魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~ 作:唐揚ちきん
~◼️◼️◼️視点~
……聞コえル。
誰カの声ガ、聞こエテ来る。
女の子ノ声だ。凄く優シくテ、温かナ声……。
ソれが私ヲ包み込ンデ来ル。
『◼️◼️◼️……起きて。
何ダろウ。何かヲ呼んデいるノかナ。◼️◼️◼️って何ダろう?
わタシには分カらナイ。知ラない言葉ダ。
アナたは誰ナの……?
『私はミチル。プレイアデス聖団の最初の魔法少女』
ミチル……。懐かシイ響キがスル。ドコかで聞イタ事のアル名前だ。
『こうして話すのは初めてだけどね。ずっとあなたの傍に居たんだよ。あなたのすぐ近くで、私の世界を見てた』
彼女は言ウ。自分ハ本来、こうシテ話す事のデキる存在ではナイのだト。
ミチルはワたしに色んナ事を聞かせテくれタ。
好キな食べ物。好きナ色。好キナ季節。
一番面白カッタのハ大好きなグランマの話。優しクテ、厳シいたった一人のおばあチャン。
グランマの作ル苺のリゾットは絶品ナンだと彼女ハ自慢してイタ。
プレイアデスとカ、魔法少女トかはヨク分からなかっタけれど、ソレを話すミチルはどこカ楽しソウだった。
時折、挟む◼️◼️◼️ト言う単語ガ気になっタが、ソレを差し引イテも彼女とノ会話は心地良カッタ。
様々ナ内容のオ話を聞カせてクレたミチルは、わタシに言っタ。
『……ねえ、◼️◼️◼️。まだ思い出せないの?』
思イ出す? 一体なニを?
『自分が誰で、どういう子なのか? 今まで何が合って、これから何をしなくちゃいけないのか? その全部』
……だメ。全然思い出セない。
わタシには何モナイ。記憶、思いデ。姿ニ、名前。
何にモ覚えテいない。本当ニ、ワたしなんテ存在シて居たんダロウか?
そう伝エルと、ミチルは悲しソウな声デ言った。
『そっか……じゃあ、せめて忘れないで。あなたには必ず迎えに来てくれる人が居るって事を』
迎エに来てくれル人……?
『そう。あなたの事を世界で一番大切に想っている人』
……どんな人ナの?
『真っ直ぐな人かな? 直情的で嘘が吐けないタイプ』
……男ノ人、ソれとも女の人?
『私より三つくらい歳上の男の子だね』
……見タ目は格好イイ?
『うーん……来ちゃったかぁ、この質問。どうだろう? 美形ではないけど、格好悪くはないと思うよ。……私的にはあんまり、いや、うん! 好みは人それぞれだから』
格好ヨクはナイのか……。チョッピり残念。
がっかりスルと、ミチルは少シだけ羨マシそうに付ケ足しタ。
『でも、どんなに傷付いても、あなたを助けようと足掻いてる姿は素直に格好いいと思うよ』
……そノ人の名前ハ?
『それはきっと彼自身が伝えるから、私の口からは教えられないよ。だから、それまで頑張って自分を見失わないで、◼️◼️◼️
……』
ミチル? 何ダカ、声が遠イよ?
彼女ニ何度も呼びカケるが、言葉はモウ返っテ来なかっタ。
マタ、独りボッチになっテしまっタ。ズッと、こんナ独リ世界が続クのだろうカ?
寂しクテ、悲シくて、意識ガ解けそうにナル。
デも、彼女は言ってイタ。
必ズ、迎えガ来ルと。
ワたしを誰カが迎エに来テくれるト、ソウ言ってイタ。
ダカら、待とウ。そノ人が来てクレる時マデ……もう少シだけ、待っテみよウ。
******
言葉が通じないという状況は非常に辛い。
自分の考えている思いが一切伝わらないのはもどかしさを超えて、ただただ切なくなってくる。
かずみたちの一斉攻撃により、肉体を破壊し尽くされた俺は、同時にみらいの魔法も喪失してしまった。
彼女の『
現在はカンナの魔法の力押しで辛うじて、ケーブルを生み出し、束ねる事で蠍の姿を保っているが、
聞く事は可能だが、話す事はできない。唯一、同じくイーブルナッツを使うアレクセイとだけは念話が通じるが、彼は通訳を積極的に行ってくれないため、ほとほと困り果てていた。
しかし、幾多の困難とぶつかって来た俺が、この程度でめげる事はなかった。
『コネクト』の魔法の効果を応用し、魂に触れた相手とやり取りをするという荒技でどうにか難を乗り越えたのだ。
『大変だったね。お疲れ様』
『お前が言うな!』
どこまでも他人事のアレクセイに、俺は激しく突っ込みを入れる。
この男、悪い奴ではないが他人に協調するという認識が著しく欠如している。更に天然ボケまで入っているから始末に負えない。
『そんな事よりも、かずみについて詳しい話を聞かせてくれ』
サキが俺の苦労をバッサリ一言で片付けて、本題に入るよう促す。彼女も彼女で酷いが、今はそれどころではないのも確かだ。
『そうだな。だが、今も魔物に襲われている知り合いが向こうに居るんだ。先に彼女を助けに行ってくれないだろうか?』
尻尾でルイが魔物と応戦している場所を指し示す。
分身の魔法が使えると言っても、彼女の純粋な戦闘能力は決して高いものではない。
理性の魔物でもあれだけの数を相手に単独で勝利できるとは思えない。
確実に増援は必要不可欠だろう。
だが、白銀の狼になったアレクセイがそちらの方角を一瞥して、首を左右に振る。
『それって、向こうだよね? じゃあ、大丈夫。僕らが行く必要はもうないよ』
『どういう事だ、アレクセイ! 必要がない? まさか、もう彼女は……』
アレクセイが持つ固有の能力は、物体を透過して擦り抜ける以外にもう一つある。
魔法を嗅ぎ分ける鋭敏な嗅覚。かつて俺の中にあったあいりの魔法さえ識別してみせたその嗅覚を以ってすれば、ルイが死んでいるかなど判断できてもおかしくない。
彼は既にルイが帰らぬ人となった事に気付いたのだろう。
『いや、違うから』
俺の杞憂を彼は一蹴して、話を続けた。
『そうじゃなくて、向こうから大量の魔法の香りが流れて来るんだよ。魔物とか、上の竜のじゃなくて、魔法少女の魔法の香りがさ』
『魔法少女の魔法? それも大量の? しかし、プレイアデス聖団が壊滅した今、徒党を組んでいる魔法少女など……、いや、もしかして、
今の今まで完璧に失念していた。
何故なら、彼女たちはこの騒動から早々に手を引いて、日常へと帰って行ったからだ。
戦場へ戻って来るなど誰が想像できようか。それほどまでに、あの狭い牢獄に幽閉されていた彼女たちが、再び戦う覚悟を持つとは考えられなかった。
〜ルイ視点〜
ここが年貢の納め時、という奴か……。
口の端に付いた血を右の籠手の裏で拭う。思いの外、かなり吐血していたようで渋柿色の籠手は簡単に朱に染まった。
内臓がやられている。呼吸をする度に引きつるような激痛が体内で走る。
分身はとうに消え失せ、新たに呼び出す余力もない。手持ちのグリーフシードを使って浄化を試みたが、その隙を魔物に突かれ、二つともどこかへ落としてしまった。
左腕は開放骨折して、手首から折れた骨が飛び出している。もはや、持ち上げる事さえ不可能となっていた。
右目は抉り潰れて開かない。外傷が脳まで達していない事だけが救いだ。
折れた歯を飲み込まないように吐き出してから、妙に口内の風通しが良くなって敵わない。詳しい様子は分からないが、どうにも神経が飛び出しているようだ。
死を目前に控えている、というより、生に辛うじて引っかかっている形だ。
魔法少女の身体でなければ、とっくに息絶えていただろう。
眼前に群れる魔物は、後八十弱。そのどれもが猛獣、危険生物の類だ。
武器は右手に握ったクナイ一本。
勝ち目はどれだけ大目に見積もったとしても、一割を下回る。
「ふーッ……ふーッ……」
血で詰まった鼻の代わりに口で荒く呼吸をする。
大虎がべろりと舌舐めずりをした。巨猪が前脚で地面を擦り付ける。空中を泳ぐ鮫が身を捩るように跳ねた。
魔物から元に戻った人たちは、半壊したあすなろタワーに随時分身を使って運んであるから、私が絶命したところですぐに狙われる危険はない。
失うものはもはや我が身一つ。ならば、……是非もなし。
クナイの持ち手を握り直し、折れた左腕を差し出すように構えた。
跳びかかった大虎の顎が突き出した腕に噛み付き、喰いちぎろう振り回す。
「ぐぅ……ッ!」
ただでさえ開放骨折していた左腕は、申し訳程度に繋がっていた筋線維をいくつか引きちぎった。
だが、その隙に大虎の眼球にクナイを突き立てる。
堅ゆで卵にフォークを突き刺したような弾力のある反動が手首に返って来る。
水晶体が噴き上がり、ヌメリのある液体と獣の絶叫の如き咆哮が撒き散らされた。
もう少しで倒せる。そう思ったところで走り出した巨猪の突進が私の脇腹に衝突した。
「がッ、はァッ……!」
二本の牙が脇の筋肉を抉りながら、私の身体を吹き飛ばす。口と鼻から深紅の血が零れて宙を流れた。
地面に転がった私に、止めを刺そうと鮫が空中を泳いで接近する。開かれた大顎にはずらりと並んだ鋭利な牙。
もう、かわすだけの力は私には残されていなかった。
腸を喰らい尽くそうと大きく開いた顎は、私の肉を切り裂き、抉り取るだろう。
死を覚悟し、正面を見据えると場違いな笑みが口元に湧いた。
……戦闘向きではない私にしてはよく頑張った方だ。けれど、これでようやく仲間の元へ逝ける。
皆、褒めてくれるだろうか。似合いもしない泥臭い戦い方をしたのだから、労いの言葉くらいは欲しいものだ。
しかし、鮫は口を開いた状態で、私の数センチ前で急停止する。
「…………?」
博物館に展示された標本のように、鮫はその場に縫い留められていた。
事実、その背中には長い棒が突き立てられている。
否、棒ではない。——薙刀だ。薙刀が鮫の背中から腹を貫通して、地面に刺さっていた。
総勢七名ほどの魔法少女が、私を取り囲むように上から降りて来る。
「……お前ら、は……?」
背中越しに問いを掛けると、薙刀を引き抜いた祝い結びの飾りが付いた短い紫色の和装の魔法少女が代表して答えた。
「私たちは、あなたと同じレイトウコの中に居たプレイアデスに狩られた魔法少女よ」
レイトウコの……魔法少女? 確かに言われ見れば、彼女の後姿には見覚えがある。他の魔法少女たちも同様だ。
「じゃあ……」
「ええ。あれから魔法少女の真実に目を背けて、日常に浸って逃げていたけれど……あなたがたった一人で戦っている姿を見て目が覚めたわ。……本当にごめんなさいね」
他の魔法少女も彼女に続いて、口々に私へ謝罪の言葉を述べた。
そうか。彼女たちは里美さんと残火が日常へと帰した魔法少女たちなのだ。
彼女たちが詫びる必要などない。これは私が自分の意思で決めた選択なのだから、謝罪は不要だ。
「他の皆も街のあちこちで戦い始めている。もう、あなた一人で戦わせる事はしないわ。私たちだって……魔法少女なんだから!」
魔法少女たちは各自の武器を作り出して、魔物と交戦し始めた。
祝い結びの魔法少女は私に近付くと傷口にそっと手を置いた。
「ッ……何を?」
「私の魔法は『縫合』なの。だから、じっとしてて」
彼女が傷口に触れると、その傷は縫い付けられるように塞がっていく。
治癒とは異なり、傷がそのものが消えて無くなるのではなく、皮膚同士が張り付くように修繕されていく様は自分が布地にでもなったかのようだ。
私は治療される裏で巻き起こる魔法少女たちの戦闘を見て、つくづく自分は戦闘向きではないと感じた。
大虎は刃の付いた武器を持つ魔法少女たちに切り裂かれ、巨猪は攻撃的な魔法で弾き飛ばされている。
私やひよりはもちろん、舞やカイネよりもよっぽど殺傷能力のある魔法少女もちらほら散見できた。魔法少女はその在り方が重要なのだと里美さんから学んだ私でさえ、少し自信を失うほどの戦闘力だ。
手持ち無沙汰になった私はてきぱきと『縫合』を続ける魔法少女に尋ねる。
「……名前、聞いてもいいか?」
「茜すみれ。すみれでいいわ」
「そうか。私は皐月ルイ。同じく名前呼びで構わない」
小学生の時ならいざ知らず、中学に入ってからは仮面のような社交性は身に着けてきた。
それでも、こうして素のままで見知らぬ他人と名前を聞き合えるようになったのは、きっとトレミー正団のおかげだと思う。
彼女たちと過ごした期間は数時間にも満たないだろう。だが、彼女たちとの交流で得たものは私の中で根付いている。
昔の私であれば、ひより以外に口に出さなかった言葉を彼女へ告げた。
「すみれ。頼む……かずみを助けてやってくれないか?」
「かずみ? それはあなたの友達? まだどこかで戦っている魔法少女が居るの?」
「いや、違う。かずみは今、あの巨大な竜の中に取り込まれている。こういうと生存は絶望的に聞こえるだろうが……それでもまだ生きているんだ。だから……」
更に頼み込もうとすみれに土下座しようとするが、彼女は私の口をそっと手で制した。
「分かったわ。他の場所で戦っている皆にもテレパシーで伝えてみる。だから、ルイは安静にして治療を受けて。正直、ここまでボロボロの人にどこまで私の魔法が効くか分からないから」
「……恩に着る」
それだけ言うと私は緊張の糸が切れ、全身から力が抜ける。おまけに意識まで遮断しそうになるが、そこだけはどうにか堪えてみせた。
だが、私の身体はこれ以上の酷使に耐えられそうにない。丸投げするようで心苦しいが、私はすみれたちにかずみの事を任せてしばし休息を取った。
残火……。私は、私にできる全てを済ませた。後はお前次第だ……。
ここに来て増える増援。ちなみに茜すみれはオリキャラではなく、原作七話にて開始二ページでプレイアデスにジェムを奪われた可哀想な魔法少女です。