機動戦士ガンダム00AGE 【劇場版ガンダム00×ガンダムAGE(四世代目)】   作:山葵豆腐

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その4

 真実を知ったキオだが、表情は暗いままだった。

 降りしきる雨、窓の向こうの灰色の世界を眺めている。格納庫がいくつも建ち並んでおり、いくつかのMSが輸送されていた。一般向けに解放されている待合所は狭いが、人気自体が少ないのでむしろ広く感じられた。現に、今ここには男二人しかいない。

 

 

 結論から言うと、今起きている反政府勢力の攻撃活動の殆どは、連邦政府の暗部が引き起こさせたものであった。過激な思想を持つだけなら誰でもできる。そのような人物に資金提供を行って、活動を促す。簡単なことだ。

 そんなことを知らない連邦政府は軍備拡張が必要だと考え始め、現行MSの追加生産や、次世代量産型MSの開発に乗り出す。そして暗部の指導によって、ガンダムまで開発されることとなったのだ。

 

 

 それらは全て、来るべき外宇宙勢力との戦争に向けてのことだった。

 もちろん外宇宙勢力の存在を公表すべき、という意見もあった。しかし今公表したところで、社会の混乱を招くだけだ、と暗部の人間は言っていた。だが、キオはそうは思わない。

 三十一年前、皆が力を合わせてセカンドムーンの崩壊を防いだように、人は手を取り合って、戦うことができるという確信を持っているからだ。そうでなければ、今頃地球は冷え切った世界になっていただろう。

 

 

 だからこそ、今の連邦政府の隠蔽体質に憤りを覚えずにはいられなかった。昔から何も変わってはいない。フリット・アスノによる粛清が行われたとしても、彼がいなくなった途端に、再び暗部は広がり始める。そのような隠蔽体質が、百年に及ぶ血みどろの戦争を起こした、ということから目をつぶって、今も平然と隠蔽しようとしているのだ。

「今度は人類を殺す気か、奴らは……」

 

 

 その隠蔽の結果、人々の憎悪を拡大させて、いらぬ血を流させる。消えかかっていた炎に、油を注ぎまでして、隠蔽するものなのだろうか。

「憎しみの行先は、己の破滅しかありません。きっと彼らは破滅する恐怖を知らないから、ああもできるのでしょう」

 

 

 水色の短髪の少年は、キオに語りかけた。蒼い瞳は三十一年前とは違い〝丸み〟をおびていたが、背丈や容姿は変わっていない。ということも、彼が〝特殊な人間〟であるということを示している。

「一度、己の破滅に直面したから分かるのです……あの時、あなたが私を助けてくれなければ」

「僕も君に何度も助けられたさ……ゼラ」

 

 

 三十一年前と変わらない容姿のゼラも、着実に歳をとっている。足腰が衰え始めたため、杖を右手に持っている。国を導くために造られた体は、導く国がなくなった時からずっと彼を苦しめてきた。変わらない容姿は、国民に希望を与えるため。そのために、テロメアは通常のクローンよりもさらに短くなっている。もう長くは生きられないだろう。だが、ゼラには覚悟があった。自分の最期まで、自分を救った少年―――いや、男の傍にいようと。

「機械的な自我と、戦うための憎しみしか持っていなかった私に、あなたはいろいろなことを教えてくれた。この世界の美しさを……」

「僕はただ、君と友達になりたかっただけだよ」

 

 

 キオが火星圏に旅立った時も、ゼラは彼についていった。その高い戦闘能力を活かして、彼の護衛になった。それからずっと、火星圏の浄化のために尽力してきたキオの背中を見ている。きっとゼラは彼の努力を、この世界で一番理解している人間だろう。

「君は僕の親友だ。今まで助けてくれてありがとう、そしてこれからも……」

「はい!」

 

 

 その声は少年のものであった。三十一年前よりも、ずっと人間らしい声調だ。

「この騒動が終わったら、また一緒にゲームでもしよう。最近、新しいハードが発売したらしくて、気になっているんだ」

「是非……その時は」

 

 

 ゼラは優しく微笑みを返した。その時まで生きていられるように頑張ろう、そう静かに決意をした。

 キオのポケットから携帯電話が鳴った。それはアリサからだった。

『今学校終わったよ! 今からそっちに向かうから』

「え? ええ?」

『父さん、傘持ってる!?』

「あ、いや、持っていないよ」

『やっぱり……父さんのことだから、そこらへん抜けていると思ったよ。なら、私が届けてあげる! 今日、家に帰るんでしょ?』

「ああ、約束は守るよ」

 

 

 実を言うと、ゼラが傘を持っていた。しかしながら、それを言おうとはしなかった。きっとアリサは格納庫にあるMSを見たいがために、傘を届けに行こうとしているのだろう。軍の関係者の娘と言われれば、通してくれるらしい。

 MSに乗る夢は諦めても、MSに対する感情はあるのだ。そうでなければ、彼女が開発者を目指すはずがない。

「今日は格納庫に旧型クランシェが入っているんだ。式典用だとか、なんとか」

『本当!?』

「興奮するのはいいが、整備士の人に迷惑はかけるなよ」

『何言っているの! もう十八歳だよ。そんなことしないって』

「そうだったな……」

 

 

 世間にとって子供はいつか大人になるが、親にとって子供はいつまでも子供なのだ。我ながら、娘を未だに子供扱いしてしまうのは悪い癖だな、とキオは思う。

「それじゃあ、よろしく頼むよ」

 

 

 電話を切ると、キオは待合所の堅いソファーに身を沈めた。

「娘さん、ですね」

「ああ、元気で可愛い娘だ。子供の時と変わらないな……」

「それだけ無邪気になれるものが、あるってことですよ、きっと。羨ましいです」

「そうだな……ああやって、笑顔を取り戻してくれただけでも、僕は嬉しいよ」

 

 

 雨はやみそうにない。今日の天気〝予定〟を見ても良かったが、その気にはなれなかった。やはり地球独特の、いつやむか分からない雨に対して特別な感情を抱いているのだ。

 ブルーシアに住んでいた頃のことを思い出す。

 たしかに地球は元気になった。だけど、憎しみは消えていない。真空の中で身を潜めていたのだ。そして弾けた―――連邦政府の暗部によって。

「……父さん。連邦の暗部は予想以上に腐っていたよ」

 

 

 そこにはいないアセムに向かって、キオは呟いた。それはただの独り言であった。

 

 

 

 

 

 

 トルディア軍事基地の訓練空域を、一機のクランシェが舞っていた。雨粒を弾きながら、黄色の装甲が駆け抜ける。H型の頭部センサーをしており、装甲からして訓練機だろう。左右の翼を広げて、飛行形態からMS形態へと変形、空中で一回転して、地上にあるMSガフランをモチーフにしたバルーンを、ビームサーベルで両断する。

 コックピットの中で、セツナは静かに呟く。

「……まず一機。残りバルーンは―――三」

 

 

 頭には脳波測定用のインターフェイス、パイロットスーツも灰色の特殊なものであった。トリガーを両手で握り締め、足元のステップを踏みつける。ごく一般的なMSのコックピットではあるが、そこには決定的に欠けているものがあった。そう、レーダーだ。この機体にはレーダー類がない―――正確にはあるのだが、コックピットのサブモニターには表示されていない―――ため、バルーンの位置を把握するのは、目視で行わなければいけない。

 しかしセツナはシートから乗り出して、目視で確認しようとはしなかった。まるでレーダーでバルーンの位置を把握したかのように、平然とセツナの操るクランシェは飛翔した。

 飛行形態へと変形し、把握した位置へ機体を疾走させる。

「……ミサイルッ!」

 

 

 メインモニターにバルーンが映った瞬間、バルーンの背中からカラーマーカーを載せたミサイルが十基ほど射出された。ステップを小刻みに踏み、スピードをなるべく減速せずに両手で調整する。

 セツナの脳裏にミサイルを完全に回避するイメージが一瞬で浮かぶ。そのイメージを体現するかのように、クランシェは機体を大きく上昇させた。その後、左右の翼を小刻みに動かし、ミサイルを次々と回避していく。それはまるで、曲芸のように軽やかな動きであった。

 

 

 全て回避し終わったところで、機体先端部にあるマーカーライフルをバルーンに撃ち込み、二機目を撃墜。

「残り二機……」

『素晴らしい! やはり〝こちら〟の設備はいい! データが採れる!』

 

 

 回線の向こうの男は、やけにハイテンションであった。彼は研究者として喜んでいるのではない、セツナの父親として喜んでいるのだ。セツナ自身、そう信じている。

『そうだ……高度な空間把握能力。状況判断……思考は常人の三倍の速さ! 今度は脳波測定を細かくやってみよう……きっと、素晴らしい結果が出てくるはずだ!』

「……はい、お父様」

 

 

 父親といっても血が繋がっているわけではない。十年前、シャトルが何者かに撃墜され、月面に墜落したという。その事故でセツナは記憶を失い、両親ともに死んだ。行くあてのない彼女を拾ったのが、テムラ・ヒジリナガである。

 正直なところ、自分のパイロットとしての才能、そして持っている特殊な能力。それだけを見ている父親が、嫌ではあった。それでも拾ってくれた恩を忘れてはいないし、純粋な父親でいてくれた彼の温かみを忘れることはできなかったのだ。

「……次」

 

 

 クランシェは大きく旋回し、後方にあるバルーンをマーカーライフルで狙撃する。

 訓練にて、父親の期待に応えなければならない。着実に腕を上げて、自分の持っている能力を使いこなせるようにならなければ、怒られてしまう。挫折など許されないのだ。アリサのようにMSパイロットをやめることができない、その事実が〝あの時〟彼女を苛立たせたのかもしれない。いや、そうだ。

 感情的になりすぎてしまったのかもしれない。少なくとも、アリサを傷つけてしまったのは事実であり、今になって後悔していた。

(今は何も考えないでいよう……)

 

 

 MSのコックピットにいる間は、感情をさらけ出してはいけない。全てを、目の前の目標に集中させるのだ。そうしなければ、結果は出せない。

 結果こそが全て。結果を出せば、褒めてくれる。

 だから―――。

「これでラスト!」

 

 

 セツナは機体を後方に向けることなく、右腕だけを後方に伸ばして目標を撃ち貫いた。レーダーがあっても、ライフルを撃てるほどの正確な位置は、そちらの方向に機体を旋回させなければ、把握できないはずだ。

「タイムはどれぐらいですか?」

『四十九秒……新記録だ。よくやったぞ!』

 

 

 しかしセツナに笑みはなかった。クランシェを飛行形態に変形させると、灰色の冷たい地面に着陸させた。

『セツナの能力が学会でも認められれば、世紀の大発見になるはずだ! Xラウンダーに代わる新たな能力……先読み能力しか使えないあいつらを、お前は超えるんだ! すごいじゃないか……』

「…………」

『やっぱり、お前はいい子だ……』

 

 

 セツナは沈黙を保ったまま、インターフェイスを外すとコックピットハッチを開けた。ワイヤーに足を引っ掛けて地上に下りると、静かに歩き始めようとした。

 だが、そこでセツナは立ち止まった。

「あなたは……」

「あー、あー、奇遇だね!」

 

 

 申し訳なさそうに目の前に立っていたのは、アリサ・アスノだった。セーラー服を着て、コンビニのビニール傘をさしている。右手にもう一本持っていることからも、誰かを迎えに来たのだろうか。

 そうでなければ、彼女がここにいる理由がない。今の世の中、軍関係者の娘と言えば、基地にも入らせてもらえるのだという。もちろん、その軍関係者にはそれなりの地位が必要なわけだが。

「……なにしているのですか? ここは訓練空域で……」

「いやぁ、マニアとしては旧型クランシェの飛んでいる姿を、放ってはいられなくて……」

 

 

 まさかセツナがパイロットだったとは思いもしなかっただろう。

「訓練中ですので、それでは……」

「あ、うん……」

 

 

 早足で立ち去ろうとするセツナを、誰かの手が引き止めた。男の手……明るい青年の声だった。

「友達なんだろ?」

 

 

 整備士の格好をした背の低め少年―――ウェルはそう言った。彼はセツナの訓練に使うクランシェの整備担当だ。

「い、いえ……別にそんなことは……」

「お父さんには、こっちから理由つけとくからさ。行っておいでよ」

「…………」

 

 

 正直なところ、アリサに話したいことがないわけでもなかった。しばらく考えた後、セツナはペコリとお辞儀をして、

「ありがとうございます……」

 

 

 と一言。アリサの元へ静かに歩き出す。ウェルが笑みを浮かべてその場を後にしたのを知らず、セツナはアリサの前で立ち止まる。

「入っても、いいですか?」

「うん」

 

 

 飛行形態のクランシェを背に、一つの傘と二人の少女の影が伸びる。雨は降っているものの、徐々に日―――正確にはコロニー内で生成された人工的なひかりだが―――が差してきたようだ。灰色の雲の向こう側から、漏れ出している。それらが、二人の影を創り出していた。

「……その、あなたに謝りたいことが―――」

「私もだよ」

 

 

 意外だった。

 てっきり、アリサは怒っていたのだとばかり思っていた。いきなり質問をされて、その答えで苛立たれてしまえば、誰でも怒るはずなのに。挫折しようがしまいが、個人の勝手なのに。

 それなのに、アリサは不快な表情の一つもしない。

 それどころか、また謝ろうとしている。

「私もあるんだ、セツナに謝りたいことが」

「なん、ですか……」

「私、嘘ついてた……本当はね、Xラウンダー能力の弱体化が原因じゃないんだ」

 

 

 雨がやんだ。

「二年前、総合訓練プログラムの時に、ヴェイガン残党が奇襲をかけてきた、って話を聞いたことないかな?」

「はい……そこで、あなたはヴェイガン残党の機体を撃破して、学友を救った、と」

 

 

 そのことを新聞で読んでから、セツナはアリサに興味を抱くようになったのだ。興味、というよりかは一種の憧れだ。しかし素直になれない正確のセツナが、それを憧れと言うことは、今の時点ではできなかった。

「うん、学友は救ったよ。だけど全員じゃない、五人は死んだ。そして残党の人を一人、殺してしまった……」

 

 

 それを言うのは、アリサにとっても辛いことなのだろう。彼女の唇が震えているので分かった。それでもアリサは続ける。

「私ね……特殊なXラウンダー能力を持っているんだ。人の声が聞こえ〝すぎる〟の。心の声も……特に殺意や悪意、憎悪……怖いんだ、コックピットに座ってMSを操縦するのが。だからMSパイロット学科をやめた。こんな兵士が戦場に出ても意味がないでしょ……」

 

 

 一種のトラウマだ。人がミンチになって死んでいる、そうしたのは自分。その事実を突きつけられた十六歳の少女の苦悩は、計り知れないだろう。ビームで焼いただけなら、実感しなくても良かったことを、だ。

 それに、死ぬ間際の人間の感情が頭に直接入ってこれば、嫌にもなる。もちろん心の声が聞こえる能力を応用して、敵の心を読み取って戦うこともできるだろう。しかしそうできないのが、優しすぎる少女アリサであった。彼女にとって、強すぎる力は、重すぎる負担でしかなかったのだ。

「ごめんね、嘘をつくことしかできなくて。明日になったら、言おうと思っていたんだけど……ああ、やっぱりダメだな、私。過去の出来事をまだ引きずっている……」

「話したくない過去もあります。でも、これですっきりしました」

 

 セツナは一拍置くと、

「私のほうは……」

「分かっているよ、声……聞こえていたもん」

 

 

 そうだということは、きっとセツナの抱いていた感情は〝負〟だったのだろう。きっとそれを知っていて、ここに現れたのだ、アリサは。

「寂しいんだね」

「…………」

「父さんとのやりとり、聞いていたよ……」

「え!?」

 

 

 驚愕の一言だった。アリサはリュックサックの中から深紅の球体を取り出した。目が二つあり、大きな口を彷彿とさせるライン。ハロというペットロボットの一種だという。

「私なりに(魔)改造したハロ〝たん〟を使って、研究施設のシステムに侵入して……」

「ちょっとなにやってるんですか! バレたら大変ですよ!?」

『イクナイ、イクナイ』

 

 

 ハロたんが機械的―――でも、可愛げのある声で言う。

「バレないバレないー。軍所属の研究者でもなさそうだったし、ファイアーウォールはスッカスカだったし!」

 

 

 そう言えるのは、セツナを信じているからであろう。そうでなければ、こうも笑顔で明かせるわけがない。

 セツナは頬を紅潮してうつむくが、アリサは続けた。

「あなたの心の声が聞こえたから……気になってね、ごめん。だけど、これで私もすっきりしたよ」

『スッキリ、スッキリ』

 

 

 アリサとセツナの周りで飛び跳ねるハロたん。とてもじゃないが機械には見えない、生物的な動きをしている。

「あんな無神経なこと言ってごめんね」

「事情を知らなかっただけです……」

「つらかったら、私に相談してね。困っている人がいたら、助けてしまうのが私だから」

「いいんです……私の持っている能力が父さんをあんなふうにしてしまったから。今は前に進むしかないんですよ。私の能力が認められて、父さんの願いが叶えば、きっと元に戻るはずですから」

「ならいいけど、ね」

 

 

 実際のところ、本当にそうなるかは怪しいが。セツナの能力が学会に認められたとしても、その研究は止まらないだろう。今のセツナは、テムラにとって義理の娘ではなく、単なる研究対象でしかないのだろう。それをセツナは自覚していた。

 ただ、それを話して、アリサを巻き込んでしまうわけにはいかないと思ったのだ。だからこそ、今度はセツナが嘘をついた。

「まぁ、今のセツナには息抜きが必要だと思うんだよね!」

「え、あ、いえ……私は……」

「決めた!」

 

 

 アリサはセツナの正面に立つと、右手を差し出した。

「セツナ、私と友達になろっ!」

「…………」

 

 

 戸惑っていた。前にいたアカデミーでも、訓練や勉強で忙しかったし、その冷たい性格のせいもあって、友達などできたことがなかった。ただ、父親の期待に応えることしか頭になかった。

「こうやって仲直り(?)もできたんだし、友達になろうよ!」

「あ、でも……年の差とか……」

 

 

 アリサは十八歳、対するセツナは十五歳。友達というには、どこか違和感があった。

「気にしないで! 別に私には敬語とか使わなくていいからさ! ほら、フジノだって二歳年下だけど、同い年のように接してくれているじゃん! ああいう感じにさ、気軽に声かけてよ」

「……わかりました」

「私に対しては敬語禁止! 友達なんだからさ」

「ご、ごめん……こういうの、あまり慣れてなくて……」

 

 

 今まで敬語を使うような相手としか、まともに喋ったことがないのだ。知識では頭のなかにあっても、それを話すとなると難しい。

「そうだったね……まぁそのうち慣れると思うし、敬語なしで喋るのって気持ちいいものだよ」

「そ、そうかな……」

 

 

 あの時からずっと押し殺してきた感情が、一気に溢れ出してくる。周りにいる人間は皆、冷たく、いいスコアを出せば褒めてくれるだけの機械であった。暖かい人間に触れようと思っても、人の冷たさしか周りにないセツナには、どうしょうもなかった。優しかった頃の父親の記憶にすがるしかなかったのだ。

 だけど、もうそれもする必要がなくなった。アリサのように、笑顔で自分を受け入れてくれる存在。

 

 

 気づけば、セツナとアリサの手は触れ合っていた。

「これからはよろしくね、セツナ!」

「うん」

 

 

 セツナはただの感情を捨てた冷たい天才少女ではない。ごく普通の女の子なのだ。ただ少しだけ、周りの環境が違っただけ。

 

 

 雨上がりの夕方、茜色に染まる少女の姿が二つ。




【次回予告】
 コロニーはヴェイガン残党の襲撃を受ける。
 それは前にも後ろにも進めない、大人たちの戦いであった。
 紅蓮の炎の中、アリサは新たなるガンダムと邂逅する。
 次回、機動戦士ガンダム00AGE、第二話。

―――ガンダム、紅蓮の中で―――

 生き残れ……。

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