うちは一族のレッドアイズ・ブラック・ブレット 作:gurasan
クヨウと別れたカガリの元に蓮太郎たちの前に現れたモデル・ウルフのガストレアが現れる。
カガリは写輪眼へと切り替え、相手を見据えた。
そして、相手の精神世界へと入り込む。
そこにいたのは一人の老人。瞳は赤く、うちはの家紋が描かれた着物を着ている。
「シジマさん。どうでした?」
「青いガキだが、今までに来た奴らよりはずっとマシだな」
「そうですか。それなら期待してもいいんですかね」
「イニシエーターじゃない女の方は中々のやり手だぞ。胸もでかいしな」
「ガストレアになっても色ボケですか?」
「ガッハッハ。姿が変わろうと変わらんものもある。まあ、この姿になってから子供には人気だがよ」
シジマの言葉にカガリはなにも返さない。
輪廻転生を体験している彼にとって、ガストレア化した状態でこの世に縛り付けるというのは罪悪感があった。
サスケがナルトの中の九尾と対峙したように写輪眼による瞳術は相手の精神世界にも干渉できる。そこで幻術によってガストレアとしての本能を抑え、意識を無理矢理表に出すことでガストレアと化しても意識を保たせることが出来た。しかし、それだけでは不安定なのでいくつかの制約で行動を縛っているのだ。
そうやって不自由を強いているというのもカガリの心を責め立てる。人として死なせた方が良かったのではないかと。
「気にすんなと言っただろう。ガストレアになって倅たちを殺しそうになってたところを止めてくれたのがお前だ」
「運が良かっただけですよ。体内浸食率が七割に達していたら無理でした。その場合は殺すつもりでしたから」
カガリ自身実験を繰り返したわけではないから正確な数値は分からないが、ただ操るだけならともかく、長時間ガストレアとなった個体から意識をサルベージすることは不可能だった。
「それは本来倅の役目だったからな。そうなったとしても俺はお前に感謝してたさ。あいつは殺せといってもきかないだからよ。こんなクソジジイ生きてたって老い先長くねえってのに」
それはとてつもなく酷なことだ。
うちはにとって家族を殺すというのは血の涙を流すほど辛いこと。事情があったとはいえ一族を皆殺しにしたイタチの苦悩はどれだけのものだったのかカガリには想像もつかない。
両親を殺された恨みがないと問われれば分からないとカガリは答える。
前世ではイタチが両親を殺している所を見ていないし、協力者のマダラもといオビトの方が殺したのかもしれない。
むしろ事情を知っているカガリからすればどうしても彼に同情してしまう。前々世では好きなキャラクターであったし、前世では尊敬の対象だった。
シジマの件もカガリは殺せないからこそ幻術をかけるという方法を取ったのだ。シジマには先のように言ったが、もし失敗していたら息子夫婦と子供たちの目の前で彼を殺せたのか、今でも分からない。
「それだけ大切に思っていたってことでしょう」
シジマは照れ隠しのように「けっ」と吐き捨てた。
「なんにせよ、お前のおかげで俺は今でも他の奴らを守ってやれる。そりゃ、酒の味も分かんねえのは不便だが」
言葉の途中でシジマの手に酒瓶が現れる。
「所詮幻ですけど。幻術で誤認させているので味は感じると思います。今度は現実で本物を樽で持ってきますので今はそれで我慢し下さい」
「わりいな。そうなったら八岐大蛇みてえに呑んでやるよ」
「シジマさんは狼でしょうに」
「ガッハッハ。そういやそうだった」
「それではまた」
「ああ、コウリの奴にもよろしくな」
コウリとはカガリの父の名である。
カガリは頷き、現実へと戻ってきた。
シジマは制約に則って、のっそのっそと覚束ない足取りで歩き始める。シジマの意識が引っ込んで酒盛りを始めたため、傀儡モードになったのだろう。本人の意識が表へ出ていられる時間はそう多くない。だからこそ、それ以外の時間は完全に操られた状態にする必要があるのだ。
シジマに背を向けたカガリは応接間へと足を進めようとし、後ろから声をかけられた。
「面接をするんだってな」
「将監さん。夏世ちゃんはどうしたんですか?」
「置いてきた」と将監は特に悪びれもせずに言う。
「また、怒られますよ」とカガリは呆れ顔で言った。
将監のことだから黙って無音殺人術を駆使し、抜け出してきたのだろうとカガリは予想する。
どうせ追いかけてくるのだから一緒に来てあげればいいのにとカガリは思う。
「そんなことよりその面接、俺にも一枚噛ませろ」
「はあ、殺さないで下さいよ」
「それは相手によるな」と将監は凶悪な笑みを浮かべて言った。
その様子を見て、カガリは溜息を吐きながら今度こそ応接間へと急いだ。
応接間。そこで蓮太郎たちは待たされている。
十分ほど経ち、木更の腹の虫が鳴ってきた所で扉が開いた。
「お待たせしました。警務部隊隊長うちはカガリです」
「天童民間警備会社社長天童木更と申します」
「同じく天童民間警備会社所属のプロモーターの里見蓮太郎です」
「イニシエーターの里見延珠だ」
「お前の苗字は藍原だろ」
「結婚すればそうなるのだから問題ない」
「むしろ問題しかねえよ。せめて人様の前で言うのは止めろ! 俺、最近ロリコンヒモ野郎って呼ばれてんだぞ!」
「事実ではないか」
「違う。濡れ衣だ!」
蓮太郎はそう言うがアパートの家賃を払うため延珠に金を借りたことがあるのは事実である。ただそれ以降は死にもの狂いでやりくりして一度も金を借りずに済んでいる。しかし、一度貼られたレッテルは中々剥がれないのであった。
「うちのものが騒いで申し訳ありません」と木更は苦笑いを浮かべて言った。
「いえ、久々に仲の良いペアを見ることが出来て安心しました」
カガリは木更に着席を促し、自分も対面に座る。
「まずは……」
「食事にしましょう」
「依頼内容の確認を……」
「食事にしましょう」
「……食事しながら話しましょう」
一応、天童民間警備会社の懐事情を知っていたカガリの方が折れる形となった。
「それなら俺が持ってくるように伝えておこう」コウリはそう言って部屋を出ようとする。
「あっ、父さん」その背にカガリは声をかけた。
「なんだ?」
「クヨウがまだ朝ご飯を食べてないようだったら、連れていくか、持っていくかしてくれない? いつもの演習場にいるからさ」
「分かった」そう言ってコウリは部屋を出た。
「さて、会食が始まるまで、依頼内容を確認するとしましょう」
カガリはそう言って蓮太郎たちの方へと向き直った。
「(それにしても将監さん待たせてるんだけど大丈夫だろうか)」
コウリは朝食を応接間に運ぶよう頼んだ後、演習場を訪れていた。
そこではクヨウがゴムボール片手に悪戦苦闘している。未だにゴムボールを割るには至ってないようだった。
「クヨウ。もう朝食の時間だから休みなさい」
「コウリさん。あの、でも、もうちょっとで出来そうな」
「いいから休みなさい。カガリも心配していたぞ」
「兄さんが。そうですか、分かりました」 カガリの名を出すとクヨウは素直にゴムボールをしまった。
クヨウはカガリの言ったことならばほとんど無条件に従う。おそらく、カガリが人を殺せと言えば殺すだろう。それどころか、カガリの仕事内容を知っても尚、彼の仕事を手伝いたいといつも言っている。
褒められたいがために人を殺し、笑顔でカガリにそのこと報告する。
そんな危険性をコウリは彼女に感じていた。
「クヨウ。お前はカガリのことをどう思っている?」
「どどど、どうってそんな、いえ、その」クヨウは目に見えて狼狽え、顔を赤くした。
その様子を見るとコウリの懸念は無駄なものに見える。
なにしろクヨウはまだ子供。これから先の人生で如何様にも変わるだろう。
「いや、すまん。変なことをきいたな」そう言ってコウリは屋敷へと歩き出す。
しばらく放心していたクヨウは慌ててその後を追った。
カガリの父であるうちはコウリはカガリと一族のことで頭を悩ましていた。
カガリが前世の記憶をもつことをコウリは本人からきいている。そして、前世の記憶から様々なものを模倣していることも。
コウリが思うにカガリは模倣することに取り憑かれている。その姿はテレビに登場するヒーローを真似る子供のようにも見えた。
写輪眼には他者を模倣する力があり、その力を持つが故に模倣したいという欲求が生まれるのかもしれないとコウリは考えていた。
また、カガリはまるで面白い漫画を薦めるような気安さで人を殺す技を教えようとする。
チャクラの扱いもその一つ。たしかに人類が危機に陥った今の世界では必要とされる力だろう。しかし、チャクラは使い方を誤れば簡単に人を殺す凶器となる。故にコウリは軽々しく教えることを禁じたのだ。
それからは誰かに何かを教える前に一度相談するようにとコウリは言い聞かせており、カガリも今のところはそれを守っている。
愛する息子のため、今の自分が出来るのは行き過ぎないようにブレーキをかけるだけなのだろうかとコウリは頭を悩ましていた。
今のカガリは夢でも見ているかのように生きている。前世の記憶があるためにオマケの人生とでも思っているのかもしれない。目を覚ますにはそれこそ万華鏡に目覚めるほどの強いショックが必要だろう。もしくは前世の記憶を消してしまうか。
そして、こちらはカガリだけでなく一族の者全員に見られる傾向だが、身内以外の命はどうでもいいと考えている節がある。いや、どうでもいいのではなく身内の優先順位が高すぎるのだろう。
なんにせよ生きた人間で殺人術の練習をするなど、正気の沙汰ではない。一応、犯罪者のみを対象としているようだが、それは免罪符になりえない。
戦争は人をおかしくするというが、コウリはその通りかもしれないと思った。
自分に一族内での発言力がある内はまだ抑えることが出来る。しかし、遠くない内にうちははカガリを筆頭とする写輪眼に目覚めた武闘派が指揮するようになるだろう。
その原因の一つがうちはを取り囲む状況の悪化だ。
うちはの里が創設されてからは反ガストレア主義者、政府関係者、IISO、民警による公、秘密裏を問わない工作が日に日に増している。
侵入やテロ紛いの活動も頻発しており、一族のフラストレーションも高まってきていた。
今では門から入らない不法侵入者はほとんど問答無用でガストレアと化した同胞に食い殺されても構わないという案が通るほどだ。コウリは反対したが見知った者とガストレアウイルスに感染した者は襲わせないから問題ないとして可決されてしまった。
本当に身内と呪われた子供達以外の人間はどうでもいいのだとコウリは感じた。
カガリは特に気にしていないようだが、一族には人間とガストレアの両方に憎しみを抱く者が多い。
コウリもその気持ちは分かるし、家族を失い、虐げられてきた一族の者に憎しみはなにも産まないなんて言葉はかけられなかった。
しかし、このままではクーデターを起こすような事態になりかねないとコウリは懸念を抱いていた。
なにせ、万華鏡をもつクヨウがいる。彼女の力を使えば東京エリアは一瞬で滅びかねない。
さらにカガリは尾獣と呼ばれる存在を操れる万華鏡写輪眼を用いればゾディアックすらも意のままだろうとコウリに話していた。それは冗談抜きで世界を相手どって勝つ可能性があるということ。コウリはそのことを口外しないよう口止めした。
幸いにも一族に子供を戦わせようとするものはいない。しかし、それは大人になれば意見が変わるかもしれないということ。
早くて5年。遅くとも10年後には大人と認められる。そうなれば人に良い印象を持たない彼女は率先して力を使いかねない。
そうでなくとも大人の誰か一人でも万華鏡に目覚めれば全ての呪われた子供たちを救うためと世界に喧嘩を売るだろう。
「やはり誰も死なすわけにはいかんな」
万華鏡に目覚める条件は目の前で大切な者を失うことならば一族の犠牲を0にすることが火種をなくすことにもつながる。特に政府の人間に殺されるという事態は避けなければならない。
何事もない内に世界が変われば、とコウリはありきたりなことを願った。
次回予告
試験として将監と対峙する蓮太郎。
「誰が来るかと思えばガキか。最近の民警はよほど人手不足とみえる」
「アンタ何者だよ? 人と話すときはまず名乗りやがれ」
「止めなさい、里見くん。彼は伊熊将監。IP序列323位。鬼人の異名をもつプロモーターよ」
「323位だと」
「それだけじゃないわ。恐ろしいのはその序列に至るまでの功績のほとんどがガストレアの討伐ではなくプロモーターを殺したきたことによるものってこと」
「なんだ、そんなことまで知っているのか。なら話が早い。
精々殺されないよう足掻いてみせろ」
「くそったれ。こうなりゃ、とことんやってやろうじゃねえか!」
一方、クヨウと出会った延珠はといえば、
「蓮太郎は凄いのだぞ。おまけに夜もすごいのだ」
「よ、夜って。でもすごさなら兄さんも負けてませんよ」
「一緒に寝るときなど、妾を全然寝かせてくれぬのだ」
「意中の人と一緒に寝るなんて、なんて羨ましい。私も兄さんと……」
「俺がどうかしたか?」
「ふぁっ!?」