機動戦士ガンダム00AGE 【劇場版ガンダム00×ガンダムAGE(四世代目)】   作:山葵豆腐

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その3

     【INVASION:2051015‐CASEα‐19:40】

 

 

 その日は晴天であった。とはいえ、天候が人工的に造り出されているコロニー内では、今さら驚くことでもないだろう。

 夜空に浮かぶのはプラネタナイトの星々。なんてことのない夜景だが、そこからは確かに、人類の胸の奥から鳴り響く、生命の鼓動が聞えた。笑っている、泣いている、手を繋いでいる、趣味に興じている、家族団欒をしている、恋人と一つになっている、友人と笑い合っている。幻聴などではない。

 

 

 比較的地球とは距離がある、L5に位置する中規模資源コロニー〝エリファ〟の中では、いつものように日常が繰り広げられていた。だが、その日常は、コロニー外壁部を突き抜けてきた、青白い光の柱が溶解した。人々の姿が、地上から湧き出してきた光の奔流の中に消えていき、生きたまま焼き殺される。

 一瞬にして、コロニー内は恐怖の叫びに包まれた。生命の鼓動すべてが泣き叫び、生存本能に従い始める。阿鼻叫喚であった。

 

 

 しかしコロニーの外は、さらなる地獄が広がっている。爆散したシグナムやカラーシュの残骸、戦艦がコロニーの外壁部に突き刺さっている。これほどの最新兵器の壁を一瞬で破ることなど、この世界のどの軍隊でも不可能のはずだ。ディグマゼノン砲でも持ち出してきたのか。それならば、事前に察知することができる。

 カラーシュに乗った新米パイロット、レザロ・カードヴァンは震えていた。トリガーを持つ手が離れず、ステップは強く踏みつけすぎてしまい、反応が鈍っている。それほどの恐怖なのだ。

「巨人……銀色の巨人……化け物がぁあああぁああッ!」

 

 

 カラーシュの右腕が上がり、ドッズライフルを感情に任せて乱射する。誤射はなかった。射線上にいる味方機のコックピットは、全て滅茶苦茶に潰されていたからだ。はみ出した肉片、吹き出す血液、MSと人間の境すらも微妙になるぐらい、見事な潰れ方だ。その肉片を銀色の小型生物が食らう。

「くるなぁああああぁぁ―――……」

 

 

 レザロがその銀色の巨人を見た時には、彼の全身がMSの精密機器に押しつぶされていた。

 暫時、コロニーエリファは中にいる数十万の人々を巻き込みながら、静かに崩壊を開始した。

 

 

 

 

 

 

     【INVASION:2051015‐CASEβ‐19:41】

 

 

 移動型採掘宇宙船ガンドラム。小惑星帯(アストロベルト)に浮かぶ、小島のように見える。まさにその通りだろう。この施設は小惑星帯を転々とし、それらに含まれる希少な鉱物を採掘するためのものだ。かつては火星と木星のほぼ中間地点にあったらしい小惑星帯だが、現在の技術革新のおかげで、このような小規模な宇宙船ならば行けるようになった。何といっても、太陽系全域にばら撒かれた遺失技術のすべては、まだ見つかっていないのだ。

 さながら彼らのやっていることは、太陽系を舞台としたお宝探しであろう。

「さてとォ! 今日も、大宇宙のロマンを求めて、いざゆかん!」

 

 

 この、むさくるしい中年男性オボッド・ボッドハット。ガンドラムの艦長であり、現場監督ということか。

「艦長! 本艦の直上に、高熱源体が急速接近!」

「なんだと!? 同業者なら、言ってくれ。こちらは俺たちの採掘所で、お前らのものではない、とな!」

「違います―――これは!?」

 

 

 その瞬間、ガンドラムが揺れた。何者かが甲板に無断で降り立ったのか。この重さはMSのものを超えている(火星と木星の間まで行くのだから、重装備なのは当たり前だが、それでも重すぎた)。

 宇宙服を着込み、オボッドは甲板に出る。そこで彼が見たものは、MSでは無かった。銀色の巨人であった。

 全長三十メートルを超えている、巨大な人の形をした存在。脚部は鋭いナイフのように尖っており、それ以外は人間男性のフォルムだ。顔面はのっぺりとしており、目も鼻も口も、なかった。単純な表現をするならば、それは巨大なマネキン人形。

「こりゃあ、お宝だな」

 

 

 人生最後の時に、未知の何かと出会った。それだけで、彼のロマンを求める心は満足した。その満足感を抱きながら、彼の体は光の中へと消えていく。

 

 

 

 

 

 

     【INVASION:2051015‐CASEγ‐19:42】

 

 

 人々が第二の地球として、未知なる好奇心の塊、そして人口問題のはけ口になった星、火星。かつて、人々を苦しませ、戦争の火種ともなった奇病マーズレイの恐怖は、そこにはなかった。しかし、恐怖は依然として存在している。不安定な火星圏の重力、エネルギー枯渇問題、中途半端なままで終わっているテラフォーミング。火星が地球のように、宇宙服無しの人間が何の苦もなく生きていけるようになるには、あと五十年は必要だろう。

 ナノマシンによる環境整備も、この広大な赤褐色の大地を緑一色にするには、膨大な時間と予算が必要になってくるのだ。しかしながら、コロニーの建造をいくら行っていても、資源と人口の問題で、地球を捨てることはできない。依然として、地球が駄目になってしまえば、人類は滅亡してしまうということである。そのためにも、いち早く火星を第二の地球として、〝保険〟をかけたいというのが太陽系連邦の思惑であったはずだ。

 火星のテラフォーミングを行う作業員たちの居住区であると同時に、マーズレイ粒子に対する中和粒子を散布するための大型コロニー、イヴァース1。人類の希望の塊であるそこを攻撃する者などいない、と思われていた。

 

 

 だがそれは、敵対勢力が人類であると仮定した場合にしかすぎない。

「対空砲用意! クソ! 旧式の戦艦しか、こちらには無いっていうのに!」

 

 

 イヴァース1防衛艦隊、グッドランド・チャーリー・ガリバーは疲弊していた。断続的に続く、銀色の巨人、MS、艦船のようなものから放たれるビーム群。MS隊は既に大半が撃破されており、ウェハースのような形をしたガリバー級が〝折れて〟爆散した。

「ガリバー級、撃沈!」

 

 

 艦橋内で苛立ちを隠せないでいるのは、グレンダル・リン少佐だ。まだ若さを残した彼の瞳は、視神経の奥まで絶望に染まっている。

「小型タイプ接近! 壺のような奴も、急速接近!」

「そんなものは、ヴァリアントで撃ち落とせ! それよりも巨人型が……ッ!?」

 

 

 隣のチャーリー級に取り付いた巨人の大きさは、百メートルをゆうに超えていた。背中から腕が七本生えており、指の先から青白いビームを乱射している。二百人以上の命を搭載している戦艦が、一人の銀色の巨人によって抱き潰される。これほど異様な光景を、人類は見たことがなかっただろう。コロニーレーザーとて、人の想像の範囲内にあるはずだ。

「なんだ、あの化物は! 嘘だ……これは夢だ……ッ!」

 

 

 グレンダルは艦長席から崩れ落ちて、床に這い蹲る。そうこうしているうちに、巨人の顔面が艦橋の目の前に現れた。目も鼻も口もない、マネキンのような顔面。先ほどの〝九本腕〟とは違い、長い髪を生やした美しい女神のようなものであった。大きさも二十メートルほどか。

「そうだ、夢だ……こんな変な夢を見るなんて、そうだ、今度、カウンセラーのところに行こう。きっと何か―――」

 

 

 グレンダルは最後まで、現実を飲み込めないまま死んでいった。光に包まれた後、艦隊は全滅。ほどなくして、イヴァース1は崩壊した。


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