の光の帯のような息吹が地下を駆け巡り、飽和して地面を突き破った。亀裂が入った地面は光を放ちながら崩落していく。

 まるでミルクが多めのカフェラテをホースで大量に蟻の巣穴へ流し込んだように、面白いくらい簡単に街は壊れて行った。

 これで完全にあの忌々しい精神(ソフト)面のオリジナルともおさらばだ。

 ついでに生意気な羽虫たちも葬っておこう。ああいう子たちは群れると自分自身が強くなると勘違いする病気を持っているから、早めに消しておくのがいいだろう。

 今の衝撃で一部は巻き込まれて消滅してした様子だけど、生き残った雑魚も案外居る。

 その運よく助かったヨワイ子たちを纏めて呑み込んだ。ほんの少し息を吸うだけで掃除機に除去される埃のように魔法少女たちは次々とあたしの口の中に呑み込まれていった。

 いくらヨワイ魔法少女と言えどもそれなりに集まればお腹には溜まる。ついでに瓦礫や魔物も一緒に食べてしまったが、魔法少女如きに対処されるヨワイヤツはあたしの臣民に相応しくないので別にいいだろう。

 減ったら新しく作ればいいだけの話。この街の外にもまだ六十億個の素材がある。あすなろ市を出たら違う街でどんどん下僕を量産すればいい。

 それにしても、かずみお姉ちゃんの意識が完全に抹消されるまで本気が出せないせいで、この辺りの更地に変える程度の出力しか出せないのが気に入らない。

 何のために必死にしがみ付いているのか分からないけれど、まだ自我消滅まではしていないようだ。それでも、あと一時間……いや三十分も持たないだろう。

 馬鹿なお姉ちゃん。さっさと何もかもあたしに委ねてパーツとして生きればいいのにねぇ……。

 

 

 ******

 

 

 一瞬、空が蠢いたと思った。

 それほどまでに大規模な視覚情報の変化だった。

 不動の構えを取っていたヘスペリデスの宵が急遽動き出したのだ。

 一本一本が橋を支えている支柱よりも太く長いそれは、見た目よりも機敏にうねりを上げた。

 薄いベージュの竜の頭は首を動かした後、その内の数本は明確にこちらを向いた。

 鋭い牙を見せ付けるように顎を開く。それは人間で言う欠伸(あくび)をする時の動作に似ていた。

 それを一緒に見ていたアレクセイは空を見上げた状態で、珍しく強い口調で俺たちへ命じた。

 

『……皆、僕の背中へ乗って、強くしがみ付いて。早く!』

 

『待て、何を……』

 

 発言の意図が分からず、聞き返そうとしたが、彼は即座に俺を口に咥える。

 何の真似だと抗議しようとしたが、間近で見るその表情はイヌ科の獣ながら緊迫したように見え、言葉を止めた。

 二人の魔法少女は既にアレクセイの白銀の毛皮の上に上がっている。

 その瞬間、竜の頭が押し寄せてきた。流れ星のようにも見える伸びるゆく首は、凄まじい勢いで接近して来る。

 

『な、なんだ……!』

 

 仰天した俺だったが、白銀の狼に咥えられたまま、とぷんとアスファルトの大地に沈んだ。

 水中に潜るように何の抵抗もなく、蠍になった俺の身体は真下へと落下していく。

 これはニコの家の庭で見た、アレクセイの透過能力。あらゆるものを通り抜ける無敵の絶対防御。

 アレクセイに連れて来られた場所は、光源さえない暗闇の中。しかし、魔力にて周囲を視認している俺には関係ない。

 ただ、咥えられた俺に確認できるのは、アレクセイの白い牙と赤い舌、生温かい唾液くらいしか把握できなかった。

 透過の力を持つ彼自身には、恐らく周囲の光景が把握できているはずだ。でなければ、この左右どころか上下さえあやふやな空間を潜行など不可能だ。

 一分近く沈黙が続き、俺以外が呼吸が心配になってきた頃、アレクセイは突如浮上した。その際、咥えられていた俺は乱雑に落とされる。

 ……嘘、だろう。こんな事……。

 彼の口からやっと解放され、地上へと再び戻った俺が見た光景は……変わり果てたあすなろ市だった。

 地面はめちゃくちゃに抉れて陥没し、視界に入る形あるものは全て消滅し、灰塵(かいじん)と化していた。とても一分前に見た街と同じ場所とは思えない景色だ。

 かつて、俺はこの街が地獄に変わるのを見た。だが、これは違う。地獄ではない。

 燃え盛る火焔も、焼け落ちる建物もない。虚無だ。何もない虚無。

 あるのは、出鱈目(でたらめ)な破壊痕を残し、捲れ上がった地面だけ。例えるなら、平らな薄い木の板を彫刻刀で手当たり次第に彫り進んだ結果、砕けて割れてしまったような、そんな有様だった。

 荒れ地だ。人の手も入っていなければ、草木も生えていない荒れ果てた大地そのもの。一分前には建物が並んでいたとは到底想像できない土地になっていた。

 

「これ……あの上に浮かぶ竜がやったの……?」

 

「信じられない……。こんな破壊規模、魔女や魔物とは比較にならない……」

 

 あやせもサキも呆然と、周囲を眺めていた。

 その気持ちは痛いほど分かる。『オリオンの黎明』が(もたら)した地獄を知る俺でさえも、この惨状に戸惑っているのだ。

 彼女たちから見れば、天変地異と言っても過言ではないだろう。

 魔竜・『ヘスペリデスの宵』。あれはもはや『オリオンの黎明(全盛期のあきら)』をも超えている。

 最悪を超越した、最悪の存在。それが今のかずらだ。

 取り込まれたかずみを奪い返す事はおろか、立ち向かう事さえ困難とは……。

 絶望という単語がここまで似合う状況というのも珍しい。

 アレクセイが透過を使って助けてくれなければ、俺たちもここにあったものと同じく跡形もなく噛み砕かれていたに違いない。

 何もかも呑み込む竜の(あぎと)によって……。いや、待て。あの顎は一体どこまで届いた……?

 まさかと思い、アレクセイに聞いてみた。

 

『向こう側の……あすなろタワー付近の魔法少女たちの香りは……?』

 

 白銀の狼は首を左右に振った。

 

『もう流れて来てない。他にも三箇所くらいあったけどそっちも同じ』

 

『そんな……では、ルイたちは』

 

 死んだのか? あんなにも呆気なく……。

 たった一瞬にしてこの世から欠片も残さず、消え去ったと。

 そう、言うのか?

 圧倒的な力に対する絶望とは違う。喪失感による悲哀が胸中に飛来する。

 あんまりだ。これはいくら何でもあんまり過ぎる。

 彼女たちは、仲間を守ろうとしてもう一度戦場に立ったのだ。なのに、その彼女たちに対する報いがこれなのか?

 あの魔法少女たちは、死ぬためだけに戻って来たとでも言うのか!

 これでは何のためにレイトウコから救い出したのか分からないではないか。ただ、希望に見せかけた絶望を彼女たちに授けてしまったのか?

 失意の底まで落とされた俺は何度目になるか分からない、己の無力さを噛み締めた。

 

『残火。それでどうするの?』

 

『どうする……? そんなもの、俺が聞きたい! どうすればいいんだ? 教えてくれよ!』

 

 アレクセイの質問に激昂して、俺は吠えた。

 仲間は死に、己は無力。敵は強大で近付く事もできない。

 この状況で何をしろと言うんだ!!

 

『いや、助けるんだろう? かずみって人を』

 

 彼は不思議そうに首を傾げた。仕草から「何を当たり前の事を聞いているんだろう」という疑問が感じられる。

 

『……ッ! それは……』

 

『自分で言った事だろう。ちゃんと覚えてなくちゃ駄目だよ。それで、どういう方法で助け出すの?』

 

 この男、本当にブレーキが故障している。

 彼は自分を見失って俺に指示を仰いだのではない。かずみを救う具体的な方法案を尋ねただけだ。

 絶望的状況を誰より理解しているのにも拘らず、物ともしていない。

 俺が助けを求めたという理由だけで、彼は最後まで付き合うつもりなのだ。

 ヒーローが実在したら、案外彼のような破綻者じみた精神構造の持ち主なのかもしれない。

 思わず、内心で自嘲した。この後に及んで呑気に絶望などしている自分が馬鹿らしい。

 かずみだ。かずみの事だけ考えろ。後は野となれ山となれ、だ。

 俺はそのためにこの場所へ存在しているのだから。

 

『今の透過で閃いた。アレクセイ、お前、魔力の中にも潜り込めるか?』

 

『魔法の中を潜った事はあるから、多分行けると思うよ』

 

 平坦な声音で彼はさらりとそう言ってのけた。

 アレクセイがそう言うのならば、大丈夫だろう。こいつの「多分」は枕詞のようなもの。適当な表現が付いてもできると宣言している以上は懸念は不要だ。

 ならば、ヘスペリデスの宵が浮かぶ場所までのどう近付くかが問題だ。

 何か良い策はないかと思考を巡らせていたところ、二人の魔法少女たちは信じられないものを見るような目で言う。

 

「ね、ねえ……あれに挑もうとしてるっていうの? 冗談でしょ?」

 

「かずみを助け出すためとはいえ、無謀……いや、ただの自殺行為だぞ!?」

 

『……そうだな』

 

 客観的に見れば、あやせとサキの言い分の方が正しい。

 ほんの一分で街を滅ぼす力を持つ存在と戦おうというのだから、傍から見れば正気を失ったと取られても仕方がない。

 だが、元より俺はそれしかなかったのだ。

 かずみを助けるためだけに、ここまでやって来た。命など惜しむ理由はない。俺が死んで悲しむ者はこの世界には誰一人として居ないのだ。

 無価値な命……いや、単なる魔力の塊だ。無謀な賭けで失おうとも構わない。

 

『それでも俺はかずみの元へ行きたい』

 

「どうしてだ? お前はまともにかずみとの面識すらないだろう? あの子はお前の事など欠片も知らない。なのに、どうして……?」

 

 意味が分からないという表情でサキが問う。

 その疑問もまた当然だ。この世界のかずみは、俺の事など何一つ知らない。俺をただの化け物としか見てないだろう。

 それは俺も同じだ。俺がよく知るかずみもまた、この世界に生きるかずみではない。

 この世界のかずみは、俺の妹になった彼女とはまったく違う経験と意志を持つ、限りなくよく似た別人だ。

 だが、それでいいと思う。

 重要なのは、かずみという少女が生きている事。それだけで満足だ。

 俺の妹でなくても、俺の事を知らなくても、彼女にはただ生きていてほしい。

 

『ただ生きていて欲しい、そう感じるからだ。今の俺にはそれでいい』

 

「生きていて欲しい……? そんな……事か? そんな事なのか?」

 

 愕然とした様子で立ち竦むサキ。だが、もうのんびりと問答に付き合っている暇はない。

 彼女たちにも手を貸してもらうつもりだったが、ここまで心の折れた彼女たちを巻き込むのは酷だ。

 俺とアレクセイの二人だけでどうにかするしかない。

 しかし、そこにあやせが口を挟む。

 

「ちょっと待ってよ。アレクセイにまで手伝わせるつもりなの? あなたが死にたいのは分かったけど、彼まで巻き込まないでくれる?」

 

 確かにあやせからすれば、納得がいかないのも無理はない。

 アレクセイにとっては、かずみなど名前も初めて聞いた少女に過ぎない。

 命を捨てて救出に向かう理由など皆無に等しい。それで死ぬかもしれない賭けに乗るなど身内としては看過できる訳もない。

 

『あやせ。ちょっと行って来る』

 

 だが、当の本人は彼女の気持ちなど微塵も顧みずに気負いなく様子で別れを述べた。

 

「ちょっと行って来るって……何考えてるの? ルカがくれた命を無駄にする気なの? それに明日は見滝原市に居る従弟に会いに行くんでしょ? あなた、珍しく楽しそうに言ってたじゃない!」

 

 ルカがくれた命……?

 そう言えばまだ一度も入れ替わって会話しないと思ったが、彼女は既に亡くなっていたのか。

 今しがた助けた命が瞬く間に奪われたせいか、衝撃はほとんどなかった。俺の精神から着々と人間性が薄れていくのを感じる。

 死に慣れ過ぎた。知人への死に対する感覚が麻痺している。冷静に考えれば、街がこのような状況で死人の数など考えるだけ無駄なのだ。

 千、二千では済まない。先の数万単位の命がヘスペリデスの宵に消された。

 その中には赤司大火や奴の母親も含まれているだろう。河原まで届いたかは分からないが、ホームレス共同体の人たちも無事では済まなかったはずだ。

 守りたかったあすなろ市は、もうどこにも存在しない。助けたかった人もかずみを除けば、もう誰も居ない。

 何だ……。俺もアレクセイの事を言えない程、ブレーキが壊れているではないか。だから、平然と彼を死地に招き入れられるのだ。

 これから先、この中の誰かが死んだとして、もうさほど悲しみはしないだろう。

 俺が関心がある生死はかずみのものだけだ。それ以外は背負う気はないし、背負うだけの強さもない。

 正義のヒーローとは程遠い、無責任なエゴイスト。

 それが残火(おれ)だ。

 いや、そもそもの話、俺は元来こういう人間だったのかもしれない。

 守りたいものが、『自分の理想の英雄像』から『一人の少女』にすり替わっただけに過ぎない。

 無自覚ながら、悪意ある人間だったからこそ、イーブルナッツの力に呑まれなかった。今や、それに焼き付いた単なる情報の塊なのだから、正義を語るなど厚かましいにも程がある。

 自分の内心を改めて客観視し、赤司大火だった頃の精神を分析していると、彼らの話し合いはいつの間にか終わっていた。

 

『それで、納得してもらえたのか?』

 

 アレクセイに話し合いの結果を尋ねる。どの道、彼女が腑に落ちてなくても遠慮はしない。

 皮肉にも無力になったおかげで、俺は自分の望みに素直になれた。他人の想いに斟酌しないと人はこうも気楽になれるものだったのか。

 

『いや、許せないって』

 

『そうか……なら、何が何でも邪魔する気なのか?』

 

 面倒だが、アレクセイ自身に振り切ってもらう必要がありそうで辟易する。

 しかし、彼は意外にもそれを否定した。

 

『ううん。許せないから自分も付いて行くってさ』

 

『それならありがたい。戦力は一人でも多い方がいい』

 

 昔であれば、もっと何か言っていただろうが、正義を捨てた俺には道理を説く気はさらさらない。

 単純にかずみ奪還の戦力として計算させてもらう。

 後は……。

 

『サキはどうする?』

 

 あれから終始無言でいるサキへと尋ねた。

 びくりと項垂れていた彼女の肩が、反応する。

 

「わ、たしは……」

 

『別に催促するつもりはない。お前が逃げたいなら止めはしない。そんな力はもうないからな』

 

 言葉には出さないが、彼女は曲がりなりにもこの面子(めんつ)の中では最もかずみと縁がある人間だ。

 かずみの状況に何かしら思うところはないか、聞いてみただけだが、この様子では無理そうだ。

 それなら、構うだけ時間の浪費になる。今もヘスペリデスの宵は空から俺たちを監視している。

 アレクセイの能力に警戒し、一時的に攻撃の手を止めているようだが、いつ攻撃を再開するとも限らない。

 早々に浮かんでいる奴まで到達する方法を見つけなくては、まずい事になる。

 彼らと共に計画を練ろうと、サキのソウルジェムから繋いでいたケーブルを離した。伸ばしていたケーブルはするすると俺の本体へ巻き戻っていく。

 だが、彼女はその離れゆくケーブルを掴み取る。

 

「待ってくれ……私も! 私も協力させてくれ!」

 

 

〜サキ視点〜

 

 

 もっと早くこの結論に辿り着くべきだった。

 どうして、私は“私の知るミチル”に拘っていたのだろう。

 なまじ性格も姿も似せて作れてしまったから、ずっと“思い出の中のミチル”に囚われていた。

 悩み続けた挙句、それを利用されて、思い出さえ自分で汚してしまった。

 でも、そうじゃない。重要なのはそこじゃなかったんだ。

 残火という蠍の魔女モドキの言葉を聞いて、ようやくそれが理解できた。

 死んだ“ミチル”が……もう二度と会えないはずの彼女が、“かずみ”として生きている。

 その事実だけで満足するべきだった。

 生きて、動いて、笑っている。それだけで私たちは納得するべきだった。

 彼女が“私たちの知るミチル”である必要性なんてなかった。

 ああ……。かずみ、ミチル。私はやっと君たちを分けて見る事ができた。

 心に区切りが付けられた。

 

「私もかずみを救いたい。彼女の生きている姿が見たいから……」

 

 地面を這う残火にそう伝えた。

 今度こそ、かずみと向き合うために命を懸けて戦う。

 ミチルのためじゃなく、私自身のために。

 手に取っていたケーブルが私の手を握るように巻き付く。

 言葉は必要なかった。同じ志を持つ者への尊重と連帯感が無言の内に伝わってくる。

 待っていろ、かずみ。私はもう間違えない。

 




一部を超える破壊をもたらす敵。瞬時に消えた援軍。
残火たちの秘策とは……。

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