魔法少女かずみ?ナノカ ~the Badend story~   作:唐揚ちきん

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前回までのソードアキラ・オンラインのあらすじ
2022年、世界初のVRMMORPG《ソードアキラ・オンライン》(SAO)の正式サービスが開始され、約1万人のユーザーは完全なる仮想空間を謳歌していた。
しかし、ゲームマスターにしてSAO開発者である天才プログラマー兼あすなろ中学校教師、佐々岡司郎がプレイヤー達の前に現れ、非情な宣言をする。SAOからの自発的ログアウトは不可能であること、SAOの舞台《浮遊城アキラクラッド》の最上部第100層のボスを倒してゲームをクリアすることだけがこの世界から脱出する唯一の方法であること、そしてこの世界で死亡した場合は、現実世界のプレイヤー自身が本当に死亡するということを……。
プレイヤーの一人である少年一樹あきらは、絶望的なデスゲームをクリアすべく、戦う決意をして旅立つ。それから一か月が経過し、2000人のプレイヤーが死亡するも、ベータテスト経験者たちでさえ第1層を突破できずにいた。βテスト経験者たちへの非難を自分一人に向けるため、チート紛いなβテスト経験者『ビーター』の汚名を自ら名乗り、ひたすら最前線で戦うあきらは、同じく攻略組として戦い続ける少女かずみと出会う。


第九話 トラペジウム征団

「まず俺たちが手に入れた力についてだが、これはイーブルナッツという魔法のアイテムを人体に取り込んだからだ。こいつは俺の協力者からもらったもので残りストックはもうほとんどないから無くすなよ?」

 

 錆びた鉄のような強烈な鼻に()く血の臭いが漂う格技場で俺は演説をするように滔々(とうとう)と語る。

 聞き入るは黄土色の針鼠、紺碧の蝙蝠(こうもり)、そして――朱色の二本の角を額から生やした熊の三体の魔物。

 それぞれ旭先輩、ひむひむ、力道改めリッキーだ。三人とも人の姿から解放されて絵も言われぬ快感を味わっている。

 ひむひむは器用にも天井に逆さまでぶら下がって、コウモリに成り切っていた。奴め、さては形から入るタイプの人間だな。

 

「だ・がっ、俺たちからこの力を奪おうとする存在が居る。それが『魔法少女』と呼ばれる少女共だ。奴らは自らを正義と称し、この力を悪と定義して始末しようとしてやがる。まったくもって俺たちにとってはこれ以上にない迷惑な連中だ!」

 

 両手を大きく開き、俺は預言者の如く大仰に叫んだ。

 呼応するように魔物たちは低く唸る。それらしいことを言いながら、魔法少女たちへの負の感情を煽っていく。

 それらをゆっくり見回し、重々しく頷く。

 

「これから俺の話す『ゲーム』はその魔法少女を狩っていくハンティングだ。標的は『プレイアデス聖団』という七名の魔法少女のチーム。ここいら仕切ってる大物たちらしい。俺たちの目的は奴らを皆殺しにして得るべき幸せを享受すること!」

 

 ぐっと片手を掲げて、俺も人の形を捨て去り、黒い竜へと変貌した。

 蛍光灯の光を浴びて黒光りする鱗の生えた腕を伸ばして、彼らに宣言するように言った。

 

『これより、俺たちは奴らを苦痛の底に突き落として始末する! お前ら!! 準備はいいか!?』

 

『任せてよ。女の子を傷付けるのは大得意なのさ』

 

 ひむひむは甲高い声で笑い、羽根を広げて自信気にそう答える。

 

『……正義を自称する人間は、たまには虐げられている人間の痛みや苦しみを味わってみるべきだと思う』

 

 旭先輩は目を細めて独り言を呟くように吐き捨てる。

 

『せっかく力を手に入れたんだ。手放して溜まるかよ』

 

 リッキーはその爪の生えた拳を握り、もう片方の手にひらに打ち付けた。

 三者三様だが、皆俺のゲームに参加してくれる気のようだ。直々に目を付けた甲斐があったというものだ。

 それじゃあ、手始めに行わなければいけないことが一つ……。

 

『取り合えず証拠隠滅~』

 

 大きく開かれた口から吐き出された紅蓮の火炎が、黒く固まり始めていた血で汚されている格技場を灼熱の楽園と変えて行く。

 血生臭さは物が焼ける焦げ臭さに掻き消され、密閉された空間は炎と煙に包まれた。

 

『うわっ! あっつぅ!! いきなり何するのさ、あきら君!?』

 

『これから毎日格技場を焼こうぜ?』

 

 火の粉が舞い散り、天井に居たひむひむが悲鳴混じりに文句を言う。

 しかし、気にしないのが俺クオリティ。こちとら静岡生まれの東京育ち、火事と喧嘩は江戸っ子として欠かせない。

 

『俺の荷物と着替えまだ奥の部屋に置いてあんのに!?』

 

 壁に伝わる炎が奥の着替え場所まで届き、めらめらと燃え盛る。

 鬼のような姿の巨大な熊になった癖にみみっちいことでショックを受けるリッキー。こいつは意外と萌えキャラの素養があるな。

 

『いいじゃん。リッキー嫌な記憶と共にこの際全部パーっと燃やしちまえよ、ぱーっとさあ』

 

『……というかそろそろ、僕らも出ないとまずくない? 一酸化炭素も充満してるし、柱も焼け落ちそうなんだけど……』

 

 旭先輩の言う通り、煙ももうもうと立ち込めている上、格技場を支えている支柱も大部分を炎に侵食されていた。

 一番処理したかった人間サボテンと化した相撲部員は誰が誰だか分からないほど燃えて、炭化している。

 そろそろ、潮時か。

 俺はさらにもう一度炎を吐いた後、全員とも比較的に火炎を吹き付けなかった裏口の扉をぶち破りながら飛び出した。

 皆も俺に続いて次々に飛び出してくる。

 それを一旦見届けると、格技場の裏に繋がる林へと飛んで行く。

 

『こんなめちゃくちゃな奴に俺は着いてきてしまったのか……』

 

『ははっ、そう言うなよ、リッキー。俺たちはもう常識の向こう側に居るんだぜ?』

 

 リッキーはその熊面を歪ませて悲しそうに言う。そのごつい顔でそういう表情を浮かべるとかなり面白い。加えて、サンドバックで居た時よりもずっと活き活きとしている。

 林の中まで来ると俺たちは変身を解き、人間の姿に戻った。

 火の手が上がる格技場は今も元気に燃え盛っているだろうが、校庭にも部活で残っている生徒が居たからすぐに消防車を呼ぶはずだ。

 

「いや~。よく燃えたな」

 

「過激だね、あきら君は。でも、そういうところが面白くて着いて来たんだけどね」

 

 他人事のようにそういう俺にひむひむは苦笑いを浮かべる。

 旭先輩は俺に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「僕が先走ってしまったからこうなったんだよね……ごめん、あきら君」

 

 俺は彼の肩にポンと手を置く。

 

「気にすんなよ、旭先輩。()りたい時に()るのが一番気持ちいいもんだ。それを我慢させんのは酷ってもんだろ?」

 

「あきら君……ありがとう」

 

 俺に自分の行いを肯定されたからか、目の下に隈のあるくたびれた顔に喜色が付く。典型的なイジめられっ子という人種は自分を否定され続けてきたような人間なので、肯定されると驚くほど喜ぶ。旭先輩も例外ではなかったらしい。

 

「なーに、俺と旭先輩は仲間なんだから感謝なんていらないぜ。……うーん、そうだな、じゃあ、先輩にも友好の証にあだ名進呈しよう」

 

「あだ名?」

 

 尋ねる旭先輩にひむひむが傍にやって来て教えた。

 

「僕は氷室だからひむひむ、力道君はリッキー。それぞれあだ名をあきら君が付けてくれているんです」

 

「おい、待て。さっきから気になってたけど何で俺もうあだ名付いてんだよ? そして、何で浸透してるんだよ?」

 

「煩い、リッキー。気が散るからちょっと黙ってろ」

 

「何んだこの理不尽!?」

 

 俺が煩いことを咎めるとリッキーは愕然として叫んだ。まったく、さっきから煩い奴だ。

 鬱陶しく下らないことでリッキーが文句を言って騒ぐせいで集中できず、いいあだ名が浮かんで来ない。

 しかし、まあ、さっきまで相撲部で当然のようにイジめられていた人間が理不尽を口にできるようになるとは……。どうやらイーブルナッツの与える力とは精神にも作用するようだ。

 

「旭……アサヒ……サヒ……。うん、旭先輩のあだ名は『サヒさん』で決まりだ。改めてこれから宜しくサヒさん」

 

 俺が熟考の末にあだ名を命名してあげると、旭先輩改めサヒさんは嬉しそうに目元を弛めた。

 

「サヒ……か。あだ名なんて嫌がらせで付けられた事しかなかったからちょっと嬉しいな……」

 

「あ、分かります。こうやって友達につけてもらうと嬉しいですよね」

 

 誰にでも社交的な性質らしく、ひむひむはサヒさんにも気さくに話しかける。サヒさんの方もそれが嫌ではないようで心地良さそうにしている。

 一方、リッキーの方はまだ俺の付けたあだ名が不満なようでぶつくさと文句を言っている。

 

「リッキーって、夢の国のネズミみたいじゃねえか……」

 

「何が気に食わないんだよ。リッキーベア」

 

「誰がリッキーベアだよ!」

 

「ハハッ、キミのことだよ。ハハッ」

 

 甲高い声で某ネズミの真似をして、リッキーに答える。

 何か言い返そうとしたが、あまり口は立つ方ではないようで、ぐぬぬと悔しそうな表情で堪えた。

 どこまでも弄り易いなキャラをしている。なかなか楽しいがそれよりもそろそろ移動した方がいいだろう。貴重な時間をここで潰すのはもったいない。

 俺は皆を連れて、自宅へと向かった。転校初日にして遅めの帰宅だ。

 流石の俺でも放課後に放火後テロタイムするとは思いもしなかったので致し方ない。

 

 *

 

 自宅のマンションの部屋前に付くと俺は鍵を使わずにドアノブを回す。

 思った通り鍵はされていなかった。

 とはいえ、俺が鍵を掛け忘れた訳でも、空き巣に入られた訳でもない。

 その理由はソファに腰掛けて、テレビを見ながら(くつろ)いでいる女の子、ユウリちゃんだ。

 彼女は俺たちの方へ顔を向けると、品定めをするように眼球を動かした。連れて来たひむひむたちが使えそうか判断しているようだ。

 

「あの子が俺たちの協力者のユウリちゃん。魔法少女だけど味方だ」

 

「お前らが使えなさそうならアタシは容赦なく切り捨てるつもりだけどな」

 

 ユウリちゃんは冷徹な表情で連れない台詞を吐いた。

 その態度に少しむっとしたのか、リッキーがひむひむとサヒさんを押し退けて前に出た。

 力を得たせいで好戦的になっているリッキーはユウリちゃんを見て、憤慨して、言い放つ。

 

「いきなり知らない相手に切り捨てるだの言われたくないんだが? 何ならここで力を見せてもいいぞ?」

 

 ユウリちゃんは相変わらず冷めた目をしていたが、ゆっくりとソファから立ち上がる。

 あ、こいつ、何か攻撃撃ってくる気だわ。

 そう勘付いた俺はそっと脇に逸れた。リッキーがユウリちゃんの直線上に立つことになる。

 瞬時にユウリちゃんはカジュアルな服装から魔法少女の衣装に変身して、手に二挺の拳銃を召喚する。

 そして、即座にリッキーに銃口を向けて引き金を引く。

 当然、このままならば、リッキーの身体に二発のの銃弾がめり込むのだが――。

 

『しゃらくさい!』

 

 角の生えた朱色の熊に変貌したリッキーはそれを大きな手で、蚊でも潰すように二発とも同時に両手で叩き潰した。

 手を払うと、潰れてペシャンコになった元銃弾がゴミのように床に落ちる。

 ユウリちゃんとリッキーは睨みあい、緊迫した空気が俺の家に流れた。

 その緊迫した空気を打ち破ったのは他でもない俺だった。

 

「リッキー。部屋汚したな? 後でちゃんと掃除しろよ」

 

『いや、そう言う空気じゃなかっただろ!?』

 

 巨体を揺らして突っ込む赤い熊さん。実にシュールで可愛い。鬼のようなその見た目からは想像も付かない律儀さはもうギャグとにしか見えない。

 

「ぷっ、あははは。あきら、お前の連れて来た奴はなかなか面白いな」

 

 顔を上げて笑うユウリちゃんにリッキーは怒り出しそうになる。しかし、彼女の姿があられもないことに気付くと違う意味で必死に目を逸らし始めた。

 

「だろ? スカウトした三人の中でも随一の萌えキャラだ」

 

『だ、誰が萌えキャラだ、誰が!』

 

「力道君。突っ込むだけドツボに嵌っているよ、君」

 

 ひむひむが呆れたようにリッキーの背中に手を置いてそう言った。

 サヒさんの方はリッキーよりも女の子の露出に免疫がないようで、顔を両手で覆っている。だが、地味に指先からちらちらと見ている辺り、むっつりスケベだった。

 

「俺を含め、プレイアデス聖団を狩るための四体の魔物の猟師……そうだな。チーム名は『トラペジウム征団』とでもしようか」

 

「トラペジウム?」

 

 俺がチーム名を決めると、ユウリちゃんは聞き返す。

 それに俺ではなく、ひむひむが代わりに答えた。

 

「オリオン大星雲の星生成領域で生まれた比較的若い星による星団から名付けたんだね。なるほどね、ギリシャ神話でプレイアデスの姉妹を追い掛け回した狩人オリオンから命名したのか。憎いネーミングセンスだね」

 

 インテリ然とした面構えに合ったように、わりと博識なようだ。

 俺はひむひむに首肯して後を引き継ぐ。

 

「オリオン大星雲の中心部には、四重星の台形を描く、非常に若い星からなる散開星団がある。それがトラペジウム星団だ。俺たちにぴったりだろ?」

 

 サヒさんもリッキーも気に入ってくれたようで悪くない名前だと小さく呟いていた。

 本当は『あすなろ・ホーリー・カルテット』と悩んだが、こちらにして正解だった。

 いや、本当になぜ悩んだのかと思うくらいダサいな。ふっと脳内にどこからか電波が届いてしまった。

 さて、名前も決まったことだし、ユウリちゃんを合わせて本題に移るとしよう。

 俺は一つ咳払いをして、皆に話し始める。

 

「そんじゃ、本題に入ろうか。結成して早速だけどこれからプレアデス聖団の内の三人が居る家に襲撃をかけようと思いまーす。反対意見のある人ー?」

 

「随分といきなりだな。勝算はあるのか?」

 

 俺の話し方があまりに軽かったせいもあり、ユウリちゃんは懐疑的な視線を浴びせてくる。

 それを見て、人間の姿に戻ったリッキーが挑発する。

 

「……何だ、びびってんのか? 魔法少女ってのも案外大したことないんじゃないのか?」

 

 さっき笑われたことを根に持ってか少しばかり意地の悪い笑みをしている。早く手に入れた力を使って暴れたいということもあってか、リッキーは非常に乗り気なようだ。

 

「調子に乗るなよ。魔女モドキ風情が……」

 

 ユウリちゃんの方も煽り耐性ゼロのようで剣呑な雰囲気になりかけたが、ひむひむが二人の間に割って入り、(なだ)める。

 

「まあまあ。ここで仲違いしても得をするのはプレアデス聖団って人たちだけだよ。力道君もユウリさんもここはひとまず落ち着いて。ね?」

 

 爽やかな笑みで場を仲裁するひむひむは、血で興奮する変態野郎には見えない。一見、変態に見えない真性の変態が一番恐ろしいと思う。

 

「そーそー。喧嘩はよくないよー。で、ユウリちゃんは反対なの?」

 

「馬鹿言うなよ。アタシが狙っていたのはかずみなんだ。乗るに決まってるだろ」

 

「なら、いいな。サヒさんはどう?」

 

 何も言わずに黙っていたサヒさんにも賛同を求める。

 彼は自分のことは聞かれるとは思っていなかったようで少しだけ狼狽した様子を見せた。

 

「……え? 僕? それはもちろんやるよ……!」

 

 やる気がなかった訳でも、反論がある訳でもなく、ただ自分の意見がそれほど影響しないものだと思って発言しなかったみたいだ。内気な人間には有りがちなスタンスだ。

 

「反対者ゼロ。じゃ、全員賛成ってことでいいな? それじゃ、御崎邸宅にレッツゴー」

 

 俺はトラペジウム征団の仲間とユウリちゃんを率いて、かずみちゃんたちの居る御崎邸宅に足を運ぶ。

 手始めに彼女たちを傷付けて、遊ぶとしよう。

 ああ、待ち遠しい。彼女たちをどんな風に弄くろうかと考えただけでワクワクが止まらない。

 愛しい女の子に会いにデートに行くようなそんな気分だ。

 




結局、バトルは次の回になってしまいました。
あきら君の愉快な仲間たちのキャラをもう少しだけ描きたかったのでこうなりました。
あんまり性格の掴めないキャラが戦っていても面白く感じられないと思ったので、仕方がない措置として理解して下さるとありがたいです。

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